「デザイン思考」とは、顧客自身も認識できていない潜在的な課題を発見し、これまでにないユーザー体験(UX)をイメージし、それを実現するアプローチです。
今回は「デザイン思考2.0 人生と仕事を変える「発想術」 [松本勝著, 小学館新書]」を紹介しながら、ソフトウェアテストにも求められる思考について解説していきます。
執筆者:石原 一宏
バルテス株式会社 テスト・アライアンス事業部 事業部長 兼 バルテス・モバイルテクノロジー 取締役
1.ソフトウェアテストに求められる「デザイン思考」
評者である石原は「ソフトウェアテスト」を生業にしています。製品リリース前に、不具合がないかを確かめるのが仕事ですが、そこで求められるのは、「この製品はユーザーの要求を満たしているか」を考える力です。
なぜなら、設計仕様書にユーザーのしたいことが、すべて書かれているとは限らないからです。言い換えれば、「書かれていないけど、必要な仕様をユーザーの立場に立って考える」力がテストエンジニアには求められます。
手前味噌ながら、ソフトウェアテストのエンジニアの育成に微力を投じてきました。そこでつねに問題意識の中心となったのは、「書かれていないユーザーの要求」をいかに考えるか、その力をどのようにして身につけられるのか、でした。
これは、テストエンジニアのみならず、イノベーションが求められるあらゆる職業に求められることであると信じています。
今回、松本勝著「デザイン思考2.0」を読み、改めて勇気と元気を頂き、上記の意を強くしました。
本記事では「見えない課題」を明らかにする「デザイン思考」を、同著からいくつか引用しつつ、紹介していきたいと思います。
2.イノベーションを生み出す「デザイン思考」
かつては、ソニーのウォークマンで世界を席巻した日本の技術力も、近年はGAFAMに代表される欧米の後塵を拝し続けています。
市場を塗り替え、世界を革新するほどのインパクトをもたらす「イノベーション」を生み出す力は、現在、あらゆる国家、企業、組織、そして個人からも求められています。
革新的なイノベーションを成し遂げたアップルのスティーブ・ジョブスやアマゾンのジェフ・ペゾスの思考の本質には、顧客の気持ちに「共感」して顧客のニーズを見つけ出し、そのニーズを満たすサービスを作り上げてきたという共通点があります。
そのカギとなるのが「見えない課題を見つけだし、その課題を解決する力」すなわち「デザイン思考」であると本書の著者松本勝氏は説きます。
「デザイン思考」は、顧客自身も問題を認識できていない潜在課題を発見し、これまでにないユーザー体験(UX)をイメージし、それを実現するアプローチです。
「見えない課題」を発見し、「これまで組み合わせたことのなかった要素同士を組み合わせることで、新たな価値を創造すること」がイノベーションの本質です。
「デザイン思考」とはこうした「課題発見力」と「課題解決力」を可能にする思考法です。
3.デザイン思考を身につけるには
ではその思考法はどのようにして身につけることができるのでしょうか。本書で松本氏はその課題に正面から向き合い、きわめて具体的な方法を私たちに提示してくれます。
本書では「デザイン思考」は以下の5つのステップに分けて、具体的かつ、わかりやすく説明されます。
- 「共感」
- 「問題定義」
- 「創造」
- 「プロトタイプ」
- 「テスト」
実際に仕事に使う際の注意点や、失敗例なども交え、様々な現場で使えるエッセンスとノウハウが随所にちりばめられています。
特筆すべきは、一見難しそうに見える「デザイン思考」を、「誰でも身につけて実践できる考え方である」ことを読み手に伝えようとする松本氏の熱意です。
『では、どうすればよいのか』を何度も重ねながら、松本氏の筆致はぶれることなく、目的を実現するための方法論を具体的にかつ分かりやすくブレークダウンしていきます。
人材の育成・教育に重きを置く氏の真骨頂であり、高度に抽象的な「デザイン思考」という概念を、具体的に誰もが反復可能な形に置き換えて展開していく筆力は力強く、一気に読ませてもらいました。
コンパクトな中に、デザイン思考のエッセンスが、具体的な事例も交えて、密度高く盛り込まれており、どのような仕事に従事する人にとっても、本書は多くのヒントを与えててくれることでしょう。
(より具体的、実践的なデザイン思考のノウハウを知りたい方は、同じく松本氏著の『破壊的イノベーションの起こし方~誰でも使えるアイデア創出フレームワーク~』(東洋経済)も併せて読むことをお薦めします。)
日本においては、「デザイン」や「創造的」とされる発想法は、一部の才能のある人にしかできないのでないかと考えられています。ですが、日本人はそもそも「共感」する力は得意のはずです。
また「基本の型」に従って反復練習し、ステップを重ねる勤勉さも持ち合わせています。本書が多くの人々の「課題発見力」と「課題解決力」の向上に役立つものと考えます。
4.お知らせ
2023年2月16日(木)、本書の著者でありVISITS Technologies社のCEOである松本勝氏と、本記事の評者であるVALTES石原が登壇する共催セミナーが開催されます。お時間がありましたら、ぜひご参加ください!
- こちらのイベントは終了しました。-
5.書籍・著者紹介
書籍紹介
デザイン思考2.0 人生と仕事を変える「発想術」 [松本勝著, 小学館新書]
- はじめに
- 第一章 誰でもできる「イノベーション」
- 第二章 始まりは「ニーズ」に
- 第三章 目指すは究極の「いいとこ取り」
- 第四章 「新たな価値」を創造する
- 第五章 人生に活きる「デザイン思考」
- おわりに
著者紹介
- 松本 勝
VISITS Technologies株式会社 CEO/Founder
東京大学大学院工学系研究科修了後、ゴールドマンサックス入社。株式トレーダー、金利デリバティブトレーダーを経て、2010年に人工知能を用いた投資ファンドを設立。 2014年に当社を設立し、意見やアイデアの価値を定量化する合意形成アルゴリズム「CI(コンセンサス・インテリジェンス)技術」を独自開発し、日米で特許を取得。意見収集と結果分析を高度化する「VISITS forms」、DX人材可視化ツール「DXクラウド(デザイン思考テスト)」等、企業のイノベーション・DX支援サービスを幅広く展開。
<政府委員等を歴任(※2022年8月時点)>
・内閣官房「成長戦略会議」WG委員
・内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」WG委員
・金融庁「金融審議会」WG委員
・経済産業省「スタートアップ投資契約検討会」委員
・東証「SPAC検討委員会」委員
・経団連審議員
<著書>破壊的イノベーションの起こし方(東洋経済新報社)