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開発技法・工程 2024.02.22
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イテレーションとは?アジャイル開発におけるメリットやポイントを解説

監修: 江添 智之

バルテス・ホールディングス株式会社 R&C部 副部長

イテレーションとは?アジャイル開発におけるメリットやポイントを解説

ソフトウェア開発において、イテレーションという言葉を耳にする機会が増えているのではないでしょうか。イテレーションは、昨今普及しているアジャイル開発に欠かせないものです。

今回は、アジャイル開発におけるイテレーションとは何かを解説するとともに、メリットや成功のためのポイントまでご紹介します。

もくじ
  1. イテレーションとは?スプリントとの違い
    1. イテレーションとは
    2. イテレーションとスプリントの違い
  2. アジャイル開発におけるイテレーションのメリット
    1. 手戻りを抑制できる
    2. 顧客の要望を素早く反映できる
    3. 開発メンバーの成長につながりやすい
  3. イテレーションを取り入れる前にすべきこと
    1. リリース計画を立てる
    2. イテレーションの期間を設定する
  4. イテレーション成功の3つのポイント
  5. まとめ

1.イテレーションとは?スプリントとの違い

この章では、イテレーションの意味や、混同されやすいスプリントとの違いについて解説します。

1-1 イテレーションとは

イテレーションとは、短いサイクルの開発を反復するアジャイル開発において、一つひとつの開発サイクルの単位を指す言葉です。

イテレーション.png

アジャイル開発では、ウォーターフォール開発でいうところの「要件定義→設計→実装→テスト」といった一連の工程を1サイクルとして、開発サイクルを繰り返していきます。このサイクル一つひとつがイテレーションです。

イテレーション1の完了後にイテレーション2を開始、その完了後にイテレーション3を開始といった流れで進めます。

イテレーションは、「反復」や「繰り返し」を意味する英語の「iteration」に由来する言葉です。要件定義・設計・実装・テストといった流れを繰り返すことから、イテレーションと呼ばれます。

1-2 イテレーションとスプリントの違い

イテレーションと同じく開発の1サイクルを指す言葉に、「スプリント」があります。スプリントは、アジャイル開発のフレームワーク「スクラム開発」における開発サイクルの単位です。スクラム開発ではスプリントという言葉を使うことが一般的ですが、イテレーションと意味上の大きな違いはありません。

また、イテレーションやスプリントの1サイクルあたりの長さは、開発チームにより変わります。目安として、「スクラムガイド」ではスプリントの期間を「1か月以内」、「Agile Alliance」ではイテレーションの期間を「1〜4週間程度」としており、大きな差はありません。ただし開発チームによっては、上記よりも1サイクルを長期間に設定する場合があります。

2.アジャイル開発におけるイテレーションのメリット

アジャイル開発でイテレーションというサイクルを繰り返すことは、多くのメリットをもたらします。
アジャイル開発におけるイテレーションの主なメリットは、次の3つです。

2-1 手戻りを抑制できる

1サイクルの期間が比較的短いイテレーションであれば、開発途中で追加対応が発生した場合でも手戻りの工数を抑制しやすいでしょう。

従来のウォーターフォール開発では1サイクルが長期化しやすく、開発途中の仕様変更や不具合混入などによる手戻りも増大になります。一方、アジャイル開発における1イテレーションの長さは、前述のように1~4週間程度と比較的短期です。

また、開発内容は機能などで細分化されるため、1イテレーションあたりの開発量はウォーターフォール開発ほど多くはなりません。開発をイテレーションという単位で細かく区切ることで、手戻りのリスク低減につながります。

2-2 顧客の要望を素早く反映できる

短期間のイテレーションごとに成果物をリリースできるため、顧客の要望を素早く反映できます。

ウォーターフォール開発では1サイクルの期間が比較的長くなり、リリース間隔も空いてしまいます。次の開発サイクルで顧客の要望に対応するのでは、顧客はすぐに要望通りのソフトウェアを利用できません。とはいえ、進行中のサイクルで対応するのでは、前述のように多くの手戻りが生じます。

一方、アジャイル開発の場合は次のイテレーションが始まるまでの期間は長くても4週間程度です。そのため、顧客から新たな要望が発生したとしても、次のイテレーションで素早く対応できます。

2-3 開発メンバーの成長につながりやすい

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各イテレーションの終了時に振り返りを実施すれば、開発メンバーの成長につながりやすくなります。開発における振り返りは1サイクルの終了時に行うことが一般的です。しかし、ウォーターフォール開発では1サイクルが長期化しやすいため、頻繁に作業プロセスを見直す時間が取れません。

一方、アジャイル開発では短期間のイテレーションごとに振り返りを実施できます。また、見つかった問題点に対する改善策を、次のイテレーションですぐに実践することが可能です。振り返りと実践をイテレーションのたびに行えば、開発メンバーの継続的な成長につながるでしょう。

