近年、ソフトウェア開発で注目されているのが「DevEx(Developer Experience)」です。
DevExはソフトウェア開発に携わるチームや組織を成功へと導くための鍵となり得ます。しかし、その意味や具体的な取り組みをご存じない方も多いのではないでしょうか。
今回は、開発チームが推進すべきDevExとは何か、基本をまとめて解説します。DevExを推進する際の大まかな流れやポイントも紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
- もくじ
1.DevExとは?
DevExとは、ソフトウェア開発者が業務を通して得る体験、あるいはその体験を向上させるための取り組みを指します。「Developer Experience(開発者体験)」の略語で、開発者が快適・効率的に作業できる環境を整え、チームや組織の成長を目指すものです。
たとえば適切なツールを導入することで、開発者の負担軽減や満足度向上を目指せます。こうした体験向上のための取り組み全般がDevExです。また、DevExを「開発者の体験そのもの」と捉える場合、この取り組みは「DevExを向上させる」と表現できます。
本記事では混乱を避けるため、DevExを「開発者体験の向上に向けた取り組み」に限定して解説します。
2.DevExにおける具体的な4つの取り組み
DevExを推進するにあたっては、適切な取り組みを把握することが大切です。DevExにおける具体的な取り組みとしては、次の4つが挙げられます。
- 業務環境の改善
- ツールやフレームワークの導入
- プロセスの見直し
- チーム文化の構築
2-1 業務環境の改善
開発者の業務環境にまつわる問題を解消し、改善を図ります。「業務環境」には、作業空間や働き方、制度面などさまざまな要素を含みます。取り組みの具体例は、次のとおりです。
- デスク配置の最適化(負担軽減、業務効率化)
- リモートワークの導入(働き方の多様化、負担軽減)
- 観葉植物の設置(快適な作業空間の構築)
こうした取り組みによって、開発者が快適に作業できる業務環境を実現できます。
2-2 ツールやフレームワークの導入
最適なツールやフレームワークを導入し、開発者の負担軽減や生産性向上を図ります。ツールの選定や導入後のサポート体制なども含みます。ツールやフレームワークの導入における取り組みの具体例は、次のとおりです。
- プロジェクト管理ツールの導入(業務効率化)
- コードレビュー用ツールの導入(負担軽減、品質向上)
- 最新Webフレームワークへの移行(業務効率化、最新技術への対応)
こうした取り組みは工数削減や納期短縮に寄与し、チーム全体の成長にもつながります。
2-3 プロセスの見直し
業務におけるプロセスを見直すことで、開発者の負担軽減や生産性向上を図ります。ソフトウェアやハードウェアではなく、やり方に焦点を当てた取り組みです。プロセスの見直しにおける取り組みの具体例は、次のとおりです。
- レビュー体制の強化(業務効率化、品質向上)
- 非効率化した承認フローの廃止(負担軽減、業務効率化)
- 適切な開発モデルの導入(業務効率化、人的ミス抑制)
こうした取り組みによって、プロセスの実施がスムーズになり、開発者の負担軽減につながります。
2-4 チーム文化の構築
チーム内で互いに協力し、尊重し合える文化を構築し、コミュニケーション活性化やチームワーク向上を図ります。チーム文化の構築における取り組みの具体例は、次のとおりです。
- 定期的な懇親会の開催(関係構築)
- メンター制度の導入(関係強化、スキル向上)
- チームビルディングの導入(チームワーク強化)
こうした取り組みによって、開発者がチームの一員として安心して働けるようになります。
3. 開発チームがDevExを推進するメリット
DevExの推進は、個々の開発者だけでなく、チーム全体にとっても大きなメリットをもたらします。開発チームがDevExを推進するメリットは、主に次の3つです。
- チーム全体の生産性向上
- ソフトウェアの品質向上
- 開発者のモチベーション向上
3-1 チーム全体の生産性向上
DevExを推進するメリットとして、「チーム全体の生産性向上」が期待できます。
業務環境やプロセスを改善すれば、開発者の業務における無駄が減り、効率的に作業を進められるでしょう。
その結果、チーム全体としてより多くの成果をスムーズにアウトプットすることが可能です。
また、快適な環境と良好なチームを構築することで、メンバー間の不和など生産性を低下させる要素を防げます。
3-2 ソフトウェアの品質向上
DevExを推進することで、「ソフトウェアの品質向上」も図れます。
