2019年現在、私たちがスマートフォンを中心に利用している通信規格は4Gと呼ばれるものです。この規格は近い将来、次の世代の5Gと呼ばれる次世代の規格に移行します。
5Gの出現は、携帯電話の通信規格が単にバージョンアップするだけではありません。
5Gが与える影響は情報技術分野だけにとどまらず、IoTを支える基盤技術になることから、世界各国で実現に向けた取り組みが始まっています。
では5Gは4Gなど従来の規格とはどこが違うのでしょうか。
今回は、5Gを実現する通信技術の概要とビジネスに与える影響についてご紹介します。
- もくじ
5Gとは何か
4Gや5Gの「G」は「世代」を表す「Generation」という言葉の略で、5Gは日本語に訳すと「第5世代移動通信システム」という言葉です。
ちなみに、1Gは音声通話が中心のアナログ通信でした。
2Gが初のデジタル通信規格で、メールやネットの閲覧が可能になり、3G、4Gでデータ容量および通信速度がアップしてきました。
当然のことながら、5Gに進化することによって通信容量はさらにアップします。
具体的な数値をあげると、4G・LTEの通信速度が50Mbpsから1Gbpsくらいであるのに対し、5Gでは10 Gbpsから20Gbpsにまで速度が向上すると見込まれています。
これにより、4G環境で映画を1本ダウンロードするのに30秒程度かかっていた場合、5Gでは3秒程度で完了すると言われています。
従来の通信回線と5Gとの違いは何か
4Gから5Gへの変化は単なる通信速度のアップだけではなく、インフラも含めた根本的な技術革新が起こります。
まず、5Gになると遅延がほぼなくなります。
4Gでは10ミリ秒ほどの遅延がありましたが、5Gでは1ミリ秒ほどになるとされています。
遅延が大幅に解消されることで、VR技術を応用した遠隔地での手術など、リアルタイムでの画像処理が要求されるシステムを実現できるようになるでしょう。
この他にも、野球場やサッカースタジアムをVR技術と融合させ、あたかもその場にいるような臨場感のあるバーチャルスタジオでのスポーツ観戦システムも実現可能です。
また、5Gはスマートフォンばかりではなく、IoT機器の通信もその重要なターゲットです。
5G時代になると、コネクテッドカー、スマートホーム、スマートシティのようにインターネットとつながる"モノ"がより大きくなり、つながる範囲も格段に広がります。
日本ではまだ実証段階ですが、5Gが実用化されれば、通信速度や処理速度などをほとんど感じさせない環境が実現できることから、通信会社や機器メーカーでは商用化へ向けたサービスや製品の開発を急ピッチで進めています。
5Gのビジネスモデル。B2XからB2B2Xへ
5G時代にはビジネスの形が変わる可能性が秘められています。
考えられるビジネスモデルについてご紹介いたします。
B2X
B2Xとは今までの4G環境で行われていたビジネスモデルと同等です。
Bは通信事業者を表しており、Xには消費者や企業のことを指しています。
すなわち、通信事業者がエンドユーザーに対して通信サービスを提供することにより対価を得るビジネスモデルのことです。
例えば、NTTドコモが携帯端末とともに通信回線を提供するようなことです。
MVNOなどの格安通信事業者が現れましたが、通信業者の種類が変わっただけでありB2Xの域を出てはいません。
とはいえ、5G時代においても、B2Xのビジネスモデル自体は残り続けるでしょう。
B2B2X
5G時代に注目されるのが、B2B2Xです。
通信業者が企業にサービスを提供するだけでなく、サービスを提供した企業のアプローチする顧客を含めたビジネスモデルのことです。
B2B2Xでは通信事業者は通信サービスのみでなく、企業に合わせた+αの情報を提供します。
例えば、タクシー間の通信を提供している場合には交通状況の情報や潜在顧客情報などを提供します。
B2B2Xでは中間に位置する企業は様々な業界の法人になり得ます。
そのため、通信サービスを使用したいという顧客以外の様々な問題解決にアプローチできます。
5Gを実現する通信技術の概要
5Gを実現する技術の要求条件は「高速・大容量化」「多接続」「低遅延・超高信頼性」とされています。
それらの技術を実現する通信技術を、具体的にご紹介します。
高周波数帯の活用
「高速・大容量化」を実現するための基盤技術がこの高周波帯の利用です。
5Gでは高速・大容量通信を実現するために、4Gで使われてきた3.6GHz以下の周波数帯だけではなく、さらに3.6~6GHz帯や、28GHz帯までも利用することを予定しています。
電波は周波数が高くなるほど特定の方向に強い信号を送ることが可能です。
5Gではこの特性を利用して電波を特定方向のユーザーに向けることにより、遠くまで飛びやすくできます。
さらにビームフォーミングと呼ばれる技術を用いて移動するユーザーを追尾することが可能です。
これによって高速で移動する対象に電波を送りながら素早く基地局を切り替えられるようになり、途切れることなく高速・大容量通信を行うことが可能です。
