「QCD」は、業種を問わずビジネスシーンでよく使われるワードです。業務改善に必要な要素というイメージはあっても、QCDの正しい意味や考え方を知らない人もいるのではないでしょうか。
QCDとは、Quality(品質)・Cost(コスト)・Delivery(納期)の3要素から成る指標のことです。「高品質な製品・サービスを、コストをかけずに、短期間でつくれる状態」が理想のQCDであるといえます。
今回は、QCDの基礎知識から向上させるポイント、改善するための5つのステップまでわかりやすく解説します。
- もくじ
1.QCDとは
QCDとは「Quality(品質)」・「Cost(コスト)」・「Delivery(納期)」の3要素から成る指標のことです。
元々は製造業で使われる言葉でしたが、重要性の高さから今では業種を問わずビジネスの状態を評価するための指標として使われるようになりました。ここでは、QCDの概要について解説します。
1-1 QCDの各要素の意味
QCDの各要素が意味するものは、大まかに下記の通りです。ただし、業界によって意味合いが若干変わる場合があります。
Q(品質) |
いかに高品質な製品やサービスをつくるか |
---|---|
C(コスト) |
いかにコストをかけずに製品やサービスをつくるか |
D(納期) | いかに短期間で製品やサービスをつくるか |
QCDの良し悪しは、Q(品質)・C(コスト)・D(納期)の3要素を総合的に見て判断します。全ての要素が優れているに越したことはありません。つまり、「高品質な製品・サービスを、コストをかけずに、短期間でつくれる状態」が理想のQCDであるといえます。
ただし、QCDの各要素は、トレードオフの関係にあると言えるでしょう。つまり、いずれかの要素を高めようとすると、別の要素が低下しやすいのです。
たとえば、C(コスト)を優先して人件費を削った場合、生産スピードが落ちてD(納期)は低下するでしょう。全ての要素が高いことが理想ではあるものの、現実的には簡単ではありません。QCDを高める場合、1要素だけにとらわれないよう注意が必要です。
1-2 QCDは「Q」が最優先になることが多い
QCDの優先順位は名前の通り、Q(品質)・C(コスト)・D(納期)の順番で優先されるケースが多いです。特にQ(品質)は多くの場合で最優先となるでしょう。
なぜなら、どんなに安くて早く届いたとしても、ユーザの求める品質に足りていなければ選んでもらえないからです。まずはユーザの求める品質を満たすことが重要になります。
ただし、企業の状況によっては優先順位が変わることもあります。あくまで傾向として捉えておきましょう。
2.QCDを向上させる3つのポイント
前章でQCDを改善する方法を解説しましたが、QCDを向上させるためには、ポイントを押さえて実施することも重要です。
次の3つを押さえておきましょう。
2-1 Q(品質)を犠牲にしない
状況にもよりますが、基本的にはQ(品質)を最優先しましょう。Qを犠牲にすると、顧客離れにつながりやすくなります。顧客離れにより売上が減少することで、C(コスト)やD(納期)を向上するための資金さえも確保できなくなる可能性があります。
ただし、過剰にQを追求しても成果につながらないケースが少なくありません。たとえば、システム開発においてユーザーにとって不要な機能を過剰に追加しても、顧客満足度は向上しないでしょう。品質にとらわれすぎて方向性を見誤らないよう、Qには一定の合格ラインを定めることがおすすめです。
2-2 状況によりC(コスト)とD(納期)の優先順位を変える
C(コスト)とD(納期)は、状況によって優先順位を変えましょう。CとDの間にはそれほど大きな差がなく、顧客の要望といった外的要因に左右されやすいためです。
たとえば顧客が短納期を求めるのであれば、Dを優先せざるを得ないでしょう。一方、顧客の予算に余裕がないのであれば、Cを優先することになります。CとDのどちらを優先するかは変わりやすいため、臨機応変に対応しましょう。
2-3 現場の意見もしっかり聞く
QCDの改善活動は、基本的に現場を巻き込んで全社的に取り組むことになります。現場の状況を把握せずに経営陣だけで方針を決めるのでは、理解は得られません。そのため、経営陣からの押し付けにならないよう、現場の意見もしっかり聞くべきです。現場の意見を取り込むことで、より効果的な施策が見えてくるでしょう。
3.QCDの改善方法5つのステップ
QCDを改善するのであれば、正しい方法で取り組むことが重要です。QCDの改善方法は、大まかに以下の5つのステップです。
1.現状の把握 2.課題の抽出 3.改善策の検討 4.改善策の実施 5.効果の検証
