ソフトウェア開発の現場では、システム障害や不正アクセスといったインシデントが発生することがあります。こうした事態においては、目の前の問題を解決するだけでなく、その失敗を次につなげることが大切です。
そこで、「ポストモーテム」が重要となります。ポストモーテムは、インシデントを学びに変え、次につなげるための有意義な取り組みです。しかし、ポストモーテムという言葉について、まだ耳慣れない方も少なくないでしょう。
本稿では、ソフトウェア開発におけるポストモーテムとは何か、その意味から解説します。ポストモーテムのやり方や実施時のポイントも紹介するため、ぜひ参考にしてください。
- もくじ
1. ソフトウェア開発におけるポストモーテムとは
ポストモーテムとは、発生したインシデント(予期せぬ問題)についてチームで振り返り、今後に活かすための活動のことです。「なぜインシデントが起きたのか」「どうすれば防げたのか」などを客観的に分析し、将来的な再発を防ぎます。
ソフトウェア開発やシステム運用の現場では、どれだけ入念に設計やテストを重ねても、インシデントの発生を完全には防げません。だからこそ、インシデント発生時にはポストモーテムを通して課題を明確にし、改善につなげる取り組みが重要になります。
1-1. ポストモーテムの意味
ポストモーテム(postmortem)は、もともと「事後検証」や「事後の」といった意味を持つ言葉です。インシデントという問題の事後に、その原因を詳しく検証することから、このような名前が付きました。
なおポストモーテムは、Google社が提唱する「SRE(サイト信頼性エンジニアリング)」の中で紹介されたことをきっかけに広く普及しました。SREとは、システムの信頼性を重視して運用する手法のことです。
1-2. プロジェクト振り返りとの違い
ポストモーテムと似た活動に、プロジェクトの節目で行う振り返りがあります。両者は、振り返り会を行う点は同じです。しかし、目的や実施するタイミングには明確な違いがあります。ポストモーテムとプロジェクト振り返りの違いを下表にまとめました。
| ポストモーテム | プロジェクト振り返り | |
|---|---|---|
| 実施タイミング | インシデント発生後(不定期) | プロジェクト終了後(定期的) |
| 主な目的 | 問題の根本解決・再発防止 | プロセス改善 |
| メインテーマ | インシデントの事象や対応 | プロジェクト活動全体 |
ポストモーテムはインシデントの発生を受けて不定期に実施し、その事象が起きた原因や再発防止策、対応の適切性に焦点を当てて振り返ります。一方、プロジェクト振り返りは節目に実施し、プロジェクト全体の進め方や課題、良かった点などを振り返るものです。
つまり、ポストモーテムはインシデント対応に特化した事後検証であり、プロジェクト振り返りは日常的な改善サイクルの一部といえます。インシデントという「点」を深掘りするのがポストモーテム、プロジェクトという「線」で活動全体を見直すのがプロジェクト振り返り、と考えると分かりやすいでしょう。
2. ポストモーテムを実施する目的
ポストモーテムは、単にインシデントを振り返るだけの活動ではありません。その主な目的は、次の3つです。
2-1. 問題の根本解決・再発防止
ポストモーテムの根底にある目的は、問題の根本原因を突き止め、同じ過ちを繰り返さないようにすることです。そのため、「何が起きたのか」だけでなく「なぜそれが起きたのか」を深く掘り下げ、それらを踏まえて再発防止策を講じます。
たとえば「担当者の操作ミス」で終わらせず、「なぜミスを誘発するような仕組みだったのか」を考えます。このように、本当の原因を特定して対策を講じることで、将来のインシデントを未然に防ぐことが重要な目的です。
2-2. ソフトウェアの品質向上
インシデントの根本原因を探ることは、ソフトウェア全体の品質向上にもつながります。原因を分析する過程で、開発の進め方に関する課題を発見できる場合があるためです。
たとえば、インシデントの原因が設計段階での考慮漏れだったとします。その対策として設計ガイドラインを整備すれば、今後の開発で同様の欠陥が作り込まれるのを防げるでしょう。このように、個別の問題対処からプロセス全体の改善へと展開し、ソフトウェアの品質を高めていくのです。
2-3. 個人やチームの成長
ポストモーテムは、個人やチームが成長するための貴重な機会にもなります。インシデントを防ぐために必要なスキルや知識、チーム内の連携方法を見直す場となるためです。
