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「ウィキリークス事件」と「スノーデン告発」とは?情報社会に大きな影響を与えた2つの事件
歴史に残るバグ・IT犯罪
歴史に残るバグ・IT犯罪 更新日 2025.04.02
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「ウィキリークス事件」と「スノーデン告発」とは?情報社会に大きな影響を与えた2つの事件

執筆: 大木 晴一郎

ライター

世界中の人々がインターネットでつながり、情報が瞬時に共有される現代。そんな21世紀の情報社会に2つの事件が大きな影響を与えました。

それが「ウィキリークス事件」と「スノーデン告発」です。

そこで今回は、これらの事件の概要や社会への影響をまとめ、映画や書籍化された作品を紹介します。

もくじ
  1. 機密情報を大量に公開した「ウィキリークス事件」
    1. 「ウィキリークス事件」とは?
    2. 「ジュリアン・アサンジ」とは何者か?
    3. 主な情報流出事例と世界への影響
  2. 国際的監視網の実在を告白した「スノーデン告発」
    1. 「スノーデン告発」の概要
    2. 「エドワード・スノーデン」とは何者か?
    3. NSAの監視プログラム「PRISM」とは?
    4. 告発後の影響と国際的な反応
  3. 2つの事件の比較と分析
    1. 共通点は「政府が隠す情報を公益のために拡散」
    2. 相違点は「情報入手方法と公開のプロセス」
    3. 社会への影響は?
  4. 文化への影響と関連作品
    1. 「ウィキリークス事件」関連の作品
    2. 「スノーデン告発」を題材にした作品群
    3. 関連作品が描き出す現代社会の課題
  5. まとめ

1.機密情報を大量に公開した「ウィキリークス事件」

1-1 「ウィキリークス事件」とは?

2010年11月28日、機密情報を掲載する、インターネット上の内部告発サイト「ウィキリークス(WikiLeaks)」が、アメリカの外交公電や軍事機密文書を大量に公開し、世界中に衝撃が走りました。

これがいわゆる「ウィキリークス事件」です。報道や出版では「アメリカ外交公電ウィキリークス流出事件」「アメリカ秘密公電漏洩事件」などと呼ばれています。

ウィキリークスとは、2006年に設立されたWebサイトです。政府や企業の機密情報を匿名で受け取り、その内容を精査した上でインターネット上に公開していました。
創始者は、オーストラリア人のジュリアン・アサンジ(Julian Assange)氏です。

ウィキリークスは2010年4月にイラク戦争で米軍がロイター通信のカメラマンらを誤って攻撃した映像を公開したことを皮切りに、アフガニスタン戦争やイラク戦争に関する機密文書、そして米国の外交公電を次々と公開しました。

これらの公開は、政府の秘密主義や戦争の実態を明らかにし、世界中のジャーナリストや市民活動家から支持を集めました。その一方で、国家安全保障を脅かすとして、米国政府をはじめとする各国政府から強い批判を浴びることになります。

この事件で約25万件のアメリカ外交公電と、約48万件の陸軍報告書をウィキリークスに送り、世界を驚愕させたのが、ブラッドリー・マニング氏です。

トランスジェンダー女性であることを公表しており、現在はチェルシー・マニング(Chelsea Manning)と名を変えています。2010年5月に逮捕され、2013年6月にスパイ活動法などに違反した罪で有罪判決を受け、同年8月に禁固35年の判決を受けましたが、2017年に恩赦で釈放されました。

1-2 「ジュリアン・アサンジ」とは何者か?

ウィキリークス創設者のジュリアン・アサンジ氏は、1971年にオーストラリアで生まれ、幼い頃から両親の離婚や転居を経験するなど、不安定な環境で育ったとされます。コンピュータに興味を持ち、10代でハッキング技術を習得し、メルボルン大学で物理学と数学を学んだそうです。

アサンジ氏は、政府や大企業の秘密主義に疑問を感じ、情報の自由な流通こそが民主主義の基盤になると考え、2006年にウィキリークスを設立しました。匿名の内部告発者から機密情報を受け取り、それを公開するためでした。

