様々な現場でQA業務に携わっている方々の「声」をお届けする『隣のQAに聞く!』。
大規模なECシステム構築やDXソリューションで市場から高い評価を得ており、クライアントの価値創造に貢献していることで知られる株式会社コマースニジュウイチ(略称:コマース21)。高い信頼性の「落ちないECシステム」の開発現場でどのようにQA活動がされているか、知りたいと思うエンジニアの方も多いのではないでしょうか?
そこで本記事では、同社の村松史朗さん、三橋敬さんに同社のQAのミッションやQA活動のポイントなどについて伺いました。
今回インタビューを受けてくださった方

- 村松 史朗
株式会社コマースニジュウイチ 取締役 兼 製品技術開発部 部長
2004年7月、コマースニジュウイチにプロジェクト開発部門のPM(営業支援エンジニア)として参画。製品開発部門やサポート部門で活躍する。2011年、同社の業務拡大にともない、さらなる品質向上を図るためQA部門の立ち上げに参加。脆弱性に起因する事故を防止したり、可用性を高めたりするQA活動に尽力した。その後、インフラ部門のマネージャとして腕をふるい、現在は製品技術開発部門の部長として組織を牽引している。

- 三橋 敬
株式会社コマースニジュウイチ 製造技術開発部 部長
2012年10月、コマースニジュウイチにプロジェクト開発部門のエンジニアとして入社し、PMを任されるようになる。その後、品質や可用性の課題、改善に取り組む業務に興味を持ち、2016年8月にQA部門に異動リーダーとなって性能試験や脆弱性試験などへの対応を推進。現在は、QA部門を含む製造技術開発部の部長として品質を重視したプロジェクト開発を行なう組織を牽引している。
※株式会社コマースニジュウイチ(略称:コマース21)
- もくじ
大規模ECシステムを安定稼働させることで成長を続けるパッケージベンダー
――御社のQA業務の位置づけ、ミッションをどのように設定されているか教えてください。
村松氏:コマース21の製品技術開発部門は、自社開発したパッケージ製品を基に、クライアントに最適なECシステムの開発を主な役割としています。創業から現在に至るまで一貫して、規模の大きなECシステムを安定稼働させることを製品開発の基礎概念にしてきました。これが創業時からのこだわりであり、来客が多いECシステムの開発ができるのがコマース21の製品技術開発部の強みです。
この強みを持続させるために、納品前だけでなく、開発の進んだECシステムの性能試験を適切に実施することを目的にQA活動を推進しています。
三橋氏:当社のミッションは「人々が安心して安全に情報と共存できる未来を創る」です。製造技術開発部は大規模なECシステム開発を担うにあたり、単にモノが買えるだけのECシステムを提供するのではなく、社会的インフラを構築する意識を持って任務を遂行しています。
「ショッピングから得られる体験を安心して、安全に心地よく楽しんでいただく」という大前提でサービスレベルを落とさないよう、安定稼働し続けるECシステムを作ることを第一に考え、任務に取り組んでいます。
――御社は規模の大きい開発をされていますが、どのような体制でQAに取り組んでおられるのでしょうか?
三橋氏:品質を専門に活動するメンバーは比較的少人数の体制ですが、そこに知見が集まるようにしています。この成り立ちには理由があります。
開発の全工程で要件定義・設計、開発がありますが、そこに占める性能テスト、具体的には性能試験、脆弱性試験は相対的に割合が少ないのです。そのため、開発現場において性能テストを経験して知見を貯めていく機会が少なくなり、ノウハウが蓄積しにくく、各メンバーに属人的に分散してしまうという課題がありました。また、ツール等を用意して専用のテスト環境を構築する必要があるなど、準備に手間がかかる一面も。
そこで、各現場に任せるより、専門的な体制を組んで、そのチームが様々なプロジェクトを横断的に見て知見を集め、結果を他のプロジェクトに横展開するプロセスで活動することにしたのです。
村松氏:2011年ごろ、当社では脆弱性や可用性に関わる問題が発生していました。この問題に対応する部門が必要だという観点から、QA部門が立ち上がりました。専門性の高い試験を追求することにより、現在では重要な役割として、プロジェクト開発の一役を担っています。
――今後、さらなる品質向上のためにどのような取り組みを予定されていますか?
