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「自分の仕事や役割にとらわれず、『面白さ』を軸に挑戦を続けよう」──『テスト自動化実践ガイド』執筆者、末村拓也氏に聞く自分の"広げ方"
テスト自動化 更新日 2025.05.12
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「自分の仕事や役割にとらわれず、『面白さ』を軸に挑戦を続けよう」──『テスト自動化実践ガイド』執筆者、末村拓也氏に聞く自分の"広げ方"

執筆: Qbook編集部

ライター

ソフトウェア業界では近年、品質保証(QA)や自動テストといった分野への注目が高まり続けています。

今回、書籍『テスト自動化実践ガイド』を執筆され、現在はAutify社で品質エバンジェリストとして活躍されている末村さんにお話を伺いました。

末村さんはウェブ開発者としてキャリアをスタートし、物流業界の業務経験を経てQAエンジニアへと転身。現在は自動テストの普及と品質向上を推進しています。

本インタビューでは、末村さんが自らのキャリアの中でどのように仕事の面白さを見出してきたのか、また、自身の活動やコミュニケーション哲学についても語っていただきました。

テスト自動化実践ガイド 継続的にWebアプリケーションを改善するための知識と技法

本書は、Webアプリケーションのテスト担当者や開発者が、自身のプロジェクトにスムーズに自動テストを導入し、自動テストに支えられた開発プロセスを実現できるようになる実践的なガイドブックです。主に下記に挙げるような内容を解説します。

今回インタビューを受けてくださった方

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末村 拓也 氏

Autify, Inc.

Test Automation Specialist Web開発者、フィールドエンジニア、 QAなどを経て、2019年よりAutifyに入社。業務プロセスの効率化や改善に強い興味があり、 QAエンジニア時代には率先して手動テスト項目䛾自動化を推進した。Autifyでの過去の自動化の経験を生かし、テクニカルサポートや技術記事の執筆、登壇など社外向けのアウトプットを主戦場としている。

もくじ
  1. 末村さんのキャリアと現在のお仕事についての話
  2. 執筆に3年かかった『テスト自動化ガイド』の話
  3. なぜ開発者は進捗確認でイラッとしてしまうのか──「ハンロンの剃刀」の話
  4. 給料より面白さを選んだらいつの間にか希少人材になっていた話
  5. 自分のポジションに固執しないほうがエンジニア人生はもっと楽しい
  6. QA関連イベントのお知らせ

1. 末村さんのキャリアと現在のお仕事についての話

―― 末村さんの自己紹介をお願いいたします。これまでのキャリアや現在のお仕事内容などについてお聞かせください。

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もともとは、ウェブ開発者としてキャリアをスタートし、その後の会社でQAエンジニアになったことが品質やテストに関心を持つきっかけです。

自動テストの経験を活かして、2019年にAutifyへ入社し、自動テストに関する知識を活かしつつ、テクニカルサポートやQAエンジニア、QAマネージャーとして色々な業務を担当してきました。

現在はマーケティングチームに所属しており、「品質エバンジェリスト」として品質や自動テストの重要性を広め、業界全体に自動テストを普及させることで誰も苦しまない環境を作りたいと考えて活動しています。

キャリアを遡ると、2010年に大学を卒業してから、5年ぐらい文具業界や物流業界などで倉庫管理をしていました。

事務仕事をすることもあれば、現場でフォークリフトを乗り回したりすることもあり、全くソフトウェア開発とは関係ない仕事をしていました。このとき、作業効率向上のためにExcelとVBAを勉強して、ちょっとしたタスクの自動化をしたりしていました。

物流は好きだったのですが、なにしろ現場仕事は体力勝負で長時間勤務が常態化していたので、子供が生まれるのを機に転職してデスクワークになりました。もともとはプロジェクトマネージャーとして入社していたのですが、協力会社から納品されたプログラムの品質が悪かったり、仕様と実装にギャップがあったりといった点を調査するためにコードを読んでいるうちに、徐々に開発やITインフラなどにも手を出すようになりました。

物流のドメイン知識とIT技術が身についたので、何かこの2つで面白いことをしたいなと思っていたら、ちょうど株式会社オープンロジという物流×ITのスタートアップでエンジニアを募集していました。この会社の一人目QAとして、リリースプロセスの整備やE2E自動テストの構築などをしたのが、現在のAutifyでの仕事につながっています。

