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ソフトウェアの不具合分析とは?目的から手法・進め方と効率的に行うポイント
品質向上 更新日 2025.07.22
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ソフトウェアの不具合分析とは?目的から手法・進め方と効率的に行うポイント

監修: 小島 友美

バルテス・ホールディングス株式会社 R&C部 上席研究員

ソフトウェア品質を脅かす不具合への対応は、避けられない課題です。しかし、発生した不具合を場当たり的に修正するだけでは、一時的な問題解決にしかなりません。不具合の再発防止や開発プロセスの改善につなげるためには「不具合分析」が不可欠です。

本稿では、ソフトウェア開発における不具合分析の基本をまとめてお伝えします。不具合分析の目的から主な手法、進め方、ポイントまで紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

もくじ
  1. ソフトウェア開発における不具合分析とは
  2. ソフトウェア開発における不具合分析の目的
    1. 再発防止による信頼性向上
    2. 品質や満足度の向上
    3. 開発プロセスの改善
  3. 不具合分析の主な手法
    1. ODC分析
    2. なぜなぜ分析
    3. パレート分析
  4. ソフトウェア開発における不具合分析の大まかな進め方
    1. 不具合情報の収集
    2. 不具合情報の可視化・整理
    3. 不具合情報の分析
    4. 原因の特定と解決策の検討
  5. ソフトウェア開発で不具合分析を効率的に行う方法
    1. 収集・可視化の仕組みを整備する
    2. フォーマットを統一して記録する
    3. メトリクスを有効活用する
    4. 関係者間で情報共有する
  6. まとめ

1. ソフトウェア開発における不具合分析とは

ソフトウェア開発における不具合分析とは、ソフトウェアの不具合情報を収集・可視化・分析する活動のことです。

日々のソフトウェア開発で発生した不具合のデータを活用することで、根本原因の特定や再発防止につなげます。

不具合分析は、単に発生した不具合の原因を分析するだけではありません。「どの工程の何が問題だったのか」「どうすれば再発を防げるのか」「別の不具合と関連性はないのか」など、さまざまな角度から分析することが大切です。

こうした分析を積み重ねることで、ソフトウェア開発全体の品質向上が期待できます。

2. ソフトウェア開発における不具合分析の目的

ソフトウェア開発における不具合分析の目的は、目先の問題をただ解決することではありません。不具合分析の目的は、主に次の3つです。

2-1. 再発防止による信頼性向上

1度発生した不具合が何度も繰り返されると、ソフトウェア全体への信頼は揺らぎます。

不具合分析の重要な目的は、こうした不具合の再発を防ぐための策を講じ、ソフトウェア全体の信頼性向上につなげることです。

そのために徹底的な原因究明を行い、発生の背景や関連する工程まで掘り下げて分析します。

2-2. 品質や満足度の向上

不具合分析によって新たな不具合が発生しにくくなれば、ユーザーが利用上のトラブルに悩まされることは減るでしょう。

結果として、ユーザーはより快適にソフトウェアを利用できるようになり、客観的な品質評価や満足度の向上につながります。ストレスのないソフトウェアを提供することで、ブランドイメージの向上も期待できます。

2-3. 開発プロセスの改善

不具合分析で得られた知見は、開発プロセスの改善にも有用です。

たとえば、不具合が発生しやすいポイントが判明すれば、重点的にレビューすべき観点が明確になります。

その結果、効果的なレビューが可能になり、レビュー品質の改善期待できます。不具合分析はソフトウェア品質そのものだけでなく、開発プロセスを見直す手がかりにもなります。

3. 不具合分析の主な手法

ソフトウェアの不具合分析を効果的・効率的に進めるうえでは、さまざまな手法の活用が欠かせません。

ここでは、現場でよく使われる代表的な不具合分析の手法を3つ紹介します。

3-1. ODC分析

「ODC(Orthogonal Defect Classification:直交欠陥分類)分析」は、不具合を「検出者」と「修正者」の2軸から分類する分析手法です。それぞれの不具合に対し、下記の両面から分類していきます。

観点 分類例
検出者:どのような検証で見つかったのか 単一機能の基本操作、単一機能の特定条件、複数機能の相互作用など
修正者:どのような修正を行ったのか 値の修正、処理順序の入れ替え、チェック処理の追加など

どの分類にどれだけの不具合が属するのかを分析することで、不具合の具体的な傾向が見えてきます。不具合の「検出工程」と「混入工程」の両面から分析できるため、広範な開発プロセスの課題を浮き彫りにすることができます。

3-2. なぜなぜ分析

なぜなぜ分析とは、問題に対して「なぜ?」と繰り返し原因を問い、根本原因を明らかにする分析手法です。

製造業発祥の手法ですが、昨今ではソフトウェア開発における不具合分析でも広く活用されています。

たとえば「顧客データベースにおけるデータ不整合」という不具合に対してなぜなぜ分析を活用する場合、次のような流れで分析していきます。

Q:なぜ、顧客データベースにデータ不整合が発生していたのか?
→複数のシステムが同時に同じ顧客データを更新しようとしたため。
Q:なぜ、複数のシステムが同じ顧客データを同時に更新しようとしたのか?
→データ更新時の排他制御(複数の処理が同時にデータを更新しないように制御する仕組み)が適切に実装されていなかったため。
Q:なぜ、排他制御が適切に実装されていなかったのか?
→排他制御を設計する段階で、その必要性が認識されていなかったため。
......