2010年の上記の米国機密文書の大量公開によって、アサンジ氏は世界的に注目されますが、スウェーデンで性的暴行の容疑をかけられます。

アサンジ氏は、アメリカへの身柄引き渡しを避けるため、イギリスのエクアドル大使館に亡命を申請。2012年から約7年間、大使館内で生活を送りましたが、2019年4月、エクアドル政府が亡命を取り消したことによりロンドンで逮捕されます。

そして、2024年6月にアメリカ当局と司法取引を行って、釈放され、オーストラリアに帰国しました。

1-3 主な情報流出事例と世界への影響

ウィキリークスによる情報公開は、世界に大きな衝撃を与えました。主な情報流出事例のいくつかを見ていきましょう。

最初の大きな暴露は、上述の2010年4月に、2007年にイラク・バグダッドで米軍ヘリコプターがロイター通信のカメラマンを含む民間人を誤って攻撃する映像でした。この公開により、戦争の残酷さと民間人犠牲者の問題が世界中で議論されることになりました。

続いて2010年7月には、約92,000件のアフガニスタン戦争に関する米軍の機密文書が公開されました。これらの文書は、民間人犠牲者の数が公式発表よりも多いことを明らかにし、戦争の長期化に対する批判を強めることになります。

また、同年10月には約40万件のイラク戦争に関する機密文書が公開され、イラクでの民間人死亡者数や拷問の実態などが明らかになりました。さらに11月には、約25万件の米国大使館の外交公電が公開されることになります。この内容に機密情報が含まれていたことから、国際外交にも大きな混乱をもたらしました。

これらの情報公開により、多くの市民が政府の行動に対してより高い透明性を求めるようになり、データジャーナリズムの発展を刺激したとされています。

2.国際的監視網の実在を告白した「スノーデン告発」

2-1 「スノーデン告発」の概要

2013年6月、エドワード・スノーデン(Edward Snowden)氏が、NSA(アメリカ国家安全保障局)の機密情報であるPRISM(国際的監視網)の実在を告白し、世界を震撼させました。
これが「スノーデン告発」「スノーデン事件」と呼ばれる事件です。スノーデン氏は、NSAの職員でした。

スノーデン氏は、この機密情報を香港で、イギリスの「ガーディアン」紙とアメリカの「ワシントン・ポスト」、香港の「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」紙に提供。これらのメディアは、慎重に内容を確認した上で、2013年6月から順次、この衝撃的な事実を報道し始めました。

それまで、どちらかというと陰謀論やフィクション作品などで噂されていた国際的監視網が実在すると報じられて、当時、「マジか?」と思った人は少なくないはずです。

2-2 「エドワード・スノーデン」とは何者か?

エドワード・スノーデン氏は、1983年6月にアメリカのノースカロライナ州で生まれました。両親は連邦政府の職員で、彼自身も幼い頃からコンピュータに強い興味を持ち、技術的な才能を発揮していました。

高校を中退した後、コミュニティカレッジでコンピュータサイエンスを学び、2004年には米陸軍特殊部隊に入隊しましたが、訓練中の事故で除隊することになります。その後、CIAに雇われ、コンピュータセキュリティの専門家として活動しますが辞職し、異動を続けながら、NSA関連施設で活動していました。

この間、スノーデン氏は政府の監視活動の実態を知るようになり、NSAが一般市民の通信データを大規模に収集していることに深い懸念を抱きました。スノーデン氏はこの状況を憲法違反だと考え、広く知らしめる必要があると考えたようです。

そして、2013年5月、スノーデン氏は香港に向かい、「スノーデン告発」を行いました。

その後、アメリカ政府から香港政府に臨時逮捕と引き渡しの要請が出されますが、スノーデン氏は最終的にロシアに移り、2020年に永住権を獲得、2022年9月にロシア国籍が付与されました。現在もモスクワからテクノロジーと人権に関する発信を続けています。

2-3 NSAの監視プログラム「PRISM」とは?

