2020年10月24日(土)、『PG BATTLE 2020』がオンライン開催されます。PG BATTLEは株式会社システムインテグレータが主催する企業・学校対抗のプログラミングコンテストで、1チーム3名による団体戦となっているのが特長です。
チームのメンバー3名が「ましゅまろ」「せんべい」「かつおぶし」に分かれ、出題された問題を解くプログラムを90分間で4本書いてオンライン提出。後日、オンラインで結果が発表される真剣勝負が繰り広げられます。参加費無料かつ「スポンサー賞(飛び賞)」など多数の賞品が用意されているなどで、参加者は年々増加し続けています。
この「プログラミングの団体戦」という世界的に見ても珍しい大会の開催に至った背景や大会の見どころなどを、主催者の株式会社システムインテグレータ・代表取締役社長の梅田弘之氏にうかがいました。
今回話を伺った方
- 梅田 弘之 氏
株式会社システムインテグレータ 代表取締役社長
静岡大学電子工学科卒業後、株式会社東芝に入社。1989年、住商情報システム株式会社(現SCSK株式会社)へ移り、国内初のERPソフト「Pro Active」を企画・開発し、1995年に株式会社システムインテグレータを設立。数多くのパッケージソフトウェアを開発。2018年から、企業・学校対抗プログラミングバトル『PG BATTLE』を主催し、日本のIT業界におけるプログラミング力の向上に力を注いでいる。
企業・学校対抗プログラミングバトル『 PG BATTLE 』とは?
──「PG BATTLE」の開催に至った背景を教えてください。
私は、日本のIT業界はプログラマーの評価が結構低いと思っています。システムエンジニアや上流のコンサルのほうがより価値が高いという風潮ですよね。業界自体もピラミッド構造になっていて、いわゆる上の階層の会社に自社プログラマーがほとんどおらず、協力会社さんがプログラミングスキルを持つという図式です。今はDXの時代と言われますが、これではDXの実現は難しいと思います。
日本はIT技術においてアメリカなどに先行されていますが、その理由のひとつは海外ではプログラマーが正当に評価されていることにあります。それを考えると、日本のプログラミング力をもっと評価できるようにしなければいけないと4年前に強く思いました。そこで、英会話能力がTOEICで見える化できるように、プログラミングスキルを見える化する判定サービス『TOPSIC』を作ったんです。
このTOPSICを使って、当社では年に3回、社内プログラミングコンテストを開いています。すると中途入社の人が満点を取ってみたり、経理担当者が上位に入賞したりして社内で話題となり、会社の雰囲気も「プログラミングは楽しいし、重要」と思ったとおり変化してきました。これと並行して世の中の風潮も変えたいと考え、TOPSICを使ったプログラミングバトル大会を構想したことが『PG BATTLE』の背景となっています。
──なぜスポーツ大会のようにしようと考えたのですか?
実はPG BATTLEの発想の元は将棋大会です。今から2年前、当社の将棋部から「メンバーが足りないんで、大会に出てくれませんか?」と言われて、企業対抗の職団戦に出場しました。企業対抗で先鋒、次鋒、中将、副将、大将の5人対5人で戦います。参加して「面白いな」と感じましたし、将棋以外にも野球やフットサルなど多くの企業対抗大会があるのに、企業対抗のプログラミング大会がないと思ったんですね。そこで、プログラミングは楽しいし重要という風潮を世の中に広めたいという思いを込めて、TOPSICを使った団体対抗のプログラミングバトル大会を開催しようと考えました。
3人チームの団体戦なので「3人で相談していいですか?」と、よく質問をいただきますが、将棋大会からヒントを得たこともあって相談なしとしています。「ましゅまろ」「せんべい」「かつおぶし」というように問題の難易度を少しずつ変え、先鋒が「ましゅまろ」で、大将が「かつおぶし」......というイメージで対戦いただくことにしました。
難易度の分け方は、はじめは初級・中級・上級とかを考えていたんですが、プログラマー向けのお祭りイベントなので面白みを加えたかったんです。それで難易度を「硬さ」「柔らかさ」で表現することにしました。世の中で一番硬い食べ物の「かつおぶし」、映画にもマシュマロマンが出てくる柔らかい「ましゅまろ」はすぐ決まったんですが、中間の「せんべい」が難しかったですね。
──「PG BATTLE」の魅力はどんなところにありますか?
