私たちの生活に欠かせないIT・IoT技術。これが2025年に転換期を迎えるという予測があります。
根拠になっているのは、以前からいわれている「2025年の崖」の存在とWindows 10のサポート終了という大きな節目にくわえて、AI技術やクラウドコンピューティングなど、様々な分野で進化、発展が予想されている点です。
情報通信技術のリサーチをしているガートナーなどからも、多くの予想が出されています。
そこで本記事では、報道やネットで得られる情報を元に、Qbook独自で2025年のIT、ICTのトレンドキーワードを推測してみたいと思います。
- もくじ
1.「2024年」はどんな年だったか?
日本漢字能力検定協会が選んだ2024年の「今年の漢字」は「金」でした。
2023年の「税」に続き、二年連続で「お金」を連想させる漢字だったことに、最近の大きな流れを感じた方も多かったのではないでしょうか?
この「金」には、金には「光」と「影」の二つの意味が込められているとのことでした。
「光」は、日本選手の金メダル獲得に湧いたパリオリンピックの開催、「50-50」など数々の金字塔を打ち立てた大谷翔平選手の活躍、更には佐渡金山の世界遺産登録といった明るい話題での「金(キン)」が挙げられます。
一方で「影」は裏金問題や闇バイトなど「金(かね)」が絡む犯罪の多発など、暗いニュースのことでした。物価高騰による家計の圧迫も、人々の生活に影響を与える「金」の問題として話題になりました。
IT業界では、生成AIブームが依然として続く一方、一部でその停滞や失速が報じられるなど、やはり「光」と「影」が交錯する1年だったといえるかもしれません。
光側は、KDDIと「ELYZA」の提携やNTT版大規模言語モデル「tsuzumi」といった国産生成AIの話題が増えたり、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展が伝えられたりするなど、技術革新への期待が高まったことがあげられるでしょう。
SpaceXの「Starlink」や「Kuiper」など、衛星を利用した通信環境の展開も目立ちました。年末にはStarlink衛星とスマホで直接通信可能な新サービスをKDDIが開始すると報じられるなど、衛星を経由したインターネットサービスの進化が目に見えるようになってきたように感じられます。
影側は、ランサムウェアなどのサイバー攻撃が増加し、出版大手企業が夏には大打撃を受けた報道もありました。そして、DXの停滞も同時に伝わるなどしており、「光」と「影」をどう見るか、判断に迷わされた一年だったということもできるかもしれません。
昨年公開したトレンド予測記事では、2024年に使われそうなキーワードを予測してみましたが、細部について無視すれば、案外いい線いっていたのでは......とは思いますが、少々ツメが甘かったかもしれません。今年の予測も、同様に読んで楽しんでいただけたら幸いです。
2.2025年のIT・IoT業界に影響が大きいキーワード
2-1 「2025年の崖」はどうなる?
経済産業省が2018年から警鐘を鳴らしてきた「2025年の崖」も、いよいよ2025年を迎えます。本当に「崖」が姿を現わすのか注目されています。
「2025年の崖」とは、簡単にいえば、多くの企業で使用されているITシステムが古くなりすぎて、維持が難しくなる状況のことです。企業だけでなく、社会にも影響を与えかねない深刻な問題となる可能性が指摘されています。
例えば、銀行のATMシステムや航空会社の予約システムなど、私たちの生活に関わる重要なシステムのうち、20年以上前の古い技術で動いているものは改修が難しくなってきています。2025年、古いシステムの刷新は順調に進むのか、注目したいところです。
2-2 「Windows 10サポート終了」がもたらす影響
ある意味、「2025年の崖」に類似した節目系の話題といえます。2025年10月14日、現在、多くの人々が使用しているWindows 10のサポートが終了します。これは単なるOSの更新以上の影響をもたらすと考えられています。
サポート終了後も使い続けることは可能ですが、セキュリティ更新プログラムが提供されなくなるため、ウイルスや不正アクセスのリスクが高まります。企業では大量のパソコンを一度に入れ替える必要があり、費用面での負担も大きくなります。また、古いソフトウェアが新しいOSで動作しない可能性もあり、業務に影響が出ることも考えられます。
企業や組織によっては、Windows10からWindows11ではなく、Linux系のOSなどに乗り換える可能性もあります。いずれにせよ、10月が近づくにつれ、PCハード市場が大きく影響を受けそうなトピックといえます。
3.進化する生成AI・人工知能関連キーワード
3-1 「生成AI」の新たな展開
2025年、生成AIは、現在よりもさらに高度な能力を持つと予想されています。
例えば、より自然な会話や、複雑な画像・動画の作成、専門的な文書の作成など、より幅広い分野で活用されるようになるでしょう。反面、なんらかの政治的な規制等がかかる可能性もあり、動向からは目が離せません。
注目したいのは、専門家の知見を活用した支援機能の進化です。例えば、医療相談や法律相談といった専門性の高い分野で人々を実用レベルでサポートするものの登場が期待されているといえるでしょう。
3-2 「エージェンティックAI」は広まるか?