PRISM(US-984XN)は、2007年に開始された秘密裏の監視プログラムで、その存在はスノーデン氏の告発によって初めて明らかになりました。

このプログラムの特徴は、大手IT企業との協力体制にありました。Google、Facebook、Apple、Microsoft、Yahoo!などの企業が、ユーザーの個人情報やコミュニケーションデータをNSAに提供していたとされています。

収集されたデータは、電子メール、チャットの記録、写真、ビデオ通話の内容、ファイル転送の記録、ソーシャルネットワーキングの詳細など、非常に広範囲におよんでいました。

さらに、PRISMは特定のターゲットについてリアルタイムで監視を行うことができるようになっており、特定の人物がメールを送信したり、ファイルをアップロードしたりするのと同時に、NSAがその内容を確認できるようになっていました。

この監視活動は、アメリカ国内だけでなく世界中の人々を対象としていました。PRISMは、2008年に成立した「FISA法(外国諜報監視法)」を根拠に運用されていましたが、この法律の解釈が拡大され、実質的に令状なしの大規模な監視を可能にしていたという批判もあります。

2-4 告発後の影響と国際的な反応

スノーデン氏の告発は、世界中に大きな衝撃を与え、様々な影響と反応を引き起こしました。特に、多くの市民がデジタルプライバシーについて考えるきっかけとなり、メッセージングアプリやVPNなどの暗号化技術を積極的に利用する人が増加しました。

国際社会では、アメリカ政府への不信感が高まりました。とくにアメリカの同盟国の指導者たちが盗聴されていたことが明らかになったことで、アメリカとの関係が微妙になったといわれています。

法制度面でも大きな変化がありました。2015年、アメリカ議会は「米国自由法」を可決し、NSAの大量監視プログラムに一定の制限を設けました。EUは「一般データ保護規則(GDPR)」を制定し、個人情報の保護を強化しました。

企業の対応も変化しました。多くのIT企業が、エンドツーエンド暗号化などの強力な暗号化技術を導入し、政府からの情報開示要求に関する透明性レポートを定期的に公開するようになりました。

3.2つの事件の比較と分析

3-1 共通点は「政府が隠す情報を公益のために拡散」

ウィキリークス事件とスノーデン事件には共通点があります。

それは、政府の秘密主義と情報公開の理念が衝突したという点です。両事件とも、政府が国民から隠していた情報を暴露し、政府の秘密主義に対抗していた点が共通しています。

また、どちらの事件も、公益のための情報公開という理念に基づいていたことも共通しています。アサンジ氏もスノーデン氏も、自分たちの行動が民主主義社会にとって必要不可欠だと主張していました。

さらに、両事件ともデジタル技術を巧みに活用して大量の機密情報を入手し、世界中に拡散させたというところが一致している点です。

ウィキリークス事件とスノーデン事件は、政府の透明性や市民の知る権利について、世界中で激しい議論を巻き起こしています。また、内部告発者の保護という問題も浮き彫りにし、アサンジ氏もスノーデン氏も、訴追を逃れるために国外に逃亡せざるを得なかった点も共通しているといってよいでしょう。

また、話題性の大きさから、映画化・ドラマ化されたり、多くの関連書籍が刊行されたりしたことも似ています。

3-2 相違点は「情報入手方法と公開のプロセス」

ウィキリークス事件とスノーデン告発事件は、一見すると似ているように見えますが、いくつかの違いがあります。特に情報の入手方法と公開のプロセスの2点が異なります。

ウィキリークスは、内部告発者が匿名で情報を提供できるプラットフォームとして運営され、組織的に情報を収集していました。複数の情報源から様々な種類の機密文書を入手し、独自のウェブサイトを通じて直接情報を公開する手法をとっていました。つまり、告発者から情報を募り、自ら発信する形です。

一方、スノーデン告発は、スノーデン氏個人がNSAの関係者として内部情報を持ち出し、選ばれたジャーナリストを介して段階的に公開するという方法をとっています。スノーデンは自身の身元を明かした上で、主にNSAの監視プログラムに焦点を当てた情報を自身で提供していた点でウィキリークス事件とは異なります。告発者が自分自身で、メディアに情報提供を行っていました。

3-3 社会への影響は?