村松氏:クライアント、エンドユーザーに安心していただける高い品質と可用性を担保することを重視しています。外部のテスト専業ベンダーと協業も積極的に視野に入れながら、品質向上に取り組んでいきます。
マニュアルを作り、品質や性能に関するレクチャーを実施して不具合を予防
――製品の品質改善のために、工夫されているポイントを教えてください。
三橋氏:QA部門がテストをしたり、何か問題が発生したりして対処をする活動がベースですが、まず、テストで問題が検出されないのであれば、それに越したことはないと考えています。
そこで、品質や性能に関する『性能基礎知識』というマニュアルを作り、プロジェクト開発チームのメンバーが入れ替わったりするタイミングで、定期的に設計や製造するときには性能や品質を意識するようにレクチャーをして、不具合を検出前に未然に防ぐ活動をしています。
こうすることでQA部門の負担を減らす狙いもあります。
――「元から絶つ」ことを重視されているのですね。
三橋氏:そうです。当社ではプロジェクト開発チームごとに「全体会」が定期的に開かれていますので、そこの場を借りて説明しています。具体的には、開発環境では規模が小さくてデータが少ないため、問題が検出されにくいといった事実を伝えたり、開発環境で普通に動いていても、実際に稼働して大丈夫とは限らないといった話をしたりしています。
――今、品質について課題になっていることや、取り組んでおられることを、差し支えない範囲で教えてください。
三橋氏:先ほど申しあげたように、プロジェクト開発チームに知見が貯まり難く、課題に対応するためQA部門が立ち上がりました。しかしその弊害として、さらに知見がプロジェクト開発チームに溜まらなくなっているのが課題です。
開発力を向上させるためには、プロジェクト開発チームのQA部門への依存体制を改善したいと考えています。"勘所"的な経験による知見は簡単に還元しにくい一面があり、もどかしさを感じることもありますが、QAにとって永遠の課題だとも感じています。
村松氏:当社は自社開発製品を用いてECシステムを構築していますが、パッケージのライセンス販売もしています。自社開発製品については積極的に自動テストを導入しています。マイナーバージョンアップなどで改善を行った場合は、自動テストで不具合がないか検査する手法を体系化しました。引き続き自社製品をより良いものにしていきたいと考えています。
エンドユーザーからの生の評価が開発現場のモチベーションに繋がる
――QAを担当されてきて、どんなときに「やりがい」を感じておられますか?
三橋氏:大規模なECシステムにてセールなどのイベントが行われる際、大量アクセスが難なく捌けると強い達成感を覚えます。通販サイトのLINE公式アカウントからイベント情報が配信されると、大規模ECシステムでは多くのエンドユーザーがリンクをクリックするのでアクセスが急激に増加します。
ECシステムをダウンさせることなく急増した注文を受けきると「やった!」と思います。また、Twitterなどで「サイトにアクセスできないかと思っていたけど普通に買えた」といったコメントを見ると嬉しいです。
村松氏:エンドユーザーの喜んでいる反応を見ると嬉しいですね。また、クライアントから褒めていただけると「やっていて良かった」と感じます。
――エンドユーザーからの声が御社QAに届くことは多いのでしょうか?
村松氏:当社はECシステム本体を開発するためのベースとなる自社パッケージ製品に加えサイト内検索エンジンも自社開発しています。これをクライアントと共に改善し続けたところ、消費者向けアンケートで「検索性が良い」との声をいただくことができ、嬉しかったですね。
エンドユーザーからは忖度のない、率直で貴重なご意見をいただけることが多いので、お褒めの言葉をいただくと達成感があります。開発現場のモチベーションにも繋がります。
品質問題を解決するには、百戦錬磨の経験を積み、幅広い知識が必要
――QAとして、これまでどのような勉強や情報収集をされてきましたか?
村松氏:品質に関するセミナーに積極的に参加しています。座学としてでも品質について勉強した上で、プログラミングや設計、プロジェクトマネージメントに関わった方が良いと感じています。
三橋氏:興味を持ったセミナーにはよく参加をしています。昔、開発をしていたころ先輩からもらった「同じ機能ならばより良い品質、性能を目指しなさい」という言葉が原点です。「ただ動けばいいってもんじゃないよ」という意味だと捉えています。開発期間やコストが許す限り、作っておしまいではなく、成果物がどんな品質で動くのか意識してモノづくりをしたり、情報収集をしたりするよう心がけてきました。
――最後にQAとして働く方、QAを目指している方にメッセージをお願いします。
村松氏: 品質問題を解決するには、百戦錬磨の経験を積み、幅広い知識が必要になるため、QA部門は年齢層が高い方が多いという印象がありました。しかし、今になり自分でキャリアを積んでみると、第三者的に根拠を持って品質の問題を伝えられるなら、年齢は関係ない時代になったと感じます。
とはいえ、確かな経験が必要な分野ですし、その意味で、まだ年齢層が高い世界なのかなといった感想も持っています。
三橋氏:QAは、出来て当たり前、出来ないと責められる辛い仕事という一面があるかと思います。しかし、世に出したモノが壊れて動かないといった地獄絵図を経験しなくて済むのはQAのお陰です。ありがたい仕事だと思います。
取り組んでいるときは喜びを感じにくいかもしれませんが、後からじわじわと良さが感じられる職種で、縁の下の力持ちのような存在なので、そこに楽しさを見出せる人が向いているという感覚を持っています。
QA部門以外の方々には、ぜひ、ねぎらいの言葉をかけてあげてくださいと伝えたいですね。
――本日はお時間をいただき、ありがとうございました。