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ソフトウェア開発における品質計画とは?目的や進め方、実施のポイント
品質向上 更新日 2025.03.24
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ソフトウェア開発における品質計画とは?目的や進め方、実施のポイント

監修: 小島 友美

バルテス・ホールディングス株式会社 R&C部 上席研究員

ソフトウェア品質は、開発者にとっての「成果」であり、利用者にとっての「評価」にも直結する大切な要素です。顧客やユーザーが満足できるソフトウェア品質を担保するためには、事前にしっかりとした品質計画を策定する必要があります。

今回は、ソフトウェア開発における品質計画について、基本をまとめてお伝えします。品質計画の目的から進め方、実施のポイントまで紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

もくじ
  1. ソフトウェア開発における品質計画とは
  2. 品質計画の目的
    1. ゴールの可視化
    2. 現在地の把握
    3. 顧客満足度の向上
  3. 品質計画プロセスの大まかな進め方
    1. 品質方針の明確化
    2. 品質目標の設定
    3. 品質計画の詳細決定
    4. 品質計画にもとづく実行(実施~評価~改善)
  4. 品質目標を作る際のポイント
    1. 品質方針を念頭に置く
    2. 顧客やユーザーの要求を意識する
    3. 数値を用いて定量的に設定する
  5. 品質計画に沿った運用を行う際のポイント
    1. 継続的に運用していく
    2. 関係者としっかり情報共有する
  6. まとめ

1.ソフトウェア開発における品質計画とは

ソフトウェア開発における品質計画とは、プロジェクトが達成すべき品質目標を設定し、その達成に向けて計画的に進めていく取り組みです。

品質目標は、レビュー工数やバグ摘出数など、ソフトウェアの具体的な品質レベルを測定可能にした目標のことで、プロジェクトの初期段階で設定します。

品質計画では、品質目標を達成できるようにリソース配分や開発スケジュールを策定します。また、プロジェクトの進行中も品質目標の達成状況を定期的にモニタリングし、必要に応じて軌道修正します。

このように、品質計画はプロジェクトの初期段階で実施して終わりではなく、プロジェクト全体で継続して進めていくプロセスです。

2.品質計画の目的

ソフトウェア開発において品質計画を進める主な目的は、以下の3つです。

  • ゴールの可視化
  • 現在地の把握
  • 顧客満足度の向上

それぞれ解説していきます。

2-1 ゴールの可視化

品質計画に取り組む目的として「ソフトウェア開発のゴールを可視化する」ことがあります。

ソフトウェア開発では、仕様書や設計書に記載されない品質面での要件が多く、どの程度の品質を目指すべきかがあいまいになりがちです。そのため、品質目標を設定することで、目指すべき品質レベルが明確となり、開発のゴールが可視化されます。

その結果、方向性がぶれることなく計画的に開発を進めやすくなるでしょう。

2-2 現在地の把握

品質計画には、プロジェクトの進行中に「品質の現在地を把握する」という目的もあります。

現状の品質レベルと、設定した品質目標を比較することで、定量的に進捗状況を把握することができます。

その結果、目標達成に向けて順調に進んでいるのか、遅れているのかを客観的に判断できるでしょう。たとえ計画が遅れて目標達成が難しい状況でも、早期発見すれば対策を講じられるため、現状把握はとても重要です。

2-3 顧客満足度の向上

「顧客満足度の向上」も重要な目的です。ステークホルダーからの対外的な要求も十分に考慮することで、顧客やユーザーの期待に応えやすくなるからです。

品質計画の段階で求められている品質をはっきりさせておくことで、「どうすれば顧客が満足するか」を誤解せずに済みます。

その結果、顧客やユーザーにとっての高品質を達成しやすくなり、顧客満足度向上につながるでしょう。

3.品質計画プロセスの大まかな進め方

品質計画はプロジェクトの成否を左右する重要なプロセスであり、適切な手順で進めていかなければなりません。品質計画プロセスの大まかな進め方は、次の4ステップです。

  1. 品質方針の明確化
  2. 品質目標の設定
  3. 品質計画の詳細決定
  4. 品質計画にもとづく実行(実施~評価~改善)

3-1 品質方針の明確化

まずは、「品質方針」を明確化します。品質方針とは、組織全体としての品質に対する方向付け・基準のことです。

外部要求(ステークホルダーの期待など)と内部要求(組織やチームの価値観)を加味し、対外的に公表できる形で言語化します。たとえば「信頼性と使いやすさを兼ね備えたソフトウェアの提供」など、抽象度の高いものが通例です。

品質方針は一般的に経営陣クラスの上層部が主体となって策定するため、プロジェクトやチーム単位で策定することはあまりないでしょう。組織で定められている品質方針を正しく把握し、それを念頭に置いて以降のプロセスを進めることが大切です。

