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マネジメント 2023.08.21
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請負・準委任・労働者派遣の違いとは?システム開発の契約形態を視点別に分かりやすく解説

執筆: Qbook編集部

ライター

請負・準委任・労働者派遣の違いとは?システム開発の契約形態を視点別に分かりやすく解説

システム開発には様々な種類の契約形態が存在しますが、「請負」「準委任」「労働者派遣」という3つの契約形態がしばしば登場します。それぞれについて何となくはイメージできても、違いを正確に説明できる方は少ないのではないでしょうか。

本記事では、システム開発の契約形態のうち請負・準委任・労働者派遣の違いについて、一覧表を交えてわかりやすく解説します。本記事で契約形態について整理しておきましょう。

※本記事は専門家によるリーガルチェックのもと制作・公開しています。

もくじ
  1. 請負・準委任・労働者派遣の違いがわかる一覧表
  2. 請負契約とは
    1. 請負契約のメリット
    2. 請負契約のデメリット
  3. 準委任契約とは
    1. 準委任契約のメリット
    2. 準委任契約のデメリット
    3. SESの注意点
  4. 労働者派遣契約とは
    1. 労働者派遣契約のメリット
    2. 労働者派遣契約のデメリット
  5. システム開発で契約形態を選ぶポイント
  6. まとめ:双方が納得できる契約形態でシステム開発を成功させよう

1.請負・準委任・労働者派遣の違いがわかる一覧表

まずは、請負・準委任・労働者派遣の主な違いを一覧表で確認しましょう。本記事ではシステム開発を依頼する企業を「発注側」、受注する企業を「開発側」と表記します。

  請負 準委任 労働者派遣
対価の発生要件 システム(成果物)の完成 契約期間・時間内の作業の提供 契約期間・時間内の労働
指揮命令者 開発側の責任者 開発側の責任者 発注側の責任者
報酬体系 契約時の合意金額で確定 期間内の作業時間で算出 ※成果報酬の場合もある 主に時間給
ともなう責任 契約不適合責任 善管注意義務 善管注意義務
主な業務場所 開発側の現場 発注側の現場 発注側の現場

なお、「契約不適合責任」や「善管注意義務」といった用語は後述します。以降では各契約形態について、順番に概要やメリット・デメリットをご紹介していきます。

2.請負契約とは

請負契約.png

請負契約とは、発注側から依頼されたシステム(成果物)が完成することと引き換えに報酬を受け取る契約形態です。請負契約におけるメリット・デメリットについて解説します。

2-1 請負契約のメリット

請負契約を交わす場合、発注側・開発側はそれぞれ次のようなメリットを得られます。

発注側のメリット

請負契約で発注側が支払う報酬額は、基本的には契約時に開発側と合意した金額です。また、システムが完成するまでは、原則として、報酬を支払う必要はありません(ただし、契約内容によっては、一定の段階ごとに分割して支払うケースもあります。)。そのため、発注後に大きな追加コストが発生しにくく、予算管理がしやすいでしょう。

また、発注側は要求を開発側に伝えれば、以降の工程は開発側が管理して実施します。そのため、発注側に開発スキルの高い人材が必要なく、教育や指示の労力を省くことが可能です。

開発側のメリット

請負契約を交わした開発側は、発注側が要求するシステムを完成させるまで、基本的に自社で業務を遂行することになります。責任範囲が大きい分、後述する準委任や派遣と比べると報酬単価は高い傾向があります。

また、業務の分担を含めた指揮命令も開発側で自律的に行うことが可能です。経験の浅い社員に新しい業務をアサインしたり、先輩が社内でサポートしたりできるため、人材育成が容易でしょう。

2-2 請負契約のデメリット

請負契約を交わす場合、発注側・開発側にはそれぞれ次のようなデメリットがあります。

発注側のデメリット

開発側が主体となってシステムを作り上げる性質上、発注側は開発のやり方に深く介入できません。そのため品質がばらつきやすく、発注先(開発の委託先)選びを誤ると本意に沿わない成果物や低品質な成果物を納品されるリスクがあります。

また、開発の大部分を発注先に依頼できる分、自社の人材には開発の機会が与えられません。人材育成にはつながらないため、社内向けのIT人材を育成したい場合には不向きといえます。

