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世界初の女性プログラマがバグを予見していた。なぜプロプログラミングでバグは避けられないのだろうか?
ITの歴史・事件

更新日:

2025.12.08
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世界初の女性プログラマがバグを予見していた。なぜプロプログラミングでバグは避けられないのだろうか?

執筆: 大木 晴一郎

ライター

「プログラムにバグはつきもの」と当たり前のように語られます。この認識を19世紀にエイダ・ラブレスは示していました。彼女は世界初のプログラマとして知られ、バベッジの解析機関のために書いたプログラムに人間の「偶然性(human error)」が生み出すエラーの危険があると指摘していたのです。そこで今回はラブレスの洞察とバグという概念への流れをまとめてみたいと思います。

もくじ
  1. 世界初のプログラマ「エイダ・ラブレス」がバグを予言
    1. バベッジの解析機関との出会い
    2. 解析機関とエイダのプログラム
    3. 「偶然性(human error)の潜在性」に気づく
  2. 「バグを知っていた」彼女から、デバッグ文化へ
    1. 「Bug」という言葉の起源
    2. グレース・ホッパーと「史上初のコンピュータバグ事件」
    3. 現代に続く「エイダ・ラブレス賞」
  3. 「Ada」言語に込められた遺産と安全設計
    1. Adaが誕生した背景と命名の由来
    2. Adaの設計思想
    3. Adaの実例
  4. まとめ

1. 世界初のプログラマ「エイダ・ラブレス」がバグを予言

1-1. バベッジの解析機関との出会い

エイダ・ラブレス(Augusta Ada King, Countess of Lovelace)(1815‐1852)は、詩人バイロンの娘として生まれました。幼少期から数学や科学への才能を示し、女性が学問を追求することが困難だった時代に才能を開花させました。彼女が大きく歴史に名を残すきっかけとなったのは、数学者チャールズ・バベッジ(Charles Babbage)(1791‐1871)との出会いです。世界で初めてプログラム可能な計算機を考案したコンピュータの父です。

バベッジの機械式計算装置「解析機関(Analytical Engine)」は現代のコンピュータに近い仕組みを持ち、パンチカードで指示を与え、四則演算やループ処理まで可能とする、まさに時代を超えた発明といえます。

エイダは1833年、母の紹介でバベッジと出会い、解析機関に強い関心を持ちました。バベッジもエイダの数学的な才能に興味を持ち知的な交流が芽生えていきます。この出会いが、エイダを世界初のプログラマへと導く第一歩となりました。

1-2. 解析機関とエイダのプログラム

1842年、イタリアでバベッジが解析機関について講演した際の記録が出版され、エイダはこれを英語に翻訳しました。しかし彼女の真価は、その翻訳に付した膨大な「注釈」にありました。バベッジの勧めもあってつけた注釈は原文以上の長さで、解析機関の仕組みをわかりやすく解説するとともに、具体的なプログラム例を提示していました。

バベッジの解析機関は外部からパンチカードによって命令を与えることで、さまざまな種類の計算が可能な汎用的な機械でした。これは現代のコンピュータにおけるプログラムの概念の元であり、今日のコンピュータの基本構造(入力・処理・制御・記憶・出力)を備えた画期的な設計でした。

その中でも有名なのが、注釈に記されたベルヌーイ数を計算するプログラムです。これは世界初のアルゴリズムとして書かれたプログラムとされており、エイダが「世界初のプログラマ」と呼ばれる理由となっています。エイダは解析機関が単なる計算機を超え、音楽や芸術の生成にまで応用できることも示唆していました。恐るべき先見の明です。

1-3. 「偶然性(human error)の潜在性」に気づく

エイダの注釈で注目すべきは、彼女が「偶然性(human error)」に言及している点です。彼女は、解析機関自体が間違いを犯すわけではなく、人間が与える指示に誤りがあれば必ず誤った結果が出力されると指摘しました。つまり、機械の性能がいかに優れていても、そこに介在する人間のエラーは避けられないということです。

