マルウェアをはじめとするサイバー攻撃の多くがWebブラウザを経由してやってくるようです。
そのため、セキュリティが重要視されるようになると、注目されるのがブラウザの安全性。この流れもあって、最近、従来のブラウザのセキュリティ力を高めた「セキュアブラウザ」が話題になっています。
そこで、セキュアブラウザとは何か、そのメリットと注意点等をまとめてみたいと思います。
- もくじ
1.セキュアブラウザとは?
私たちにとってインターネット利用はもはや生活の一部となり、自宅の防犯を考えるように、オンライン上のセキュリティがますます重要視されるようになってきました。
その中で注目されている「セキュアブラウザ」について解説していきます。
1-1 セキュアブラウザの役割
セキュアブラウザとは、一般的なWebブラウザと同等の基本機能を持っていて、その上、不正アクセスや情報漏えいを防止するための高度なセキュリティ機能が追加されているブラウザのことです。
昨今のサイバー攻撃の多くはWebブラウザを経由しているといわれることもあり、高度なセキュリティ機能を搭載した「セキュアブラウザ」が注目を集めるようになりました。
セキュアブラウザの役割は、Web経由のサイバー攻撃など、悪意ある脅威からユーザーを保護したり、個人や企業のデータやプライバシーを守ったりすることです。
今後、さらにセキュリティへの関心が高まり、セキュアブラウザの普及も進むと予想されています。将来的にセキュアブラウザには、生体認証やAIによる挙動解析といった機能が組み込まれ、オンライン上での安全性が一層向上することが期待されています。また、セキュリティが向上することで、Webのユーザーエクスペリエンスも向上すると考えられています。
1-2 セキュアブラウザの機能概要
セキュアブラウザに必要とされる機能には主に以下のようなものがあります。
- 「安全でない」と判断されたサイトを開こうとすると警告または停止する
- サイトに許可する権限や操作をユーザーが制御できる
- リダイレクトを無効にするなど、動作を制御する
- スクリプトを無効化し、動作を制御する
- クッキーを無効にするなど、クッキーを制御する
- ポップアップを無効化する
- 終了時に履歴を自動消去するなど、閲覧履歴やキャッシュの管理制御
セキュアブラウザの特徴は、ブラウザ側で、通信の暗号化、不審なサイトへのアクセスのブロック、広告やトラッキングの防止といった機能を実現している点にあります。
Web閲覧履歴などのデータをブラウザ終了と同時に自動的に削除したり、情報漏えいのリスクを低減させたり、アプリケーションの動作を制限したり、VPN(Virtual Private Network:仮想プライベートネットワーク)などのように特定のサービスにログインをしなくてもWebを利用できたりするなど、様々なセキュリティ関連機能が一般的なWebブラウザ以上に追加されています。
1-3 既存のWebブラウザも「セキュア化」へ?
今後、既存の一般的なWebブラウザも、セキュアブラウザのような機能を有する可能性が高いかもしれません。例えばGoogle Chromeは、2023年12月に発表された「Google Chrome 120」に「安全チェック」ツールを刷新して搭載しています。
2.セキュアブラウザの5つのメリット
2-1 今までと"ほぼ"同じように使える
数多くのセキュアブラウザがリリースされていますが、そのほとんどが、既存Webブラウザと同じように利用できるため、ユーザーは移行を強く意識する必要なくWebが利用できます。自然な流れでセキュリティを高められるのが第一のメリットです。
2-2 プライバシー保護になる
セキュアブラウザは、基本的にユーザーのプライバシーを保護するために様々な機能が備わっています。そのため、匿名性を向上させたり、トラッキングを防止したりすることが可能になります。
セキュアブラウザを使うことで、ユーザーがオンラインでの活動を追跡され、プライバシーが流出してしまうリスクを低減できるメリットがあります。
2-3 ウイルスやマルウェアから保護される
セキュアなブラウザは、一般的なWebブラウザよりも、ウイルスやマルウェアからの保護に重点を置いています。何らかの方法で情報を更新して、危険な脅威を含むウェブサイトへのアクセスをブロックしたり、ダウンロードされたファイルやリンクを検査したりして、悪意あるコードからシステムを保護するなどして、ウイルス・マルウェアのリスクを低減させられます。
2-4 不正アクセスへの対策になる
セキュアブラウザは、SSL/TLS暗号化といったセキュアな通信プロトコルをサポートしています。不正アクセスやフィッシング詐欺からユーザーを守るための機能を持っているので、安全でないサイトへのアクセスを警告し、ユーザーの個人情報や財務データやプライバシー情報等が不正な手段で取得されることを防ぐことができます。セキュアブラウザの中には、フィッシング詐欺に遭遇した際に警告を表示するものもあるようです。
2-5 導入が簡単なことが多い
セキュアブラウザは、インストールして設定すればすぐ使え、複雑な設定や準備を必要としないことが多いようです。期待できる効果に対して、導入が簡単なことは大きなメリットといってよいでしょう。
また、実現したいセキュリティレベルによって異なるので単純比較は難しいですが、VPNやVDI(Virtual Desktop Infrastructure)といった高度なセキュリティを実現するケースと比較すると、導入コストが低減できることが多いのもメリットといえるかもしれません。
3.セキュアブラウザを利用する上での3つの注意事項
セキュアブラウザはセキュリティが高くメリットがある一方、「利用上の注意ポイント」も存在しています。この章では3つの注意点を解説します。
3-1 Webサービスやクラウドサービスの利用に制限が出る可能性がある
セキュアブラウザは、特定のWebサイトがうまく開けなかったり、一部の拡張機能(プラグイン)の実行に制約があったりすることがあります。いくらセキュアブラウザが高機能でも、ユーザー自身や、採用企業が使用したいWebサイトやサービス、アプリケーションが動作しないのでは意味がありません。