―― Autifyへの転職はかなり挑戦的だったのではないでしょうか。

本当にそうでした。オープンロジ社には「骨を埋める覚悟」で入ったのですが、結果的には2年弱で退職することになってしまって。

「まさかこんなに短期間で辞めることになるとは」と自分でも驚きました。ただ、その反省を活かして、Autifyでは幸い5年以上勤めており、今度こそは骨を埋められそうだなと感じています。

私自身も飽きっぽい性格なので、2、3年ごとに環境を変えた方がむしろ落ち着くタイプなんです。ただAutifyにはすでに5年もいて、自分でも意外です(笑)

―― 今はマーケティングのエバンジェリストとして活動されていますが、これもかなり大きなキャリアチェンジですよね。

良くも悪くもソフトウェアエンジニアは憧れの職種なので、非エンジニアからエンジニアを目指す人は多くても、逆は珍しいかもしれませんね。

ただ私自身は、自分の働きがもっと多くの人に影響を与えられるような仕事がしたいと考えていました。エバンジェリストというと、どうしても外部発信の方ばかりをイメージしてしまいがちですが、市場の声を拾ってプロダクト作りやセールスピッチに活かすのもエバンジェリスト、あるいはマーケターの大切な仕事です。

自分の力を最大限に活かして会社や周囲の人々を支援できると思い、マーケティングへの異動を希望しました。

会社に長くいると、最初の頃は自分の評価や給与のことばかり気になりましたが、徐々に会社全体や周囲の人のために働けるようになってきました。

営業支援で私が入る時も、「私の成果ではなく、あなたの営業成績のために私を使ってください」と伝えています。こういう働き方ができるようになったのも、長く働いて自分の役割を見つめ直した結果だと思います。

2. 執筆に3年かかった『テスト自動化ガイド』の話

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――末村さんは『テスト自動化実践ガイド』を執筆されましたが、執筆に至ったきっかけはどのようなものでしたか?

2020年の7月に、JULY TECH FESTA という、主にインフラ周りのエンジニアが集まるイベントで登壇する機会がありました。

その時に『テスト自動化をやめ、自動テストを作ろう』というタイトルで発表をしました。

このタイトルの意図としては、単純に手動テストをそのまま自動化するだけだと、自動テスト本来の良さが十分に発揮されないから、きちんと自動テストとして設計しましょう、というものです。

具体的に話すと、手動テストをただ自動化してしまうと、手動テスト用に最適化された部分が残ってしまいます。加えて、手動で行うテストに含まれていた暗黙の期待値や前提条件が失われてしまい、自動化したのに品質や開発の生産性が向上しないということになりかねません。

つまり、「自動化をする」ということではなく「最初から自動テストを設計する」という観点が重要だという内容を伝えたかったんですね。

イベント後、このスライドを公開したところ、運良く著名な方々にリポストしていただいたこともあり、多くの人の目に触れました。これが翔泳社の編集の方の目に留まり、このテーマをさらに深掘りして書籍化しないかとお声掛けくださったのが、本を書くきっかけとなりました。

「テストを自動化するのをやめ、自動テストを作ろう」は、特にQAやテストに関わる方々に反響がありまして「手動のテストをそのまま自動化してしまっている」という課題感に共感されたようです。一方、もともとコードを書くエンジニアの方からはあまり良い反応はありませんでした。彼らは元々「自動テスト」を作っているので、テストに対する考え方が根本的に違っていたんです。

そのため、書籍「テスト自動化実践ガイド」を執筆する際には、両方の立場の方に理解してもらえるように内容を工夫しました。対象読者としては、テストや開発に関わって2〜3年経ち、自分のやり方をある程度掴んだものの、次のステップが見えない方々をイメージしています。

テスト自動化実践ガイド 継続的にWebアプリケーションを改善するための知識と技法

本書は、Webアプリケーションのテスト担当者や開発者が、自身のプロジェクトにスムーズに自動テストを導入し、自動テストに支えられた開発プロセスを実現できるようになる実践的なガイドブックです。主に下記に挙げるような内容を解説します。

――執筆の際に特に工夫された点や苦労された点はありますか?