このような分析を繰り返していくことで、表面的な原因の奥にある真の原因を特定でき、再発防止策を立てやすくなります。なお、なぜなぜ分析の進め方やポイントについて詳しくは、次の記事を参考にしてください。

3-3. パレート分析

「パレート分析」は、棒グラフと折れ線グラフを組み合わせた「パレート図」を用いる分析手法です。

主に、原因や要素を発生頻度の多い順に並べ、どの要素が全体にどれほど影響しているかを可視化するために用いられます。

たとえば、あるソフトウェアの不具合原因を分類し、分類ごとの発生件数が下表のとおりだったとしましょう。

不具合原因分類 発生件数 累積件数 累積割合(%)
アルゴリズム 27 27 34.18
入出力処理 21 48 60.76
初期化・状態管理 15 63 79.75
例外・エラー処理 10 73 92.40
外部連携 4 77 97.47
画面・UI表示 2 79 100

このとき、「多い順の発生件数」を棒グラフ、「多い順の累積割合」を折れ線グラフで表現することで、次のようなパレート図が得られます。この図を踏まえて、どの不具合原因が全体の大部分を占めているのかを分析することができます。

image001.png

この場合は「アルゴリズム」「入出力処理」「初期化・状態管理」の上位3分類で、全体の約80%の不具合を占めていることが分かります。よって、これらを優先的に対策することで、効率的に品質向上を図れます。このように、パレート分析は不具合の優先順位付けに役立つ分析手法です。

4. ソフトウェア開発における不具合分析の大まかな進め方

ソフトウェア不具合分析は、正しい手順に沿って進めていくことが重要です。ここでは、一般的な不具合分析の基本的な進め方を、4つのステップに分けて紹介します。

4-1. 不具合情報の収集

不具合分析は、開発における不具合に関する情報を収集することから始まります。

開発中のテスト結果や運用時のシステムログ、ユーザーからのフィードバックなど、できる限り幅広くデータを集めましょう。収集した不具合情報が、不具合分析のベースとなります。

4-2. 不具合情報の可視化・整理

不具合情報はそのままだと活用しにくいため、可視化・整理しましょう。

たとえば、原因や発生タイミングなどで分類したり、円グラフやパレート図などで可視化したりします。不具合情報を可視化・整理することで、不具合の全体像や傾向を把握しやすくなります。

4-3. 不具合情報の分析

続いて、可視化・整理した不具合情報をもとに分析しましょう。

どの機能や工程で不具合が集中しているか、全体的な傾向はどうか、など多角的に分析します。ODC分析やパレート分析など、さまざまな分析手法を必要に応じて活用しましょう。

4-4. 原因の特定と解決策の検討

そして、分析結果を踏まえて不具合の原因を特定し、再発を防ぐための具体的な解決策を検討します。

根本原因を掘り下げるうえでは、前述のなぜなぜ分析などが効果的です。必要に応じて開発フローやチェック体制の改善にも踏み込みましょう。

固めた解決策は速やかに現場へ反映させ、継続的な品質向上を図ります。

5. ソフトウェア開発で不具合分析を効率的に行う方法

ここでは、ソフトウェア開発で不具合分析を効率的に行うための方法を4つ紹介します。

5-1. 収集・可視化の仕組みを整備する

不具合情報を収集・可視化する仕組みを整備し、不具合分析の基盤を固めましょう。

不具合情報を漏れなく収集し、分かりやすく可視化することで、分析の効果・効率が高まります。

たとえば、ログ取得ツールや不具合管理ツールの導入、ログ情報の自動取得プログラムの実装などが挙げられます。テスト実施時には不具合情報を収集できるよう、計画段階から準備しておきましょう。

5-2. フォーマットを統一して記録する

不具合の事象や発生条件、再現手順などは、あらかじめ決めたフォーマットで記録しましょう。

記録方法に揺れがあるとノイズとなり、分析の精度を下げる原因になります。不具合管理ツールへの入力ルール、不具合管理表の記載ルールなどを明確に定め、関係者へ事前に共有しておくことが大切です。

5-3. メトリクスを有効活用する

不具合分析には、メトリクス(品質を数値で把握するための尺度)を活用するのが効果的です。

たとえば「バグ密度(一定規模のコードに含まれるバグの数)」を用いれば、ソフトウェアの規模に左右されず、不具合の傾向を把握できます。

数値をもとに判断することで、より客観的な分析が可能となるでしょう。ソフトウェアのメトリクスについて詳しくは、次の記事を参考にしてください。

5-4. 関係者間で情報共有する

不具合分析の結果や取り組み状況は、関係者全員で共有することが不可欠です。

開発チームだけでなくテストチームや運用チームなど、漏れなく情報共有しましょう。適切な情報共有によって認識のずれを防ぐことで、不具合分析やその後の取り組みをスムーズに進められます。

まとめ

今回は、ソフトウェア開発における不具合分析について解説しました。

ソフトウェア開発における不具合分析とは、ソフトウェアの不具合情報を収集・可視化・分析する活動のことです。ただ目の前の不具合に対処するだけでなく、根本原因の特定や再発防止につなげます。

ODC分析、なぜなぜ分析、パレート分析といった手法を適切に活用し、ポイントを押さえて実施することが大切です。今回の内容を参考に、不具合分析に取り組んでみてください。

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監修: 小島 友美

バルテス・ホールディングス株式会社 R&C部 上席研究員

入力/出力系システム、ファイル管理システムのシステムエンジニア、品質管理の専門職(ソフトウェア品質管理、ソフトウェア品質保証)、リーン・シックスシグマ講師を経て、現職。担当業務は、品質教育サービス「バルカレ」講師とコンテンツ制作を担当する。