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APIの品質をどう守る?Postmanエンジニアに聞く品質課題アプローチ
"プロに訊く"シリーズ
"プロに訊く"シリーズ 更新日 2025.06.30
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APIの品質をどう守る?Postmanエンジニアに聞く品質課題アプローチ

執筆: Qbook編集部

ライター

PostmanはAPI開発において非常に広く使われているツールの一つです。特にAPIの設計、テスト、ドキュメント作成、モニタリング、さらにはセキュリティやガバナンスまで、APIライフサイクル全体を効率よく管理できることで知られています。

今回、Postman社のエンジニアである草薙昭彦氏、川崎庸市氏にインタビューを実施しました。Postmanというツールが持つ強みや価値について掘り下げるとともに、APIテストの重要性やその課題について理解を深めていきます。APIテストをこれから始める方や、自動化に取り組もうとしている方はぜひお読みください。

今回インタビューを受けてくださった方

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草薙 昭彦 氏

東京大学大学院工学系研究科電子情報工学専攻修士課程修了。サン・マイクロシステムズ、オラクル、EMCを経て近年は外資系ITスタートアップでサービス導入や啓蒙活動に従事。デジタルツインやデータビジュアライゼーションに関心があり、制作した交通デジタルツインアプリ「Mini Tokyo 3D」は数々の賞を受賞。シンガポール在住。

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川崎 庸市 氏

米国ジョージア大学卒業後、テック系スタートアップ、ヤフー、マイクロソフト、ZOZOにてさまざまなエンジニアリングロールに従事。2023年6月より現職。

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Postmanについて

サンフランシスコに本社を置くPostmanの日本法人として2023年に設立されました。Postmanは世界をリードするAPIプラットフォームで、フォーチュン500企業の98%を含む3,500万人を超える開発者と50万の組織で利用されています。Postmanは、APIライフサイクルの各ステップを簡素化することにより、世界中の開発者や専門家がAPIファーストの世界を構築できるよう支援しています。またPostmanは、コラボレーションを効率化し、ユーザーがより優れたAPIをより迅速に開発することを支援します。

もくじ
  1. はじめに
  2. Postmanが提供するソリューション・強み
  3. APIの信頼性向上と課題
  4. これからAPIテストを始める人へのアドバイス
  5. 今後の展望

1. はじめに

――まずは自己紹介をお願いします。これまでのキャリアや、現在の役割について教えてください。

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(左:川崎庸市氏 右:草薙昭彦氏)

草薙氏:私はITベンダーでプリセールスエンジニアやプロフェッショナルサービスエンジニアとしてのキャリアを経て、2023年にPostmanの日本チームに加わりました。現在はテクノロジーエバンジェリストとして、技術イベントでの登壇やメディアへの執筆、オンラインワークショップの開催、さらには技術コミュニティとの交流を通じて、Postmanの価値を広めています。元々ユーザーとしてPostmanを活用していましたが、実際に入社してみると、その機能の多さや進化の速さに私自身が驚いているところです。

川崎氏:私も草薙と同じくテクノロジーエバンジェリストとして、Postmanの普及活動や技術的なサポートを幅広く担当しています。以前にはプロダクトの日本語化プロジェクトにも関わり、海外チームとの連携を通じてPostmanのユーザー体験向上に取り組んできました。

――PostmanでAPIテストや品質向上に携わるようになって、どのような気付きがありましたか?

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草薙氏:Postmanをユーザーとして使っていた頃は、APIのリクエスト送信やレスポンスの確認、簡単な自動化までしか使っていませんでした。しかし実際に入社してからは、スクリプトを使った複雑なテストや、外部システムとの連携、自動実行など、これまで知らなかった便利な機能が数多くあることに気付きました。一つのツール内で高度な自動化が実現できることに驚きました。

川崎氏:私が特に気づいたのは、Postmanが開発者だけでなく、QA担当者やテスト担当者など幅広いユーザー層をカバーできる点です。直感的に操作できるGUIを備えつつも、柔軟なスクリプトによる自動化や、関係者とのコラボレーション機能を兼ね備えています。これにより、開発の現場でのコミュニケーションや情報共有が円滑になり、API開発の効率化に大きく貢献していることを実感しています。