普通はできない、プログラミング能力で勝負する楽しい経験ができることが一番の魅力ですね。加えて団体対抗のチーム戦という、団体に属する者同士が戦う面白さが味わえて、問題を解くことも楽しめます。メンバーが3人いれば無料でオンライン参加できて、上位入賞チームだけでなく「飛び賞」でも豪華な賞品が出ることに魅力を感じてくださっている参加者も多いようです。
オンラインで気軽に参加できることも魅力のひとつだと思います。大会は土曜のお昼(2020年は10月24日に開催)なので、それぞれ3人バラバラに自宅から参加でき、結果は後日、オンラインで発表します。どこかに集まって一緒に参加したり、結果を見たりしている人たちも結構いるようです。
1回出てコテンパンにやられたチームが翌年も応募してくれるケースも多く、レベルに関わらずPG BATTLEに魅力を感じてくれているんだなと思います。
──企業・学校のチームが参加しやすいように工夫されていることはありますか?
毎年、少しずつ工夫しています。1年目は、参加しやすくするために結果発表会をオンライン化しました。2年目はスポンサー制で「飛び賞」をつけたのですが、PG BATTLEの趣旨に賛同してくださるスポンサーが予想以上に集まったので、スポンサー名での「飛び賞」*を20個用意できました。みんなドキドキしながら飛び賞の発表を見てくれていたようです。
PG BATTLEという団体戦が、普段の開発におけるチームワークと100%同じというわけではないと思いますが、団体戦の楽しさをみんなに味わってもらいと思っています。
そこで3年目となる今年は、新しい試みとして「かんたん募集サービスbosyu」というサイトに専用枠(https://bosyu.me/d/pgbattle2020)を作り、PG BATTLEに参加する仲間の募集ができるようにしました。参加することが目的というケースもあれば、実力のあるプログラマー3人で上位を狙って組むこともできるので、2020年はbosyuから参加を促せるかな、と思っています。個人的には、bosyuから上位入賞チームが出てくると面白いなぁって思っています。
※飛び賞:一例として末尾0や5の倍数に相当する順位に授与される賞(賞品)のこと
『 PG BATTLE 』のこれまでの歩み
──第3回までの歩みをかんたんに教えてください。
PG BATTLEでIT業界に貢献して盛り上げていきたいという趣旨で参加無料としたこともあって、第1回から参加者が集まり、企業169チーム・学校91チーム、総勢800人ほどの規模でした。
第2回では、大会を長く続けるにはスポンサーが必要と考えてお願いしたら、予想を超え20社がスポンサーに名乗りをあげてくださいました。PG BATTLEの趣旨に共感してくださる会社は思った以上にいると手応えを感じましたね。第2回は1332人に参加いただき、2020年10月の第3回は参加者2000人を目標としています。
──これまでの大会でどんなチームが印象に残っていますか?
第1回「企業の部」のトップは満点でしたが、「学生の部」のトップは早稲田大学のチームで290点でした。290点というのは、おそらく「ましゅまろ」の人が4問のうち一番かんたんな問題をミスしたことになるんですが、この人、どうなったんだろうな......とすごく気になりましたね(笑)。そんなこともあり、翌年に当社の「TOPSIC」ブログで優勝者インタビューを実施し、コメントをいただきました。
この早稲田大学チームは学年も異なりました。インタビューをすると顔が見えるみたいなところがあって面白かったですね。このような学生が企業に入ることで、その企業も上位を狙えるわけです。これからPG BATTLEを続けていくと、そのような事例が増えるのではないかと楽しみにしています。
将棋でも、だいたい職団戦には上位の常連企業がいたりしますが、PG BATTLEの「企業の部」ではリクルートコミュニケーションズのチームが過去に連覇していて、別チームも3位にも入っています。これからも強豪チームがどんどん出てくると思います。
面白いなと感じるのはチーム名ですね。たとえば先ほど話した第1回PG BATTLE 2018「企業の部」初代優勝チームは、リクルートコミュニケーションズの「あの人をどうやって外すか後で相談しようね」です。PG BATTLEサイトに私が考えた4コママンガが載っているんですが、そのオチのセリフなんです(笑)。こういうチーム名で1位を取れば、次エントリするチームはもっと面白い名前をつけなきゃと思うようで、どんどんエスカレートしていて見るのが楽しみになっています。
『 PG BATTLE 』が目指す未来社会とは?
──PG BATTLEに「勝利の方程式」 はありますか?
