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「2025年の崖」とは? レガシーシステムやIT人材不足などDXを阻む問題と解消策
ITニュース・ITトレンド 2024.11.28
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「2025年の崖」とは? レガシーシステムやIT人材不足などDXを阻む問題と解消策

執筆: 大木 晴一郎

ライター

「2025年の崖」とは、2018年に経済産業省が発表したレポート『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』で使用された言葉です。

資料内では、日本の経済成長に関わるさまざまな障壁を総称して「2025年の崖」と表現しており、この崖を越えられなければ2025年以降に大きな経済損失が生じる可能性があるとされています。

本記事では、経済産業省のレポートなどをもとに「2025年の崖」の概要と、課題とされている問題について解説していきます。

また、記事の後半では、課題が解消されてこなかった背景・理由や今後「2025年の崖」を解消するためのポイントについてご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

もくじ
  1. 「2025年の崖」とは
    1. 経済産業省が提唱した課題
    2. DXとの切り離せない関係
    3. 「2024年問題」との違い
  2. 「2025年の崖」で課題とされている6つのこと
    1. 「レガシーシステム」の存在
    2. 旧システムの終了(サポート終了)
    3. IT人材不足と人材コストの高騰
    4. 新技術への対応遅れ
    5. セキュリティリスクへの対応不足
    6. IT市場環境の急変
  3. これまでに解決できず「崖」になった理由
    1. 「変化」を好まない環境
    2. ユーザー企業とベンダー企業の関係が"古い"
    3. 長い不況がもたらしたコスト面の厳しさ
  4. 「2025年の崖」を解消するために重要なポイント
    1. マイグレーションを推進する
    2. IT人材の育成に取り組む
    3. 評価体系を刷新する
  5. まとめ

1.「2025年の崖」とは

経済産業省が発表したDXレポート内で使用された「2025年の崖」の概要について解説していきます。

1-1 経済産業省が提唱した課題

「2025年の崖」とは、2018年に経済産業省が発表したレポート『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』で指摘された、経済成長を妨げる障壁の総称です。

この「崖」を超えられなければ、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があるため、「2025年の崖」は日本の重要な課題と位置づけられています。

また、同レポートでは、この経済損失は2018年の3倍であると報告しています。

なぜ、「2025年」なのかというと、日本で多くの企業が使っている古い情報システム(レガシーシステム)の多くが更新期を迎えるのが2025年だからです。

このとき、技術的にも運用的にも限界に達した旧来のシステムが経済成長の「崖」となってしまうわけです。

そうならないために、大規模な更新、置き換えが必要だと『DXレポート』が警鐘を鳴らしていることになります。

1-2 DXとの切り離せない関係

「2025年の崖」は経済成長の障壁となる「複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存の情報システムの存在」と「IT人材不足」が主な課題として取り上げられています。

これを解決するカギがデジタルトランスフォーメーション(DX)です。

IT、IoT技術を活用してビジネスモデルを変革し、より効率的で革新的な運営を実現するDXは「2025年の崖」を解決するのに有効な対策であり、日本に経済成長をもたらすことになります。

このように「2025年の崖」とDXとは切り離せない関係にあり、多くの日本企業がDXの導入に取り組んでいます。

1-3 「2024年問題」との違い

「2025年の崖」と字面が似ているのが「2024年問題」です。これらは混同されやすいですが、異なるものです。

「2024年問題」とは労働基準法の改正に伴う問題です。労働時間が法的に制限されることで、労働者の健康状況の向上が期待される一方で、人手不足やそれに伴う問題が生じる可能性があるとされています。2024年に適用が始まる時間外労働の上限規制によって、おもに運輸や建設、医療といった業界で発生するといわれています。

また、他にもいくつかの「2024年問題」が指摘されています。

例えば、2024年に日本が歴史上初めて50歳以上の人口が5割を超える国となると予測されている「2024年問題」、

NTT東日本・西日本がPSTN中継・信号交換機をIP網に置き換え、ISDNデジタル通信モードを終了させることから生じる可能性があるとされる電子商取引での「EDI2024年問題」などがあります。