生成AIの進化のひとつとして、人間の指示を待つだけでなく、自ら考えて行動するAI=「エージェンティックAI(Agentic AI)」への期待は大きくなっています。
具体的に挙げると、スケジュール管理やメール対応、情報収集などを、人間に代わって自律的に行えるようになれば、業務効率は大幅に改善します。
2025年は、エージェンティックAIが私たちのビジネスシーンや生活に入り込んでくる可能性があります。例えば、会議の議事録が自動で作成されたり、複数の情報源から自動的に必要な情報を収集・分析して調査レポートを作成したりすることができるようになるかもしれません。
3-3 「AIガバナンス」を巡る動きに注目
「AIガバナンス」とは、AI技術の開発や利用に関する規則やガイドラインのことです。AI技術が社会に与える影響が大きくなるにつれ、その使用における公平性や安全性の確保が重要になってきています。
生成AI関連産業の競争力を強化しつつ、常識やルールに適合しながら社会へと浸透させるための規制の制定、標準化、ガイドライン、監査等といった仕組みづくりが求められており、2025年には、日本のAIガバナンスの在り方が様々な形で問われることになります。その動向からは目が離せません。
具体例でいえば、AIが企業の採用選考で使われる際の差別を防止するための施策や、自動運転車の事故における責任の所在の明確化といった施策など、様々な個別の課題に対するルールづくりが進められることになり、これは簡単ではないと予想されています。
近い将来には、国際的な基準が確立され、企業はそれに従ってAIシステムを開発・運用することが求められるようになる可能性があります。
4.クラウドコンピューティングは新時代へ
4-1 「マルチクラウド」「ハイブリッドクラウド」は一気に加速
「マルチクラウド」とは、複数のクラウドサービスを組み合わせて使用することです。例えば、データの保存はAmazonのサービス、計算処理はGoogleのサービス、というように使い分けることをいいます。
「ハイブリッドクラウド」は、自社で保有するサーバー(オンプレミス)とクラウドサービスを組み合わせて使用する方式です。
2025年には、短期間でDXを進展させるための「切り札」的な意味合いでこれらの利用がさらに一般的になるでしょう。企業は利便性を確保しながら、できるだけコストをかけずに、目的に応じて最適なクラウドサービスを選択し、複数を組み合わせたシステム運用を目指す、という流れが加速するのではないでしょうか。
ただ、マルチクラウド化、ハイブリッドクラウド化が進むことで、システムが複雑化してしまい、セキュリティリスクの問題が浮上する恐れがあるという指摘もあります。
4-2 「クラウドネイティブ技術」の進化
「クラウドネイティブ(Cloud Native)」とは、クラウド環境で最適に動作するように設計されたシステムやアプリケーションのことをいいます。従来のシステムをクラウドに移行するのではなく、最初からクラウドでの利用を前提に作られているため、オンラインでの動作速度が速く、快適に扱えることや、高いセキュリティが期待できます。
2025年は、クラウド化がより進行するにつれ、クラウドネイティブ技術がさらに注目を集めるようになるでしょう。
4-3 「エッジコンピューティング」の広がり
「エッジコンピューティング(Edge Computing)」とは、データの処理をクラウド上ではなく、データが発生する場所の近く(エッジ)で行う技術です。
例えば、防犯カメラの映像を分析する際、映像データをクラウドに送信せずに、カメラの近くに設置された小型コンピュータで処理することをいいます。
この技術により、データ処理の速度が向上し、通信コストが削減できます。2025年には、自動運転車やスマート工場など、リアルタイムの処理が必要な場面で広く活用されると予想されており、総務省も「情報通信白書」で市場の拡大を予想しています。
5.サイバーセキュリティの重要度が増加する!?
