行動心理学から紐解く- 雑談で他部署とのコミュニケーション改善 -

最終更新日時:2021.06.30 (公開日:2021.01.18)
行動心理学から紐解く- 雑談で他部署とのコミュニケーション改善 -

仕事の大半は自分への依頼事項と相手への依頼事項で成り立ちます。それはIT業界やエンジニアの世界でも例外ではありません。

どの部門でも他部署への依頼があります。たとえば、開発部門ならインフラチームへの開発環境の作成依頼、テスト部門なら開発チームへの設計書の共有依頼、総務部門なら各主管部門への経費申請対応の依頼などが発生します。

ですが、他部署への依頼は他に比べてなかなか対応してもらえません。仕事の依頼にいつ答えてもらえるかは、いつも働く人の悩みの種になっています。

依頼に答えてもらえない悩みを行動心理学から紐解く

私も同じ悩みによく出会います。現在、私はテストチームでシステムテストに携わっていますが、共有してほしい資料を開発チームに頼んでも、なかなか資料の共有をしてもらえないことがあります。

どうすれば自分の依頼を聞いて人が行動してくれるのかを考える際、非常に役に立つのが行動心理学です。
行動心理学とは、人がなぜそのような行動をするのかを、心・感情・心理状態から研究する学問です。IT業界でも、行動心理学を活かせる場面が多くあり、依頼に対応してもらいたい場合にも応用できます。

本記事では、依頼に答えてもらえない悩みの解決策を行動心理学の面から紐解いていくとともに、具体的に行うべきアクションやどう会話や雑談を展開すれば依頼に応えてもらえる関係になれるのかについても解説します。

全般的に、親密な相手の方が依頼が通りやすい

親密性に関して、興味深い研究結果が発表されています。日本の愛知教育大学と中国の湖南省長沙市第7中学で、「依頼」についての共同研究が行われました。本稿では、日本の大学生に対して行われた調査結果を抜粋して紹介いたします。

本共同研究では、さまざまな続柄の人から依頼をされたときの、被験者の反応を調査しています。金銭・物質・労力の依頼に関する質問を5問ずつ用意し、さまざまな続柄の人から依頼をされたときにどう感じるかを回答してもらいました。

日本人が感じる「依頼」の平均値を抜粋したところ、次のことが分かりました。
・疎遠な人より親密な人の方が、1.57.0倍も依頼が通りやすい

金銭的・物質的・労力的な依頼とは、次のようなものを指しています。

依頼 例:
金銭的依頼 お金を貸してほしい
物質的依頼 電子辞書を貸してほしい
労力的依頼 家まで車で送ってほしい

全くあつかましくないと感じるなら0、少しあつかましいと感じるなら1、大変あつかましいと感じるなら2と回答してもらっています。各回答の平均値をとり、頼んだ人との親密関係で並べ替え整理すると、以下の表のような結果となりました。

表

(出典:岡田安代・安藤美保「中国人と日本人の依頼の許容範囲」より、筆者作成)

この表では、数値が大きいほど、多くの人が該当の依頼に対して「あつかましい」と回答していることを表しています。たとえば、「親しい上級生」と「それほど親しくない上級生」から依頼をされた箇所を見てみましょう。

金銭的な依頼である質問1なら、多くの被験者が親しい上級生の依頼(0.19)よりそれほど親しくない上級生の依頼(0.93)を「あつかましい」と回答していることがわかり、その差は約5倍になりました。物質的な依頼である質問6になると、その差には約7倍(0.07→0.53)もの開きが出ています。

この表の他の箇所からもわかるように、金銭・物質・労力のいずれの依頼でも、疎遠な人より親密な人の方が、1.57.0倍依頼が通りやすい(≒あつかましいと思われない)ことが分かりました。

親密さを上げる雑談(=informal COMMUNICATION)のコツ

相手との親密さが高いほど依頼が通りやすいことが分かりましたが、どうすれば親密さを上げることができるのでしょうか。本章では、親密さを上げる方法とその具体的なやり方のコツについて解説します。

