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エンジニアが知っておきたい、データガバナンスとプライバシー保護の現状まとめ(2025年版)
ソフトウェア開発 更新日 2025.10.27
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エンジニアが知っておきたい、データガバナンスとプライバシー保護の現状まとめ(2025年版)

執筆: 大木 晴一郎

ライター

2025年、データガバナンスとプライバシー保護をめぐる環境は大きく変化しています。DX推進やAI活用、グローバルな規制強化の中で個人情報保護法も改正(2022年4月)され、3年ごと見直されるようになりました。もちろん、企業が守るべきルールや求められる技術・運用が高度化しています。エンジニアは、最新の法規制や技術動向を理解し、自組織の現場でどのようにデータマネジメントとプライバシー対策を設計・実装すればよいか知っておくことが求められ始めています。そこで今回はデータガバナンスとプライバシー保護の現状をまとめました。

もくじ
  1. 2025年時点のデータガバナンスの基礎と最前線
    1. データは新たな「石油」なのか?
    2. 「データガバナンス」とは何か?
    3. ガイドラインと国内外標準、そして政府動向
  2. プライバシー保護政策と法規制・ガイドライン改正の全貌
    1. 個人情報保護法・グローバル規制のポイント
    2. 実際に押さえておきたい改正論点と実務対応
    3. 「備えなければリスク急増」違反事例も
  3. 「技術」で守るプライバシー
    1. 近未来の注目技術は?
    2. AI・機械学習におけるプライバシーリスク管理とセキュリティ強化
    3. 現場でやっておきたいポイント
  4. まとめ

1. 2025年時点のデータガバナンスの基礎と最前線

1-1. データは新たな「石油」なのか?

2006年ごろ、英国の数学者クライブ・ハンビー(Clive Humby)はデータを「新しい石油」と表現しました。それ以降もビジネスにおけるデータ活用の重要性は、日に日に大きくなっています。製造業はIoT機器からのデータで生産効率を高め、小売業は購買履歴から需要を予測し、金融業はトランザクションデータをAIで分析して不正検知や新サービスに活かしています。

石油と異なって、データは使っても減りませんし、再利用や別な組み合わせにより、新しい価値を生み出し続けられます。とくに生成AIや機械学習モデルの進化により、従来では想像できなかったデータを活用したビジネスが可能になりました。このような状況で、データの質・正確性・セキュリティをどう担保し、「新しい石油」として活用する技術力の有無が企業の競争力を左右する時代に突入しています。

1-2. 「データガバナンス」とは何か?

「データガバナンス」とは、組織が保有するデータを正確かつ安全に管理し、必要に応じて活用できるようにするための仕組みやルールのことを指します。客観的な定義としては「データの品質・利用・セキュリティを組織的に統制する枠組み」と説明されます。

最新の定義では、企業経営の一環として、ツールと人材とプロセスが連携してデータを価値ある資産として管理することが強調されています。2025年時点での実務上の重要性は、たんに「データを管理する」ことにとどまりません。AIの学習に使われるデータが不適切であれば、バイアスや誤学習が起こり、重大なリスクを招きますし、様々な問題を引き起こしてしまいます。グローバルに事業を展開する企業には、各国の規制に沿ったデータ処理が必須とされています。

エンジニアにとっては、データベース設計時のメタデータ管理、アクセス権限の制御、ログの可視化など、実装レベルでの配慮が不可欠となってきました。

1-3. ガイドラインと国内外標準、そして政府動向

データガバナンスを進める上で拠り所となるのが、各国の標準やガイドラインです。

国際的には「ISO/IEC 38505」がデータガバナンスの国際規格として知られています。米国のNIST(国立標準技術研究所)はデータ管理とAIリスク管理に関するフレームワーク「AI Risk Management Framework(AI RMF)」を提示しています。

日本では「ISO/IEC 38505-1」が実務の参照枠として浸透しつつあり、IPAの「データガバナンス読本」でも代表的フレームとして整理されています。あわせてデジタル庁は2025年6月に経営層向けの「データガバナンス・ガイドライン」を公表し、企業での運用ポイントを提示。個人情報保護委員会も同年に関連資料の更新を進めるなど、法令面の整備が継続しています。なお、「ISO/IEC 38505-1」は国際的に改訂作業が進行中です。

欧州のGDPR(一般データ保護規則)や米国カリフォルニア州のCCPAなどは厳格な個人情報保護のグローバル標準となり、企業はこれらと整合したデータ管理を求められています。こうした政策動向は、エンジニアがシステム設計において考慮すべき前提条件となっています。

2. プライバシー保護政策と法規制・ガイドライン改正の全貌

2-1. 個人情報保護法・グローバル規制のポイント

2022年、日本の個人情報保護法は改正され、AIやクラウド時代に即した規制が導入されました。具体的な強化ポイントとして、AI学習データへの規制では、個人を識別可能な情報をAIの学習に利用する際、目的を明示し、利用者からの厳格な同意取得が必要になりました。

越境データ移転の透明性強化では、海外にデータを移す際、その国の規制水準やリスクの明確な説明が義務化されました。匿名加工情報の取り扱いルール強化では、再識別リスクを低減するための技術的手段の導入が求められています。2025年には改正が予定されています。

欧州のGDPRも改正され、特にAI分野に関する規定が注目されています。2024年に合意されたEUの「AI Act」、正式名称「European Artificial Intelligence Act(欧州人工知能規則)」と並行して、GDPRもAI利用に関する透明性義務を強化しました。なお、「AI Act」は「EU AI規制法」や「欧州AI法」と報じられることもあります。

