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業界別 2024.03.22
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イノベーションの源泉になる『SFプロトタイプ』『SF思考』とは?関係性と事例紹介

執筆: 大木 晴一郎

ライター

イノベーションの源泉になる『SFプロトタイプ』『SF思考』とは?関係性と事例紹介

最近、メディアで見かけられるようになってきた『SFプロトタイピング』や『SF思考』。

未来の技術や社会の進化をシミュレーションすることから、イノベーションの源泉になるといわれています。
この考え方の源泉は「インテルから始まった?」と聞いたことがある方もいるかもしれません。そこで今回は、『SFプロトタイピング』や『SF思考』について簡単にまとめてみました。

もくじ
  1. イノベーションを生み出す『SFプロトタイピング』とは
    1. SFプロトタイピングとは
    2. SFプロトタイピングを用いるメリット
    3. SFプロトタイピングのポイント
    4. 期待される活用領域
  2. 未来を創る発想法『SF思考』とは
    1. SF思考とは
    2. SF思考の特徴
  3. 『SFプロトタイプ』はインテルから?
  4. 『SFプロトタイピング』と『SF思考』の関係
  5. 『SFプロトタイピング』の事例紹介
  6. まとめ

1.イノベーションを生み出す『SFプロトタイピング』とは

1-1 SFプロトタイピングとは

『SFプロトタイピング』とは、SF=サイエンスフィクション(Science Fiction)、つまり科学的な空想・フィクションのストーリーテリング手法や思考法を用いて、新たなアイデアを考え出して未来の可能性を探求し、そのアイデアを実現性のあるプロトタイプとして作り出すことをいいます。

SFという枠組みを使って、未来のビジョンを予測し、今後起きうる問題の解決策を見出し、イノベーションを生み出すための手法の一つです。SFを足掛かりにして未来のシナリオを作り上げ、そこから逆算(バックキャスト)して、今、何をするか、何を目指すかを明らかにしていくのが特徴です。

科学が根拠にはなりますが、架空の未来世界を舞台にした物語づくりを通じて、新しい技術や社会の未来を予測し、ときには視覚的に表現するのが特徴です。こうすることで、多くのフィードバックを得ることができ、さらに優れたアイデアの創出につなげることができるのです。

そして、考え出した"未来"から逆算して現在すべきことを考え出し、未来の発展へとつなげていきます。SFプロトタイピングは、イノベーションを促進し、未来をより良くするための手法の一つとして期待されています。

1-2 SFプロトタイピングを用いるメリット

アイデアの視覚化や共有がしやすい

SFプロトタイピングは、SF映画やコミック、小説といったコンテンツを作成する枠組みを利用するため、抽象的なアイデアを具体的なイメージとして視覚化しやすいのが特徴です。人々が新たなアイデアや架空の未来をイメージしやすくなり、アイデアを説明したり、共有したりすることが短時間で効果的に行えます。これにより、チーム内だけでなく、ステークホルダー間でのコミュニケーションが良好になり、さらなるアイデアやイノベーションの創出につなげることができます。

未来の可能性を幅広く探求しやすい

SFプロトタイピングは、架空の舞台を利用するため、現実の状況に制約されにくいメリットがあります。上で述べたように視覚化や共有がしやすいため、コラボレーションもしやすく、多くの人々の想像力を刺激し、新たに幅広いシナリオを導き出すことができる可能性が高まります。これにより、限られた視点では発見しえなかった新たなビジョンが得られることがあります。

問題解決とイノベーションの高速化が図れる

SFプロトタイピングは、既存の問題に対する解決策を探求する際にも役立ちます。未来の状況を仮想的に設定し、その中で課題や障壁を想定することで、よりクリエイティブな問題解決が可能となります。また、新たなアイデアやコンセプトを導入することで、業界や市場に革新的なアプローチをもたらすこともあります。

1-3 SFプロトタイピングのポイント

SFプロトタイピングの第一歩は、未来のシナリオを構築することから始まります。架空の世界観や状況を設定し、ストーリーを創造します。この段階では、技術の大きな進化や社会の変化といった、現実と異なる要素を盛り込むことがポイントになってきます。

次は、作成した未来のシナリオを現実の技術や世相、トレンドと結び付けていくのがポイントです。そうすることで、新たに必要になる技術をリストアップし、実現可能性を検証することができます。現実世界と架空の世界を結び付けるためのアイデアを取り入れていきます。こうして、SFプロトタイプを作成します。

構築したSFプロトタイプを開示してフィードバックを多く収集することもポイントです。フィードバックから、ストーリーとプロトタイプを洗練させるプロセスを繰り返していきます。この繰り返しがプロトタイピングの本質といるかもしれません。これにより未来のビジョンを得て、そこから逆算して今を見つめ直すのです。

1-4 期待される活用領域

SFプロトタイピングは、すでに製品開発だけでなく、教育分野、都市計画、ビジネス戦略策定など、さまざまな場面で利用されています。今後さらに幅広い分野で活用されるでしょう。とくに期待されているのは以下の分野です。

ビジネス領域

VUCA(Volatility、Uncertain、Complexity、Ambiguity:変化し不確実で複雑、両義性がある)時代といわれる今、新たなビジネス戦略の案出は簡単なことではありません。そこでSFプロトタイピングを活用して、「10年後までにやっておくべきこと」といった視点で未来からの逆算型でビジネス戦略を策定する動きが見られます。

都市生活・モビリティの問題解決

未来都市のあるべき姿やモビリティの未来を考える上で、SFプロトタイピングが活用されています。エネルギー効率や自動運転といったテーマだけでなく、今後の社会情勢の流れを予測し、よりよい未来を構築するための手法として期待されています。

