書評『「品質力」の磨き方』

書評『「品質力」の磨き方』

長谷部 光雄(著) PHP研究所

カテゴリ:ビジネス

概要

これまで世界一の品質を誇っていた日本で、製品トラブルやリコールが相次いでいる。その原因は、技術力の低下ではなく、従来のテスト中心のモノづくりを推し進めてきた結果浮上してきた「見えない不良」の存在にあると著者は説く。従来のモノづくりの限界を解決するために必要な「品質工学」の発想を、誰にでもわかりやすく解説した入門書。

本書の使い方

第1~2章 近年のリコール増加の原因を考察し、従来のモノづくりの限界を知る
第3~5章 従来のモノづくりにおいて技術者が陥りがちな「科学的」な考え方の限界と、それから抜け出すための「工学的」な考え方を学ぶことができる。
第6章 今後の日本の技術の方向性が示される。

第1章からの順次の通読を勧める。

何を学べるか

第1章 品質疑惑がなぜ次々に起こるのか―見えない不良とは何か
出荷時の製品検査は合格でありながら、市場において不具合が発生する、という「見えない不良」が、最近の日本で目立ち始めた。その結果起こる「リコール」を著者は社会の要求と技術レベルの差を修正するための対話の開始ととらえる。「品質とは何か」の考察から始まり、設計・開発に携わる技術者が「見えない不良」に責任を持つべきであると説く。

第2章 信頼性にも「新旧交代」が当てはまる―従来型モノづくりの限界
これまで日本のモノづくりは、生産工程で不具合を出さないように品質管理を重ね、「見える不良」を取り除き、品質を向上させてきた。だがその結果として「見えない不良」が浮上した、と著者は説く。そのためには「科学的思考」に代わり、「技術的思考」が必要であり、設計レベルで信頼性・頑健性を確保することの重要性を、自動小銃の設計者カラシニコフを例に引いて論じる。

第3章 「まさか!」をなくす技術はあるか―「いじめれば分かる」方法論
著者の体験を振り返りながら、日本における従来型のモノづくりを振り返る。これまでの製品の開発過程では信頼性を確保するために、試作を作り、実験をし、不具合を見つけて対策を行うことを繰り返してきた。だが、このやり方はコストがかかるうえに、「頭脳を使う技術者」ではなく「身体を使う技術者」を育ててしまう、と著者は説く。 そこからの脱却のため、「分ければ分かる」という従来の科学的発想ではない、「いじめれば分かる」技術的な発想を紹介する。

第4章 高品質と低コストの新しい基準―「試せばわかる」方法論
製品が複雑化し、高度化すると、組み立てた後の工程、すなわち調整や検査(テスト)にコストがかかるようになり、生産現場の改善だけでは限界が出てくる。かつてのベルトコンベア生産現場の状況や、現在のソフトウェア開発を例に引きつつ、生産現場でテストに時間を費やすのではなく、もっと上流の設計に時間をかけなければ、これ以上の品質の向上は望めない、と著者は説く。そのためには少ないテストでバグや不具合が「わかる」必要がある。その方法として、直交表を使用して、テストの組合せパターンを減らす方法を紹介する。

第5章 「常識的な自分」から段階的に抜け出す―何が効率化を阻害しているのか
効率化を妨げている原因は、これまでの常識的な考え方にある。「データが多いほど、傾向がよくわかる」という「大数の法則」は、実は「どんぶり勘定」に過ぎず、積極的に必要な情報を少ないデータからくみ上げる発想や工夫が必要であることを解説する。また「デジタル技術」が普及した結果、誰が作っても一定の品質の確保が可能になったため、低コスト製品に対抗することが難しくなった現状を挙げ、日本が生き残るためには、独自技術が必要であることを説く。

第6章 日本で売れ世界で成功する製品の条件―「本当のニーズ」に応えるために
「アポロ計画」におけるアメリカの技術革新と、排ガス規制法である「マスキー法」に対する日本の自動車産業の技術革新という、対照的な2つのタイプの技術革新を比較して考察する。著者は後者の日本型の技術革新に可能性を見る。そのためには、人間の要求を具現化する技術的な発想が大切であり、技術者は社会が何を必要としているのかを感じ取り、それを実現する「品質を磨く力」がリテラシーとして必要であると説く。