米国でもカリフォルニア州のCPRA(California Privacy Rights Act:カリフォルニア州プライバシー権法)が2025年に施行され、従来以上に厳しい罰則と監査権限を持つ機関が設立されています。

これらの動きにより、日本企業も国内対応にとどまらず、海外市場での事業展開時にグローバル規制を考慮する必要が高まっています。

2-2. 実際に押さえておきたい改正論点と実務対応

エンジニアや情報システム部門が実務で対応すべき論点は多岐にわたります。まず、プライバシーバイデザインの考え方を実装段階で取り込むことが必須です。サービス開発の初期段階から、最小限のデータ収集、暗号化、アクセス制御を組み込むことで、後から規制対応に追われるリスクを軽減できます。

次に重要なのはログ管理と可視化です。利用者が自分のデータ利用状況を確認できる仕組みを導入することが、透明性義務の履行に直結します。データの削除依頼への迅速な対応や、第三者提供時の監査記録を残すことも求められています。

グローバル規制に関しては、GDPR準拠を前提に設計すれば、多くの国での規制に適合しやすい傾向があるといわれています。具体的には、データ処理契約(DPA)の明確化、標準契約条項(SCC)の整備などが必要です。法改正の抽象的な条文を「自社のシステムでどう実装するか」に落とし込むことが、エンジニアにとっての最大の課題となっています。

2-3. 「備えなければリスク急増」違反事例も

法規制が強化されるなかで、違反事例は世界中で報じられています。2023年に欧州で大手SNS企業Meta(Facebook)が1.2億ユーロ規模の罰金を科されました。理由は、ユーザーの同意を得ないまま広告に個人データを利用したことです。

指摘されているのは「規制強化に対応せず、従来のやり方を続けていた」ことです。エンジニアやシステム部門は、罰則リスクを経営レベルの課題として認識し、日常の設計・運用に反映する姿勢が欠かせなくなりました。

3. 「技術」で守るプライバシー

3-1. 近未来の注目技術は?

プライバシー保護の実現には技術が大きな役割を果たします。2025年時点で注目されているのは、プライバシー保護技術「PETs(Privacy-enhancing technologies)」です。

PETsは、同態暗号や秘密計算といった技術を総称した概念です。データを暗号化したまま計算できるため、個人データを第三者に明かさず分析を可能にします。金融機関や医療分野で実証実験が広がっています。

「差分プライバシー(Differential Privacy)」は、データの集計結果にランダムなノイズを加えることで、個人を特定できないようにする技術です。AppleやGoogleもすでに導入しており、統計的な分析精度を保ちつつプライバシーを守る手段として普及が進んでいます。

「分散型保存(Decentralized Storage)」は、従来の中央集権的なデータ保存に代わり、ブロックチェーンやP2P技術を用いてデータを分散管理する方式です。改ざん耐性や可用性に優れ、単一の事業者に依存しない安心感が得られます。

3-2. AI・機械学習におけるプライバシーリスク管理とセキュリティ強化

AIや機械学習の活用は急速に広がっていますが、その分リスクも拡大しています。とくに学習データの偏りや再識別リスクが大きな問題です。匿名化されたデータをAIが組み合わせることで、逆に個人が特定されてしまう事例が報告されています。

このため、AI分野では「AIセキュリティ」と呼ばれる新たな専門領域が生まれています。学習データへのアクセス制御、モデル出力の監査、敵対的攻撃(Adversarial Attack)への耐性強化などが研究対象です。

これらのリスクに対応するため、AI開発においては、差分プライバシーを導入して学習データにノイズを加える手法や、連合学習(Federated Learning)といった技術が注目されています。連合学習は、各端末でローカルに学習したモデルのパラメータのみを共有し、中央サーバーで集約することで、生のデータを外部に持ち出すことなく学習を進める手法です。

欧州の「AI Act」では、こうしたリスク管理を企業に義務づけており、AI開発に携わるエンジニアは必ず押さえるべき知識領域となっています。

3-3. 現場でやっておきたいポイント

プライバシー保護のために現場で取り組めることは多いといわれています。まず、データ最小化の原則を徹底するのがポイントとの指摘があります。サービス運営に必要な範囲でのみデータを収集し、それ以上は持たないことがリスク低減の第一歩です。

次に、アクセス権限のきめ細かい設定です。誰でも見られる共有フォルダに個人情報を置いてしまう、といった単純なミスが事故につながる例は後を絶ちません。データにアクセスできる人を必要最小限に限定し、誰が、いつ、どのデータにアクセスしたかのログを常に記録する仕組みを構築します。

また、定期的な教育と訓練も欠かせません。システムを設計するエンジニアだけでなく、現場のオペレーターや事務担当者も含めて「なぜこのルールが必要なのか」を理解しておくことで、組織全体として強固な体制を築くことができます。

さらに、インシデント発生を前提としたBCP(事業継続計画)対応も重要です。情報漏えいが起きた場合に、どのように利用者へ通知し、被害を最小化するかを事前に決めておくことが信頼維持につながるでしょう。

4. まとめ

2025年時点で、データガバナンスとプライバシー保護は法規制の強化と技術の進化が同時に進む時代に突入しています。エンジニアに求められるのは、最新の法制度を理解するだけでなく、プライバシー強化技術を駆使し、システムに組み込む力です。プライバシー保護は単なるコストではなく、ユーザーの信頼を勝ち取り、企業の成長を支える基盤であることを意識する時代になりました。

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執筆: 大木 晴一郎

ライター

IT系出版社等で書籍・ムック・雑誌の企画・編集を経験。その後、企業公式サイト運営やWEBコンテンツ制作に10年ほど関わる。現在はライター、企画編集者として記事の企画・編集・執筆に取り組んでいる。