様々な現場でQA業務に携わっている方々の「声」をお届けする『隣のQAに聞く!』。
日本最大級の住宅・不動産情報サービス「LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)」などの運営を行う東証プライム上場企業の株式会社LIFULL。
総掲載物件数600万件を超え(2023年8月取材時点)、ARや3Dなど最新技術を駆使した情報提供など業界をリードし続ける同社では、どのようにQA組織が運営されているか、気になるエンジニアの方も多いのではないでしょうか?
そこで本記事では、同社の星野遥希さんにQAのミッションやQA組織を動かすポイントをお話しいただきました。
今回インタビューを受けてくださった方

- 星野 遥希 氏
株式会社LIFULL テクノロジー本部 品質戦略部 QAG
2018年にLIFULLへ新卒入社しQAエンジニアとして配属。横断組織のQAとして社内プロジェクトから相談やサポートの依頼を受け、コンサルテーションの形でテスト計画や探索的テストの実施、プロセス改善やセミナー、テストツール開発など品質に関わることは幅広く要件に応じて柔軟に対応している。QA活動で不幸な思いをする人がいなくなり、おもしろさを感じてもらえるよう奮闘中。社外活動として2020年にJaSST Onlineを立ち上げ、現在も継続して実行委員長を務める。
QAの支援内容はあくまでもテスト技術の不足を補う視点で
――日本を代表する住宅・不動産情報サービス「LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)」を運営する株式会社LIFULLでは、現在、どんなQA体制を取っておられますか?
ひと昔前、QA組織といえば製造業のコンテクストの最後の砦や防波堤という位置づけでしたが、LIFULLでは基本的に、開発者が責任を持って開発からテストまで全部実施しているため、プロダクトごとに専属のQAが付いている訳ではありません。
では我々QAはどこにいるかというと、横断的に全てのプロダクトや依頼のあったプロジェクトに対して、アプローチの提案やテスト計画のサポートなどをしていく、いわゆるコンサルのような立ち位置でやっています。
――QAがチームの中でコンサルのような立ち位置にいるのはかなり変わっている体制ですよね。
社内ではさまざま規模、異なるスケジュールで開発や保守のプロジェクトが動いています。QAが全てのプロジェクトへ均等な支援を行うのではなく、支援内容はあくまでもテスト技術の不足を補う視点で、プロジェクトの状況をモニタリングしつつ決定してきました。
「最高のQA体験を創る」というビジョンを掲げて活動
――ARや3Dなどの最新技術を駆使した情報提供にも取り組む中で、QA・品質保証業務をどう位置づけ、どんなミッションを掲げていますか?
「最高のQA体験を創る」というビジョンを掲げて活動しています。というのも、開発者たちになるべく品質保証活動やテストで嫌な思いをして欲しくないと考えているからです。開発に関わるものづくりのメンバーが、安全かつ高速にリリースを繰り返すことを支援し、安心して開発に取り組める状況をつくることが我々のミッションといえます。
そのため、活動の幅を自分たちで制限せず、テスト計画や実装の他にテストツールの開発なども実施してきました。
――サービス品質を改善するために工夫して取り組んでいるポイントを教えてください。
LIFULLのQAがプロジェクトと関わる際には、基本的にプロジェクト側から「テストの要件が複雑で」とか、「システムが複雑なので、一緒にテスト計画を考えて欲しい・作ってほしい」と依頼があった際、不足を補うスタンスで入っています。プロジェクトメンバーだけだと誰かが言ったことをなるべく活かそうという方向で進められる傾向があります。そのため一歩引いた立ち位置で、なるべくズバッと忌憚なく意見を言うようにはしていますね。
他にも、新入社員が多いチームや異動したばかりでドメイン知識が少ないチームの場合は、そこを補うようにQAが入ることもあるため、PMの支援や進行のマネジメントのお手伝いをすることもあります。
万能の解決策はなし!ターゲットを絞って現場のユーザーの声を聞きに行く
――多くの方が閲覧に来る日本最大級の住宅・不動産情報サービスとして、 取り扱いに慎重になられるものが多いのではないでしょうか。QAとして何か注意をされていることとかってございますか。