2. Postmanが提供するソリューション・強み

――Postmanがどのように生まれ、どのような課題を解決するために進化してきたのか教えてください。

草薙氏:Postmanは、約13年前にYahoo! Indiaに勤務していた3人のエンジニアが、自分たちのAPIコールやデバッグを便利に行うためのツールとして開発したのが始まりです。当時、APIを簡単に操作できる直感的なツールが存在していなかったため、開発者コミュニティで非常に高い評価を受け、あっという間に世界中に広まりました。

以来、Postmanは開発者のニーズに応じて進化を遂げ、単なるAPIクライアントから、APIライフサイクル全体をカバーする統合プラットフォームへと発展しました。

――API開発やテストの分野にはさまざまなツールがありますが、その中でPostmanが特に優れている・特徴的だと思う点は何ですか?

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川崎氏:Postmanの優れている点は、エンジニアだけでなく、QA担当者やテスト担当者など多様なユーザーが使いやすいインターフェースを備えていることです。直感的なGUIに加え、細かいシナリオテストを組み込める柔軟なスクリプト機能があり、幅広いユーザー層を支援しています。

さらに、共同開発や組織内でのAPI管理を促進するため、セキュリティやガバナンスの設定、APIドキュメント管理、バージョン管理機能が充実しています。こうした多面的な機能により、Postmanは単なるAPIツールを超えて、「APIプラットフォーム」として位置付けられています。

草薙氏:Postmanの最大の特徴は、アプリケーション開発者のニーズに応える幅広い機能を備えていることです。APIの呼び出しだけでなく、複雑なテストの自動化や、スクリプトを使った詳細なレスポンス検証、さらにはCI/CD環境への統合も容易に行えます。特に、GUIによる直感的な操作と高度な自動化機能の両立が、多くの開発現場で評価されています。

また、チームや企業を越えた情報共有が円滑にできる点も強みです。これまで属人化していたノウハウを統一的に管理し、チーム間のコラボレーションを大幅に改善できます。

3. APIの信頼性向上と課題

――APIの品質や信頼性における主な課題は何でしょうか?

川崎氏:APIの品質や信頼性については、大きく二つの課題があります。一つ目はセキュリティの問題です。特にAPIは外部からの攻撃対象になりやすく、認証・認可の不備による脆弱性が多く報告されています。Postmanが行った調査によると、セキュリティテストを実施している組織は全体の約37%と低く、この分野のテストが十分に行われていない現状があります。

二つ目の課題は、APIのドキュメント不足です。仕様書が不十分、または実際のAPIと仕様書が一致しないといった問題が頻繁に見られます。ドキュメントが充実していないために、APIの使用方法が分かりにくく、テストの実施や利用に支障をきたしています。

――本来重要であるはずのAPIテストが、組織として取り組みが後回しになりがちなのはなぜでしょうか?

草薙氏:APIテストが後回しになりがちな理由として、APIが実際にはユーザーインターフェースの背後で動作しているために目に見えにくいことが挙げられます。開発者が内部で使用するためのAPIは、公開APIと比較して軽視される傾向があり、その結果、テストが不十分なまま運用されるケースがあります。

また、APIに関する情報が組織内で十分に共有されていない点も問題です。開発チーム内でさえAPIの存在や詳細な仕様が把握されていないことが多く、結果としてテストの重要性が認識されにくくなっています。Postmanのようなツールで情報共有を徹底し、組織全体での意識を高める必要があります。

川崎氏:APIのテストが軽視される背景には、テストの重要性に対する組織的な意識の低さがあると思います。特にユニットテストやエンドツーエンドテストに比べて、中間に位置するAPIテストは注目されにくく、意識が後回しになりがちです。

これを改善するためには、APIを単なるインターフェースではなく、プロダクトそのものとして認識する意識改革が必要です。APIテストを開発プロセスにしっかりと組み込み、自動化する仕組みを作ることで、持続的な品質向上を目指すことが重要だと考えています。

4. これからAPIテストを始める人へのアドバイス

――APIテストや自動化を始めるとき、どのような課題が起きやすいでしょうか?