解析機関は自ら何かを生み出わけではなく、人間が命令することを実行する機械です。間違いを入れたら間違いが実行されるということで、これは現代のプログラミングにおける「ガベージイン・ガベージアウト(Garbage In, Garbage Out:ゴミを入れればゴミしか出てこない)」の考え方を、170年以上も前に指摘していました。

2. 「バグを知っていた」彼女から、デバッグ文化へ

2-1. 「Bug」という言葉の起源

実は、「バグ(bug)」という言葉は、コンピュータ以前から存在していました。

18世紀末から19世紀にかけて、機械等の不具合を指してバグと呼ぶ慣習があったのです。例えば、1878年には発明王のトーマス・エジソン氏が手紙の中でバグという表現を用いています。エジソンは電信装置の不調について説明する際に技術的な小さな不具合を「bug」と記しています。

エジソンの記述から、当時の技術者たちの間で、設計上の小さな欠陥や解決すべき問題を「Bug」と呼ぶ慣習があったことがうかがえます。ニュアンス的には、原因がすぐには特定できない厄介な問題といった意味で使われていたのだと推測できます。

この「bug」、意味合いとしては「目に見えないお化け」のような意味らしいのですが、おそらく、羽音だけ聞こえて姿を見せない虫のイメージではないかと推測しています。日本でいうと、個人的には夏の夜に寝床を襲う「蚊」ではないかと思うのです。プーンと羽音が聞こえてもどこに居るのかわからない「蚊」。まさに、なかなか特定できないバグのことのようです。

2-2. グレース・ホッパーと「史上初のコンピュータバグ事件」

20世紀半ば、エイダの予見を具体的な現象として世に広めたのが、コンピュータ科学者グレース・ホッパー(1906‐1992)です。彼女はアメリカ海軍の軍人であり、初期のコンピュータ「Mark II」の開発に関わっていました。ホッパーはプログラミング言語「COBOL」の開発を主導するなど、コンピュータの黎明期に多大な貢献をした人物です。

ある日、ホッパーのチームは、「Mark II」の開発中、リレー回路の間に蛾が挟まって動作不良を引き起こしているのを発見しました。この蛾を作業日誌に貼り付け、「First actual case of bug being found(実際にバグが発見された最初の事例)」と記したのです。リアルなバグ(蛾)が計算機の「bug」を引き起こしていたという、この面白い出来事が「史上初のコンピュータバグ事件」などと題されて世界中に知られるようになりました。この日誌はスミソニアン博物館に展示されています(オンラインでも公開されています)。

2-3. 現代に続く「エイダ・ラブレス賞」

一方、エイダ・ラブレスの功績は彼女の死後、長らく忘れられていました。しかし20世紀後半になると、再びその評価が高まり、女性科学者やプログラマの象徴として語られるようになります。その象徴の一つが1982年にはじまった「エイダ・ラブレス賞(Ada Lovelace Award)」です。この賞は、情報処理やコンピュータ科学の分野において傑出した貢献を果たした人物授与されるものです。

1983年のエイダ・ラブレス賞の受賞者に選ばれたのが、グレース・ホッパーでした。170年以上前にプログラムと不具合(バグ)の可能性を洞察した人物の名を冠した賞を、バグの最初の事例を記録したホッパーが受賞したことに不思議な縁を感じます。エイダ・ラブレスは、人間の誤りによって必然的に起こる「潜在的なバグ」の存在を示唆しました。そしてホッパーは、実際に「バグ」という言葉をコンピュータ文化に定着させた人物ということになります。

3. 「Ada」言語に込められた遺産と安全設計

3-1. Adaが誕生した背景と命名の由来

1979年、アメリカ国防総省(DoD)は軍事用システムに適した新しいプログラミング言語の開発を推進するため国際競争入札を行いました。

当時、軍事システムではさまざまな言語が乱立しており、その数は450種類以上にも膨れ上がっていました。言語の乱立は、ソフトウェアの開発コストを増大させ、バグの温床となり、システムの保守を極めて困難にしていました。人命に関わるシステムにおいて看過できないリスクです。