3-2 品質目標の設定

次に、具体的な品質目標を設定します。品質目標を作る際のポイントは後述しますが、品質方針を踏まえて設定する必要があります。

先ほどの品質方針を例にすれば、ソフトウェアの信頼性と使いやすさを担保するための品質目標が必要です。たとえば、「システムの月間稼働率99.9%以上」「使いやすさのユーザー評価4.0以上(5段階評価)」といった品質目標が考えられます。

3-3 品質計画の詳細決定

続いて、品質計画の詳細情報を決定します。ここでは、必要なリソースや具体的な実施項目、品質計画の責任者などを明確にします。

リソースについては、人員や予算、ツールなど漏れなく検討し、設定した品質目標を達成できるように配分しましょう。

また、品質目標の達成に向けて、実現性のあるスケジュールを立てることも大切です。

3-4 品質計画にもとづく実行(実施~評価~改善)

策定した品質計画にもとづき、開発プロセスを実行します。ソフトウェアの開発を進めつつ、並行して品質計画に沿った品質管理を行いましょう。

定期的に品質目標の達成状況を評価し、達成に向けて順調に進んでいるかモニタリングします。

目標達成を妨げる問題があれば対策を講じなければなりません。場合によっては、リソース配分やスケジュールの調整も必要です。

4.品質目標を作る際のポイント

品質計画を成功させるうえでは、品質目標の設定が非常に重要です。品質目標を作る際のポイント3つを押さえておきましょう。

4-1 品質方針を念頭に置く

品質目標の設定では、組織全体の品質方針を念頭に置き、一貫性を持たせることが大切です。

つまり、品質目標を達成することが、品質方針の実現につながるように設定する必要があります。たとえば、信頼性を最優先事項とする品質方針の場合、信頼性の向上につながる品質目標を考えることが求められます。

品質方針が示す方向性を、具体的な目標に落とし込むことを意識すると良いでしょう。

4-2 顧客やユーザーの要求を意識する

品質目標を設定する際には、内部の都合だけでなく、顧客やユーザーの要求を十分に考慮しましょう。

組織やチームの利益ばかりを優先した品質目標を掲げても、ステークホルダーが求める品質とかけ離れてしまいます。

そのため、顧客やユーザーの期待・課題を把握し、その達成につながる品質目標を設定することが大切です。

4-3 数値を用いて定量的に設定する

品質目標は抽象的な表現を避け、数値を用いて定量的に設定しましょう。

品質目標があいまいだと達成状況を正しく評価できず、現在地の把握が難しくなります。たとえば「システムの信頼性を向上させる」よりも、「システムの月間稼働率99.9%以上」のほうが具体的です。

具体的な数値を用いることで、達成度の判断が容易となります。また、品質目標をどのように把握・共有するのかも事前に明確化しておくと良いでしょう。

5.品質計画に沿った運用を行う際のポイント

品質目標の設定だけでなく、品質計画全体としてのポイントも押さえておきましょう。品質計画に沿った運用を行う際のポイントは、次の2つです。

5-1 継続的に運用していく

品質計画を策定した後も、継続的に運用していくことが大切です。

品質計画を立てて終わりでは計画どおりに進められず、品質目標を達成できません。そのため、プロジェクトが始動した後も品質目標の達成状況をモニタリングし、必要に応じて調整や計画を見直ししょう。

また、マネジメントレビューの実施時期や方法も事前に決めておくと、計画が形骸化せずに品質を継続的に改善していけるでしょう。

5-2 関係者としっかり情報共有する

品質計画に関する情報は、関係者としっかり共有しましょう。

ソフトウェアの品質向上にあたっては、関係者全員が品質計画を正しく理解し、共通の認識を持つことが大切です。

そのため、品質計画書や品質目標の達成状況などを適切に共有し、関係者全員が現状を把握できる仕組みを整えましょう。各々が異なる品質目標を担当する場合は、定期的な進捗報告の場を設けることで、迅速な状況把握や対策が可能となります。

まとめ

ソフトウェア開発における品質計画とは、プロジェクトが達成すべき品質目標を設定し、その達成に向けて計画的に進めていく取り組みです。

品質計画を策定することでゴールの可視化や現在地の把握が可能となり、最終的には顧客満足度の向上につながります。

品質計画は、プロジェクト全体にわたって継続的に実施していくべきプロセスです。品質目標設定などのポイントを押さえて、適切に進めていきましょう。

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監修: 小島 友美

バルテス・ホールディングス株式会社 R&C部 上席研究員

入力/出力系システム、ファイル管理システムのシステムエンジニア、品質管理の専門職(ソフトウェア品質管理、ソフトウェア品質保証)、リーン・シックスシグマ講師を経て、現職。担当業務は、品質教育サービス「バルカレ」講師とコンテンツ制作を担当する。