3.イテレーションを取り入れる前にすべきこと

イテレーションを取り入れる際は、事前に準備する必要があります。イテレーションを取り入れる前にすべき2つのことを把握しておきましょう。

3-1 リリース計画を立てる

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イテレーションを取り入れる前に、リリース計画を立てましょう。イテレーションをともなうアジャイル開発であっても、顧客の要望を落とし込んでリリースしていくことは変わりません。無計画なリリースにならないよう、いつまでに何をリリースするのか明確にしましょう。

まずは、顧客の要望をもとに開発すべき項目を洗い出し、それぞれの難易度や工数を見積もります。そこから全体のボリューム感を把握し、何回のイテレーションで全てをリリースするか検討しましょう。顧客から提示された期日に収まらないのであれば、納期の調整が必要です。

さらに、各イテレーションで対応する開発項目や、それぞれの担当者も決めておく必要があります。実際には、進捗の遅延や緊急対応の発生なども考えられるため、イテレーションの進行中にもリリース計画は都度見直しましょう。

3-2 イテレーションの期間を設定する

イテレーションの期間は、開発チーム内で適切に設定しましょう。
前述のように、1イテレーションあたりの期間の目安は1〜4週間程度と幅があります。期間が短すぎると、遅延が多発したり開発メンバーの負担が増大したりするでしょう。とはいえ期間が長すぎると、イテレーションのメリットが小さくなります。
イテレーションの期間に影響する主な要素は、以下の通りさまざまです。

・全体のリリース期限
・全体の作業ボリューム
・開発メンバーのスキルや生産性
・顧客の要求の変わりやすさ

多くの要素を加味して、イテレーションの期間を検討しましょう。

4.イテレーション成功の3つのポイント

ポイントを押さえることで、イテレーションの成功につながりやすくなります。ここでは、イテレーションを成功させるためのポイントについて解説します。

① 開発ペースを保てる期間を設定する

イテレーションの期間は、一定の開発ペースを保てる長さに設定しましょう。期間のばらつきが大きいと開発ペースが乱れやすくなり、メンバーの負担が大きくなります。開発ペースを保つためには、各イテレーションの開発量に偏りがないよう配分することも重要です。

基本的には、イテレーションの期間をむやみに変えるべきではありません。ただし、ベテランの開発メンバーが抜けるなど、大きな変化が生じた場合はイテレーションの期間も見直しが必要です。

② 振り返りをしっかり実施する

振り返り.png

各イテレーションの終了時には、開発チーム内で振り返りをしっかり実施しましょう。遅延なく成果物をリリースできたとしても、業務プロセスに全く問題がなかったとは限りません。振り返りを通して問題点を検出すれば、次のイテレーションで改善策を実践できます。

もちろん問題点だけでなく、得られた成果や良かった点も振り返りましょう。成果を実感できることで、モチベーションの向上につながります。

③ 自動化できる作業は自動化する

自動化できる作業は自動化することもイテレーションをスムーズにするためには大切です。短期間のイテレーションごとに同様の工程を繰り返すアジャイル開発には、冗長な手作業が発生しやすい側面もあります。非効率的な手作業が多いと、イテレーションを繰り返すたびに多くの工数を浪費することになります。

繰り返し行う作業を自動化すれば、開発メンバーの負担を減らせるうえに、生産性向上にもつながります。作業を自動化できるツールはさまざま存在するため、開発チームに合ったものを導入しましょう。

たとえば「CI/CDツール」を使うと、変更内容のビルドやテスト、デプロイといった一連の作業を自動化できます。また「RPAツール」を使うと、データ入力などの冗長な作業を記録・再現することで自動化が可能です。

まとめ

イテレーションとは、アジャイル開発における一つひとつの開発サイクルのことです。

各イテレーションには要件定義・設計・実装・テストといった一連の工程が含まれます。手戻りを抑制できる、顧客の要望を素早く反映できるなど、多くのメリットがあります。

ウォーターフォール開発を採用しているチームの場合、イテレーションの導入は容易ではありません。イテレーションを成功させるためには、開発ペースを保てるイテレーション期間の設定など、ポイントを押さえたうえで導入しましょう。

開発技法・工程
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監修: 江添 智之

バルテス・ホールディングス株式会社 R&C部 副部長

WEB系、エンタープライズ系、医療系など様々な開発業務にプログラマ、システムエンジニア、プロジェクトリーダーとして携わった後、バルテスにてテストエンジニア・コンサルタント業務に従事。現職では主にテスト業務に関する研究開発および人材育成を担当。Scrum Alliance認定スクラムマスター、ディープラーニング検定(G資格)、ネットワークスペシャリスト、データベーススペシャリスト、JSTQB Advanced Level(テストマネージャ、テストアナリスト)など、ソフトウェアの開発およびテストに関する資格を多数取得。JaSST Kansai 実行委員。現在の関心は機械学習のテスト分野への応用と効率的なテスト自動化。