そうですね。PG BATTLE を共催しているAtCoderが行っている個人の競技プログラミング大会があり、それは無料でエントリできます。そこで練習をしてから団体戦のPG BATTLEに臨んでくるチームは結構います。練習のために、大会の前にAtCoder等でひたすら問題を解きまくるチームは今後も増えると思います。こうしたトレーニングをAtCoder社の人は「1000本ノック」って言ってましたね。
実戦のとき意識してしまうのは、同点なら短時間のほうが勝ちになるというルールです。短い時間でできれば生産性が高いと言えますし、ここで見直しをどうするかの判断が難しくなってきます。競技プログラミングでは出した結果を直せることがあるんですが、われわれ企業のプログラミングだと、間違いを誰かが教えてくれるわけではなくて、本番稼働してからバグが発生してトラブルになることがあります。そういう世界で生きているせいか修正できるのは甘いと感じられるので、PG BATTLEでは自分でちゃんと確認してから提出することにしています。つまり、修正なしです。
社会人はそうじゃないよ、そんな世の中甘くないよ、という感じです(笑)。バルテスさんのように、ソフトウェアのテストや品質チェックを専門に行う会社もあるくらいですから、PG BATTLEではプログラムの品質をとても大切に考えています。生産性は重要なファクターとなるので、開発の速度は重要ですが品質面で見てバグがあると意味がないわけです。実社会では、そのバランスを取ってプログラマーが仕事をしているので、それが1時間半の短い世界の中でもやはり、時間と品質のバランスを考えてもらわないといけないと思っています。
PG BATTLEの場合、大量にテストするわけではなくちょっとだけ確認するということです。文章を書いたら後で推敲し誤字脱字を減らすことと同じです。でも、その提出時間の何秒差で負けるのが怖いという気持ちのせめぎあいもあるので、1位を取りに行くには、一気に出してしまう選択もあるかもしれませんが、15秒あればケアレスミスに気づける可能性は十分あるので、焦って15秒をケチらないほうがたぶんいい結果につながると思います。
──オフラインのイベントなどは開催されるんでしょうか?
2020年から、プログラマーのカッコよさを発信するイベント「CODE-RAVE」をスタートしたのですが、世界情勢の影響でストップしました。でも、ようやく9月14日からオンラインで復活することになりました。
このイベントにPG BATTLEの優勝者や有名なプログラミングの人に来ていただいたりとかして、バトル以外でも参加した人たちの絆を深めていきたいと考えています。いろいろイベントをして、PG BATTLEで盛り上がってという周期を10周10年くらいして、日本のプログラマーに相当エネルギーが注ぎ込まれている状況にしていきたいと考えています。
──今後、構想されていることなどがあったら教えてください。
第1回は「学校の部」と「企業の部」のふたつだったんですが、第2回は「学校の部」を大学と高校以下の部と分けました。
高校以下の部を作ったことによってその世代でプログラミングをする人たちの参加がだんだん増えています。今後はプログラミングクラブのような団体がある学校の参加が増え、毎年必ず出てくるイベントになっていくと思います。PG BATTLEが大きくなっていったら、高校の部、中学校の部、小学校の部と分けていきたいですね。
将棋、囲碁だと小学校名人戦などは、必ずしも6年生、5年生が勝つというわけではなくて、4年生とかで優勝する子がいて、その10何年後かにプロになってたりします。PG BATTLEがそうなっていくことと、若い世代のプログラミング力の向上に期待しています。
PG BATTLEはこの先、10,000人の参加を目指しています。そうなると、今以上にスポンサーもつくと考えています。長く継続してやることが大切なので情熱を注いでいきます。大会前から密着取材みたいなのをやってくれるとか、テレビで特集してくれたりとかして、マスコミが取り上げてくれるようになったらいいと思っています。
──最後に参加するプログラマーへメッセージをお願いします。
PG BATTLEの「企業の部」で上位に入ってくるのは、やはり、尖った会社が多いです。しかしそうでない会社にも、若くて優秀な社員は数多くいるので、そのような人たちが集まってPG BATTLEに出場し上位に入ることで、会社や世間の意識をどんどん変えていくのが理想です。
参加する方には、もちろん良い点数を取ってもらいたいのですが、まずはPG BATTLEやCODE-RAVEに参加して楽しんでもらいたいです。プログラミングのトレーニングをしておいたほうがより楽しめることは間違いないので、しっかり準備していただきたいですね。
[第3回]企業・学校対抗プログラミングバトル PG BATTLE 2020
PG BATTLEは、1チーム3名による企業・学校対抗プログラミングコンテストです。作品を提出して審査する方式ではなく、出題された問題を解くプログラムを90分間に4つ書いてオンライン提出するガチ勝負。
昨年の第2回 PG BATTLEでは、444チーム、1,332名が参加し、熱いバトルが繰り広げられました。今年はさらに規模を拡大して10月に開催します。
好評だった、スポンサー制度、賞金などは今年も継続!スポンサー名を冠したスポンサー賞(飛び賞)は、上位に入らなくても賞品をもらえるチャンスです。奮ってご参加ください。