2021年11月、米国防総省が「UFO」の目撃情報を調査する部署を新設すると発表して、大きな反響がありました。
日本の報道機関は反応が"薄かった"といわれますが、海外では『ニューヨーク・タイムズ』といった大新聞や、BBC(British Broadcasting Corporation:英国放送協会)といった放送機関もこの話題を取り上げており、コンスタントに報道が続いています。
これまでどちらかというと「オカルト」紙、よくて「社会面」のことが多かった話題がどうして広がりを見せているのか、まとめてみました。
- もくじ
1.最近のUFO関連報道がすごい
1-1 「UAP」とは?
アメリカの情報機関を統括する国家情報長官室は、2021年6月25日に、未確認航空現象に関する報告書を発表しました。
タイトルは「Preliminary Assessment:Unidentified Aerial Phenomena」。「初期評価:未確認航空現象(未確認空中現象)」ということになると思いますが、使われている言葉は、よく知られる「UFO(Unidentified Flying Object:未確認飛行物体)」ではなく「UAP(Unidentified Aerial Phenomena:未確認航空現象」でした。※「UAP」は、「Unidentified Anomalous Phenomena:未確認異常現象」と表記されることもあります。
UAPと表現し、超常現象用語的なニュアンスのある「UFO」を使わないようにしているようですが、同じUAPでも、"航空現象(Aerial)"とするか"異常現象(Anomalous)"とするかで、それぞれの立場の違いや思惑があるようです。この差は、報道を見ている(どちらかといえば興味本位の)我々からするとさほど大きくない気もしますが、意識しておきたいポイントかもしれません。
まとめると、一般感覚では「アメリカ政府や世界の報道機関が真面目にUFO情報を取り扱い始めた」ことになりますが、正しくは「UAP情報を取り扱い始めた」ということになります。
1-2 国際報道にUFOの話題が!
これまでは、一般的にはUFO(以降はUAPとします)の話題は、どちらかというと「オカルト」や「社会面」の話題でした。しかし、2017年12月、米紙ニューヨーク・タイムズが米国防総省は秘密裏にUAPの調査を行っていることをスクープしたことをきっかけに報道が増え、これが冒頭の未確認航空現象に関する報告書にもつながります。
報告の1年ほど前の2020年4月27日には、米国防総省は機密解除したUAPの動画3本を公開しており、これも人々の興味を集めることになりました。2021年11月にはUAPを調査する部署を新設すると発表し、注目されました。
1-3 なぜ、真面目に論じられるようになったのか?
米国防総省は、UAPに取り組む理由として、国家安全保障上の課題であるとしています。領空内を飛行している"未確認の物体"が何であるか、その正体によっては脅威になりかねないという話です。報道等では、中国やロシアの宇宙開発を念頭に置いているとも、予算獲得の口実ともいわれることもあります。NASAは、2022年9月から、未確認航空現象(UAP)の調査を開始するなど、各機関の動きも活発になっています。
2023年2月、アメリカとカナダの領空内に中国のものと思われる偵察用気球が現れた「中国気球事件」が発生したり、2019年12月20日にアメリカが「宇宙軍」を創設したのが顕著な例ですが、各国が空軍を「航空宇宙軍」等へ名称変更する等の動きもあったりして、宇宙関連の関心が世界的に高まっていたことも背景にあるのかもしれません。
このように各政府機関の動きも、マスコミや世論の動きも活発になって、UAPが真面目に論じられる機会が増えたようです。
2.IT技術の発達とのかかわり
2-1 最近のUFO(UAP)目撃事例と解析
冒頭で紹介した、国家情報長官室のレポート『Preliminary Assessment:Unidentified Aerial Phenomena』には、米軍などが2004年から21年までに報告したUAPの事例が144件だとあります。この分析の結果、ほとんどが正体や意図について明確な結論は出せない、としています。データや十分な情報が不足しているというのが理由です。
近年のセンサー類やIT機器の発達により、UAPの動きが報告されたり、記録されたりする機会が増加しているとされています。おそらく、米軍以外にも同様の記録は多く残されていたのだと推測できます。それが国防総省の秘密裏の調査につながり、ニューヨーク・タイムズにスクープにつながったのではないかと考えられます。
