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「テスト・検証の重要性を広め、ソフトウェア業界全体の品質向上に取り組む」IT検証産業協会(IVIA)可児 忠夫 氏
資格対策特集
資格対策特集 更新日 2025.05.19
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「テスト・検証の重要性を広め、ソフトウェア業界全体の品質向上に取り組む」IT検証産業協会(IVIA)可児 忠夫 氏

執筆: Qbook編集部

ライター

現代の社会基盤を支えるITシステム。その品質確保において、開発と並ぶ重要な工程が「テスト・検証」です。中でも、開発者とは異なる第三者の視点で行う「第三者検証」は、製品の信頼性を担保するうえで重要な役割を担っています。

そんなテスト・検証の専門性と重要性に注目し、業界の健全な発展と技術者の育成を目的として活動しているのが、IT検証産業協会(IVIA)です。

今回は、IVIAの広報委員会委員長を務める可児 忠夫 氏に、検証業界の現状、資格制度「IVEC」の狙い、そしてAI時代における品質保証のあり方について、多角的にお話を伺いました。

今回インタビューを受けてくださった方

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可児 忠夫 氏

IT検証産業協会(IVIA) 広報委員会 委員長
株式会社テクノアスカ 取締役

パソコン黎明期からコンピュータに興味を持ち、ゲームや各種業務系システムの開発に携わる。近年は医療・福祉分野のITにも従事し、日本周産期医療ネットワーク推進協議会の設立にも携わる。ソフトウェア品質の重要性を実感し、IT検証産業協会(IVIA)に参画。現在は広報委員長として業界の発展と人材育成に取り組んでいる。

もくじ
  1. 第三者検証の重要性や社会的認知度向上を目指しIVIAを設立
  2. 交流イベントや勉強会を通して最新技術の把握や課題解決の場に
  3. テスト現場で役立つ実務スキルを習得する資格制度「IVEC」
  4. 多くの企業・団体に加盟してもらい、新たな品質課題にも取り組んでいきたい

1. 第三者検証の重要性や社会的認知度向上を目指しIVIAを設立

―― IVIAはどのような経緯・目的で設立された団体なのでしょうか?

IT検証産業協会(IVIA)は、IT産業における第三者検証の重要性や、社会的地位・認知度の向上を目的として、2005年度に設立しました。

協会としては、業界の認知度向上と情報発信、それから技術者の育成の3つを柱に活動しており、ソフトウェアテスト産業自体の技術力向上や、標準化も進めてきました。

その一環として、「IVEC(アイベック)」というIT検証技術者の認定資格の運営や、検証に関する標準化の研究、資料の公開といった活動を積極的に行っています。

近年では、会員企業間の連携や、他団体との協力を深めて業界の地位向上も目指してきました。

また、検証業界のボリュームを拡大するために、人材の創出にも注力しています。たとえば、大学や専門学校と連携して、学生にソフトウェア検証への関心を持ってもらい、将来一緒に働ける人材の育成にも取り組んでいます。

そういった活動を通じて、業界全体の発展を目指している団体ですね。

―― ご自身がIVIAに賛同・参加された理由について詳しくお聞かせください。

以前は「開発者自身がテストすれば、ソフトウェアの品質は確保できる」という考え方が主流だった時代が長く続いていたと思います。

しかし、実際にモビリティ開発を進めていく中で、特に組み込み系の開発に携わった際に「作った本人がテストしているようでは、いつまでたっても品質は上がらない。第三者の目でしっかりと検証することが必要だ」と痛感したのです。

そんな中で、第三者検証を専門に研究・推進している団体があることを知り、これはぜひ賛同したい、力になりたいと感じまして、IVIAへの参加を決めたという経緯があります。

2. 交流イベントや勉強会を通して最新技術の把握や課題解決の場に

―― 現在、どのような企業がIVIAに加盟しているのでしょうか?