書籍の構成ですね。よくあるテスト自動化の本は、自動化の方法や技術だけにフォーカスしがちですが、それでは不十分だと感じていました。

そこで、自動テストを導入する前後の話も盛り込み、全体を三部構成にしました。第1部では、自動テスト導入前の検討事項や、自動テストそのものの目的について座学的に解説しています。第2部で具体的な自動テストの設計や実装時の注意点を示し、第3部では実際にテストを運用した後に発生しがちな課題やその解決方法を扱っています。

苦労した点は、幅広い読者層に向けて書こうとした結果、なかなか執筆が進まなかったことですね。当初2021年末に脱稿予定でしたが、最終的に2024年7月の出版となり、約3年掛かりました。出版社の方は非常に優しく、無理に急かされることはなかったのですが、最後の段階で何度も書き直しをしました。特に脱稿の2ヶ月前に大幅な書き直しを提案したときは、さすがに編集の方から「冷静になりましょう」と言われましたね(笑)

執筆経験がない中で、初めての書籍が350ページを超える大作だったため、筆が進まないという悩みも多く経験しました。おかげで、筆が進まない時の気分転換法や、思考の整理方法などが自然と身についたのは良かったです。

休日を使って少しずつ書き進めていましたが、途中で体調を崩してしまい、半年ほど執筆を休む時期もありました。やはり出版社や編集者さんというサポートがあったからこそ完成できたと感じています。もしこれが技術同人誌として個人で書くものだったら、完成は難しかったかもしれません。

3. なぜ開発者は進捗確認でイラッとしてしまうのか──「ハンロンの剃刀」の話

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――コンスタントに更新されているnoteでの投稿について、技術的な内容以外の投稿が多いようですが、どんな動機で執筆されているのでしょうか?

それは「なぜ山に登るのか」みたいな質問に似ている気がしますね。そこにnoteがあるからというか(笑)。

実は書くこと自体がすごく好きなんですよ。書くのも話すのも好きで、会社や家族との会話の中ではなかなか出てこない個人的な考えや思いをnoteに書いています。

思いついたことをメモ書きでバーっと書き溜めているフォルダがありまして、でもただ溜めているだけだとなんだかつまらなくなってきて、ある時、試しにnoteに出してみたら結構評判が良かったんです。

それで「ああ、こういうトピックって意外と受けるんだな」と味を占めて、色々と書くようになりました。

――noteの中で気になったのが「ハンロンの剃刀」という言葉を何度も使われていたことです。これは何かきっかけがあったのでしょうか?

実はこれ、ちょっと恥ずかしい話なんですけど、私自身が人間関係で悩みを抱えることが多いタイプなんですね。

職場で仕事をしているとどうしても「合わない人」っているじゃないですか。たとえば言い方がキツいとか、チャットで誤字脱字が多くて気になるとか。昔はそういうことでよく腹を立ててしまっていました。

でも、ある時、逆に自分が他人から「末村さんの言い方はキツイ。目が笑ってない。何でも理詰めにしてくる」と言われてしまったことがありまして。自分としては相手の言っていることを正確に理解したい一心で細かく質問していただけなんですが、それが理詰めにされていると感じさせてしまったみたいなんです。

言い方がキツいと言う側と言われる側両方に回ったことで、コミュニケーションの問題っていうのは、言っている側だけの責任ではなく、受け取る側にも責任があるということに気づかされたんですね。その時、「あなたに敵意があるわけじゃない、むしろ理解したいと思っているんだ」ということを相手に伝えました。

――なるほど、それで「ハンロンの剃刀」が出てきたわけですね。

そうです。その後で「ハンロンの剃刀」という言葉を知って、「無能で説明できることに悪意を見出すな」という考え方が、自分が抱えていた問題の本質を言い当てていると感じまして、自分自身を戒めるために使っています。

例えば誰かが不快に感じるようなことを言ったとしても、それはその人が悪意を持っているわけではなく、単にその人のコミュニケーションスキルの問題だと思うようになったんです。そうすると、人間関係でストレスを感じることがだいぶ減りました。一時期、進捗確認で「進捗どう?」と聞かれただけでイラッとすることもあったんですが、それも今思えばおかしいですよね。確認自体は必要なことで、それに対して腹を立ててしまうのは受け取り手の問題だと思うんですよね。

自分が相手を信頼できないからこそイライラしてしまうわけで、一旦相手を信頼することを前提に置くと、仕事がずっとやりやすくなりました。特に弊社はグローバルカンパニーなので、海外の方とのコミュニケーションで文化や言語の違いにストレスを感じることも多かったんです。

でも、そういう時こそ「ハンロンの剃刀」とか「まず信頼する」という考え方を取り入れていると、気持ちが楽になるということを強く実感しています。

4. 給料より面白さを選んだらいつの間にか希少人材になっていた話

――これまでのキャリアの中で最も大切にされてきたことは何でしょうか?