各ステップについて、順番に解説します。
ステップ1 現状の把握
QCDの向上を妨げる課題を知るためには、現状把握が欠かせません。まずは現場社員へのアンケートや個別面談などを行い、現状の課題を調査しましょう。意外な課題がQCDに影響している場合もあるため、QCDに限定せず幅広く課題を吸い出します。
また、売上などの経営に関するデータを収集・可視化すれば、現状のQCDの強み・弱みがある程度見えてくるでしょう。それぞれにおけるデータの例は以下のとおりです。
Q(品質) |
・目標品質の達成状況(案件別、商品別など適切な単位での品質) |
---|---|
C(コスト) |
・売上や経費に関するデータ |
D(納期) | ・商品リリースまでのマイルストンごとの目標期日に対する達成状況 |
このような数値データは、どの要素を優先すべきか考えるための判断材料となります。社員への調査と数値データの両面から現状を把握・分析しましょう。
ステップ2 課題の抽出
調査した現状の課題から、QCDに影響しているものを抽出します。それぞれの課題がQ・C・Dのどの要素に影響しているかを検討し、分類しましょう。そうすることで、課題に優先順位を付けやすくなります。また、後々の効果検証をしやすくするために、課題解決と判断するための指標も定めておくとよいでしょう。
ステップ3 改善策の検討
抽出した各課題に対して原因を分析し、それぞれ具体的な改善策を検討します。改善策の実施にかかるコストや、期待できる成果も予測しましょう。複数ある課題の全てを一度に対応することは難しいため、改善策の優先順位付けも行います。経営上クリティカルな課題の改善策や、高い効果が期待できる改善策ほど優先順位を上げるとよいでしょう。
ステップ4 改善策の実施
優先順位の高い改善策から順番に実施しましょう。改善策の多くは現場を巻き込むことになるため、事前に現場社員へ情報共有し、実施の手はずを整える必要があります。取り組み中も現場と密接に情報共有し、問題が発生していないか確認することが大切です。
ステップ5 効果の検証
改善策の効果を検証し、課題の解決につながっているか確かめましょう。現状の把握時と同様に、数値データの収集・可視化に加えて、社員からのヒアリングも行い検証します。期待した効果が得られていないものは、改善策の再検討が必要です。改善策を見直しながら、継続的に取り組んでいきましょう。
4.QCDに関連する指標
製造業から始まったQCDは、普及する過程でさまざまな形に派生しています。ここでは参考として、QCDから派生した4つの指標を紹介します。
4-1 QCDS
QCDSは、QCDにService(サービス)をプラスした指標です。
Serviceは、顧客に製品・サービスを提供した後のサポート体制を意味します。長期にわたり製品・サービスを提供するビジネスでは、提供後のサポートもQCDと並んで欠かせず、QCDSが使われる場合があります。
4-2 QCDSE
QCDSEは、QCDにSafety(安全)とEnvironment(環境)をプラスした指標です。
SafetyとEnvironmentは、従業員の安全・環境に対する配慮を意味します。作業環境が頻繁に変わり、危険をともないやすい建設業を中心によく使われます。
4-3 QCDF
QCDFは、QCDにFlexibility(柔軟性)をプラスした指標です。
Flexibilityは、状況変化への柔軟な対応力を意味します。顧客の要望が変わりやすいなど、柔軟性が求められるビジネスで使われる場合があります。
4-4 QCDR
QCDRは、QCDにRisk(リスク)をプラスした指標です。
Riskは、ビジネスに潜むリスクを把握し、対処することを意味します。不確実な要素が多く、リスク管理が重要となるビジネスで使われる場合があります。
まとめ
QCDとは、Quality(品質)・Cost(コスト)・Delivery(納期)の3要素から成る指標のことです。各要素の意味は以下の通りです。
Q(品質) ・・・いかに高品質な製品やサービスをつくるか
C(コスト)・・・いかにコストをかけずに製品やサービスをつくるか
D(納期) ・・・いかに短期間で製品やサービスをつくるか
「高品質な製品・サービスを、コストをかけずに、短期間でつくれる状態」が理想のQCDであるといえます。
QCDはさまざまな業界に普及しており、ソフトウェア開発に限らず重要な指標です。QCDのバランスを保つためには、基礎知識を把握してそれぞれの関係性を理解することが大切です。QCDの改善を図る場合は、向上するためのポイントを押さえて正しく取り組みましょう。