親密さを上げる方法として有効的な方法の一つがINFORMAL COMMUNICATIONです。

INFORMAL COMMUNICATIONとは、「非公式のちょっとした雑談」を指す言葉です。喫煙室や給湯室での雑談がこれに該当します。

ウィンザー大学の研究では、冷水機前でのINFORMAL COMMUNICATIONを調査しました。その結果、冷水機前で同僚と交流に時間を費やす人は、そうでない人よりも周りからの好感度が高く、必要な時に同僚から助けを得られやすいことが分かりました。親密な関係とはお互いに好感な関係であるため、INFORMAL COMMUNICATIONが親密さを上げてくれることが分かりました。

出典:ケリー・マクゴニガル「スタンフォードの心理学講義 人生がうまくいくシンプルなルール」

INFORMAL COMMUNICATIONのコツは3つあります。「拡張」・「深堀」・「継続」です。

1.png

「拡張」は話を広げることであり、「深堀」は話を深めることであり、「継続」は前の話から続けることです。一つずつ解説していきます。

画像出典:https://www.silhouette-illust.com

INFORMAL COMMUNICATIONの3つのコツ① 2.png 拡張:相手の話したい話が見つかるまで話を広げる

相手と会話するときはまず、相手の話したい話が見つかるまで相手の話を広げることが大切です。

私はこれを「拡張」と呼んでいます。どんな人にも、話したい話とそこまで話したくない話があります。人は自分の話したい話を話しているときが一番心地よいです。ですから、相手の話したい話が見つかるまでは、いろんな話題を振って話したい話を探すことが重要です。

相手が話したい話かどうかを判断するポイントは、相手が訊かれたこと以外を答えたかどうかです。

下の例の太字部分のように、相手にとって話したい話題の場合は、相手は自分から質問されたこと以外を話すことが多い傾向にあります。

話したくない話の例: 話したい話の例:
Aさん「私ってゴルフをしたことがないのですが、周りにゴルフをする人が多くて。○○さんもゴルフをするのですか?」
Bさん「僕もゴルフをするよ」
Aさん「私ってゴルフをしたことがないのですが、周りにゴルフする人が多くて。○○さんもゴルフをするのですか?」
Bさん「僕もゴルフをするよ。先日も埼玉の方までゴルフしに行ったよ

話したい話を探すコツは、仕事以外の話題から探すことです。

その方が相手との会話が議論ではなく雑談になるからです。私は、相手が男性か女性か、既婚か独身か、お子さんがいるかいないかで、振る話題を変えています。以下のような内容が、話したい話題となることが多い傾向にあります。

女性美や健康の話題がヒットすることが多い
例:「私、土日、運動したいと思いつつもつい怠けてしまうんですよね。。。」

未婚 既婚
子供がいる 子供はいない
男性 趣味や土日の過ごし方がヒットすることが多い
例:「私、土日は結構家に居ちゃうタイプなんですよ。。。」
子供と仕事の絡みがヒットすることが多い
例:「最近残業が多いですけど、お子さんは寂しがらないんですか?」
家庭と仕事の絡みがヒットすることが多い
例:「最近残業が多いですけど、奥さんは怒らないんですか?」
女性 美や健康の話題がヒットすることが多い
例:「私、土日、運動したいと思いつつもつい怠けてしまうんですよね。。。」

相手の話したい話が見つかるまでは積極的に会話を「拡張」しましょう。

INFORMAL COMMUNICATIONの3つのコツ② 3.png 深堀:相手の話したい話を見つけたらその話を続ける

相手の話したい話が見つかったら、その話題を深めていくことが大切です。

私はこれを「深堀」と呼んでいます。相手が話したい話題を見つけたら、その話題を続けましょう。人は自分の話したい話をしているときが一番心地よく、心地よい時間を過ごせれば過ごせるほど、心地よい時間を提供してくれたあなたに好感を持つからです。

