エンジニア皆さんは年頭に予想した「2025年の崖」といったキーワードが「バズったか」「今の状況がどうなっているか」気になりませんか? そこで今回は、2025年1月にQbookで公開した以下の予測記事の内容を振り返ってみます。
元記事の予測に対し、自分勝手に以下の判定ルールでジャッジを下していきたいと思います。
【本記事の勝手な判定ルール】
☆(超当たり):予測の斜め上を行く進化・普及を見せた
◎(大当たり):ほぼ予測通り。現場でも痛いほど実感あり
◯(当たり):概ね当たっている
△(微妙):一気には進まなかったか、何も起きなかった
×(ハズレ):そうはならなかった、勘違いだった。
- もくじ
1. 「2025年の崖」は本当にあったのか?「崖」問題は発生した?
1-1. 「崖」は先送り気味【判定:△】
「2025年の崖」は、経済産業省のDXレポートで初登場しました。レガシーシステムを抱えたままDX(デジタルトランスフォーメーション)に出遅れると、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じうるという警鐘を象徴的に表した言葉が「2025年の崖」でした。DXに失敗したら、企業が崖にぶち当たるか、崖から落ちるかのような想像をしていた方もいたかもしれません。
結論からいえば、2025年12月現在、日本経済や社会インフラが「DXに失敗して崖から落ちた」といった事態には至っていないようです。しかし、これは「問題が解決してハッピーエンドだった」という意味ではありません。実際に現場で起きているのは、崖からの転落でも崖への激突でもなく、崖で止まっている感覚に近いのかもしれません。その意味で判定は【△:見送り】としました。
「崖」という言葉のインパクトが強すぎたあまり、「何も起きなかったから大丈夫」と錯覚しそうになりますが、実際のところは不透明といったところだと思います。DXの現在の状況については、経済産業省のサイトに情報がまとめられています。
1-2. レガシーシステム刷新はどうなったか?
「2025年の崖」とセットで語られ、多くの企業の頭を悩ませてきたのが、基幹システムである「SAP」の保守期限問題です。当初、SAP ERPの標準保守期限は2025年末とされており、「ここで乗り換えに失敗すると本当に崖だ」という切迫した空気が一部にありました。
ところが、この話題はややトーンダウンしています。なぜなら、SAP側がサポート期限を2027年末まで延長したことで、ターゲットが「2025年」から「2027年」へと修正されていたからです。これにより、多くの日本企業が「あと2年ある」という心理的な猶予を得ることになりました。現在は移行圧力が強まっている時期だといえそうです。
つまり、この「崖」は消滅したのではなく、先に移動しただけで、根本的な全面解決に至っていない状況だといえそうです。
1-3. 最大の問題は「人材不足」?
「2025年の崖」の主なリスク要因はシステムの老朽化と人材不足でしたが、2025年現在、どちらのリスクも解消できてはいません。DXを進めるためには、単に新しいツールを入れるだけでなく、それを扱える組織と人が不可欠です。予測時から指摘されていたIT人材不足が、現場のDX推進を阻む主要課題の一つであり続けています。
2. 「Xデー」を前に「Windows 10」騒動は起きたか?
2-1. PC市場は反応した【判定:○】
2025年10月14日、マイクロソフトによるWindows 10の一般向け公式サポート(メインストリームおよび拡張サポート)が終了しました。この「Xデー」をめぐる動きは予測通りPC市場に一定の影響を与えましたが、一部エディション(例:LTSC版)は継続サポート中です。判定は控えめに【○:当たり】としたいと思います。
Windows 10 support has ended on October 14, 2025(Microsoft Support)
個人向け拡張セキュリティ更新プログラム(ESU)は有償(年額約30ドル)が基本ですが、バックアップ設定などの条件を満たせば1年目のみ無料で利用可能です。
法人向けは1台あたり1年目61ドルからで、欧州経済領域など一部地域では追加の無償措置もあります。
2-2. PCリプレースの決定打になったか?