コネクテッドカーのように常にネットに接続しながら走行し、車両とリアルタイムで通信できるようになるのです。
超多素子アンテナ技術
また、高周波の指向性の高い電波をやり取りするために必要となるのが、MIMO(multiple-input and multiple-output、マイモ)と呼ばれる方式を採用している超多素子アンテナ技術です。
これは複数のアンテナ素子から同じ周波数で同時に信号を送信する技術で、使用する周波数帯域を増やさずに通信の高速化を実現します。
この技術はすでにLTE/LTE-Advanced技術で採用されていますが、さらに高速・大容量化する研究開発が5Gに向けて進められています。
ネットワークスライシング
しかし、どんなに電波での通信スピードが向上してもデータ通信自体に渋滞が起こっていては肝心の通信速度をアップさせることはできません。
特にIoTでは多接続を必要とし、現在の100倍の同時接続を目指しているため、データの遅延が発生したり信頼性が低くなったりするリスクが高まります。
その問題を解決するために導入されるのがネットワークスライシングと呼ばれる技術です。
現在は全てのネットワーク通信が一つの経路でやり取りされていますが、これを通信サービスごとに分割しデータの流れをスムーズにするというものです。
例えば、現在のネットワーク技術は一般道しかなく渋滞が起きやすい道路のようなもので、これに高速道路やバイパスを開通させて渋滞を回避するようにします。
これにより、5Gは「多接続」「低遅延・超高信頼性」を実現することが可能なのです。
エッジ・コンピューティング
ただし、「多接続」「低遅延・超高信頼性」を実現するには、ネットワークスライシングだけでは十分とは言えません。
5Gではネットワークを介してサーバー側でAIやビッグデータ処理など高負荷な演算処理を行う必要があります。
そのため従来のクラウド技術では、データを送ってから演算処理を行っている間に通信の遅延が発生してしまいます。
そのような場面で有効なのが、エッジ・コンピューティング技術です。
これは端末の近くにサーバーを分散配置するネットワーク技法の一つで、ユーザーや端末の近くでデータ処理することで、上位システムへの負荷や通信遅延を解消します。
これによりコネクテッドカーなどの移動する機器でも、途切れることなく通信と演算処理を行うことが可能です。
5Gの実現でビジネスはどう変わるのか
以上のように5Gが導入されることによってインターネット関連技術は飛躍的に進化し、それによりビジネス環境も大きく変化します。
総務省は「IoTサービス創出支援事業」と題して地方公共団体、民間企業、大学、民間非営利団体(NPO)等のIoT導入を積極的に推進しています。
例えば、ある医科大学が「ウエアラブル血圧測定器と口腔ケアIoTによる脳卒中AI予防対策サービス事業」に乗り出しているように、従来の技術だけでは不可能だった、新しい領域におけるビジネス創出への取り組みが行われています。
これらの技術のほとんどは、まだ実証実験が行われている段階にすぎません。
そのため今後は商用利用の段階で大規模なソフトウェア開発需要の発生が予想されますが、変化は量の面だけではなく質の面でも起こります。
5Gの実用化を見越した試みは従来のシステム開発と違い、AIやエッジ・コンピューティングなどの新しい技術も複合的に絡めた総合的な技術開発が必要とされます。
新しい技術を取り入れたソフトウェア開発は試行錯誤を繰り返すことが予想され、開発手法やテスト手法も従来とは異なる観点が必要になるかもしれません。
また、処理するデータ量や関連機器が飛躍的に増えることから、情報セキュリティの強化など従来以上に考慮すべき課題が増えることも想定されます。
5Gビジネスの注意点
ビジネスに活用することで様々な業界で発展が予想される5G通信ですが、便利になる反面、注意しなくてはならないことがあります。
デメリットも理解しての活用をしましょう。
セキュリティ面でのリスクがある
5G通信は4Gのセキュリティポリシーやプロトコルを継承しています。
4G通信では電話の着信傍受や位置情報を取得されるリスクがありましたが、5Gでも同じリスクがあります。
また、5G回線を利用するために様々なIoT機器がネットワークに繋がります。
そのため、ルーターやPCだけでなく、WEBカメラやプリンター、レコーダーなどもサイバー攻撃の対象となることが考えられ、リスクの拡大も懸念されます。
コストがかかる
総務省はローカル5Gの実証を予定しています。
地域の課題解決に令和2年度で約37億4000万円の予算を確保しております。
この予算では20件ほどの対応予定で、1件あたり約1.9億円かかる計算です。
ローカル5Gは基地局を建てて広域をカバーするようなものではなく、ビルなど特定の場所で使用することを想定しています。
現状では総務省での費用と同等か数千万円ほど安い導入になると考えられますが、今後の5G基地局の設置に伴いコストはさらに安くなります。