そのため、導入検討時に動作範囲をくまなく確認して、希望通りの動作をするか、業務が滞りなく実行できるかを確認しておく必要があります。また、導入コストもこのときに確認しておくとよいでしょう。
3-2 メンテナンス等の運用に影響が出ることも
セキュアブラウザによっては、管理者による運用が必要になることがあります。例えば、端末から閲覧情報を削除するタイミングは、セキュアブラウザにより異なります。ユーザーが端末の使用を止めようとすると削除するものもあれば、管理者が削除したり、タイミングを設定したりするものもあります。
セキュアブラウザは一般的なWebブラウザより機能が多く、仕様が様々なことから、メンテナンス等の運用に影響が出ることもあります。この点も導入前に確認が必要です。
3-3 新たな脅威に対応しているか確認する
セキュアブラウザが進化すれば、サイバー攻撃側も手口をより巧妙にしてきます。将来的に、セキュアブラウザは新たな脅威に対応するための機能やアルゴリズムを追加する必要があると考えられます。そのため、ユーザーは、セキュアブラウザのバージョンアップ状況などを確認し、常に最新版を利用することを心がけておくのがよいでしょう。
この点は、WindowsなどのOSやセキュリティソフトを最新版にしておくことと同じ感覚だと思います。その意味でいうと「自動アップデート」機能が充実しているものが選びやすいです。
4.代表的な6つのセキュアブラウザと選び方
4-1 代表的な6つのセキュアブラウザ
ここでは、代表的なセキュアブラウザをいくつか紹介します。数多くのセキュアブラウザがリリースされているので、導入にあたっては検索等でよく検討することをお勧めします。
Firefox Quantum
これまで広く使われてきたWebブラウザ「Firefox」の最新版が「Firefox Quantum」です。これまで以上に、プライバシー保護を重視しており、サードパーティトラッキングCookieをブロックして管理する機能などがあります。Windows、macOS、Linuxで動作します。AndroidやiOS用には、プライバシー保護ブラウザとして「Firefox Focus」(https://www.mozilla.org/ja/firefox/browsers/mobile/focus/)がリリースされています。
Avastセキュアブラウザ
チェコのセキュリティ企業Avast(アバスト)が提供するWebブラウザが「Avastセキュアブラウザ」です。Webの閲覧履歴やブックマークや位置情報といった情報を暗号化しています。機能が豊富ですが、使いやすく整理されています。Windows、macOS、Android、iOSで動作します。
Brave
出典:Brave
Brave Softwareが開発するブラウザが「Brave(ブレイブ)」です。広告とトラッカーをブロックする機能を標準で搭載していることで話題になりました。広告の表示をユーザーが制御できる特長があります。Windows、macOS、Linux、iOS、Androidで動作します。
Soliton SecureBrowser
「Soliton SecureBrowser」は、ソリトンシステムズが開発する、企業向のWebアクセスに特化したリモートアクセス製品・サービス群です。VPN機能を内蔵しているのが特長で、クラウドアクセス等々のセキュリティを強化して、端末からの情報漏えいを防止します。
Tor Browser
出典:Tor Browser
「Tor Browser」は、The Tor Projectが開発しているオープンソースのWebブラウザです。匿名化ネットワーク「Tor」を経由してインターネットへ接続するのが特長です。一般的なWebサイトに加えて、「.onion」ドメインにアクセスできます。Windows、macOS、Linux、Androidで動作します。高度な匿名性を提供していて、ダークウェブ関連の話題でも取り沙汰されるブラウザとして有名です。
DuckDuckGo
出典:DuckDuckGo
上で紹介した「Tor Browser」の標準検索エンジンが「DuckDuckGo」です。プライバシーの保護を重視し、スパムを排除して検索品質の向上を目指しています。ほとんど履歴を保存しないのも特長です。DuckDuckGoは2013年からAndroid、iOS用のブラウザをリリースしています。最近では、Windows版やmacOS版も登場しました。トラッカーをブロックするなどプライバシー機能が強化されています。
4-2 セキュアブラウザの選び方
ここで紹介した以外にも、多くのセキュアブラウザが存在しています。ユーザーは自身のニーズに合ったセキュアブラウザを選択する必要があります。
そのため、「3.セキュアブラウザを利用する上の注意事項」に記載した以下の点などを頭に入れ、事前に十分検討をすることがポイントになります。
- 導入検討時に動作範囲をくまなく確認して、希望通りの動作をするか、業務が滞りなく実行できるか
- メンテナンス等、運用する管理者が必要か
- 新たな脅威に対応しているか
まとめ
セキュアブラウザはオンラインのセキュリティを強化し、個人や企業のセキュリティを向上させ、プライバシーを守るための有力なツールのひとつです。個人や企業がオンライン上の「安全」に関心を持ち、重要性が増していることもあり、今後、セキュアブラウザはますます広く利用されることになるでしょう。
将来的には、さらなる技術の進化により、セキュアブラウザの進化と発展が期待されています。
注目すべき点は、既存のブラウザも「セキュア化」が進むと考えられていることです。現在はもしかすると「過渡期」の可能性もあるので、セキュアブラウザの選択にあたっては、自分または組織にとって「何が重要なのか」「どんな機能が必要なのか」をよく考える必要がありそうです。
安全なオンライン環境を構築するために、賢くセキュアブラウザを活用していきましょう。