Windows 10のサポート終了がPCリプレースに影響を与えた要因の一つになった可能性は高いです。そして、2025年後半は「OSの寿命」という理由以上に、ポジティブで強力な理由がハードウェア更新に影響を与えていた可能性があります。それは「AI PCブーム」です。
2024年から2025年にかけて、インテルやAMD、Qualcommといった主要メーカーが、AI処理に特化したNPU(Neural Processing Unit)を内蔵したプロセッサーを次々に投入しました。これに呼応するように、マイクロソフトもWindows 11に「Copilot+」などのAI機能を標準搭載し、「AIを高速に動かせるPC」が話題の中心になりました。
企業側にとっても、「どうせOS対応でPCを入れ替えるなら、これから主流になるAI対応マシンにしておこう」という判断が働きやすくなっているかもしれません。
予測記事の段階では「OS入れ替え需要」に焦点が当たっていましたが、実際には「AI対応という付加価値」がセットになっています。半導体需要の集中と高機能化により、2025年末にかけてPC価格は高騰しはじめていますが、これはWindows10サポート終了の直接の影響というより、複数の要因によるものだといえそうです。
2-3. エアギャップの現実
一方で、こうした「PC入れ替え騒動」とは無縁の世界も存在していることも明らかになっています。一例ですが、2024年7月に発生したCrowdStrike社のセキュリティソフトに起因する大規模障害では、ネットから物理的に遮断されたエアギャップ環境は被害を受けませんでした。
工場の生産ラインを制御する端末や、病院の特定検査機器など、「ネットに繋がないこと」自体を最強のセキュリティ対策としている現場では、2025年10月を過ぎてもWindows10、あるいはそれ以前のバージョンでのWindowsサポート終了による影響も受けにくい状況となっています。
結果的にWindowsのバージョンアップは通過点の一つとなり、OSのアップデートよりもシステムの継続性が優先されるケースが説得力をもつようになってきたといえるのかもしれません。
3. 「エージェンティックAI」と「AIガバナンス」の行方は?
3-1. エージェンティックAI市場が成長【判定:☆】
自律的に目標を設定し、タスクを実行するAI、「エージェンティックAI(Agentic AI)」は2024年頃から注目を集めはじめ、2025年現在、実験から実用段階へ急速に移行中です。市場規模は大幅に拡大し、今後の成長が見込まれています。
Agentic AI 市場規模、シェア |予測レポート [2025-2032](Fortune Business Insights)
「エージェンティックAIが私たちのビジネスシーンや生活に入り込んでくる可能性がある」と予測しましたが、そこまでには至らなかったとしても、この分野の進歩は予測を遥かに上回るスピードだったといえると思います。判定は【☆:超当たり】としました。ガートナーのハイプ・サイクルでも最重要技術として位置付けられており、今後の大成長分野だといえそうです。
3-2. 「自律型エージェント」は?
一部で「自律型エージェント(Autonomous Agent)」も話題になりました。指示ベースでタスクを実行する生成AIの進化版のような形で語られ、個別のシステムや技術そのものを指し示す意味で使われているキーワードです。エージェンティックAIとほぼ同義で使われることが多かったようです。
実際、厳密な違いはあまりなく、どちらも「自律的に目標を達成するAI」を指しますが、ニュアンスで区別される場合もありました。自律型エージェントは技術的な場面に限られ、エージェンティックAIの方がより広く使われることが多かった気がします。今後は、「エージェンティックAI」や「エージェント型AI」が一般的になっていくのではないかと思います。
3-3. AIガバナンスは広まった【判定:◯】
AIガバナンスについては、概ね予測通りの展開となり、判定は【◯:当たり】としました。
実際のところ、AIガバナンスが意味する内容は変化し続けています。かつては「倫理的に正しいか」という守りの議論が中心でしたが、2025年には「AIガバナンスがしっかりしていることが、ビジネスの競争力になる」という攻めの戦略へとシフトしているようです。
大きな転換点となったのは、EUの「EU AI法」の運用と、日本で「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案(AI法)」が閣議決定されたことだったと思います。日本はイノベーションとバランスを図る独自路線を明確にしているようです。
このようにAIガバナンスの重要性は社会に認識され、透明性や説明可能性を担保することで信頼を得る流れになっています。AIガバナンスはブレーキというよりも、安全にアクセルを踏むためのガイドとして機能しはじめています。
4. 【スピード判定】その他の注目トピック・予想は?