「深堀」のコツは、自分の聞きたいことではなく、相手の話したいことを質問していくことです。

相手の話したいことを見分けるポイントは「拡張」のときと同じく、相手が訊かれたこと以外を答えたかどうかです。

深堀の例:
Aさん「私ってゴルフをしたことがないのですが、周りにゴルフする人が多くて。○○さんもゴルフをするのですか?」
Bさん「僕もゴルフをするよ。先日も埼玉の方までゴルフしに行ったよ
Aさん「○○さんもゴルフされていて、最近も行かれたんですね! 自分勝手な質問で恐縮なんですけど、ゴルフに行くようになったきっかけって何ですか? 私、両親ともゴルフをやらない人でして。みんな、どういうきっかけでゴルフを始めるのか分からなくて」
Bさん「僕は、ベタだけど、上司に誘われてね。一回目は那須高原の方でね。また今度那須高原にゴルフに行くんだけれども、 もう初めてのときは筋肉痛になったよ。はははは」
Aさん「え? ゴルフって筋肉痛になるんですか?! 紳士のスポーツ。というイメージでした」
Bさん「なるよー。ゴルフって、全身をねじるからさ。全身運動なんだ
Aさん「たしかに......。ゴルフのように、強くねじる動作って、日常でなかなかしないですね
Bさん「そう。だから筋肉痛になる」

相手が話したい話題を見つけたら、積極的に相手の話を「深堀」していきましょう。

INFORMAL COMMUNICATIONの3つのコツ4.png 継続:2回目以降の雑談は前の雑談の続きから

INFORMAL COMMUNICATION2回目以降の場合は、前に相手が話していた話の続きから話します。

私はこれを「継続」と呼んでいます。前に相手が話していた話から続けますと、相手は "自分の話をちゃんと覚えていてくれたんだ" と嬉しくなります。

拡張の例:
Aさん「お疲れ様です!」
Bさん「あー、Aさん、お久しぶり」
Aさん「お久しぶりです。そういえば、前に、那須高原にゴルフに行くっておっしゃっていましたね。いかがでしたか?」
Bさん「いやー、最高だったよ! ほどよく曇っていて、打ちやすい日だったね」
Aさん「え? ゴルフって晴れている方がいいんじゃないんですか?」
Bさん「とんでもない! 曇りの方がいいんだよ。だってね......」

「継続」のコツは、 「オープンクエスチョン」をすることです。

「オープンクエスチョン」とは、相手がYESNO以外で回答する質問です。反対に、相手がYESNOで答える質問を、クローズドクエスチョンと呼ぶ。INFORMAL COMMUNICATIONでは「オープンクエスチョン」を推奨しています。なぜなら、「オープンクエスチョン」の方が会話を「深堀」しやすいからです。

上記の例であれば、"いかがでしたか?" が「オープンクエスチョン」です。"いかがでしたか?" であれば、相手は "天気がよかった" "コースが楽しかった" "一緒に行った人が面白かった"といろんな回答ができます。そうしますと、相手は自然と相手が話したい話を話すようになり、「深堀」に入ることができます。

一方、上記の例で "天気は良かったですか?" とクローズドクエスチョンを投げてしまうと、相手は天気について"よかった" "悪かった" YESNOで回答します。ですが、相手が天気の話がしたいとは限りませんので、改めて「拡張」で相手の話したい話題を探さなければいけなくなります。

2回目以降のINFORMAL COMMUNICATION では前のINFORMAL COMMUNICATION から会話を「継続」させましょう。

雑談上手はお仕事上手。雑談で円滑な業務に大切な親密さを築こう

仕事の大半は自分への依頼の対応と相手への依頼です。
作業の依頼や他部署への労力的な依頼をやってもらいやすくするためには、相手との親密さが重要です。相手との親密さをあげる効果的方法が、INFORMAL COMMUNICATIONINFORMAL COMMUNICATIONのコツは、相手が盛り上がる話題を探して、その話題を深めること、そして2回目以降の雑談は前回の話題の続きから始めることです。

他部署や他の人に依頼へスムーズに答えてもらい、サクサク業務をこなして楽しい会社生活を送るため、まずは、雑談上手を目指してみませんか?

執筆者:小谷 ひかり

バルテス株式会社 エンタープライズ品質サービス事業部

業務系システムの開発・運用・保守にSE兼プロジェクトリーダー兼コンサルタントとして携わった後、バルテスに入社する。入社後は、テスト自動化プロジェクト・品質保証プロジェクトを経て、現在は品質向上支援に携...