2022年、GoogleがChromeOS FlexというOSを発表しました。多くの方にとってビジネスや家庭で利用するパソコンのOSと言えばWindowsであり、Webやデザイン系であればMac OSを利用される方も多い状況です。「パーソナル」なコンピュータは事実上この2つのOSを搭載したものとなっています。ChromeOS Flexは先行するこれらOSの寡占状態に割り込むことはできるでしょうか?
今回の記事では、ChromeOS Flexの特徴やこれまでの歴史、そしてWindowsやMac両OSとの使い勝手の比較について紹介します。
- もくじ
1.ChromeOS Flexとは何か
2022年2月にGoogleは無料で利用できるOS「ChromeOS Flex」を発表し、7月に正式リリースしました。
Googleの製品と言えば、WindowやMacOS上で利用できるChromeウェブブラウザ、Chromebookというノートパソコンをご存知の方も多いでしょう。
まずはブラウザとノートパソコンでそれぞれ名前が似ているこれらの製品の関係を把握していきましょう。
2022年に登場した「ChromeOS Flex」とは?
「ChromeOS Flex」はWindowsやMacOS用パソコンで動作するOSです。ユーザーインターフェイスにChromeウェブブラウザを用いている点が大きな特徴となります。
Windowsなどと同様に一般的なパソコン内蔵のハードディスクやSSDにインストールして利用する以外に、USBポートに接続したUSBメモリーなどにOS一式を入れてメモリーから起動して利用する、いわゆるポータブルOS的な使い方も可能です。
Chromebook=ChromeOS搭載パソコンのこと
Chromebookとは、ChromeOSを搭載しているノートパソコンのことです。ChromebookはWindowsパソコンと同様のx86アーキテクチャのほか、スマートフォンでは大きなシェアを占めるARMアーキテクチャで動作する製品があります。
ChromeウェブブラウザをインターフェイスとしているChromeOS Flexは、Webアプリケーションの利用を前提としたOSです。昨今、Webアプリケーションの利用は広がっており、パソコンの主用途であるデスクワークで使われるMicrosoftのOfficeスイートもWebアプリケーションとして提供されています。
ChromeウェブブラウザはWindows/Mac用としても広く利用されているため、Chromeウェブブラウザ用WebアプリケーションをChromeOS Flexでも多くを使用できるようです。実際、この記事を作成するためにいくつかのWebアプリケーションをChromeOS Flexで動かしてみましたが、Windows版Chromeウェブブラウザと同様に利用できました。
流行りのAIによる画像生成も問題なく動作する。こちらの画像は「ChromeOS Flex」と入力して生成したもの
ChromeOS Flexは、ChromeOSとよく似たOSです。ChromeOSを使用するためにはChromebookを買う必要がありましたが、ChromeOS Flexの登場によってハードウェアを購入する必要がなくほぼ同等の機能を無償で入手できるようになりました。
ChromeOS Flexは、開発者のみならずデスクワーク用作業環境を低コストで実現したい人などから注目されています。
Googleのサイトには、動作確認済みパソコンのリストが掲載されています。この原稿を書く際、Office スイートをこのリストに載りようがない自作パソコンで使用しましたが、特に問題は起きませんでした。
2.ChromeOS・CloudReadyとの違い
ChromeOS Flexと名前の似ているChromeOSやCloudReadyの違いについて解説します。
まずChromebook用のOSとして、「ChromeOS」が2009年に開発がアナウンスされました。ChromeOSはLinuxカーネルをベースにしたOSで、ユーザーインターフェイスにChromeウェブブラウザを用いています。
またChromeOSのオープンソース開発版として、「Chromium OS」というものがあります。
ChromeOSについて、OSのみの提供は行われていなかったので、ChromeOSを利用するためには2011年発売開始のChromebookを購入する必要がありました。
そのような流れの中で一般的なパソコンでChromeOSと同様のOSを動かすニーズに応えるべく、Neverwareという企業がChromium OSをベースに「CloudReady」というOSを2015年2月から提供を開始しました。このCloudReadyは低スペックとなった旧式のパソコンでも快適に利用できることを目指していました。
その後、Neverwareは2020年12月にGoogleに買収され、CloudReadyをベースに開発されたのが2022年7月に登場した「ChromeOS Flex」ということになります。ChromeOSの競合とも言えるCloudReadyの開発企業であるNeverwareを買収したGoogleですが、競合製品を捨てずに新たな製品としてリリースしたことは評価されるべきでしょう。
このようにChromeOSもChromeOS Flexも、元をたどればChromium OSを元に開発されており、そのChromium OSはLinuxカーネルがベースになっているので、ChromeOSもChromeOS FlexもLinuxディストリビューションの一種と言えるかもしれません。
なおChromebookはGoogleが認定した機種のみが販売されており、動作に関して問題が起きることはあまりないと思われます。一方ChromeOS Flexは前述の通り動作確認済みパソコンが公開されており、リストに掲載されているパソコンであれば、問題なく利用できるでしょう。
3.ChromeOS Flexのメリット、デメリットは?
