さまざまな現場でQA業務に携わっている方々の「声」をお届けする『隣のQAに聞く!』。「DX」といったキーワードに代表される社会のデジタル化が推進されている今、ソフトウエアの品質への関心も高まりを見せており、QA・品質向上の重要性が増しています。そんな中、他のチームでは、どのようにQA業務を実施しているか、気になっているエンジニアの方も多いのではないでしょうか?
本記事では、QAに取り組むきっかけや「モチベーション」などを伺い、皆さまにお伝えします。今回はSansan株式会社の横田明浩さんに同社のQA活動についてお話いただきました。
※実際のインタビューはオンライン形式で実施しています。写真撮影時のみマスクを外しています。
今回インタビューを受けてくださった方

- 横田 明浩 氏
Sansan株式会社 技術本部 Quality Assuranceグループ
グループマネジャー
開発エンジニアとして営業DXサービス『Sansan』や名刺アプリ『Eight』などの開発に携わった後、2019年9月、『Sansan』QAチームの発足に立ち会う。現在は、同社プロダクトのQAを担う技術本部 Quality Assuranceグループのグループマネジャーとして同社QA業務を牽引している。
QAに挑戦したのは「開発者にのびのびと開発してもらいたかった」から
――QAを担当するようになったきっかけは?
横田 明浩氏(以下:横田氏):私の場合は「たまたま」です。Sansan株式会社のほぼ創業期からWeb開発のエンジニアとして在籍して 10年がたち、会社の体制変更の中で上司に打診されたのがきっかけでした。それまでの開発で培ったサービス全体の業務知識があったので、広い方面に目を配ることを期待されたのだと思います。
話を聞いて、今いるメンバーがのびのびと開発できるようにするために自分の知見を提供したいと考えるようになり、QAに挑戦してみようと考えました。飾った言い方をすれば、今まで作り込んできたものを引き継いで面倒を見てくれるみんなへのある種の恩返しという感じかもしれません。
――品質保証チームを作った背景にはどのようなことがあったのでしょうか?
横田氏:当時、Sansanプロダクトには品質保証の機能が存在していませんでした。開発者の自助努力で品質が維持されていたのです。しかし、プロダクトのフェーズとして徐々にユーザーが増加する状況にあり、品質保証を役割とする専任者がいないと、開発が回らなくなるだろうという懸念がありました。その流れで品質保証チームが作られたわけです。ですから、今後は社内での重要性が増す一方だと理解しています。
――現在はどのような体制でQA活動に取り組まれていますか?
横田氏:当社はマルチプロダクト体制で、複数のプロダクトを同時に開発しています。まだ、全てのプロダクトにQAが入ることができておらず、各プロダクトに専任のQAメンバーをつける体制を整えているところです。現在は、全社の事業の優先度とQAチームの体制が合ったタイミングで、入れそうな順で対応しています。
チームは、プロダクトごとに正社員と業務委託の方で組んでいます。プロダクトによって異なりますが、チームは2人から7~8人前後といった規模感ですね。トータルで30名ほどのメンバーがいて、プロダクトの拡大に応じて増え続けています。
――他社のQA活動と比べて、御社ならではの「ここが違う」というポイントがありましたら教えてください。
横田氏:他社の体制について詳しいわけではないので、あくまでも自分が感じていることになりますが、当社は先ほど話したマルチプロダクト体制で、複数のプロダクトがいくつものフェーズで成り立っているのがポイントだと思っています。「0→1」のフェーズから、「1→10」「10→100」のフェーズまでのプロダクトが存在しているのです。
くわえて、開発文化がプロダクトによって異なっています。例えば、アジャイル寄りのスタイルで開発を進めているところもあれば、ウォーターフォールに近いスタイルで開発を進めているプロダクトもあるといったことです。さらにビジネスモデルも「BtoB」「BtoC」があります。このように多種多様なバリエーションのプロダクトのQAにチャレンジできるのが当社QAの面白いところですね。
問題を未然に防ぐことができたとき「やりがい」を感じている
――現在、QA業務をされていて、どんなときに「やりがい」を感じますか?
横田氏:私は現在、マネジメントの役割を担っています。実際には、実務に当たるのが好きなので現場よりの話になりますが、案件の仕様などの内容を聞いた段階で「これが抜けているのでは?」といった点を見つけることがあります。
テスト開始前に考慮漏れや問題点が指摘できて、問題を未然に防いでテストに持っていけると「やったぞ」と思います。開発があらかじめ問題を把握し、うまく回る形に持っていけるとうれしいですし、やりがいを感じますね。
――QA業務を進めていく上で大事だと考えておられるポイントは何ですか?