適切なツールを導入し、プロセスを見直すことで、人的ミスの抑制や早期検出が可能です。
たとえば、コードレビュー用ツールを導入すれば、バグや潜在的なリスクを素早く発見できます。
これにより、ソフトウェアに問題が混入されることを防げ、品質の確保につながるでしょう。
3-3 開発者のモチベーション向上
最後に「開発者のモチベーション向上」も期待できるでしょう。
快適な業務環境が整うことで業務の負担が軽減され、開発者はストレスなく業務に集中することが可能です。
また、理想的なチーム文化が築かれることでチームに愛着が湧き、積極的に貢献しようとする意欲が生まれます。
結果として、チームの雰囲気改善やメンバーの定着率向上につながり、長期的に安定したチーム運営が可能となるでしょう。
4. DevExを推進する際の大まかな流れ
DevExを正しく推進できるよう、大まかな流れを押さえておきましょう。
DevExを推進する際には、次の4ステップで進めていくのが効果的です。
- 現状の把握・課題の抽出
- アクションプランの策定
- アクションプランの実行
- 成果の評価と継続的な改善
4-1 現状の把握・課題の抽出
まずは、現状の業務環境やプロセスを把握し、開発者が直面している課題を抽出しましょう。
開発者の業務体験が快適であるか、作業に支障がないかを評価します。また、アンケートやインタビューを通じて、意見を収集することも大切です。
課題を明確にし、どこに改善の余地があるのかを把握することで、効果的なアクションプランを策定できるようになります。
4-2 アクションプランの策定
次に、DevExにおける具体的なアクションプランを策定しましょう。
明確にした課題に対して効果的にアプローチできる施策を検討します。
ただし予算や日程などの都合上、全施策を実行に移せるとは限りません。
実現性や費用対効果も考慮し、実行の可否や優先順位を明確にしましょう。また、スケジュールや担当者、各施策の具体的な達成目標も明確にしておくことが大切です。
4-3 アクションプランの実行
続いて、策定したアクションプランを実行に移しましょう。
事前に決めたスケジュールに沿って、優先順位が高い施策から順番に実行していきます。実行段階では、各施策の着手状況をこまめに把握し、計画どおりに進んでいるかの確認が不可欠です。
問題があれば、施策の調整やリソースの再配分など、柔軟に対応することが求められます。
4-4 成果の評価と継続的な改善
アクションプランの実行後は、各施策の成果を測定し、当初の目標を達成できているか評価しましょう。
目標未達の施策については、その原因を分析し、改善点がないか検討します。
必要に応じて改善策を講じることで、継続的に業務環境やプロセスを向上させていきます。
5. DevEx推進に向けてポイントとなる3要素
DevEx推進に向けてポイントとなるのは、次の3要素です。
- フィードバックループ
- 認知負荷
- フロー状態
5-1 フィードバックループ
DevExの取り組みでは、開発者の行動に対するフィードバックが迅速に行われるループを構築することが重要です。
たとえば、プロセスとプロセスの間に適切なレビューをはさむことで、開発者は素早く問題に気づけるでしょう。
高速なフィードバックによって、開発者が間違った方向へ進むことが減り、生産性向上につながります。
5-2 認知負荷
DevExの取り組みでは、できる限り開発者の「認知負荷」を下げられる施策を考えるべきです。
つまり、あれもこれもと認識すべき情報が多いと、開発者が混乱・疲弊してミス増加やストレス増大を起こします。
複雑なプロセスや仕組みはできる限りシンプルにし、開発者が本質的な部分に集中できる環境を構築することが大切です。
5-3 フロー状態
DevExの取り組みでは、開発者が「フロー状態」に入り込めるように努めましょう。
フロー状態とは、例えるなら「ゾーンに入っている」状態をイメージしてください。開発者が継続的に集中できる環境を作ることで、生産性が向上します。
フロー状態を促進するためには、作業の中断を最小限に抑えるためのプロセス改善が不可欠です。
中断の少ない環境を整えることで、開発者は深く集中でき、高いパフォーマンスを発揮しやすくなります。
まとめ
DevExとは、ソフトウェア開発者が業務を通して得る体験、あるいはその体験を向上させるための取り組みを意味します。
DevExの具体的な取り組みは、業務環境の改善やツール・フレームワークの導入、プロセスの見直し、チーム文化の構築などさまざまです。
DevExの推進は、個々の開発者だけでなく、チーム全体にとっても大きなメリットをもたらします。今回の内容を参考に、DevExの取り組みを進めてみてはいかがでしょうか。