ChromeOS Flexのメリット・デメリットは以下の通りです。
詳しく解説していきます。
ChromeOS Flexのメリット
ChromeOS Flexのメリットは、比較的低スペックのパソコンでも動作することです。
古いパソコンにChromeOS Flexをインストールしておき、ふだんの作業用パソコンがトラブルで使えない場合のピンチヒッターとして準備しておくといった使い道が考えられます。
またChromeOS Flexのインストール用に作成したUSBメモリーは、ポータブルOSとして利用できます。
昨今はスマートフォンがあればメール送受信やドキュメントの閲覧など軽めのデスクワークは充分こなせますが、重めのデスクワーク、例えば大量のテキスト入力や図版作成などの際は、キーボードやマウスが利用できるパソコンのほうが効率的に作業を行えると思います。
もしトラブルの際に予備として使えるパソコンを持ち合わせていなくても、同僚や家族のパソコンを借りてChromeOS FlexのUSBメモリーを挿し必要な作業を行う、といった使い方ができます。もちろん、この使い方の場合、従来からパソコンにインストールされているシステムやデータに影響を与えず利用することが可能です。
WindowsやMacでWebブラウザとしてChromeを使っているのであれば、ChromeOS Flexでウェブブラウズをする際には違和感なく利用できる点もメリットとして挙げられます。
ChromeOS Flexのデメリット
もちろんChromeOS Flexにもデメリットがあります。まず、最大のデメリットとしては広く普及しているWindowsとMac両OSとは、操作方法や設定方法が異なる点です。
多くのユーザーがいるWindowsやMac OSであれば、使用中に疑問やトラブルが発生しても、知人や同僚への質問、さらにネットを検索することでほぼ解決できます。
しかしChromeOS Flexの場合はユーザーも少ないため、疑問やトラブルが発生した際には基本的には自分でネット掲示板やユーザーコミュニティを活用して解決する必要があります。
ChromeOS Flexを起動した画面。中央のアイコンはChrome、Gmail、YouTubeなどの6つだけとシンプルだ
またChromeOS Flexのインストール直後は日本語入力が行えません。デスクワークや開発環境の整備についても、この点でひと手間かかります。
さらにデメリットとまでは言えませんが、ChromeOS Flexで作成したデータはローカルドライブのほか、Google DriveやOneDriveといったWebストレージに保存することが可能です。この際、本来は同じファイルなのに保存先が異なるためにいくつものバージョン違いのファイルを作ってしまうことがないよう、気をつける必要があります。
4.エンジニアのデスクワークや開発環境として使えるか?
ChromeOS Flexを開発環境として利用するためには、Linuxの仮想環境をインストールする必要があります。これはProject Crostiniという名称で開発され、Project Crostiniインストール後はsshコマンドを使って外部の環境に接続して開発を行えます。
テキスト編集用エディターに関しては、Linux環境内でvimやEmacsが使えるほか、Web版のVisual Studio Codeも利用できます。
Web版のVisual Studio Codeも利用可能
なおChromeOSがサポートしているGoogle Playストアとそこで提供されるAndroidアプリの動作は、ChromeOS Flexではサポートされていません。
そのため開発の対象がAndroidである場合、ChromeOS Flexではなく、ChromeOSやWindowsを選ぶことになります。
ここまでの考察は「現在のWindows・MacOSで使用するには低スペックのパソコンが手元にある」という前提でのものです。ChromeOS Flexを導入することで軽いデスクワークなら低コストで充分にこなせるようになります。
「低予算で一からAndroid用の開発環境を用意したい」ということであれば、インストールの必要がなく、Google PlayストアとAndroidアプリをサポートするChromebookが選択肢になるでしょう。
また、開発のターゲットによって、それ以外の開発環境を用意するのであれば、最初からUbuntuなどのLinux系OSをインストールするほうが適している場合もあります。
まとめ
ChromeOS Flexとは、2022年7月にGoogleからリリースされた、無料で利用できるOSです。ユーザーインターフェイスにChromeウェブブラウザを用いている点が特徴です。
ChromeOS FlexでハイスペックなCPUパワーやメモリーを必要とするWindowsやMacOS上のさまざまな作業環境を置き換えるのは、少々荷が重いかもしれません。しかし、使わなくなった低スペックのパソコンへChromeOS Flexをインストールして、サブマシンとして活躍してくれるでしょう。
また、冒頭で書いたようにポータブルOSとしての機能も持っているので、何かあった際の緊急用OSとして利用するのも良いと思います。