開発側のデメリット

請負契約を交わした開発側は、決められた納期までに契約した品質のシステムを完成しなければなりません。完成できなければ報酬が発生しないため、納品に対するプレッシャーが大きいでしょう。

また、請負契約には「契約不適合責任」(旧:瑕疵担保責任)が存在します。これは、システムが完成したものの、契約時に取り決めたシステムの品質や数量などが正しく反映されなかった場合に、発注側が開発側に対して、不適合(不具合)部分の修正を無償で依頼できたり、場合によっては報酬減額や損害賠償の他に契約解除も請求できる制度です。契約不適合責任を問われるリスクがあることも開発側のデメリットといえます。

3.準委任契約とは

準委任契約.png

準委任契約とは、特定の業務(法律行為を除く)を遂行するための作業を実施することにより報酬を受け取る契約形態です。請負契約とは異なり、開発側にシステムを完成させる責任はありません。準委任契約におけるメリット・デメリットについて解説します。

3-1 準委任契約のメリット

準委任契約を交わす場合、発注側・開発側はそれぞれ次のようなメリットを得られます。

発注側のメリット

準委任契約の場合、開発側から事務作業の提供を受けることになるため、発注側の業務主体となる場面で適しています。例えば、発注者における自社プロジェクトの作業量が多くて人手が足りない場合、手に余る業務だけを準委任契約により開発側から一定の期間、一定の人数のエンジニアの提供を受けることができます。

また準委任契約では多くの場合、契約時に取り決めた作業時間をベースに報酬額が決まります。大幅に作業時間が超過しない限り追加コストは発生しないため、費用を抑えやすいでしょう。なお、準委任契約ではこのような履行割合型が主流となっていますが、近年では請負契約とよく似た成果報酬型の準委任契約も増えつつあります。

開発側のメリット

準委任契約ではシステムが完成しなかったとしても、契約期間内に所定時間の作業を適切に提供すれば報酬を請求できます。そのため、請負契約と比べて納期のプレッシャーが少なく、売上計画を立てやすいでしょう。なお、成果報酬型の準委任契約の中には、システムが完成しなければ報酬を請求できないこともあるため、注意が必要です。

また、準委任契約の指揮命令者は「開発側の責任者」です。契約内容によっては客先常駐を行わず、自社で業務を遂行することも可能です。

3-2 準委任契約のデメリット

準委任契約を交わす場合、発注側・開発側にはそれぞれ次のようなデメリットがあります。

発注側のデメリット

準委任契約では発注側に指揮命令権がありません。そのため、自社で作業を依頼することはできても、業務のやり方について細かい指示を行えないことがデメリットです。

また、求めるシステムが完成しなかったとしても、報酬を支払わなければならないことがあり、かけた費用分の成果が得られないリスクがあります。

開発側のデメリット

準委任契約では開発側の指揮のもと、業務を遂行することになります。言い換えれば、開発側で自社のエンジニアを管理できる人材を用意しなければなりません。特に客先常駐の場合、発注側への対応と自社チームの管理を両立するために負担が増大しがちです。

また、請負契約のような契約不適合責任はないものの、「善管注意義務」は存在します。善管注意義務とは、簡単にいえばシステム開発の専門家として適切・誠実に業務を遂行する義務のことです。システムの完成義務がないとはいえ、例えば、システム開発の経験が浅かった、職務怠慢があったなどによりシステムに問題があった場合には、契約不履行(善管注意義務違反)となるリスクがあります。

3-3 SESの注意点

システム開発を行う場合、SES(System Engineering Service)契約を締結することがあります。SESとは、主に、開発側のエンジニアを発注側へ一定期間常駐し労働力を提供し、対価を受け取るサービスのことです。SESは、成果物の完成ではなく、システムの保守・運用といった事務作業の労働力を提供することを目的とすることが多いことから、準委任契約を交わすことが一般的です。

SESの場合、開発側のエンジニアが常駐先である発注側の従業員と共に作業を行うことがあるため、発注側が開発側のエンジニアに対して直接の指揮命令をしてしまうケースがあります。個別の事案によりけりですが、偽装請負として行政処分や罰則を科される可能性があるため注意が必要です。厚生労働省の基準やガイドラインを参考にしながら、適切なSESとなっているか、確認を行いましょう。