参考:https://www.soumu.go.jp/main_content/000712738.pdf対応していないところがある
5G通信を利用するためには対応した端末が必要です。
端末がなければそもそもビジネスに活用できません。
また、2019年頃から5G対応スマートフォンが発売されましたが、「普及」の段階になるまではまだ時間がかかります。
そのため、現在は5G対応していない環境であることがほとんどです。
KDDI株式会社によれば、国は2022年末までに5Gの人口カバー率を90%以上にすると発表していますが、ビジネス活用できる環境になるまではさらに数年かかることが予想されます。
参考:https://www.au.com/information/topic/mobile/2021-001/#:~:text=2022%E5%B9%B43%E6%9C%88%E3%81%AB,%E4%BA%88%E5%AE%9A%E3%81%A7%E3%81%99%EF%BC%88%E6%B3%A81%EF%BC%89%E3%80%82情報量が増える
5Gの特徴である「大容量・高速通信」によりネットワーク上に流れる情報量が増えます。
2015年の通信量が6ZBで2020年の通信量は44ZBと言われています(ZB=ゼタバイト、1ZBは1TBの10億倍)。
今後も情報量が増えると予想されるため、悪用される対象となる情報も増えるでしょう。
そのため、情報漏洩の危機に晒されやすいのです。
企業の中はもちろんですが、エンドユーザーで使用しているデバイスから情報が漏洩してしまう可能性も増えます。
5Gビジネスの活用例
これまでの5Gの特徴や活かし方、注意点を踏まえ、実現を目指していることは具体的にどのようなことがあるか、
医療
4Gでもオンラインでの問診はビデオ通話機能を使用すれば可能ですが、5Gではさらに高度な医療行為が可能です。
大容量通信により高解像度の画像データのやり取りができるため、遠隔地での手術が可能です。
また、超低遅延通信により救急車の移動中にも遠隔で医師が処置することができるようになります。
さらに、NTTドコモは問診時に医師と患者の通信に活用するのではなく、問診する医師が専門の医師とやりとりをして意見を交換できるソリューションを開発しています。
参考:https://www.nttdocomo.co.jp/biz/special/column/00160/01.html
製造業
製造業で活かせる5Gの特徴としては広域接続と多接続、通信の安定性です。
1km²の広域に最大100万台同時に接続できるため、工場内の機器を同じネットワークに接続しやすいのです。
4Gでも可能ではありますが、無線は複数の中継地点を要しますし、有線では工場内での接続が煩雑です。
また、有線接続の99.999%の送信接続率を満たすことが5Gの要件となっているため、接続した機器は安定して通信できます。
サービス業
メンテナンスサービスを提供している事業では、スマートグラスを活用することで保守点検作業の状態を熟練者と共有することでリアルタイムにアドバイスすることができます。
また、不動産の修繕時には高解像写真の通信により、ドローンから得られる家の破損状況から補修が必要な箇所を把握できます。
建設業
建設機械の遠隔操作が可能になります。
4Gでも一部運用されていますが、遅延があるため広く使われてはいません。
遅延のほとんどない5Gであれば建設機械の繊細な動きを再現でき、かつ、現場映像を安全な場所から作業できます。
そのため、建設業の安全性向上に役立ちます。また、ドローンでの計測データをもとに設計図などを作成できます。
農業
建設機械と同様に農業でもトラクターなどの農業機械の自動化・遠隔操作を実現できます。
これにより、環境起因で農業従事者が熱中症などの病気になるリスクが軽減されます。
また、一般財団法人日本自動車研究所の成果報告書によれば、内蔵した4Kカメラにより環境データや走行データを収集する自動走行ロボットの開発計画があると書かれています。
そのデータを5Gを活用して分析すれば、効率の良い稼働や市場動向に合わせた農作物の出荷などに活かせます。
さらに、ドローンや無人農業機械を5Gに全て繋ぐことで、少ない労力で十分に結果の出せる生産性の高い経営を可能にします。
参考:https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H30FY/000351.pdf
おわりに
通信技術の向上が社会に与える変化は大きく特に5Gの場合は社会のインフラを根幹から変えてしまうようなインパクトがあります。
5Gの登場によって、今まで存在しなかった新しい仕組みやサービスが考案され、それに伴いソフトウェア開発の需要も増大すると予想されます。
同時に、医療系のシステムやコネクテッドカーといった、高い安全性が求められるシステムも増え、品質管理の重要性sはさらに高まると言えるでしょう。