5-1 「量子暗号」関連技術の進化と広がり
「量子暗号」は、量子力学の原理を利用した新しい暗号技術です。従来の暗号は、非常に複雑な計算を使って情報を守っていましたが、量子暗号は物理法則を利用するため、理論上は完全に安全とされているのが特徴です。
2025年には、特に重要な通信(金融取引や政府間通信など)で実用化が進むと予想されています。
今後、量子コンピュータが発展することで従来の暗号が解読される可能性が高くなってきたといわれており、一部で不安が広がっています。その中で、新たな情報保護の手段のひとつとして期待が急激に高まっていくのではないでしょうか。
5-2 「ディスインフォメーションセキュリティ」が注目される
「ディスインフォメーション(Disinformation:偽情報)セキュリティ」とは、フェイクニュースなど意図的に作られた偽の情報から個人や組織を守る対策と技術の総称です。
SNSの普及やAI技術の発展により、偽情報の作成と拡散が容易になってしまいました。そのため、ディスインフォメーションセキュリティの強化は社会にとって急務の課題となっています。
AIなどを活用した偽情報の検出システムの開発が進み、偽情報対策ツールなどの登場の際に注目を集めると考えられます。
6.スマートテクノロジーが急展開する!?
6-1 「デジタルツイン」の実用化と応用
「デジタルツイン(Digital Twin)」とは、現実世界の物体や環境をコンピュータ上で再現する技術です。2002年に米ミシガン大学のマイケル・グリーブス博士が提唱しました。
これまでのシミュレーション技術とは一線を画する、高いレベルで環境をデジタルで再現し、高いリアルタイム性、精度でのデータ収集・分析を可能にするといわれています。
AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、IoTといったデジタル技術の進化がデジタルツインをより高度なものに進化させています。
製造業での新たな設備管理や都市計画だけでなく、医療分野での人体モデルなど、様々な分野で活用が広がると予想されています。メリットは、実際の環境に影響を与えることなくシミュレーションができるため、より効率的な開発や管理が可能になることがあげられます。
6-2 「スマートシティ」構想は進展するか?
「スマートシティ(Smart City)」とは、IoTやAI技術を活用して、都市の様々な機能を効率化・最適化する未来都市の構想です。交通、エネルギー、防災、環境など、多くの分野でデジタル技術を活用します。
DXが進むにつれてスマートシティも増え、センサーやカメラを使った交通管理システムや、効率的なゴミ収集システム、災害時の避難誘導システムなど、具体的なサービスの実用化が進むと予想されています。
ただし、プライバシーの保護や費用負担の問題など、解決すべき課題も残されており、実際にスマートシティを推進するエリアへの注目が集まりそうです。
6-3 再注目の「グリーンIT」
「グリーンIT(Green IT)」とは、環境に配慮したIT技術や取り組みのことです。データセンターの消費電力削減や、IT機器のリサイクル、ペーパーレス化などが含まれます。
グリーンITは、SDGs(地球規模の課題解決を目指す17の目標)の達成に大きく寄与すると考えられています。
1992年に米国環境保護庁(EPA)が「Energy Star」プログラムを立ち上げ、エネルギー効率の高い製品にラベルを付ける取り組みを開始したことがグリーンITの先駆けとなりました。
2025年は、多くの企業がグリーンITへの投資を増やすと予想されています。例えば、再生可能エネルギーを活用したデータセンターの建設や、環境負荷の少ないIT機器の開発が進むと考えられます。
6-4 「空間コンピューティング」が人気に?
「空間コンピューティング」は、現実の物理空間とデジタル空間を融合させる技術です。ARやVRを発展させた技術で、3D空間内でより自然な形でデジタル情報とやり取りすることができます。
上述したデジタルツインと似た概念ですが、こちらはよりユーザーの直接的な体験や操作に近い技術です。
そのため、教育分野での3D教材の活用や、医療分野、エンターテインメント分野での新しい体験の提供などといった場面での活用が進む可能性があります。
代表的なツールとしては「ARグラス(メガネ)」や「AIグラス(メガネ)」があります。
富士通と帝京大学がXRや空間コンピューティング、生成AIを活用し、生活習慣改善を促進するUXの共同研究を開始(富士通・帝京大学)
6-5 「スマートロボット」が売れる?