4.労働者派遣契約とは

労働者派遣契約とは、発注側に開発側のエンジニアを派遣し、発注側の監督の下に業務に従事させ、開発側が報酬を受け取る契約形態です。指揮命令者が「発注側の責任者」である点が、準委任契約との大きな違いといえます。労働者派遣契約におけるメリット・デメリットについて解説します。

4-1 労働者派遣契約のメリット

労働者派遣契約を交わす場合、発注側・開発側にはそれぞれ次のようなメリットがあります。

発注側のメリット

労働者派遣契約では、発注側の責任者が派遣されたエンジニアに作業の指示を行えます。そのため請負契約や準委任契約と比べて、発注側の業務管理を行いやすいのがメリットです。

また準委任契約と同様に、必要な労働力を必要な期間だけ確保できます。契約内容にもよりますが、労働者派遣契約の報酬体系は時間給であることが多く、請負契約と比べて人件費を抑えやすいでしょう。

開発側のメリット

上記のとおり、労働者派遣契約では、発注側の責任者が派遣されたエンジニアに作業の指示を行うことができるため、派遣元である開発側が作業の直接の指示や教育を行う手間を省くことができます。

また、労働者派遣契約で時間給の取り決めがある場合、エンジニアの残業時間が過剰になることは少ないでしょう。残業をお願いすればするほど、発注側としては人件費が高くなるためです。エンジニアの負担増大を抑制できるのもメリットといえます。

4-2 労働者派遣契約のデメリット

労働者派遣契約を交わす場合、発注側・開発側にはそれぞれ次のようなデメリットがあります。

発注側のデメリット

発注側の責任者が派遣されたエンジニアに指示を出さなければなりません。また、労働者派遣法上、派遣業許可を受けている事業者からしか派遣労働者を受け入れることができず、派遣先である発注側には派遣先管理台帳の作成義務など様々な義務が定められています。業務のかじ取りを行いやすい反面、派遣社員を管理するための負担は増大します。

また準委任契約と同様に、業務の成果に関わらず報酬を支払わなければなりません。適切な人材を選べなければ、費用対効果は上がらないでしょう。

開発側のデメリット

そもそも開発側が労働者派遣を行うためには、派遣業許可を得る必要があり、派遣先である発注側との均等・均衡または一定水準以上の給与の支給などをしなければなりません。

また、労働者派遣契約は時間給のケースが多く、請負契約と比べて報酬単価は低くなる傾向があります。発注側が残業を抑制することもあるため、売上を高めることは難しいでしょう。

さらに、契約更新がなければ3か月程度の短期間の契約が多いため、それほど高度な業務が与えられることは多くありません。また自社の方針で業務を進められないため、自社エンジニアの人材育成には不向きです。

5.システム開発で契約形態を選ぶポイント

それぞれの契約形態にメリット・デメリットがあり、どれを選ぶべきか判断できない方も多いでしょう。システム開発において契約形態を選ぶポイントを2つのケースに分けてご紹介します。

  • 期間的な余裕の有無
    発注側・開発側の双方において重要となるのは期間的な余裕です。十分な期間を確保できるのであれば、請負契約が向いているでしょう。発注側は予算管理がしやすく、開発側は報酬単価アップが期待できます。一方で期間的な余裕がない場合は、柔軟性の高い準委任契約や労働者派遣契約のほうが向いています。
  • 使える予算に余裕の有無
    予算に余裕がある場合は、発注側の負担が少なく、より高い品質が期待できる請負契約を検討するとよいでしょう。一方で発注側の予算に余裕がない場合は、報酬単価を抑えやすい準委任契約や労働者派遣契約がおすすめです。

まとめ:双方が納得できる契約形態でシステム開発を成功させよう

請負契約は成果物に対して、準委任契約や労働者派遣契約は作業時間や労働時間に対して報酬が発生します。請負契約や準委任契約の指揮命令者は「開発側の責任者」ですが、労働者派遣契約の指揮命令者は「発注側の責任者」です。

請負・準委任・労働者派遣のそれぞれにメリット・デメリットがあるため、一概にどれが最も優れているとはいえません。それぞれの違いを把握したうえで契約形態を選び、発注側・開発側の双方が納得できる形でシステム開発を成功させましょう。

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バルテス株式会社 Qbook編集部。 ソフトウェアテストや品質向上に関する記事を執筆しています。