検証業務を専門に行っている企業はもちろん、システム開発やシステムインテグレーションを行っている企業など、検証を1つの重要な業務として取り組んでいる企業が加盟しています。

また、これから検証分野に新規参入したい企業や、検証技術の研究を進めたいメーカー・ベンダーなど、加盟企業は多岐にわたります。

――IVIAに加盟するメリットは何だとお考えでしょうか?

IVIAに参加するメリットとしては、さまざまな委員会活動を通じて検証技術の研究に共同で取り組むことができる点や、最先端の検証技術に触れて、その技術を習得できる点があります。
また、企業間の交流活動や、他団体との連携、さらに学校での企業紹介などを通じて、企業の認知度向上や人材採用につなげられるというメリットもあります。こうした意味でも、IVIAは非常に価値のある団体だと思っています。

以前は「IT検証フォーラム」という大規模イベントを東大の伊藤謝恩ホールなどで開催していましたが、コロナ禍を機に分散・小規模化していきました。今は年に数回、各種交流イベントや勉強会を実施しています。

また、地方でも交流会や講習会を開催しています。最近では大阪や沖縄で開催され、私は大阪での交流会にも参加しました。

このようなイベント交流を通じて、会員間での情報交換や、業界が抱える課題の共有、今後進むべき方向性、課題の解決方法を見出すことができます。

―― すでに加盟している企業・団体の数も多いかと思いますが、今後より増やしていきたいとお考えでしょうか?

正会員や特別会員などを含めると現在(2025年3月時点)の会員数は91近くになりますが、現状としてはまだまだ少ないと感じています。これは早急に拡大していくべきだと考えていまして、まずは会員数100を目標に活動しています。

業界全体として見れば、ソフトウェア開発においてテストが占める割合はおよそ3割とも言われています。それほど大きな市場の中で私たちは活動しているわけですから、より多くの企業がIVIAを通じて技術を学び、共有し、広げていけるような団体に育てていきたいと考えています。

3. テスト現場で役立つ実務スキルを習得する資格制度「IVEC」

―― IVIAでは「IVEC(アイベック)」という資格制度を運用されていると伺いましたが、具体的にはどのような資格なのでしょうか?

IVECは、テストエンジニア向けの資格制度です。最大の特徴は、テストの現場における「実務」を重視している点にあります。IVIAでは、キャリアレベルごとに実務力を問う試験を設けておりまして、それぞれの等級に合格することで「現場で安心して業務を任せられる人材である」と証明することができます。

試験は、初心者向けから研究者レベルまで幅広く対応しており、対象となる人物像に応じて試験を受けることができます。

学術的な知識だけでなく、現場で即戦力となる実践的なスキルが身につく内容となっているので、実際の業務にもすぐに活かせるのではないかと思います。

――知識面だけでなく、実務能力の評価にも重点を置いているんですね。

はい。近年は、各クラスで最新の技術動向に対応した内容の試験も取り入れており、たとえばセキュリティやテスト自動化、その他IoT分野の最新技術などを反映した試験問題も導入されています。

初心者の方は、まずアシスタントクラスからスタートして、段階的に上位資格を目指していくことで、スキルの習得とともにレベルアップしていけるようになっています。

また、受験しやすい環境も整ってきました。アシスタントクラスについては、「IBT(Internet Based Testing)」という形式に対応しており、24時間、自宅やオフィスなど、好きな場所で受験が可能になりました。受験期間も10か月ほど設けられており、自分の都合に合わせて受験できるようになっています。

さらに、上位資格である「テスタークラス」や「デザイナークラス」「アーキテクトクラス」についても、今年の春からCBT(Computer Based Testing)の試験方法に刷新され、全国340か所のテストセンターで受験可能になりました。

以前は試験日が春と秋、各1日のみと限られていましたが、今回から春と秋、各10日間設けており、期間内であれば都合のよい日時に受験できるようになり、非常に利便性が向上しています。

これにより、今まで「日程が合わず受けられなかった」という方にも、受験のチャンスが広がったのではないかと思います。

――IVECはどういった方におすすめの資格なのでしょうか?