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草薙氏:APIテストを始めるときによくある課題として、明確なAPI仕様が整備されていないことが挙げられます。API仕様が曖昧だと、何を基準にテストすれば良いかがわからず、関係者間での認識合わせに手間がかかってしまいます。

また、APIというのは本質的に抽象化されたインターフェースであり、背後の実装詳細を隠しています。そのため、テストも適切な抽象度で設計することが重要ですが、このバランスを取るのが難しいのが現実です。テストが実装に寄りすぎたり、逆に抽象化しすぎて、機能の動作検証が不十分になるといった問題もよく見られます。

川崎氏:APIテストに取り組む際には、テストの自動化を継続的に行える環境作りが課題となります。多くの場合、単発のテストを手動で実施するだけで終わってしまい、長期的な品質維持に繋がらないことが多いです。自動化したテストをCI/CDパイプラインに組み込み、日常的に実行されるような仕組み作りが不可欠です。

また、APIテストが軽視されがちなため、組織内での認知度や重要性の理解を促進することも課題となります。これには、組織全体でAPIをプロダクトとして認識し、APIテストの重要性を共通認識にすることが必要です。

――全くの初心者がAPIテストに取り組む場合、どこから始めるべきでしょうか?具体的なステップや参考リソースを教えてください。

草薙氏:初心者がAPIテストを始めるには、まず明確なAPI仕様書を作成または入手し、その仕様をベースに簡単なテストケースを作成することから始めるのがおすすめです。Postmanを使えば、GUI上で簡単にAPIリクエストを作成・実行でき、レスポンスの検証までスムーズに行えます。

川崎氏:APIテストを初めて取り組む方は、まず何か一つ簡単なテストケースを自動化し、それを定期的に実行できる仕組みを作ってみるのが良いと思います。PostmanのCollection Runner機能を使えば、複数のAPIリクエストをまとめて自動実行できるため、これを活用すると便利です。

また、初心者の方はPostmanが提供している無料のオンライン学習プラットフォーム(Postman Learning Center)を利用すると良いでしょう。初心者向けのチュートリアルやサンプルが多数用意されており、実践的にAPIテストの基本を学べます。

5. 今後の展望

――今後、どのようなことを成し遂げたいとお考えですか?

草薙氏:私は今後さらに多くの開発者や企業の方々と交流し、APIの品質や信頼性向上に貢献していきたいと考えています。特に、AI技術の普及に伴い、APIの役割がますます重要になると考えています。AIが期待通りに動作するためには、高品質なAPIが不可欠です。そのため、Postmanを活用して、より良いAPI開発のベストプラクティスを広め、業界全体の品質向上を支援したいと思っています。

川崎氏:私は日本の企業や組織がAPIを活用してビジネス価値を高めることを支援していきたいです。そのためには、API開発やテストに関する成功事例やベストプラクティスを積極的に共有し、教育や普及活動を通じて、より広い層にAPIの重要性を理解してもらえるよう努めたいと思います。

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――ソフトウェア開発に関わる方に向けて、一言メッセージをお願いします。

草薙氏:APIは今後の技術革新を支える重要な基盤となります。APIの品質を常に意識し、持続可能な開発環境を一緒に築いていきましょう。皆さんの開発プロセスがより良くなるよう、ぜひ私たちと共に取り組んでいければと思います。

川崎氏:開発者として重要なことは、自動化を徹底し、自分自身がボトルネックにならない仕組みを作ることだと感じています。人はどうしてもミスをしたり、判断にばらつきが出たりするものです。だからこそ、過度に自分を信頼するのではなく、自動化を積極的に取り入れて、安定した、持続可能な開発体制を築いていくことが重要だと思います。

――本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました!

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執筆: Qbook編集部

ライター

バルテス株式会社 Qbook編集部。 ソフトウェアテストや品質向上に関する記事を執筆しています。