未来の"学び"(教育分野)

今後、人々はどんなことを学ぶべきか、教育環境を架空社会で描き出し、新たな教育メソッドやテクノロジーの導入を検討します。人間社会で今後必要とされるスキルを見出し、より効果的な教育プログラムを生み出すためにSFプロトタイピングが有効ではないかと考えられています。

他では、医療と健康分野でもSFプロトタイピングを活用する動きもあります。人口の増減に伴った医療環境の変化や健康のケアといった問題を解決し、よりよい社会づくりに貢献するため欠かせない手法となるかもしれません。

2.未来を創る発想法『SF思考』とは

2-1 SF思考とは

『SF思考』とは、SFの枠組みや発想法をビジネスや問題解決に取り入れる"SF的な"考え方のことです。架空の未来や技術、事物を考え描き、従来の枠組みにとらわれない新しいアイデアを探求して、未知の可能性を見出すために用います。簡単にいえば、自由な発想や考え方で新しいアイデアや企画を得ようというスタイルといってよいでしょう。

上述した、『SFプロトタイプ』を作るための"原動力"となるのが『SF思考』です。特徴は想像力を重視する点にあります。現実の制約にとらわれずに、自由な思考実験を繰り返して未来の状況を描き出し、これを実際の課題解決や戦略立案に柔軟に結び付けていきます。想像した未来から逆算して現在の問題や課題を見直すのがポイントです。

SF思考は『デザイン思考』と対比されることも多いようです。デザイン思考とは、デザイナーがデザインを考案する際のプロセスを課題解決に活用する考え方のことです。ユーザーの視点や現在の課題や問題を深く見つめ、考察することでサービスやプロダクトの本質的な課題・ニーズを発見して、課題解決するのがデザイン思考です。この二つはスタート地点が異なります。デザイン思考は「現在」でSF思考は「架空の未来」で真逆の関係です。

2-2 SF思考の特徴

自由な発想・着想が得られる

SF思考は自由な発想を刺激します。従来の常識や既存のアイデアにとらわれない未来のシナリオを考えることで、創造的で自由な発想・着想が得られる可能性が高まります。

問題解決の「糸口」発見につながることがある

従来の手法では解決難解な課題が、SF思考で未来目線の仮説を立てることで新たな解決策が見つかることがあります。問題解決に新たなアプローチをもたらす思考方法です。

3.『SFプロトタイプ』はインテルから?

日本で『SFプロトタイピング』や『SF思考』をはじめて紹介した書籍が、2013年6月に刊行された『インテルの製品開発を支えるSFプロトタイピング(PROFESSIONAL & INNOVATION)』(亜紀書房)です。

著者のブライアン・デイビッド・ジョンソン(Brian David Johnson)氏はインテルの「未来研究員(フューチャリスト)」として、未来予測の専門家として活動していました。本書の刊行で、インテルのような半導体メーカーに未来予測の専門家が在籍していることを知り、驚いた方も多かったようです。

ジョンソン氏は、SF(Science Fiction)的な考え方を使っておよそ10年後の未来予測をしていました。本書内では、ジョンソン氏のSFを使った未来予測のテクニックが『SFプロトタイプ』を作る方法として述べられています。

SFプロトタイプとは、SFをベースにして未来を描いた映画やコミック、小説、ストーリー、Webサイトといった作品のことです。未来予測のためのものですから、面白くなくても問題はありませんが、現在、幅広く見られるSFプロトタイプには面白い作品も数多く存在しています(下の項目でいくつか事例を紹介します)。

ここで「え? SFプロトタイプ? SFプロトタイピングでは?」と思われた方もいるのではないでしょうか。

プロトタイピング(Prototyping)とは、実際に動く試作品・モデル、つまりプロトタイプ(Prototype)を作ることや、作成手法のことです。SF的な考え方(SF思考)を駆使して、未来を示すSFプロトタイプを作るのがSFプロトタイピングといった関係になります。

4.『SFプロトタイピング』と『SF思考』の関係

ここまで見てきたように、『SF思考』で考えた未来や着想を基にSF映画、コミック、小説、Webサイトなどの『SFプロトタイプ』を創作し、フィードバックなどを基に繰り返しブラッシュアップして問題解決したり、新たなビジョンを実現したりする未来志向のアプローチ方法が『SFプロトタイピング』という関係があります。

これらの手法では、アイデアの共有がしやすく、コラボレーションによって発展させやすいのが強みです。

あえてSFプロトタイピングとSF思考の違いを挙げると、SF思考はアイデアをより展開させ、架空のストーリーを広げていくのが目標のため抽象的なことが多いのですが、SFプロトタイピングはSFプロトタイプを作成することを目指すため、より具体的ということになります。

5.『SFプロトタイピング』の事例紹介

ここではWebサイトで見られる『SFプロトタイプ』をいくつかご紹介します。

まとめ

『SFプロトタイピング』と『SF思考』は、自由な発想で未来志向のアプローチをすることで、創造的な発想を得たりイノベーションを促進したりする画期的な手法といえると思います。

皆さんもご自身の発想方法にも取り入れて、新たなアイデアや解決策の探求時の"ツール"として活用してみてください。

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執筆: 大木 晴一郎

ライター

IT系出版社等で書籍・ムック・雑誌の企画・編集を経験。その後、企業公式サイト運営やWEBコンテンツ制作に10年ほど関わる。現在はライター、企画編集者として記事の企画・編集・執筆に取り組んでいる。
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