「スマートロボット」とは、AI技術を搭載し、周囲の状況を理解して自律的に行動できるロボットのことです。
従来の産業用ロボットとは異なり、人間との自然なコミュニケーションや柔軟な作業が可能です。すでにファミリーレストランでスマートロボットが食事を提供するなど、普段の生活でも目にするようになっています。
2025年には、医療・介護分野での患者サポートや、製造業での部品組立や検査、小売業での接客、自宅での独居者とのコミュニケーションなど、人手不足が深刻といわれる分野での活用が広がると予想されています。
6-6 「脳機能強化技術」が広がる?
「脳機能強化技術(Brain-Computer Interface, BCI)」とは、脳と外部機器を直接つなぐ技術です。
脳波や神経信号を読み取り、考えるだけでコンピュータやロボットを操作したり、逆に脳に情報を送り込んだりすることができるようになる技術です。まさに"サイバーパンク"です。
数年前から注目を集めており、まず医療分野での実用化が進むと予想されています。例えば、手足が不自由な方の動作支援や、失われた感覚機能の回復などに活用される見込みです。
将来的には、記憶力や学習能力の向上にも応用されていく可能性があるといわれています。
7.モビリティ技術の革新が進む
7-1 「自動運転レベル4」実現へ
「自動運転レベル4」とは、特定の条件下で人間が運転操作をまったく必要としない自動運転のレベルのことです。
高速道路や特定の地域など、限定された環境では完全な自動運転が可能になる夢の技術とされています。
まず、公共交通機関や物流分野での実用化が始まると予想されています。例えば、決まったルートを走る路線バスや、深夜の高速道路を走るトラックなどから導入が進むでしょう。
これにより、運転手不足の解消や交通事故の減少が期待されています。また、流通業界が悩まされている人手不足の問題にも有効な技術だとされています。
7-2 「コネクテッドカー」が"深化"する
「コネクテッドカー」は、インターネットに常時接続されている自動車のことです。車両の状態や走行データをリアルタイムで収集・分析し、最適な運転支援を行うことができます。
エッジコンピューティング技術と組み合わせることで、より高速で信頼性の高い処理が可能になるとされており、事故防止や渋滞回避、車両の予防保守など、様々なサービスが実用化されると予想されています。
自動運転技術との連携により、より安全で快適な移動を実現するだけでなく、地方の移動の「足」の確保にも役立つとされています。コネクテッドカーの普及がどれくらい進むか注目したいところです。
ただ、便利な一方で国際的な「経済摩擦」の原因にもなりかねない点、コネクテッドカーのセキュリティ上の不安などが懸念されています。
7-3 「SoC」の進化が止まらなくなる
「SoC(System on Chip)」は、CPUやメモリ、通信機能など、複数の機能をひとつの半導体チップに統合したものです。スマートフォンや自動車など、様々な機器で使用されていて、もはや"常識"ともいる技術のひとつです。
2025年には、自動運転やドローン制御用のSoCがさらに進化し、より高度な処理が可能になると予想されています。
AIによる画像認識や判断処理をリアルタイムで行えるようになり、自動運転技術の実用化を後押しするでしょう。
エッジコンピューティングとの関係も密ですし、何よりもスマートフォンの核となる技術のため、より高度なSoCの登場が話題となることが予測できます。
まとめ:2025年は「動く」年へ
2025年は、「2025年の崖」やWindows 10のサポート終了など、IT業界全体が大きく動く年と考えられています。
また、AI技術の発展、クラウド新時代、サイバーセキュリティの強化、スマートテクノロジーの展開、そしてモビリティ技術の進化など、様々な分野で大きな変化が予想されています。
これらの変化は、私たちの生活や働き方を変える可能性を秘めているといえるでしょう。
今回、予測キーワードが多くなったのも、2025年が「動く」年になる表れだと勝手に感じています。