2026年版の情報セキュリティ10大脅威では、ランサム攻撃やサプライチェーン・委託先を狙った攻撃に加え、AIの利用をめぐるサイバーリスクが新たに選出されました。サイバー攻撃の手口は年々巧妙化しており、企業には最新動向を踏まえた継続的な対策が求められます。本記事では、IPA(情報処理推進機構)が公開する資料を基に、組織向けの最新ランキングと主な対策をわかりやすく解説します。
- もくじ
1. 情報セキュリティ10大脅威 2026完全ガイド|最新ランキングと対策
情報セキュリティの脅威は年々多様化・高度化しています。2026年版では、ランサム攻撃による被害やサプライチェーン・委託先を狙った攻撃が引き続き上位に入ったほか、AIの利用をめぐるサイバーリスクが初めて選出されました。AIの業務利用が広がる一方で、情報漏えいや権利侵害、AIを悪用した攻撃への備えも重要になっています。
企業が安全なビジネス運営を続けるためには、情報資産の棚卸し、アクセス権限の管理、バックアップ、多要素認証、従業員教育などを継続的に見直すことが欠かせません。本ガイドでは、2026年に注目すべき組織向けの情報セキュリティ10大脅威をランキング形式で紹介し、それぞれの概要と対策の考え方を整理します。
2. 情報セキュリティ10大脅威とは?
情報セキュリティ10大脅威とは、サイバー空間において企業や個人が直面する代表的な脅威をまとめたものです。IPAが前年に発生した社会的影響の大きいセキュリティ事故や攻撃の状況などから脅威候補を選出し、情報セキュリティ分野の研究者や企業の実務担当者などで構成される「10大脅威選考会」が審議・投票して決定します。
情報セキュリティ10大脅威は2006年から毎年発表されており、2016年以降は「個人」と「組織」の脅威を分けて発表する形式となっています。2026年版でも、個人向けは五十音順、組織向けは順位付きで整理されています。
本記事では、主に「情報セキュリティ10大脅威 2026」組織編を基に、企業が押さえておきたい脅威と対策を紹介します。なお、順位は危険度の高低をそのまま表すものではありません。自社の事業内容やシステム環境に照らし、該当する脅威を幅広く確認することが重要です。
3. 2026年ランキングと注目の変化
1位 ランサム攻撃による被害(11年連続11回目)
ランサム攻撃は、組織の重要なデータを暗号化したり、窃取した情報を公開すると脅したりして、身代金を要求するサイバー攻撃です。2026年版でも1位となり、11年連続で組織向け脅威に選出されています。業種や規模を問わず被害が発生する可能性があり、業務停止、復旧費用の増大、信用低下などの深刻な影響につながります。
対策としては、定期的なバックアップ、バックアップデータの隔離保管、OSやソフトウェアの更新、脆弱性管理、多要素認証の導入、メールや添付ファイルに関する従業員教育が重要です。侵入を完全に防ぐだけでなく、被害を受けた場合に迅速に復旧できる体制を整えておくことが求められます。
2位 サプライチェーンや委託先を狙った攻撃(8年連続8回目)
サプライチェーンや委託先を狙った攻撃は、取引先、業務委託先、ソフトウェア提供元など、自社と関係する外部組織の弱点を悪用して侵入する攻撃です。これにより、個人情報や機密データが盗まれたり、システムが破壊されたりするなど、深刻な被害が発生する可能性があります。
自社だけでなく、取引先や委託先を含めた管理体制を整えることが重要です。契約時のセキュリティ要件の明確化、委託先の管理状況の確認、アクセス権限の最小化、ソフトウェア更新の管理、インシデント発生時の連絡体制の整備など、サプライチェーン全体を意識した対策が求められます。
3位 AIの利用をめぐるサイバーリスク(初選出)
AIの利用をめぐるサイバーリスクは、2026年版で初めて選出された脅威です。AIは業務効率化や情報分析に役立つ一方で、AIの仕組みやリスクを十分に理解しないまま利用すると、機密情報の入力による情報漏えい、生成物の権利侵害、誤情報の拡散などにつながる可能性があります。
また、攻撃者がAIを利用してフィッシングメールを巧妙化したり、なりすましやディープフェイクを悪用したりするリスクも懸念されています。企業では、AIツールの利用範囲、入力してよい情報、生成物の確認ルール、利用状況の管理などを明確にし、従業員に周知することが重要です。
4位 システムの脆弱性を悪用した攻撃(6年連続9回目)
システムの脆弱性を悪用した攻撃は、ソフトウェアやネットワーク機器、クラウドサービスなどに存在する弱点を突いて、不正アクセスや情報漏えいを引き起こす攻撃です。セキュリティパッチが未適用のまま放置されているシステムは、攻撃者に狙われやすくなります。
対策としては、利用しているシステムや機器を把握し、脆弱性情報を継続的に確認することが基本です。重要な更新プログラムの速やかな適用、不要なサービスの停止、脆弱性診断の実施、異常検知の仕組みの導入などにより、攻撃を受ける可能性を低減できます。
5位 機密情報を狙った標的型攻撃(11年連続11回目)