アシスタントクラスでいえば、初心者の方や、これからソフトウェア開発やテストの勉強を始めたい方におすすめです。

やはり開発にはテストがつきものですし、どういったテストをすれば良いのかという考え方や、どうすれば品質を高められるのかを学ぶ最初のステップになるのではないかと考えています。

本資格の内容は、開発にも役立ちますし、検証業務に携わる際には即戦力としても活かせるものなので、学生の方にとっては就活のアドバンテージにもなると思います。

――テストする側だけでなく開発者側も自分の幅を広げるためにチャレンジする価値があるということですね。

そうですね。開発者の方にとっても、テストの知識を持っていることは業務の幅を広げることにつながります。テストと開発は異なる視点ですが、どちらも理解していることで、より良いシステムを作る力が身につきますよね。

また、ご自身の能力や知見が資格として証明されていれば、その技術が可視化され、他者からの信頼にもつながるのではないかと思います。

資格取得に向けては、公式教材であるシラバスや、過去問と解答例などもありますので、それらを活用して勉強していただくことができます。

最近では、YouTuberの方とタイアップしまして、試験対策用の動画コンテンツを展開していこうという取り組みも始めました。今年3月には、アシスタントクラスの説明動画の第1弾を公開しています。今後も段階的に動画を追加して、より受験しやすい環境を整えていきたいと考えています。

4. 多くの企業・団体に加盟してもらい、新たな品質課題にも取り組んでいきたい

―― IVIAの今後の展望についてお聞かせください。

直近の目標としては、まず会員数を100に増やし、団体としての規模や認知度を広げていくことです。ただし、それだけではなく、やはり技術面での取り組みもさらに強化していく必要があると感じています。

特に開発のスタイルが、従来のウォーターフォール型からアジャイル型へとシフトしてきている中で、第三者検証のあり方も変わってきています。従来のように「外部から独立して検証する」だけでなく、開発チームと同調しながら、各スプリントで検証を進めていくことが求められるようになりました。

そのため、チーム内での品質基準をどう設けるか、全体の品質をどう高めていくか、そういったところも検討していきたいです。

また、AIの進展も非常に大きなテーマです。第三次AIブームともいわれる今、AIを活用した検証の高度化が進んでいます。一方で、AIを使うことによる新たな課題も出てきています。たとえば、AIの判断結果の信頼性や説明責任、倫理的な側面など、さまざまな問題に取り組んでいかなければなりません。

さらに、AIそのものを「検証する」必要もあります。生成AIの出力結果に対する検証、特に自動運転や医療など命に関わる分野においては、ソフトウェアの品質は極めて高いレベルで保証される必要があります。

そうした分野では、ソフトウェアの「品質の証明」がこれまで以上に求められます。ソフトウェア品質の信頼性を示す「JISマーク」を付与する制度もありますので、IVIAとしてもそうした取り組みを積極的に進めていく方針です。

―― 最後に、ソフトウェア品質に関わる全ての方へのメッセージをお願いします。

ソフトウェア開発において、「検証」は欠かせないものです。どれだけ優れたシステムでも、品質が保証されていなければ、信頼されるものにはなりません。

やはり「プロ」である以上は、信頼性のないものを作るわけにはいかないと思います。

そのため、第三者検証の価値を理解し、それを実践していくことが、品質を高める鍵になります。AIの時代になっても、そうした品質の担保はむしろより重要になるでしょう。

ソフトウェア開発や品質保証に携わる企業、団体の方は、ぜひIVIAに関わっていただき、共にその価値を高めていきましょう。

―― 本日はありがとうございました。

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執筆: Qbook編集部

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バルテス株式会社 Qbook編集部。 ソフトウェアテストや品質向上に関する記事を執筆しています。