実際にYouTube等を「UAP」等で検索しても、ドローンから4Kで空撮中に"UFO"を撮影してしまったケースなどが見つかります。場合によっては、(高画質ゆえに)すぐにUAPではなく別のもの(風船等)と判明するケースが多いのも最近の特徴です。
しかし、AIなどを用いた画像解析技術が進んだ現代ですら、「分からないことがある」ことになります。この飛行物を政府が「脅威」と捉えていても不思議ではありません。
2-2 さまざま技術が投入されている
国防総省は本格的な調査を継続しています。4Kなど高解像度による撮影技術やドローンなどを使った空撮技術はもちろん、AI等を使った画像解析技術が投入されています。
他、レーダーや大規模なレーダー等も活用されています。米軍基地等のまわりで、昔からUAPの目撃事例が多かったのは、現在では、センサー類や監視する人の多さが理由といわれ始めています。しかし、それでもまだまだ情報は不足しているようです。
3.アメリカ政府のUAP(UFO)調査プロジェクトとは
3-1 「UFO」の歴史的背景
第二次世界大戦中から、未確認飛行物体が目撃され、連合国兵士は「フーファイター」と呼んでいたようです。その後も、様々なUFO目撃事件などがあったとされています。
1990年代から、「RV」という目撃例が増えたといいます。これは、「Radar」「Visual」による報告、つまりレーダーと目視によるUFOの目撃報告ということです。2008年1月8日には、アメリカのテキサス州でUFOがレーダーで補足され、多くの人に目撃されています。UFOがブッシュ大統領宅に向かったと思われたため、F-16戦闘機が発信する「テキサス州事件」が発生しています。
また、スマートフォンの普及等により、撮影されたUAP等の動画や写真がSNSに投稿されるケースも多くなったといいます。さらに、センサー類等の発達により、戦闘機等から、何らかの動くものが捉えられ、記録されるケースも増えていました。未確認の「何か」に関する情報は21世紀に入り増加していたのです。前述した、米国防総省が公開したUAPの動画3本もそのような経緯で撮影されたようです。
3-2 情報開示と報道の影響
ニューヨーク・タイムズのスクープに端を発したUAPに関する情報公開を求める世論の高まりもあり、2023年7月にはUAPに関する公聴会が開かれました。
3-3 米国防総省の動きと公式発表
情報開示を求める声もあったことから、2023年8月31日、米国防総省の「All-domain Anomaly Resolution Office(AARO)」(直訳:全領域異常対策室)は、UAPに関する情報を集めたサイトを立ち上げました。
1996年から2023年11月までのまとめがトップページ下に表示されています。調査結果を一般に公開することで、UAPについて皆が感じている脅威を軽減したり、陰謀論などを弱めたりする意図があると思われます。
また、サイトを作ったのは、UAPに関する知識がある政府職員や民間パイロットからの報告を受け付ける目的もあるようです。
NASAは2022年9月からの研究成果を2023年9月14日に記者会見で発表しています。NASAは、現時点ではUAPは実際に発生し、国の安全を脅かしているが、地球外のものである可能性は極めて低いと結論しています。さらに有益なデータを得るためUAP研究責任者を置いたとしています。今後も、UAP研究が続いていくことになります。
4.日本政府のUAP(UFO)へのスタンス
4-1 日本政府のコメントはある?
ニューヨーク・タイムズの報道はインパクトがあり、2018年には、日本では立憲民主党の逢坂誠二衆院議員が国会でこの内容を質問し、「政府としては『地球外から飛来してきたと思われる未確認飛行物体』の存在を確認したことはない」と答弁書を閣議決定したことがありました。
4-2 自衛隊とUFO(UAP)
2020年、河野太郎防衛相(当時)がUFO(UAP)に遭遇した場合の対処方針を定めるとしていたことについて、2022年5月には松野官房長官が、UFO(UAP)について専門組織の設立は考えておらず、防衛省が防衛、警備に影響を及ぼす恐れのある情報を得た場合は対応していると強調しています。日本としては基本的に「ない」ということのようです。
報道で政治家によっては、UFO(UAP)は存在する可能性があると私見を述べるケースがあり、話題になりました。下院で公聴会が開かれるアメリカとは異なり、大きな動きは見られていないようです。
まとめ
報道された報告書では、遠くの銀河から宇宙人が乗ってやってきているイメージがあるUFOではなく、領空に侵入してくる謎の物体=UAPと表現されています。
しかしまだ、調査は始まったばかりのようなので、これから導入される新しい解析技術等により、また「新たな事実」が掘り起こされる可能性もあります。続報に注目をし続けたいと思います。