この状況を打開するため、国防総省は1970年代から、これらのシステムを記述するための統一された、信頼性の高い単一のプログラミング言語を開発する壮大なプロジェクトを開始します。1979年には世界中から設計案が公募され、厳しい要求仕様に基づくコンペティションが行われました。そして最終的に、フランスチームの設計案が選ばれました。

1979年に設計案が選ばれ、プロジェクトの成果として誕生したのが「Ada」言語です。名前はもちろん、世界初のエイダ・ラブレスにちなんでいます。命名されました。これは、彼女が示した先見性と知的遺産を現代のプログラミングに受け継ぐ意味がありました。ちなみに、「Ada」と記すのが正しい表記です。

3-2. Adaの設計思想

Ada言語の最大の特徴は安全性と信頼性を徹底的に追求した設計思想にあります。リアルタイム性が求められるシステムにおいても、タスクやプロセスを安全に制御できる構造を持っています。

これらの特徴は、まさにエイダ・ラブレスが指摘した「人間の偶然性によるエラー」を少しでも減らすための設計思想に直結しています。プログラマは間違いを犯すものである、という前提に立ち、言語の力によってプログラマのミスを補い、システムの堅牢性と信頼性を極限まで高めようとする考え方が貫かれている先進的なプログラミング言語といってよいでしょう。

言語仕様の大きさや厳密さのため、当初から高いスペックが要求されており、実装例はあまり報告されておらず、経緯的に軍事目的で使用されていることが多いといわれています。また、民間でも大企業や航空機、宇宙分野など主として信頼性や保守性を要求されるシステムの開発で普及しているようです。

フリー(GNU GPL)のコンパイラとしてはGNATがよく知られています。

3-3. Adaの実例

Adaは現在も、航空宇宙産業や軍事システムといった「ミスが許されない領域」で広く使われているようです。

航空・宇宙分野では、私たちが日常的に利用する旅客機の安全がAdaによって支えられています。ボーイング777の飛行制御システムの中核部分はAdaで記述されており、エアバスA320/A330/A340の制御システムでも採用されています。また、国際宇宙ステーション(ISS)の一部のソフトウェアや、欧州宇宙機関(ESA)のアリアンロケットの誘導システムなど、人命と巨額の投資がかかるプロジェクトで採用されています。

鉄道・交通システムでも活用されており、フランスの高速鉄道TGVや、パリ、ロンドン、香港などの主要都市の無人自動運転の地下鉄の信号・制御システムにもAdaが使われています。これらのシステムは、24時間365日、寸分の狂いもなく安全に運行し続けることが求められる重要なインフラです。

軍事・防衛システムでは、Adaが誕生した経緯からもわかるように、戦闘機、軍艦、ミサイル防衛システムなど、多くの防衛関連システムでAdaは中心的な役割を担っています。また、医療機器にも利用されており、日常生活の安全を陰で支えています。

これらのシステムに共通するのは、「失敗が許されない」という極めて高い要求水準です。Adaは表舞台に出ることは少ないものの、その堅牢さによって現代社会の根幹を支えているといえるでしょう。エイダ・ラブレスの遺産は、単なる歴史的な物語ではなく、今この瞬間も世界の安全を守るテクノロジーとして生きているのです。

4. まとめ

エイダ・ラブレスは、世界初のプログラマとして解析機関に人間由来の誤り、すなわち「バグ」の存在を予見しました。その洞察は、グレース・ホッパーによる「史上初のコンピュータバグ事件」へとつながり、やがて現代のデバッグ文化として定着しました。そして彼女の名を冠した「Ada」言語は、安全性を追求する設計思想によって、社会の重要なシステムを支え続けています。ラブレスの先見性は、いまなお私たちの技術と文化に息づいているのです。

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