現在、世界中でデジタルトランスフォーメーション(DX)が推進されています。日本でも経済産業省がレポート『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』(※)を出して以来、多くの企業がDXに本腰を入れる必要性を感じています。しかし、その本質を知る人は多くありません。ここではDXとは何かということについて説明し、それが開発プロセスとどのような関わりを持っているかについて解説します。
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは何か
デジタルトランスフォーメーション(Digital transformation)はDXと略され、「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念であると定義されています。この概念は2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱されました。
日本では経済産業省が冒頭で紹介したレポートを発表し、もしDXが進まなければ2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある、と警告したのを発端に大いに注目を浴びるようになりました。
現在多くの日本企業がDXの導入に乗り出しています。その本質は、ITそのものを中心としてビジネスや企業の構造を再構築するという点にあります。
従来の企業のIT化とDXとの違い
DXの事例としてよく紹介されるのがファッション通販サイトZOZOTOWNです。ZOZOTOWNは2000年にネット通販に取り組んで以来、アパレル販売を中心に急成長を遂げました。
従来のアパレル企業は実店舗があり、顧客も試着してから購入するのが当たり前でした。これに対しZOZOTOWNは人気ブランドの商品を販売するマーケットプレイスに特化し躍進しました。
従来のアパレルメーカーは自社で服やシューズを開発し、それらを主に店舗で販売するのが当然でしたが、ZOZOTOWNはそれをせず、代わりにクラウドを中心とした通販サイトのサーバー運用が業務の中心に据えられています。これがDXの象徴的な事例です。
多くの企業はITを導入していますが、それは従来業務を効率化するためで、DXとは明確に異なります。DXを実践するということは業務の中心に最先端のIT技術を置くことにより、企業の形態やビジネスモデルすらも変えてしまうことを言うのです。
重要性が増したAI×IoT技術
DXと従来のデジタル化との違いは、AIやIoTが積極的に導入されている点にもあります。
ZOZOTOWNの場合、ZOZOSUITというIoT技術を駆使した機器を顧客に配布し、サイズなどの身体情報を取得することにより、顧客が試着の手間をかけず自分にフィットした衣服を購入できるようにしました。
さらに購入履歴などの蓄積された顧客データはAIや機械学習などを用いて解析され、サービスの改善などに活かされています。
このような手法を用いることによりZOZOTOWNはアパレル業界の常識を覆したのです。
DX時代のシステム開発のプロセス
DXを推進するためにはシステム開発の変革が必要です。かつては「要求定義→基本設計→詳細設計→テスト」というウォーターフォール型の開発プロセスが中心でしたが、DXではDevOpsというシステムの開発と運用が一体となった開発プロセスが中心になります。
DevOpsとは、開発担当(Development)と運用担当(Operations)が互いに協調してシステムの価値を高めていくという考え方です。
運用担当は顧客のニーズや現場の問題点などを把握し、それを開発担当にフィードバックします。開発担当は迅速にそれに対応したシステムへの機能追加や変更を行います。
そのためリリースまでの時間が従来のシステム開発よりも短く、しかも頻繁になることから、開発スタイルとしてはアジャイル開発が中心となります。理由は短期間で新機能を頻繁に実装するためには、その都度細かい仕様書を書いていては間に合わないからです。
DX時代に重要な要素・PoCとは何か
次に重要な要素としてPoCが挙げられます。PoCとは、Proof of Conceptという言葉の略で、日本語に訳すと「概念実証」となります。新しい概念や理論、原理、アイディアの実証を目的とした試作開発によって機能の検証をすることを指します。
従来は、徹底した聞き取りを行い、詳細な設計を行ってから開発を進めていきましたが、それではシステムが完成したころには時代遅れになってしまう可能性があります。
しかし、DX時代はビジネスの変化のスピードが従来に比べて飛躍的に早くなるため社会の変化により素早く対応しなければなりません。そのため、改善のためのアイディアがあればとりあえず試し、良ければ機能として採用し、だめならばまた別なアイディアを検証。これがPoCであり、主にAIやIoTで用いられる開発スタイルです。
PoCをDevOpsと組み合わせることにより飛躍的にビジネス改善のスピードをアップさせることができます。
おわりに
DXは一言でいうのならデジタルを中心にした社会の再編成です。既にこの変化は社会のあらゆる面で起こっており、人々は発想の転換が求められています。それは開発者も例外ではありません。むしろ開発者こそ「新しい時代には新しい開発方法が必要だ」という認識を持つことが求められているのです。
参考
(※)DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~|経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html