標的型攻撃は、特定の企業や組織を狙い、機密情報の窃取や業務妨害を目的として行われる攻撃です。攻撃者は、実在する取引先や関係者を装ったメール、マルウェア、不正なWebサイトなどを使い、従業員をだまして内部ネットワークへの侵入を試みます。
従来型のウイルス対策だけでは防ぎきれない場合もあるため、メール訓練や従業員教育、不審なメールを報告しやすい体制づくりが重要です。あわせて、重要情報の暗号化、アクセス権限の厳格な管理、ログ監視、侵入後の被害拡大を防ぐネットワーク分離なども検討しましょう。
6位 地政学的リスクに起因するサイバー攻撃(情報戦を含む)(2年連続2回目)
地政学的リスクに起因するサイバー攻撃とは、国家間の対立や国際情勢の緊張を背景に発生する攻撃です。重要インフラ、政府機関、民間企業、報道機関などが標的となる可能性があり、情報の窃取、システム破壊、社会的混乱の誘発、偽情報の拡散などにつながります。
企業は、自社が直接の標的ではない場合でも、取引先や利用サービスを通じて影響を受ける可能性があります。脅威情報の収集、重要システムの監視、インシデント対応手順の整備、バックアップの確認、関係先との連絡体制の整備など、状況変化に応じて対応できる体制を作ることが大切です。
7位 内部不正による情報漏えい等(11年連続11回目)
内部不正による情報漏えい等は、従業員や関係者が権限を悪用したり、管理不足を突いたりして情報を持ち出す脅威です。意図的な持ち出しだけでなく、ルールの理解不足や操作ミスによる漏えいも、組織に大きな影響を与える場合があります。
対策としては、アクセス権限の適切な設定と定期的な見直し、重要情報の持ち出し制限、ログの取得・監視、退職者や異動者の権限削除、情報管理ルールの教育が必要です。内部不正を疑う仕組みだけでなく、従業員が迷わず相談・報告できる環境づくりも重要です。
8位 リモートワーク等の環境や仕組みを狙った攻撃(6年連続6回目)
リモートワーク等の環境や仕組みを狙った攻撃では、VPN機器、リモートデスクトップ、クラウドサービス、個人端末などが攻撃対象となります。IPAの資料では、VPN機器経由とリモートデスクトップ経由の感染経路の合計が毎年8割を超えており、2025年には87.0%に達したことが示されています。
対策としては、VPN機器やリモートアクセス環境の脆弱性管理、多要素認証の導入、不要な外部公開サービスの停止、端末の管理、業務用データの保存ルールの明確化が重要です。リモートワークの利便性を保ちながら、認証・端末・通信・利用ルールを総合的に見直しましょう。
9位 DDoS攻撃(分散型サービス妨害攻撃)(2年連続7回目)
DDoS攻撃(分散型サービス妨害攻撃)は、多数のコンピューターやIoT機器などから大量の通信を送り、Webサイトやサービスを利用できない状態にする攻撃です。サービス停止による売上機会の損失、顧客対応の混乱、信用低下などにつながる可能性があります。
対策としては、通信量の異常を早期に検知できる仕組み、DDoS対策サービスの利用、CDNやクラウド型防御サービスの導入、障害発生時の連絡体制の整備が有効です。重要なサービスについては、攻撃を受けた場合の復旧手順や顧客向け告知の準備も進めておくと安心です。
10位 ビジネスメール詐欺(9年連続9回目)
ビジネスメール詐欺(Business Email Compromise:BEC)は、経営者、取引先、上司、担当者などになりすまし、送金や情報提供を指示して金銭や機密情報をだまし取る犯罪です。請求書の振込先変更や緊急の送金依頼を装うなど、通常の業務連絡に見える形で行われるため注意が必要です。
対策としては、送金や振込先変更の依頼をメールだけで完結させないこと、電話や別経路で確認すること、メールアカウントに多要素認証を導入することが重要です。経理・営業・管理部門など、金銭や契約情報を扱う部署には、具体的な事例を用いた教育を行いましょう。
4. 2021年から2026年のランキング推移
2021年から2026年にかけて、組織向けの情報セキュリティ10大脅威では、ランサム攻撃による被害が継続して上位に選出されています。2026年版では「ランサム攻撃による被害」が11年連続11回目、「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が8年連続8回目となり、組織にとって継続的な対策が必要な脅威であることが分かります。
一方で、AIの利用をめぐるサイバーリスクのように、社会や業務環境の変化に合わせて新たに選出される脅威もあります。ランキング推移を見る際は、順位だけで判断するのではなく、事業環境、自社のシステム構成、委託先との関係、従業員の働き方などを踏まえて、優先的に対策すべきリスクを整理することが大切です。
5. 2026年の注目トレンド
5-1. AIサイバーリスクの台頭