横田氏:経験則になってしまいますが、不具合はテストをしてないところから出ることが多いと感じています。そういう潜在的な不具合が、あとから見つかって問題になると、開発側は直す以外の選択肢が取りにくくなります。そのため、QAチームから気をつけるべき点の情報を出して、開発者がその状況に能動的に対応できる状態を作っていきたいと思っています。
自分たちで主導権を持ってコミュニケーションを取ったり、開発したりできる状況に持っていってあげたいと思っています。
――現在、課題だと感じられていることを教えてください。
横田氏:これはマネジャーとしての視点になりますが、メンバーそれぞれの進捗状況や情報を簡単にキャッチアップできる状況を作る必要があると思っています。
これまでは、誰が何をやっているかは担当者と直接コミュニケーションするだけでわかるケースが大半でした。しかし、プロダクトの規模が大きくなり、その数もメンバーも徐々に増えて、話を聞かなければいけない人が増えてきたのが理由です。
何かしらのWEBサービスを利用して、ガントチャートなどを使って進捗状況を表現し、直接、会話をしなくてもある程度の全体状況がキャッチアップできる状態を作り、属人性を薄くしていこうとしています。今の機動力を落とさない開発スタイルとQAのスタイルを作って、備えおくことが大切です。皆がパフォーマンスしやすい状況を作っていこうとしています。
QAが「何か役に立つ」または「プラスの意味を持つ」と認識してもらう
――2019年からQA業務への取り組みを始めたころ、苦労されたことはありましたか?
横田氏:私の場合、QAと何の関わりもない状態からスタートしています。最初に「QAはどう?」と上司から打診されたとき「QAって何をするんだろう?」と思いました。そのため、どこから手をつけて、どう知識を得ていけばいいのか分からず、最初は苦労しましたね。
――社内にあったQAに関する資料を読み込むことから始めたそうですが、どのような資料だったのでしょうか?
横田氏:私がSansanのQAを立ち上げたことになっていますが、実は、その前にQA活動を試みたことがあります。当時私はQAをやってもらう側でしたが、過去のQA活動における報告資料が百ページ超に渡って残されており、そのとき担当者がどういったことをやろうとしていたかの一端を知ることができました。以前の試みは結局、断念することになったので、何がボトルネックなどになっていたのかを探るのに使いました。そういった学びの結果として、自分たちは、まず、いきなりプロダクトのすべてのQAを巻き取るのではなく、できるところから無理をしないで少しずつやっていくことにしました。
――QAチームの立ち上げ時に他に何かされましたか?
横田氏:QAに関する施策について、まず「品質という言葉を聞いて、何が課題と思う?」と開発メンバーにアンケートを採りました。何回か実施して、深掘りした方が良さそうな領域はさらに追加のアンケートをしています。
――社内のヒアリングをきめ細かくされた理由はなんですか?
横田氏:はじめから「品質とはこうあるべきだ」と大上段に構えて、何かしらのプロセス変更を求めることもできたと思います。しかし、それをやってしまうと、何のためにQAをするのかといった目的が不鮮明になる気がしました。それよりも開発業務に対してQAが「何か役に立つ」とか「プラスの意味を持つ」と社内で認識してもらいながら、QAの取り組みを進めていくことを優先したのです。
最初に、皆が何に苦しんでいるのかといったことや、何を良くしたいのかを明確にすることからQA活動に入っていくと決めていました。
――社内のニーズや「お困りポイント」を探り、ソフトランディングしていったのですね。
横田氏:そうです。何もニーズがないところで「これやるぞ!」と言っても「好きにやれば?」と返されるだけです。できるだけ多くの人々に協力してもらう方が良いですし、いざというときに1人で頑張るのはキツいと思いました。そのため、まず、皆が困っていて、受け入れられやすそうなことから手をつけていくことを考えたわけです。
テスト業界やアカデミックな場で使われている「用語」を学ぶ
――ご自身の"学び"はどうされましたか?