一番大切にしてきたのは、その仕事が「面白そう」だと思えるかどうかですね。

正直に言うと、面白そうな仕事に飛びついた結果、給料が下がってしまったり、出世ルートから外れてしまったこともありました。例えば新卒で入った会社では、キャリアの選択肢として営業か倉庫かという2つの道がありました。営業職はルート営業が中心で面白くなさそうだと思ったので、「倉庫業務ならプロセス改善など工夫の余地があって面白いかもしれない」と考えて、倉庫を選びました。

実際に入ってみると、その会社は商社だったので、営業が花形で、倉庫などバックオフィスは評価が低く「営業ができない人が行くところ」というイメージだったんですね。新卒の時点でキャリアパスから外れてしまったような状態でした。

ただ、実際に倉庫の仕事を始めてみると、給料が安いとか、残業やサービス残業が多いとか、いろいろな課題はあったものの、限られた人材や時間でどうすれば効率的に仕事を回せるかを考えて実践することが本当に面白かったんです。

―― そうした面白さが次のキャリアにつながっていったんですね。

そうですね。ただ次に行った物流会社も、また別の意味で過酷な環境だったので「物流は面白いけど、このままだと倒れてしまう」と感じました。それで少し視点を変えて「サプライチェーンマネジメント」という言葉でデスクワークを探すようになったんです。そこで偶然プログラミングに触れる機会があり、実際に仕事でやってみたらそれがすごく面白くて、夢中になりました。

また、転職先で偶然QAエンジニアをやらないかという話をいただき、試しにやってみたらそれがまた面白くて。さらに自動テストをやるようになったらこれもまた面白くて、もっと極めたいと思うようになりました。

今はマーケティングチームでエバンジェリストをしていますが、最近はスクラムマスター研修も受けていて、それもすごく面白いんですよ。だから、スクラムマスターをもっと極めるような道に進んでいるかもしれません。

――キャリアの方向性や職種にこだわらないというのが、末村さんのキャリアの特徴ですね。

むしろ、会社の中で「手が回っていないけど重要な仕事」に強く興味を惹かれるタイプです。

普通ならそういう仕事は評価されにくいかもしれませんが、自分の場合はむしろそこにこそ情熱を燃やす傾向があります。何か新しいことを始めて最初は評価が下がることもありますが、その分野をある程度極めてから別の会社で「こういうことで困っていませんか?」と提案して転職するパターンを繰り返しています。

誰もが手をつけられないようなところに自ら入っていって価値を生み出す、そんな存在でありたいと思っています。

5. 自分のポジションに固執しないほうがエンジニア人生はもっと楽しい

――最後に、QA担当者や開発者の方に向けて一言メッセージをお願いします。

自分が今やっている仕事や役割にこだわりすぎないことが大切だと思っています。

例えば、開発エンジニアだからテストに関わってはいけないとか、QAエンジニアだからコードを見てはいけないという考え方がありますよね。でも、そういう枠組みや制約って、実は自分がそれ以外のことをやらないための理由づけになってしまうんです。

よく「選択と集中」という言葉も耳にしますが、それも突き詰めれば、「自分はこの領域を極めたいから他は学ばない」と、ある種の言い訳になりかねないんですよね。

もちろん一つのことを極めるのも素晴らしいことですが、他のことを知らないまま閉じこもってしまうのはもったいない気がしています。

自分が普段携わらない領域にも、ぜひ積極的に関わってみてほしいです。そうすることで、自分の世界がどんどん広がって、新しい楽しさや面白さを発見できると思いますよ。

――本日は貴重なお話をありがとうございました。

6. QA関連イベントのお知らせ

今回インタビューを行った末村さんは、ソフトウェアテストやQAエンジニアリングに関する知識・ノウハウの普及にも積極的に取り組んでおり、以下のようなイベント運営にも携わっています。

Tokyo Test Fest

QAエンジニアの国際的な交流を目的としたイベントで、日本語と英語を話す参加者の架け橋になる場です。2025年は11月開催を予定しています。

JaSST Online

国内最大級のソフトウェアテストシンポジウム「JaSST」のオンライン特別版。毎年多くのテストエンジニアが参加し、2025年も夏頃の開催を予定しています。

QAやテスト自動化に興味のある方は、ぜひチェックしてみてください。

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執筆: Qbook編集部

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バルテス株式会社 Qbook編集部。 ソフトウェアテストや品質向上に関する記事を執筆しています。