両事件は、プライバシーと国家安全保障のバランスという、現代社会における重要な課題を提起したといえます。これらの事件を契機に、デジタル時代における個人情報の保護と政府の監視活動の適切な範囲について、世界中で活発な議論が展開され続けています。

また、これらの事件をきっかけに、多くの国でプライバシー保護法の整備が進められています。例えば、EUの一般データ保護規則(GDPR)があります。また、IT企業もユーザーのプライバシー保護を重視する姿勢を強め、Appleのように、ユーザーデータの暗号化を徹底し、政府の要求にも応じない姿勢を示す企業も現れました。

一方で、テロ対策などの名目で監視活動を正当化しようとする動きも依然として存在します。新型コロナウイルスのパンデミック時には、感染者追跡アプリの導入をめぐって、公衆衛生と個人のプライバシーのバランスという新たな課題も浮上し、議論が展開されました。

4.文化への影響と関連作品

4-1 「ウィキリークス事件」関連の作品

「アメリカ秘密公電漏洩事件」は、その衝撃的な内容と世界的な影響力から、多くの創作作品の題材となりました。注目すべき作品をいくつかピックアップします。

映画では、2013年に公開された『フィフス・エステート/世界から狙われた男』が知られています(日本では劇場未公開)。

「シャーロック」シリーズで知られるベネディクト・カンバーバッチがジュリアン・アサンジを演じ、ウィキリークスの設立から2010年の大規模情報公開までを描いています。しかし、アサンジ氏はこの作品を評価していないようです。

ドキュメンタリー映画としては、2017年に公開された『リスク:ウィキリークスの真実』があります。こちらも、アサンジ氏は評価をしていないようです。ウィキリークスに関する書籍は非常に数多く刊行されています。

4-2 「スノーデン告発」を題材にした作品群

「スノーデン告発」も多くの作品で取り上げられています。最も注目度の高い作品は、オリバー・ストーン監督による映画「スノーデン」(2016年)でしょう。

「インセプション」などで知られるジョセフ・ゴードン=レヴィット氏がスノーデン氏を演じ、NSAでの経験から告発に至るまでの経緯を、スリリングに描いています。終盤にはスノーデン氏も出演しています。

ドキュメンタリー映画「シチズンフォー スノーデンの暴露」(2014年)は、スノーデン氏が香港で記者会見を行う直前から、ロシアに亡命するまでの8日間を記録した作品です。

監督のローラ・ポイトラスは、スノーデン氏本人の生の姿を捉えることに成功し、この作品は第87回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞しています。

また、スノーデン氏自身による自伝「スノーデン 独白」(2019年)も注目を集めました。

彼の幼少期から、NSAでの経験、そして告発に至るまでの経緯を自身の言葉で綴った本書は、デジタル時代における個人のプライバシーについて深い洞察を提供しています。

スノーデン氏は他にも数冊の著書があります。スノーデン氏や「スノーデン告発」に関する書籍は数多く刊行されています。

4-3 関連作品が描き出す現代社会の課題

ウィキリークス事件やスノーデン告発をテーマにした作品は、事件の再現にとどまらず、情報化社会が直面している重要な課題を浮き彫りにしているとされています。

政府の透明性と秘密主義のバランス、監視社会の進展と個人のプライバシー、そして内部告発者の保護と評価という3つの大きなテーマが提示されることが多いようです。

今後ますます重要度が増すという指摘もあるこれらの事件を様々な作品を通じて知ることで、デジタル時代における個人の自由とプライバシーの重要性をあらためて考えてみたいところです。

まとめ

ウィキリークス事件とスノーデン告発は、21世紀の情報社会に大きな影響を与えた2つの重要な出来事といえます。

これらの事件は、世界中で激しい議論を巻き起こしました。また、これらの事件を題材にした多くの創作作品が、現代社会が直面する様々な課題を浮き彫りにしています。

技術の進歩とともに新たな問題が生まれる中、これらの事件が提起した問題は今も私たちに重要な示唆を与え続けるでしょう。

歴史に残るバグ・IT犯罪
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執筆: 大木 晴一郎

ライター

IT系出版社等で書籍・ムック・雑誌の企画・編集を経験。その後、企業公式サイト運営やWEBコンテンツ制作に10年ほど関わる。現在はライター、企画編集者として記事の企画・編集・執筆に取り組んでいる。