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書評「ソフトウェアインスペクション」

Tom Gilb (著), Dorothy Graham (著) , 伊土 誠一 (翻訳), 富野 寿 (翻訳) , 構造計画研究所

マネジメント

概要

ソフトウェアの品質を向上する上で、高い効果が認められている手法であるソフトウェア・インスペクション。その考え方と、実践におけるノウハウ、そして組織への導入までを一冊にまとめた、インスペクションについての決定版。数多くの導入事例から、多くのヒントが学べる。また、豊富なテンプレート類も掲載する。

本書の使い方

第1章、第2章:インスペクションの歴史的経緯と、導入における便益・コストを学ぶことができる。
第3章:インスペクションの概観を知ることができる。
第4章~第7章:インスペクションを構成するアクティビティの詳細について知ることができる。
第8章:インスペクションリーダの実務を詳しく知ることができる。
第9章:インスペクションの参加者の立場からインスペクションを理解することができる
第10章~第11章:インスペクションを組織に導入する際のポイントを学ぶことができる。
第12章~17章:インスペクションの具体的な導入事例を学ぶことができる。

インスペクションの内容を学びたければ、まず第3章~第7章を通読することを勧める。
その上でインスペクションを推進するリーダ業務の詳細については第8章を、
インスペクションの組織への導入方法を学びたければ第10章~第11章、第12章~第17章を読むことを勧める。

何を学べるか

第1章 インスペクションの歴史的背景および他の手法との比較
インスペクション技術は、IBMでM.T.Faganによって1974年に開発された。本章ではインスペクションの歴史的な経緯を概観した後、インスペクションとその他のレビュー技法との比較、テストとの比較を行い、インスペクションの特徴を明らかにする。

第2章 インスペクションの便益とコスト
本章では、インスペクションの導入によって、組織が達成している便益と、インスペクションにかかるコストについて、いくつかの組織を例にとって解説する。

第3章 ソフトウェアインスペクションの概観
本章では、ソフトウェアインスペクションの全体像を概観する。インスペクションプロセスは成果物インスペクションとプロセス改善の2つの部分からなる。それぞれの部分を簡単に解説し、その全体像を提示する。

第4章 インスペクションプロセス (パート1) -始動と文書
第4章~第7章では、インスペクションを構成するアクティビティを、4つのパートに分割して、詳しく解説する。うち、第4章~第6章では、欠陥を検出・除去するために用いられるインスペクションについて解説する。 本章では、インスペクションの初期段階を説明する。インスペクションの要請から始まり、プロセス計画の策定、必要な文書の収集、チェックリストの作成、開始基準の設定、キックオフミーティングの開催までを説明する。

第5章 インスペクションプロセス (パート2) -チェック
本章では、インスペクションプロセスのチェック部分について解説する。チェックは「個人チェック(準備)」と「グループチェック」の2つの段階で行われる。個人チェックはインスペクションプロセスの鍵である。それが無ければ、続くロギンングミーティングでなされるグループチェックの効率は低下する。各アクティビティーをそれぞれ説明する。

第6章 インスペクションプロセス (パート3) -完了
本章では、成果物に適用するインスペクションプロセスの最終段階を解説する。 特定された欠陥を分類し、変更要求を作成し、修正の申し入れを行う編集作業、修正作業のフォローアップ、そして終了基準の確認まで、各アクティビティーを順を追って説明する。

第7章 インスペクションプロセス (パート3) -プロセス改善
前章までは、欠陥検出および除去のために、成果物に適用するインスペクションについて論じた。一方、インスペクションには欠陥予防の手段という側面がある。それは成果物ベースのインスペクションのみよりもはるかに有効である。本章ではプロセス改善の考え方を解説する。根本原因の分析のためのプロセスブレーンストーミング、プロセス変革管理チーム(PCMT)の組織化について解説する。またIBMにおけるプロセス改善との比較を行う。

第8章 インスペクションリーダ
本章はインスペクションをけん引する、インスペクションリーダのための章である。 マスタープランの策定から始まり、対象文書の選択、インスペクタの選択、路銀具ミーティングの準備、検出された欠陥の編集、フォローアップから終了判定まで、インスペクションリーダの実務を、実際のプロセスの流れに沿って詳しく説明する。

第9章 スペシャリストの視点からのインスペクション
本章では、インスペクションのプロセスを、各参加者の視点から見る。チェッカ(チェック作業者)、オーサ(成果物製作者)、編集者のそれぞれの視点からインスペクションをとらえる。 インスペクションに参加する各個人に、何が求められているのか理解を深め、またインスペクションに初めて参加する人にとって、役に立つヒントが得られるよう、配慮している。

第10章 導入とトレーニング
インスペクションはコスト効果の高い品質改善の手法である。しかし、その効果を得るためには、どのように組織の中にインスペクションを導入するかが重要な鍵となる。本章では、組織にインスペクションを導入する際のチェックリストを提示し、導入プロセスを各ステップに分けて解説する。また必要なトレーニングについても紹介する。

第11章 困難に打ち勝つ
インスペクションの導入は容易ではない。多くの組織がインスペクションの導入を試み、様々な経験を重ねてきた。本章では、それらの経験に基づき、挫折や失敗を避けつつ、インスペクションプロセス自体を向上させる方法について考える。失敗の主な原因、典型的な導入時の問題とその解決法などを解説する。

第12章 Appliconにおけるインスペクション
第12章~第17章ではインスペクションの具体的な導入事例を示す。 本章ではApplicon社における、インスペクションプログラムの開始から2年目までの過程を紹介する。インスペクションの導入に当たり、どのような問題に遭遇し、どのようにそれを克服し、成功に導いたかが紹介される。

第13章 1人からの出発
本章ではCray Research社のプログラマが、一人で行ったプロジェクトにおけるインスペクションの効果と、そこで得られた知見について紹介する。

第14章 Thorn EMIの文書インスペクション
本章ではThorn EMIが4年間にわたってインスペクションを導入した経験を紹介する。その導入の成功までの経緯と、インスペクションがあらゆる文書に有効であったことを示す。

第15章 Racal Redacにおけるインスペクション
本章ではイギリスのRacal Redac社のインスペクションの導入の取り組みを紹介する。組織への導入がうまくいかなかった事例として、その原因を分析する。

第16章 Sema Group(英国)におけるインスペクション
本章ではイギリスのSema Groupにおけるインスペクションの導入事例を紹介する。行き当った問題と、その解決のポイントを紹介する。

第17章 欠陥予防プロセスの実践
本章ではIBMで用いられており、高い効果が実証されている、欠陥予防プロセスについて述べる。原因分析ミーティングの運営方法など、実践的な面に焦点を当てて紹介する。

付録A 1ページインスペクションハンドブック
インスペクションのルールを「1ページ」ですべて記したハンドブックを示す。1ページにすべてが書かれていることが重要となる。

付録B 手順-スペシャリストおよびサブプロセスが何をすべきか
インスペクション参加者がそれぞれ何をするべきか、各役割が果たすべきタスクと、その手順をまとめた。

付録C インスペクションの尺度と書式
インスペクションの過程において用いられる基本的な書式のテンプレートと、収集される尺度(メトリクス)を一覧にまとめた。

付録D ルールセット
ソフトウェアインスペクションに役立つ、ソフトウェア工学のルールを集める。

付録E インスペクション活動に関わる基本方針の例
インスペクション活動における基本方針(ガイドライン)の例を示す。