ここでは、他の予想キーワードの動向をスピーディに判定していきたいと思います。
4-1. マルチ/ハイブリッドクラウドが広まる【判定:◯】
DX化が進むことで多くの企業がクラウド環境を採用し、コスト最適化と柔軟な運用を実現しました。ただし、システムが複雑化したことでセキュリティインシデントが増加する課題も浮上しました。手前味噌ですが、これは【○:当たり】とします。
4-2. クラウドネイティブが定着【判定:☆】
クラウドネイティブは標準的な技術として広く定着したと思います。高速で安全なクラウド運用がDXの基盤となっています。ただし、対応できるエンジニアの不足、スキル不足が顕著になってしまった......といった課題が指摘されるようにもなりました。少々甘いかもしれませんが【☆:超当たり】でした。
4-3. エッジコンピューティングは言葉だけ?【判定:△】
自動運転やスマート工場での活用は進んでいますが、5G基盤整備の遅れが指摘されることもあってか、「伸び」が限定的だという声も聞かれました。
これは大いなる期待に対して、社会への実装が停滞している見方もできますし、依然としてクラウド依存が続いているということもできる気がします。その意味で、予測を下回る実用化の状況といえるため【△:微妙】と判定しました。
4-4. 量子暗号【判定:△】
東芝・NEC・NICTがIOWN環境での実証に成功するなど技術開発は進展しました。しかし実用化は先送りされ、現在はPQC移行計画の策定段階の様子です。量子コンピュータへの期待感はましていますが、先は明るくとも、まだまだ道のりは険しそう......と勝手に判断して【△:微妙】としました。
4-5. 自動運転レベル4【判定:○】
福井県永平寺町で2024年4月から定常運行が始まり、愛媛県松山市では電磁誘導線を使わない完全自律走行の路線バスが運行されます。このように物流や公共交通での実用化が進んでいます。市販車への展開はまだのようですが、人手不足解消に貢献しはじめており、順調に進展中といえるので【○:当たり】と判定しました。
4-6. コネクテッドカー【判定:△】
コネクテッドカーの日本国内の販売台数は前年比34%増と普及が進みました。しかし、V2X(Vehicle to X)通信や予知保全は環境整備の遅れもあるようで、実証段階ですが、セキュリティ懸念もあり本格的な展開は見送られています。ある意味、限定的に実現が進んでいるという見方もできそうです。
年頭に深化すると大いに期待して予想したのに対し、普及は進んでいるけれど、完全に予想通りではなかったという気も多少しています。その意味で、さらなる期待を込めて【△:微妙】と判定しました。自動運転やコネクテッドカーといったジャンルは今後、かなり重要になる技術ではないかと思います。
日本のコネクテッドカー販売台数、2025年第1四半期は前年同期比34%増:国内OEM各社のデジタル化が加速(Counterpoint)
5. 予測漏れ事項はあったか? 他の予測は
5-1. 予測記事が書き漏らした「電力の崖」。
今回、2025年の予測を振り返ってみて、元の予測記事で完全に見落としていた最大のトピックが「電力」不足問題です。
エージェンティックAIや生成AIの普及により、データセンターの計算需要が爆発的に増加しました。それに伴い、これらを動かすための「電力」が世界的に不足すると予測される事態に直面しています。
「電力」不足問題はエンジニアや政策担当者にとって、ITシステムの「崖」に続く、新たなラスボスになる可能性があります。Googleが地熱発電を活用したり、マイクロソフトが小型モジュール原子炉(SMR)への投資を発表したりと、テック企業がエネルギー確保に動く姿は、新たなテクノロジーの課題を象徴しているのかもしれないと感じさせられます。
5-2. 「崖」は一度きりじゃない。
ここまで振り返ってきてわかるのは、「崖」は一度きりのイベントではないということです。「2025年の崖」をなんとかやり過ごしても、その先には電力の問題など、新しい崖が次々と現れます。
しかし、これを悲観する必要はありません。「崖」は「システムや体制を見直す良い機会」でもあります。重要なのは「崖」を避けることではなく、早めに察知して備えることです。新しい「崖」を恐れずクリアする柔軟性こそが、これからのエンジニアに必要なサバイバルスキルだといえるでしょう。
6. まとめ
予測は当たるも八卦ですが、こうして振り返ることで「次の変化」がすこし見えてくる気がしました。今後、さまざまな形で出現する「崖」を恐れすぎず、変化を楽しみながら、未来へ向かっていきましょう。