ミッションクリティカルな機能については自動e2eテストや、スクリーンショットからコンポーネントの差分比較を行うビジュアルリグレッションテストの仕組みが用意されています。
開発チームから依頼があってシナリオが追加されることもありますが、ベースは品質組織側で運用しています。
これらの自動テストツールも自分たちで開発したもので、今はOSSで公開されています。
――これまでの失敗談やそこからどのように挽回したのか、具体的なエピソードなどあればお教えください。
現場では、各々のチームが自分たちでテストのプロセスやフォーマットを構築しています。そのため全ての現場に合うツールを作るのは難しいですね。
ナレッジのシェアやセミナー、研修のようなこともしているのですが、それでもうまく刺さらないときは結構ありました。
おそらく、横断部署や改善を推進するような部署はよくある話だとは思いますが、そこをこじ開けて需要をいかに聞き出すか、日々悩んでいるところです。
――そこから乗り越えるコツみたいなものは何かあるのでしょうか。
やはり万能の解決策はないと思っていて、しっかりターゲットを絞ることはもちろん、現場の対象となるユーザーの声をちゃんと聞きに行くに尽きると常々感じています。
――現在、御社の部門内で課題となっていること、改善したいことをお教えください。
見る視点にもよるかもしれませんが、やはり専門のQAがプロダクトチーム内にいないので、「QAに早く相談してくれればよかったのに」みたいなことは少なくありません。そのキャッチアップが組織としてまだできていないのは課題感としてあります。
また、開発者のテストに関するスキルアップは後回しになりがちです。理由としては、設計や実装をする上で他に学習することも多いことと、専門的な知識がなくても試行錯誤すればある程度の精度でテストができるため、優先度が下がってしまうのだと思います。とはいえ、よりよい形で効率的に実施するためには、学習意欲をどう高めるかも課題だと思います。
――どんなとき、QA/品証としての「やりがい・魅力」を感じておられますか?
QAは基本的に依頼を受けてそれに応える形の業務になるので、支援したプロダクトやプロジェクトから「QAが入ってくれて本当に良かった」と言われると、もう本当に生きていてよかったなとやりがいを感じますね。
LIFULLのQAは設計や実装をするエンジニアよりも、より課題解決の側面が強いと思っていて、関わり方的にも必然的に困ったときに呼ばれることが多いです。基本的に困難な状況のプロジェクト、炎上寸前のプロジェクトに「助けて」と言われることもあるんですね。いかにプロジェクトが抱える課題解決していくかを考えるのは魅力的な活動です。こういった困難に立ち向かうシチュエーションに燃える人は弊社のQAにかなり向いているのではないでしょうか。
個人的にもう1つQAの魅力、というより楽しいポイントはパズルを解いているような感覚ですね。開発者の人たちが考えていなかったところを突いていくとよくバグが見つかるので、「そこは考えてなかった!」を引き出せたときは非常に楽しいです。ですから、パズルを解くのが好きな方や認知バイアスなど思考の偏りや盲点を探してくのが好きな方はQAを楽しめるのではと思っています。
――今後、業務を通じて達成したいことなどございましたらお教えください。
繰り返しになりますが、LIFULLのQAとして目指しているのは「最高のQA体験を創る」ことです。テストに関してマイナスのイメージを持たれていたら、画期的な方法があっても広めていくことは難しいと思います。なので、まずはより良いQA体験を作って「テストって大変だ」とか「面倒くさい」とか、そういう意識をなるべく払拭し、より「楽しいもの」とか「クリエイティブなもの」という意識をどんどん根づかせていきたいです。
――最後に、QAを目指している方にメッセージをお願いいたします。
私は学生時代やインターンで開発を経験していますが、個人的には開発よりもQAの方が楽しいと感じています。
思えば小さいころからいわゆるゲームの裏技を試したり、イースターエッグやバグを探すのが好きでした。判定がどうなっているかとか、処理の順番だとか、そういったさまざまなものの裏側を想像したり、検証して解き明かすことが好きだったんですよね。それはどちらかというと、作る側よりも、QAに多い嗜好なのかなと思うので、共感できる方はぜひQAの世界を楽んでいただきたいです。
――本日はお時間をいただき、ありがとうございました。