2024年から2025年はさまざまな分野で節目になる年になりそうです。

2.「2025年の崖」で課題とされている6つのこと

「2025年の崖」は、日本経済にとって重大な課題であるとされています。

その主な要素を6つ解説していきます。

2-1 「レガシーシステム」の存在

レガシーシステムとは、古くから使われている情報システムのことを指します。

日本企業の多くで使われている情報システムは、企業の特定のニーズに合わせて個別にカスタマイズされた「専用品」であることがほとんどです。

レガシーには受け継ぐべき伝統といった意味や、遺産、遺物といった意味があり、最近では、業績、実績の意を表すためにも使われます。

しかし、同時に「時代遅れの」「旧来の」といった意味でも使われます。ITの場合、ほとんどのこちらのケースで使われます。つまり、"時代遅れのシステム"ということです。

レガシーシステムの多くはメインフレームと呼ばれる大型のコンピュータです。銀行や企業などの専用システムとして、長年にわたって使用されている多くのシステムが老朽化しています。

そのため、新しい技術やビジネスニーズに対応できないケースが多いと指摘されています。このレガシーシステムが企業のイノベーションや成長を阻害する要因の1つになっているのです。

有効な対策の一つが、既存で利用されているシステムやソフトウェアのデータなどを新しい環境や別の環境に移行・移転するマイグレーション(Migration)です。詳細は4章でご紹介します。

2-2 旧システムの終了(サポート終了)

多くのレガシーシステムは、2025年ごろに技術サポートの終了が予測されています。

サポートが終了してしまうと、システムのセキュリティ更新や機能改善が行われなくなるため、セキュリティリスクが大きなものになります。

そうなると、システムの全面的な更新や置き換えが急務となりますが、急にシステム全体を刷新するのは難しい注文です。

最悪の場合、システムが利用できず、業務停止や中断の事態に陥りかねない問題があります。

2-3 IT人材不足と人材コストの高騰

日本では、IT人材の不足が深刻化しています。とくにDXを理解し、適切に適用できる高度なスキルを持った人材は不足しています。

その結果、人材の確保と維持に関連するコストが高騰しており、企業がDXに取り組み、レガシーシステムから最新の技術へ移行するのが困難になっている現実があります。

IT人材の育成は急務であるといってよいでしょう。

2-4 新技術への対応遅れ

現代のビジネス環境では、クラウドコンピューティング、人工知能(AI)、ビッグデータなどの新技術が急速に普及しています。

こういった先端技術は業務の効率化や新たなビジネス機会の創出に寄与する可能性がありますが、多くの日本企業はこれらの新技術への対応が遅れていると指摘されています。

特に、レガシーシステムを持つ企業は、新技術を取り入れるのが難しい状況にあります。その意味では、レガシーシステムに起因する課題といえます。

2-5 セキュリティリスクへの対応不足

続いてセキュリティリスクへの対応不足です。これもまた、レガシーシステムに起因する課題といえます。

レガシーシステムは最新のセキュリティ基準に準拠していないことが多く、サイバー攻撃やデータ漏洩等に対する防衛力が弱くなっています。言い換えると、セキュリティリスクが高くなっています。

2025年前後に、レガシーシステムのサポートが終了してしまうと、メンテナンスが疎かになり、さらにセキュリティリスクが増大することになります。

2-6 IT市場環境の急変

OpenAIの「ChatGPT」など生成AIの台頭、クラウド環境の急激な普及など、IT市場は、先端技術の進歩とグローバルな競争の激化によって、急速に予測が難しい方向へと変化しています。

新興企業や国際的な競合他社が、先進技術を活用してマーケットに参入してくると、レガシーシステムに依存している日本企業は、変化への対応が難しくなると予測できます。

この急速な市場環境の変化に適応するためには、ITシステムを最新のものにマイグレーションし、ビジネスモデルを変革する必要があります。これがDXということになります。

3.これまでに解決できず「崖」になった理由

「2025年の崖」という深刻な課題がこれまで解決されてこなかった背景には、複数の要因が存在します。

その理由を三つの観点から推測します。これらの要因が組み合わさることで、日本が優先して取り組むべきモンスター課題である「2025年の崖」が発生したといえそうです。

3-1 「変化」を好まない環境

多くの日本企業は、経営側、現場側ともに変化を望まない傾向があるといわれます。

経営観点では、新技術やシステムへの投資はリスクが高く、コストがかかるとみなされる傾向がありました。とくに中小企業では資金やリソースの制約からシステム更新が後回しにされがちだったという指摘があります。

