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テストアーキテクチャとは?目的や構成要素、設計のポイントを紹介
テスト技法・工程 更新日 2025.07.23
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テストアーキテクチャとは?目的や構成要素、設計のポイントを紹介

監修: 布施 昌弘

バルテス・ホールディングス株式会社 R&C部 副部長

ソフトウェア開発において、テストは品質保証の一部であり、製品が一定の品質基準を満たしていることを確認するために不可欠です。

しかし、年々、高機能化・多機能化するソフトウェアに対し、場当たり的なテストだけでは限界があります。そこで有効なものが「テストアーキテクチャ」です。

本稿ではテストアーキテクチャとは何かについて、目的や構成要素といった基本事項をまとめてお伝えします。テストアーキテクチャ設計時のポイントも紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

もくじ
  1. テストアーキテクチャとは
  2. テストアーキテクチャを設計する目的
    1. テスト全体像の可視化・共有
    2. 効率的かつ効果的なテスト設計の実現
  3. テストアーキテクチャの主な構成要素
    1. テスト観点
    2. テスト方針
    3. テストプロセス
    4. テスト環境
  4. テストアーキテクチャ設計におけるポイント
    1. プロジェクト方針や関連文書を踏まえる
    2. テスト全体を俯瞰できる構成を意識する
    3. テスト設計やテスト実装と混同しない
    4. 関係者と積極的に共有する
  5. まとめ

1. テストアーキテクチャとは

テストアーキテクチャとは、テスト活動を効率的かつ効果的に進めるための設計思想や構造を体系的にまとめたものです。

テストの観点や方針、プロセス、環境などを整理し、全体を俯瞰できる形で可視化します。

一般的なソフトウェアテストでは、テスト設計で具体的なテストケースを作成します。テストアーキテクチャは、このテストケース作成前に設計することが一般的です。テストアーキテクチャを踏まえてテストケースを作成することで、品質と効率を向上できます。

2. テストアーキテクチャを設計する目的

テストアーキテクチャの設計には、テスト活動において重要な目的があります。テストアーキテクチャを設計する主な目的は、次の2つです。

2-1. テスト全体像の可視化・共有

テストアーキテクチャを参照することで、テストの観点や方針などを含めた全体を俯瞰できます。そのため、テストの全体像が可視化され、どのようなテストを行うのかを客観的に理解しやすくなります。

品質保証チームはもちろん、開発チームや顧客も、テストアーキテクチャを参照すればテストの全体像を把握することができます。テストの全体像に対して関係者間で共通認識を持てるため、チームの枠を越えたコミュニケーションも円滑になるでしょう。

2-2. 効率的かつ効果的なテスト設計の実現

テストアーキテクチャを事前に設計することで、効率的かつ効果的なテスト設計が可能になります。全体像がつかめないまま闇雲にテストケースを作成しても、重複や抜け漏れが発生してしまいます。

しかし、テストアーキテクチャを明確にしておけば、何をどこまでテストすべきかの判断が明確になり、テストケース作成の判断がしやすくなります。その結果、抜け漏れや無駄のないテスト設計が実現できるでしょう。

なお、テストアーキテクチャの設計は「テスト分析」と「テスト設計」の中間プロセスとして位置付けられることがあります。テスト分析とテスト設計について詳しくは、次の記事を参考にしてください。

3. テストアーキテクチャの主な構成要素

テストアーキテクチャに盛り込む要素は、チームやプロジェクトによって異なります。ここでは、共通して押さえておきたい主な4つの構成要素について見ていきましょう。

3-1. テスト観点

テスト観点は、「何に着目して確認するか」という視点を指します。具体的には「どの機能や画面に対して、どのような状態や動作を確認するか」を整理することです。

たとえば、ショッピングサイトのテストアーキテクチャを設計する場合、次のようなテスト観点が挙げられます(あくまで一部です)。こうしたテスト観点はアプリやサービス単位で整理し、リスト化しておくことで、テストの全体像が把握しやすくなるでしょう。

大項目 小項目
カート機能
  • 商品を追加できることの確認
  • 商品情報を更新できることの確認
  • 商品を削除できることの確認
  • 複数商品の同時操作が正しく処理されることの確認
決済機能
  • 決済成功時に決済処理が正しく処理されることの確認
  • 決済失敗時に適切なエラー処理が行われることの確認
  • クーポン適用有無に応じた価格反映が正しく行われることの確認
検索機能
  • キーワード検索結果が正しく表示されることの確認
  • 絞り込み条件が正しく反映されることの確認
  • ソートの適用順序が仕様どおりであることの確認