2026年版でAIの利用をめぐるサイバーリスクが初選出されたことからも、AI活用とセキュリティ対策を一体で考える必要性が高まっていることが分かります。AIツールは便利な一方で、入力した情報の取り扱い、生成物の正確性や権利関係、なりすましや詐欺への悪用など、複数の観点からリスクを確認する必要があります。
企業では、AIツールの利用ルールを明文化し、利用可能なツール、入力禁止情報、生成物の確認方法、責任範囲を定めることが重要です。あわせて、AIを悪用したフィッシングや偽情報にも備え、従業員が不審な連絡を見分け、適切に報告できるよう教育を行いましょう。
5-2. 地政学的緊張の継続
地政学的緊張の継続は、企業の情報セキュリティにも影響を与えます。国家間の対立や国際情勢の変化を背景に、サイバー攻撃や情報戦が活発化する可能性があり、重要インフラだけでなく、一般企業やサプライチェーンにも影響が及ぶ場合があります。
このような状況では、IPAなど公的機関が発信する注意喚起や脅威情報を継続的に確認し、必要に応じてセキュリティ設定や監視体制を見直すことが重要です。特定地域との取引、海外拠点、海外クラウドサービスの利用がある企業は、リスク評価と事業継続計画もあわせて確認しましょう。
5-3. ランサム攻撃とサプライチェーン攻撃の複合化
前述のとおり、ランサム攻撃は組織のデータやシステムを人質に取り、身代金を要求する攻撃です。近年では、サプライチェーンや委託先を経由した侵入と組み合わさることで、被害が複数の組織に広がるリスクもあります。
サプライチェーン攻撃は、標的組織に直接攻撃するのではなく、取引先や関連企業、利用しているソフトウェアなどを経由して侵入する手法です。ランサム攻撃と組み合わさると、業務停止や情報漏えいが連鎖的に発生する可能性があります。自社内の対策に加え、委託先管理や外部サービスの利用状況の確認も進めましょう。
6. 企業・個人向け対策
6-1. バックアップ体制と多要素認証の強化
ランサム攻撃や不正アクセスに備えるうえで、バックアップ体制と多要素認証の強化は基本的な対策です。バックアップは定期的に取得するだけでなく、攻撃時に同時に暗号化されないよう、オフライン環境や別のクラウド環境など安全な場所に保管することが重要です。
多要素認証は、パスワードだけに依存しない認証方式です。ワンタイムパスワード、生体認証、認証アプリなどを組み合わせることで、パスワードが漏えいした場合でも不正ログインのリスクを下げられます。特に管理者アカウント、メール、クラウドサービス、VPNなどには優先的に導入しましょう。
6-2. ソフトウェア・機器の更新管理
ソフトウェアや機器の更新管理は、脆弱性を悪用した攻撃への重要な対策です。OS、アプリケーション、ネットワーク機器、VPN機器、サーバー、クラウドサービスなど、利用している資産を把握し、重要な更新情報を見逃さない体制を整えましょう。
更新作業では、適用前の影響確認やバックアップも必要です。緊急性の高い脆弱性については、通常の更新サイクルを待たずに対応する判断も求められます。自動更新機能の活用、更新状況の記録、古い機器やサポート終了製品の見直しもあわせて行うと効果的です。
6-3. AIツール利用ルールの策定
AI技術の進化により、企業は業務効率化とリスク対策の両立が求められています。AIツール利用ルールの策定にあたっては、IPAなど公的機関が公開する資料やガイドラインを参考にしながら、自社の業務に合ったルールを整備することが重要です。
具体的には、AIツールに入力してはいけない情報、生成物を利用する際の確認方法、著作権や個人情報への配慮、利用可能なツール、社外共有時の承認フローなどを明確にします。不要なデータへのアクセス制限や利用状況のモニタリングも行い、問題が発生した際に速やかに対応できる体制を整えましょう。
6-4. 従業員向けセキュリティ教育・訓練
従業員向けのセキュリティ教育・訓練は、組織全体の防御力を高めるために欠かせません。フィッシングメールの見分け方、パスワード管理、リモートワーク時の注意点、情報の持ち出しルール、AIツールの利用ルールなど、日常業務に直結する内容を継続的に学ぶことが重要です。
教育は一度実施して終わりではなく、定期的な訓練や振り返りを行うことで定着しやすくなります。インシデント発生時の報告先や初動対応も周知し、従業員が不審な状況に気づいたときに迷わず行動できる環境を整えましょう。
7. まとめと今後のポイント
2026年版の情報セキュリティ10大脅威では、ランサム攻撃やサプライチェーン・委託先を狙った攻撃といった継続的な脅威に加え、AIの利用をめぐるサイバーリスクが新たに注目されています。企業は、脅威の順位だけを見るのではなく、自社の業務、システム、委託先、働き方に照らして必要な対策を整理することが重要です。
情報セキュリティ対策は、一度導入して終わりではありません。最新情報の収集、システム更新、バックアップ、多要素認証、従業員教育、委託先管理、AI利用ルールの見直しを継続し、変化する脅威に対応できる体制を整えていきましょう。
参考資料
※本記事は、IPA(情報処理推進機構)が公開する各種資料・解説を基に作成しています。


