ITの発展するスピードは実に早く、かつて主流だった技術もあっという間に陳腐化していきます。2000年代の技術はPC中心でしたが、2010年代にはスマートフォンに移行し、そして現在5Gの登場とともにIoT技術へと移行しつつあります。
このような大きな変化のことをDX(Digital transformation;デジタル変革)と言い、これらの流れの中で問題となっているのが「2025年の崖」という問題です。
今回は、この「2025年の崖」と呼ばれる問題について解説しながら、レガシーシステムの抱える問題点と基幹系システムのマイグレーションにおける課題について紹介いたします。
- もくじ
「2025年の崖」とは
かつて多くのPCやサーバーなどで使われていたOSであるWindows7や、Windows Server 2008は2020年でサポートが終了します。また大企業を中心に使用されている統合基幹業務システムであるSAP ERPも2025年にはサポートが終了予定です。
さらには業務システムの開発に用いられているJava言語に至っては、開発元のOracleが2019年1月末以降JDK8の無償アップデートを終了しています。
つまり、今まで中心的に使用されていたシステムやプラットフォームがここ数年の間に次々とサポートを終了または、終了を予定しているのです。
このように、2025年前後で大きなIT技術のパラダイムシフトが起ころうとしています。経済産業省はこのような変化に対応できずにおこる危機のことを「2025年の崖」と呼んでいます。
2025年になると同時に突然システムに異常が発生したり止まったりするわけではありません。しかし、大規模なシステム移行をするためには「このあたりが限界ですよ」ということが「2025年の崖」という言葉が表す意味なのです。もしこのあたりまでにシステム移行が対応できなければ、毎年12兆円の損失が発生すると予想されています。
レガシーシステムが抱える問題
この問題の難しい点は対策のために企業は膨大な設備投資を迫られるばかりではなく、システム移行だけで解決するほどこの問題が簡単ではないという点にあります。
前述のように、IT技術は世代交代を何度も繰り返してきました。そのため10年もすれば多くの技術が陳腐化し、新たに学ぶ者もいなくなるためその内容を理解できる技術者が少なくなってしまうのです。そのため、長く使われているシステムと現在主流のシステムの間には技術的な断絶があります。
レガシーシステムとは
一般に古いシステムのことをレガシーシステムと呼びます。レガシーとは「遺産」という意味を表す言葉で、肯定的な意味も否定的な意味も両方を含んでいますが、ITの場合は後者の意味で使われます。つまり「負の遺産」と言えるわけです。
このレガシーシステムを新しいシステムに移行させることは、口で言うほど簡単ではありません。その典型的な例がメインフレームです。
メインフレームが主流だった時代
メインフレームとはPCやワークステーションのような小型コンピュータが生まれる前に主流だった大型のコンピュータのことです。性能面では現在のPCやサーバー等に劣りますが、対障害性能が優れていることから、銀行や保険会社などのシステムのように大量のトランザクションを高速かつ安全に実行する必要のある用途ではいまだに活躍しています。
メインフレームは現在のコンピュータと全く系統が違う技術なので、専門の技術者が必要です。しかもかなり高価であることから古い機種が長い間使われており、かつその技術に対応できるエンジニアはもともと数が少ない上に多くは定年退職などで現場を去っています。
かといってこれから無くなっていく技術を担当させるために若手の教育に大規模投資をするわけにもいかず、少なからぬ企業がジレンマを抱えています。
また担当する人材が徐々に抜けていくことにより、ドキュメントが紛失したりしていつの間にかシステムがブラックボックス化し、その結果セキュリティに問題が発生しても急に対応できなかったりします。
さらにはシステムの維持がますます属人的になっていき、特定の担当者がいなければシステムを稼働すらできないという最悪な状況が起こる可能性があります。
そのため、新しい技術に移行しようにも古い技術の全容が分からなかったり、そもそも担当者の日常業務が忙しすぎて手が回らなかったりする事態が発生してしまいます。
基幹系システムのマイグレーションにおける課題
この問題で最も深刻なのが基幹系システムです。基幹系システムはERPや生産・販売・在庫管理、人事・会計システムなどの企業活動に欠かせない部分を支える業務システムのことを指します。
基幹系システムは停止してしまうと企業活動自体が停止するため、そう簡単に新しいシステムにマイグレーションすることができません。
そのため、システムを構成する各パーツを段階的に新しいバージョンへマイグレーション(新しいプラットフォームへの移行)をするのが現実的な方法なのですが、それでも計画が不十分だとトラブルが発生してしまいます。
そもそも移行の担当者が新旧両方のシステムの内容を熟知するのは容易ではありません。すでに述べた通り、過去のシステムの情報が失われていることがよくあるため、移行する段階で「よく分からないけれどシステムが動いている」といった項目が実は意外とたくさんあることに気がつき、青ざめるということにもなりかねません。
以上のことから、新システムへの移行は場合によっては新規開発に劣らないコストがかかると認識したほうが良いと言われています。
マイグレーションとは
マイグレーション(Migration)は、 一般的には「移動、移住、移転」を意味する英語の「migration」が語源のIT用語です。既存で利用されているシステムやソフトウェアのデータなどを新しい環境や別の環境に移行・移転することを意味します。
高まる、第三者検証の必要性
どの企業でもIT担当者はシステムを止めずに維持・運営するという目先の作業に重点を置きすぎるあまり、思考が近視眼的になりがちです。そのためシステム移行のリスクを恐れ、その場しのぎの処置を続けているうちに事態を悪化させてしまう可能性もあります。
その上、前述のように新規システムへの移行コストはとても高いことが分かっていても、それを上司に報告した際「なんでこんなに金がかかるんだ」「たかだか古いものを新しいものに入れ替えるだけだろう」と言われて、せっかく立てた計画が一蹴されてしまう可能性があるという切実な事情を抱えている担当者もいることでしょう。
このような状況下で必要性が高まっているのが第三者検証です。
外部のシステムインテグレーターやコンサルタントなどによってきちんとしたヒアリングや調査を行なってもらい、客観的なデータを基にした作業の見積もりをしてもらうことにより、精密なシステム移行計画を立てることが可能になります。
また第三者の視点が介入することによりテストの網羅性や品質検証の精度の検証を受け、抜けている視点や不足などを指摘されることもあり、より精度が高く的確なテストを実施することが可能です。
特に近年は、ヒアリングの仕方やヒアリング後の要件定義の甘さによる訴訟が増えています。しかし、第三者の力を借りればプロジェクトを始める際に新システムにはどのようなリスクがあり、リスクを回避するためにどのようなテストが必要なのかを徹底的に検証することが可能といえます。
おわりに
思い切った対処を必要とされる「2025年の崖」ですが、これによって得られるものも少なくありません。
第一が、事業の見直しができるということです。レガシーシステムが使用されている事業の中には企業にとってお荷物の不採算事業も含まれることも少なくありません。そのため、この機会に事業内容を見直してマイグレーションを行い、関連するシステムを含めた負の遺産と決別して将来性の高い事業に集中することもできます。
第二が、IT人材が成長できるということです。難しい問題に直面することにより担当者の能力が鍛えられ、より難しい問題に対処できるようになります。
つまり「2025年の崖」への対処を単なるコストにするのか、それとも将来への投資にできるのかは経営者の決断次第といえるでしょう。
参考サイト
- 経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html