3-2. テスト方針

テスト方針は、テスト全体の基本的な考え方やルールを整理したものです。具体的には、次のような方針を整理して記載します。

  • 優先順位(重点的にテストする機能や画面など)
  • 品質基準(合格と不合格の判断基準、目標とする品質レベルなど)
  • リスク管理の方針(どのリスクを重視してテストを組み立てるか)

明確なテスト方針を定めることで、品質保証チーム全体が共通の目標に向かって活動できるようになります。

3-3. テストプロセス

テストプロセスは、テスト活動における一連の作業工程の流れを可視化したものです。業務フロー図のように各作業工程のブロックを矢印でつなぎ、どのような順序で実施するのかを可視化します。具体的な作業工程には、次のようなものがあります。

  • テスト計画
  • テスト設計
  • テスト実装(環境構築を含む)
  • テスト実行

また、テストレベル(テストの種類)ごとの実施順序を作業工程として盛り込むこともあります。

  • 単体テスト
  • 結合テスト
  • システムテスト
  • 受け入れテスト

明確なテストプロセスを定義することで、テスト活動の透明性が高まり、効率的な進行と品質管理が可能になります。

3-4. テスト環境

テスト環境は、テスト対象のソフトウェアを実際に動かすために必要なハードウェアやソフトウェア、ネットワークなどの要素を組み合わせたものです。

たとえば、テスト対象のプログラムやサーバー、外部サービスなどの関係性を図で示したり、使用するテストツールを一覧表で整理したりします。テスト環境を明確にすることは、テスト設計やテスト実装の効率化・正確性向上につながります。

4. テストアーキテクチャ設計におけるポイント

テストアーキテクチャの設計を成功させるためのポイントは、いくつか存在します。テストアーキテクチャ設計における4つのポイントを押さえておきましょう。

4-1. プロジェクト方針や関連文書を踏まえる

テストアーキテクチャは、プロジェクトの背景や制約条件、テスト計画書といった関連文書を踏まえて設計することが大前提です。既存の情報を無視して独自に設計を進めてしまうと、全体の方針や目的と整合性が取れず、テストの方向性がぶれてしまう恐れがあります。プロジェクト方針や関連文書は事前にインプットし、それらを土台としてテストアーキテクチャを設計しましょう。

4-2. テスト全体を俯瞰できる構成を意識する

テストアーキテクチャの設計では、テスト全体を俯瞰できる構成を意識すると良いでしょう。前述のように、テストアーキテクチャにはテストの全体像を可視化・共有する目的があります。よって、他チームや顧客が見てもテストの全体像がつかめるレベルの構成が理想です。
テストの観点や方針、プロセス、環境といった要素を整理し、ひと目で全体像を把握できるように設計することで、関係者間の共通理解を促進できます。

4-3. テスト設計やテスト実装と混同しない

テストアーキテクチャは、あくまでテストの全体像を示すものです。テスト設計やテスト実装と混同しないように注意しましょう。たとえば、具体的なテストケースの検討はテスト設計、具体的なテストデータの作成はテスト実装で行う作業です。テストアーキテクチャの段階では、こうした個別の詳細な作業には踏み込まず、どのような観点・方針でテスト全体を組み立てるかに焦点を当てましょう。

4-4. 関係者と積極的に共有する

設計したテストアーキテクチャは、関係者と積極的に共有しましょう。テストアーキテクチャの共有は、関係者間の共通理解を促進する助けとなります。品質保証チーム内はもちろん、開発チームや顧客などとも積極的に共有し、意見交換しながら改善していくことで、円滑なテスト活動とプロジェクト成功へとつなげましょう。

まとめ

テストアーキテクチャとは、テスト活動を効率的かつ効果的に進めるための設計思想や構造を体系的にまとめたものです。

テストの観点や方針、プロセス、環境などを整理し、全体を俯瞰できる形で可視化します。

テストアーキテクチャを設計する際には、今回の内容をぜひ参考にしてみてください。

テスト技法・工程
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監修: 布施 昌弘

バルテス・ホールディングス株式会社 R&C部 副部長

様々なテスト対象(組込み系、Web 系、金融系)の現場でテスト設計、テスト管理などを行う。現在は、品質教育サービス「バルカレ」講師とコンテンツ制作、コンサルティングを担当する。JSTQB 認定 Advanced Level テストマネージャ。 著書は、『【この1冊でよくわかる】 ソフトウェアテストの教科書 [増補改訂 第2版]』、『いちばんやさしいソフトウェアテストの本』。