横田氏:自分自身の勉強に関しては、当初は勉強する時間が取れたので、書籍を多く読んだり、ネット情報を漁って調べたりして学びました。資格を取ろうと考えて「JSTQB(Japan Software Testing Qualifications Board) 認定テスト技術者資格」と「JCSQE(初級ソフトウェア品質技術者資格試験)」の勉強を両方とも進めました。
「品質」に関してテスト業界やアカデミックな場で使われている用語を知り、「どういう言葉でQAの話題が語り合われているのか」を理解しながら少しずつ知識を身につけていきました。専門用語を知らないと業務委託の方々をはじめとした、外部の方々と話をしたり、QAのマネジメントをしたりすることはできないと考え、ちゃんと理論武装できるよう、まず理解するといったアプローチで学んでいきました。
――そのとき読み、学んだ本で印象に残っているものがありましたら、紹介をお願いします。
横田氏:まず『この1冊でよくわかる・ソフトウェアテストの教科書』(SBクリエイティブ)です。この本はバルテスさんの本ですね。別に意図はありません(笑) たまたま最初に手に取ったのがこの本でした。この本を学びのベースにしています。本の要約をまとめて、そこから勉強を進めていきました。
最近読んだ本で印象に残っているのは、Janet GregoryさんとLisa Crispinさんが書いた『Agile Testing Condensed Japanese Edition』の日本語訳です。
もう一冊がGoogleのソフトウェアがどうテストされているかが解説されている『テストから見えてくるグーグルのソフトウェア開発』(日経BP)です。
――積極的に書籍からも情報収集をされているのですね。
横田氏:私はゼロから始めたので、人の話についていけるレベルになるまでは、勉強していかないとどうにもならないと感じていたので、取り組み始めたころは、集中的に学んでいました。自分のエンジニアとしての経験と結びつけて「たしかに、こういうふうに考えるよな」と頷きながら書籍を読み進めていたことをよく覚えています。
QA担当者はいろいろなことに好奇心を持っておくことが大切
――QA業務にはどんな人が向いているとイメージされていますか?
横田氏:実務においては、やはり細かいところに目がいく視野の広さがあり、一つ一つの仕事を丁寧にできる人はテスト業務に向いていると思います。ただ、一方で、そこに重きを置きすぎるのもどうかな? と感じることもあります。もちろん、それは尊いことですが、私が元々エンジニアだということもあるのか「もっと楽しようぜ!」と思うからです。もっと簡単にできる方法があると思います。何か面倒くさいと思う気持ちを原動力にして、こうしたら同じ品質で省力化ができるといったように考えられると良いですね。
――省力化という意味では、今後、テスト自動化に取り組んでいかれるのでしょうか?
横田氏:はい。テストの自動化はこれから先のテーマの一つになっていくと考えているところです。例えば、現時点でリグレッションテストを手動でしていますが、プロダクトの規模が大きくなってくると10日ほどかかってしまうことがあります。これを省力化する意味で自動化は有効です。自動化にあたっては、私のエンジニアとしての経験も多少は使えたらいいなとは思っています。
――QA業務に取り組む前に「こんなことをしておくと役立つ」ことをお教えください。
横田氏:QAで語られる一般的な知識とかテスト手法などを学んでおくと損はないと思います。ほかには抽象的かもしれませんが、いろいろなことに好奇心を持っておくことが必要な気がします。例えば、今、目の前で動いているものがどういう仕組みで動いているのか、裏で何が動いて実現されているのかといったことです。
また、目の前に動いているものを普通に操作したらこうなるけれど、ちょっと違う操作してみたらどうなるのか、といった好奇心を失わずにいろいろ試してみると視野が広がったり、業務知識を培ったりすることができるのではないかと思います。
QAは、やってみたら案外、面白い
――今後、QA業務を通じて達成したいことがございましたらお教えください。
横田氏:達成したいことは、ちゃんとしたモノを世に送り出すために、今の事業をより良い方向に持っていくことです。私たちQAチームも評判の良いプロダクトの裏側を支えたことが自慢できるような状態にしていきたいと思っています。
――最後、QA業務に興味をお持ちの方に向けてメッセージをお願いいたします。
横田氏:QAは、やってみたら案外、面白いよと伝えたいですね。何かチャレンジやジョブチェンジしてみようと思っている人には、ちょうど良い場所かもしれないと思います。当社の宣伝を少しさせていただくと、先ほど話したテスト自動化に取り組むポジションを募集中です。どういった形であれ、他の場所でQAをされている方々とも一緒にテスト業界を盛り上げていきたいと思っています。