現場側では、既存の業務プロセスやシステムに慣れ親しんでいると、新技術や手法に抵抗があり、学びが進まないことがあるといわれています。

これを上記の『DXレポート』では、既存システム刷新に際し、各関係者が果たすべき役割を担えていない恐れがあると指摘しています。

3-2 ユーザー企業とベンダー企業の関係が"古い"

日本では、ユーザー企業とベンダー企業の関係が長期間、固定化されているといわれています。

そのため、ユーザー企業は新技術やサービスを求めるよりも、これまで付き合いのあったベンダーとの関係を重視する傾向が強まるという指摘があります。

お付き合い重視路線は、見方を変えたら悪いことではないのかもしれませんが、技術革新のペースが遅れ、大概的な競争力が磨けない"ぬるま湯"な環境ができやすい点は否定できません。これがDXの進行を妨げる「崖」になっている可能性があります。

3-3 長い不況がもたらしたコスト面の厳しさ

長引く経済不況が、企業のIT投資を抑えてきた一面があります。

最近では、株価の上昇も伝えられ、改善が見られるかもしれません。

言い換えると、経営側も現場側もコスト削減を最優先の課題としてきた傾向が見られていましたが、景気が改善すれば、この傾向には歯止めがかかることが期待できます。

4.「2025年の崖」を解消するために重要なポイント

「2025年の崖」を克服するには、いくつかのステップを踏んでいく必要があります。その主要なポイントを解説します。

4-1 マイグレーションを推進する

「2025年の崖」を解消させるために、最も重要なのが「マイグレーション」の推進です。

マイグレーションとは既存のITシステム全体、あるいは構成要素を別の新たな環境に移行することです。

新システムにマイグレーション(移行)することで、企業はDXに一歩近づき、業務の効率化、コスト削減、市場競争力向上を図ることができます。

マイグレーションについて詳しくはこちらの記事で解説しています。

マイグレーションには、技術的な問題だけでなく、組織文化や業務プロセスの変革を必要とケースも多く、全社的な取り組みが求められることが多くなっています。

このような状況下で、利用を考えたいのが「第三者検証」です。

外部のシステムインテグレーターやコンサルタントの力を借りて、客観的な視点でヒアリング等の調査を実施してもらい、自社の主観的ではない観点から、データをもとにしたプランニングをともに進めることで、精密なシステム移行計画、つまり、マイグレーションの計画を立てることができます。

4-2 IT人材の育成に取り組む

長期的な視点で、社内のIT人材の育成に取り組むこともポイントになってきます。

「2025年の崖」問題にこだわらず、長期的な視点でDXを推進していくために、IT人材は不可欠です。外部に「完全丸投げ」では、また近い将来に新たな「崖」が目前に現れてしまいます。

リスキリングなどの手法を取り入れ、非IT社員のキャリア開発に取り組むなどして、自社に必要なITスキルを内部に蓄えておくことも、DXを成功させるために重要です。

4-3 評価体系を刷新する

評価体系の刷新も重要です。

評価体系にIT、IoTに関する基準が含まれていないと、テクノロジーの導入や新たなビジネスモデルへの変革を評価することができません。

社内にイノベーションを起こすには「システムができたか」ではなく「ビジネスが推進できたか」を評価する体系を構築することもポイントになってきます。

第三者機関による検証や評価を取り入れて、透明性の高い評価体系を作り、経営層を含む全メンバーがDXの成果を客観的に測定できるよう「見える化」することも大切です。

まとめ

「2025年の崖」とは、2018年に経済産業省が発表したレポート『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』で指摘された、この崖を越えられなければ日本の経済成長は期待できないという障壁の総称です。

この障壁を解決できないと、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があるとされているため、日本の重要な課題と言えるでしょう。

「2025年の崖」問題を解決する切り札が、デジタルトランスフォーメーション(DX)となります。逆の見方をすると、DXの最大の障壁が「2025年の崖」ということもできます。

「2025年の崖」問題を解消することで、日本企業はデジタル化の新たな波に乗ることができるのではないでしょうか。

ITニュース・ITトレンド
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執筆: 大木 晴一郎

ライター

IT系出版社等で書籍・ムック・雑誌の企画・編集を経験。その後、企業公式サイト運営やWEBコンテンツ制作に10年ほど関わる。現在はライター、企画編集者として記事の企画・編集・執筆に取り組んでいる。