書評「具体と抽象」

書評「具体と抽象」

細谷功, dZERO(インプレス)

カテゴリ:ビジネス

概要

ソフトウェア開発は、多くのメンバーが関わって行っていくものです。ソフトウェアの品質を向上するためには、各メンバーの目指すべき品質目標の認識が一致していないと、船頭多くして船山登ってしまいます。
認識を一致させるために、もしくは一致した認識を実現するために必要となってくるのが「具体化と抽象化」の行き来です。
本書では、一般的には良くないとされることも多い「抽象」に対して、よくある具体例を漫画形式で紹介しながら、その大切さを説いています。
※本書はビジネス書なのでソフトウェア開発に関しては述べていません。ソフトウェア開発での使い方に関しては、以下の「本書の使い方」の内容をご確認下さい。

本書の使い方

ソフトウェア開発においては、頭の中にある要求や仕様をドキュメントに落としていきます。その際に、最初から具体的で細かすぎる記載をしてしまうと、システムの全体像が見えづらくなっていまい、関係者の理解が困難になってしまいます。
会議などでシステムやプロジェクトに関する説明をする場合も「かいつまんで全体を説明する」「必要な部分を掘り下げて説明する」の行き来を上手く行わないと、上手く理解してもらえません。
具体化と抽象化は、出来る人は当たり前にやっていることですが、具体的に伝えることは得意だが抽象化は苦手」という方も多くいます。
もし、上記のようなドキュメント作成やコミュニケーションで困ることがあれば、ぜひ本書をご一読下さい。そうすれば、改善のきっかけになるかもしれません。

何を学べるか

序章 抽象化なくして生きられない
具体的、抽象的とは何か?具体的は善、抽象的は悪とされがちだがそうではない。それぞれの特徴を捉え、2つを行き来することの重要性を紹介する。

第1章 数と言葉: 人間の頭はどこがすごいのか
抽象化の内容を数と言葉を使って説明する。具体と抽象はN:1の関係であり、抽象化を行うことで、人間同士のコミュニケーションを行ったり、物事の理解がスムーズになることを述べる。

第2章 デフォルメ: すぐれた物まねや似顔絵とは
抽象化とは「枝葉を切り捨てて幹を残すこと」であり、何が幹になるのか枝葉になるのかは目的に変わるということを述べる。

第3章 精神世界と物理世界: 言葉には二つずつ意味がある
人間の言葉は、精神世界での意味と物理世界での意味があり、一つの言葉に複数の意味を持たせることで表現を広げることが出来ることを述べる。

第4章 法則とパターン認識: 一を聞いて十を知る
物事を抽象化することによって、別のものに対して適用できるものとなり、様々なことに利用できることを述べる。

第5章 関係性と構造: 図解の目的は何か
「物事の関係」を抽象化することもでき、それを表現する方法として「シンプルな図解」があることを述べる。

第6章 往復運動: たとえ話の成否は何で決まるか
良い例え話の条件は「具体→抽象→具体の翻訳」であり、これには「共通点」と「相違点」を的確に捉える必要があることを述べる。

第7章 相対的: 「おにぎり」は具体か抽象か
何が具体的か何が抽象的かは、あくまで相対的に位置づけであり、階層構造で表されることを述べる。

第8章 本質: 議論がかみ合わないのはなぜか
一見して矛盾するメッセージが起きる理由は、具体的なメッセージのみに着目して、その本質を捉えられていないことにあることを述べる。

第9章 自由度: 「原作」を読むか「映画」で見るか
抽象度の高さは自由度の高さであるが、どの自由度を好むのかは人によって異なるため、仕事を依頼する場合の自由度共有の重要さを述べる。

第10章 価値観: 「上流」と「下流」は世界が違う
仕事は「抽象的→具体的」の流れで行っていくが、この上流と下流は価値観が異なるため、やり方を変える必要があることを述べる。

第11章 量と質: 「分厚い資料」か「一枚の絵」か
具体的は量を重視し、抽象化は質を重視する。抽象化はシンプルにすることが重要であることを述べる。

第12章 二者択一と二項対立: そういうことを言ってるんじゃない?
どちらを選ぶのかという「二者択一」と相反する2つの概念を比較する「二項対立」の違いを述べる。

第13章 ベクトル: 哲学、理念、コンセプトの役割とは
個別のアクションをより効果的に行うためには、抽象的なレベルでの方向性(哲学、理念、コンセプト)が必要であることを述べる。

第14章 アナロジー: 「パクリ」と「アイデア」の違い
創造的な発想には、具体的な部分の真似「パクリ」ではなく、抽象的な概念での真似「アイデア」が必要であることを述べる。

第15章 階層: かいつまんで話せるのはなぜか
短時間でかいつまんで話せるかどうかは、物事を抽象的に捉えられるかどうかが重要であることを述べる。

第16章 バイアス: 「本末転倒」が起こるメカニズム
抽象的な理論やルールの一人歩きと、具体的なルールの一人歩きを紹介し、本末転倒が起きるメカニズムを説明する。

第17章 理想と現実: 実行に必要なのは何か
抽象的な目標と具体的な目標の違いを挙げ、この2つの行き来が目標を達成するために必要であることを述べる。

第18章 マジックミラー: 「下」からは「上」は見えない
具体的な視点で見ている人は、抽象的な視点で見ている人の言うことを理解できないことがある。抽象的な視点を考えず、相手を批判することの危険性を述べる。

第19章 一方通行: 一度手にしたら放せない
専門用語など、一旦抽象化した表現を覚えるとそれを使わずに過ごすのは難しくなるが、相手に合わせた抽象度で伝えることが重要であることを述べる。

第20章 共通化と相違: 抽象化を妨げるものは何か
「自分の置かれた状況は特別である」と思いこむことが抽象化を妨げる。抽象化を促すには様々な経験をして、類似点を探すのが重要であることを述べる。

終章 抽象化だけでは生きにくい
「抽象化」を覚えると、具体的に物事を見れなくなったり、具体的に物事を考える人達に苛立ちを覚えたりしがちである。「具体化」と「抽象化」をセットで考えることの大切さを述べる。