たとえば、欠陥が検出されなかった背景にコミュニケーション不足があれば、その改善が次のプロジェクトに活かされます。また、個人の判断や作業が引き金となった場合でも、責任を追及するのではなく学習の材料とすることで、スキル向上につながります。
分析で得られた気づきをチーム全体に共有すれば、同じ失敗を繰り返さない仕組みが根づき、個人とチームの双方にとって成長の糧となるでしょう。
3. ポストモーテムの大まかなやり方
ポストモーテムの具体的なやり方はチームによりますが、大まかな手順は次の4ステップです。
- インシデント情報の収集・整理
- ポストモーテム会議の実施
- アクションアイテムの決定
- レポートの作成・共有
3-1. インシデント情報の収集・整理
まずは、発生したインシデントに関する情報を収集します。目的は、次の会議で分析や協議を進めるための材料を集めることです。そのため、この段階では深く掘り下げる必要はありません。システムログや当時の対応記録など、客観的な事実にもとづく情報を中心に整理しましょう。関係者がすぐに確認できるようにまとめておくと、会議が円滑に進みます。
3-2. ポストモーテム会議の実施
次に、収集した情報をもとに関係者を集めてポストモーテム会議を実施します。会議の主な目的は、インシデントの根本原因を明らかにし、再発防止策を検討することです。あわせて、当時の対応が妥当だったか、改善すべき点がないかも確認します。感情的な意見は避け、事実にもとづいて冷静に分析する姿勢が欠かせません。会議を円滑に進めるために、あらかじめファシリテーター(進行役)を決めておくと効果的です。
3-3. アクションアイテムの決定
続いて、再発防止策や改善点を具体的なアクションアイテムに落とし込みます。ポストモーテムは振り返るだけで終わらせず、実際の行動につなげることが重要です。そのため、再発防止策や改善点に対して「誰が・いつまでに・何を実施するのか」を明確にしましょう。たとえば、システムに新しい監視機能を導入する場合は、導入手順の検討や実装スケジュールを担当者とあわせて設定します。責任を個人に押し付けるのではなく、チーム全体で取り組む改善行動として落とし込むことが大切です。
3-4. レポートの作成・共有
最後に、ポストモーテム会議の議論内容や決定事項をレポートとして文書化します。レポートは組織の学びを蓄積し、次のプロジェクトに活かす重要なものです。インシデントの概要や根本原因、再発防止策、プロセスの改善点などを整理してまとめましょう。作成したレポートは関係者に共有しましょう。共有対象はインシデントの直接的な関係者だけでなく、将来的に同様の業務を担う部門なども含めると効果的です。広く共有することで、同じ失敗の再発を防ぎ、組織全体の対応力や品質向上につなげることができます。
4. ポストモーテムを実施する際のポイント
ポストモーテムを単なる反省会で終わらせず、実りあるものにするために、3つのポイントを押さえておきましょう。
4-1. できる限り早めに実施する
ポストモーテムはインシデント発生後、できる限り早めに実施しましょう。時間が経つと事実が曖昧になり、正確な原因分析が難しくなります。記憶が鮮明なうちのほうが議論の精度が高まり、会議もスムーズに進行するでしょう。インシデントを収束させることが最優先ですが、振り返りも先延ばしにせず速やかに進めることが大切です。
4-2. 感情論ではなく事実ベースで議論する
ポストモーテム会議で議論する際は、感情論を避けましょう。感情論に走ると本質的な議論が行えません。システムログや監視ツールの記録など、客観的なデータや事実にもとづいて話を進めることが大切です。事実をベースにすることで、論点がずれにくくなり、インシデントの本質的な原因究明へとつながります。
4-3. 個人への責任追及は避ける
ポストモーテムの目的は、個人の失敗を責めることではありません。インシデントから学び、将来の再発を防ぐ仕組みを作ることです。個人の責任を追及すると、参加者が萎縮して自由な発言ができなくなります。「誰が」ミスをしたかではなく、「なぜ」その問題が起こりうる状況だったのかを問いましょう。
5. まとめ
ポストモーテムとは、発生したインシデント(予期せぬ問題)についてチームで振り返り、今後に活かすための活動のことです。単なる反省会ではなく、組織全体の学びを促し、ソフトウェアやチームの成長につなげる役割もあります。
インシデントを「失敗」ではなく「学び」として活かす姿勢が、強いチームと高品質なシステムを育てる第一歩です。ポストモーテムを取り入れる際には、今回の内容をぜひ参考にしてください。


