「eスポーツ(Esports:electronic sports)」は今、世界中で急速に広まっています。
その市場規模は2021年に世界で11億7,800万ドル、日本国内でも2022年には市場規模が100億円を突破したといわれ、さらなる市場の成長、競技人口とファンの増加が予測されています。その流れで、2028年のロサンゼルス五輪でeスポーツが競技種目のひとつになる可能性はあるのでしょうか?
今回は、eスポーツの基本を簡単にまとめ、将来について考えてみたいと思います。
- もくじ
1.「eスポーツ」とは何か?
1-1 「eスポーツ」とは
「eスポーツ(英語:Esports)」は「エレクトロニックスポーツ(electronic sports)の略称です。「ESports」「eSports」「e-Sports」等、様々な表記も出現していて、表記ゆれも見られていますが、最近の使われ方はどちらかというと"新語"のニュアンスが強いように思われます。
ちなみに、ニューヨークに本部を置くアメリカの非営利通信社「AP通信」では「esports」で統一しているそうです(本記事では、読みやすさから、eスポーツとします)。
eスポーツとは、ビデオゲームをスポーツとして捉え、競技として実施する活動全体を指していることが多いようです。世界各国で盛り上がりを見せており、海外では非常に大規模な大会が開催されています。
種目は、動画配信などで人気の格闘ゲームやFPS(First-person shooter:一人称視点シューティングゲームと訳されることが多い)だけでなく、パズルゲームなどにも広がりを見せており、世界中で多くのゲーマーが活躍しています。
経済産業省のレポート『日本のeスポーツの発展に向けて』では、eスポーツのジャンルを以下の7分野に分類しています。
- スポーツ
- 格闘
- RTS(Real-time Strategy)
- MOBA(Multiplayer Online Battle Arena)
- シューティング
- トレーディングカード
- パズル
そして、コロナ禍の影響もあり、eスポーツのファンは大会やプロゲーマーの競技を動画配信で観戦するのが一般的な楽しみ方になっているようです。後述しますが、2020年にはファンの数がグンと伸びを見せました。
1-2 eスポーツの市場規模は世界全体で伸びている
eスポーツの世界的な市場規模は、2021年に11億7,800 万ドルに達しており、2030年までに57億4,300万ドルに達すると予想されているそうです。
上述のレポート『日本のeスポーツの発展に向けて』では、世界のeスポーツ市場を2021年の為替レートから、1,188億円と算出し、日本市場は78.4億円で世界市場全体の約6.3%としていますが、今後、経済効果の観点で期待される市場としています。
一般社団法人日本eスポーツ連合は、オフィシャルサイトで2022年の日本eスポーツ市場規模は125億円に到達しているとし、2025年には210億円を超えると予測しました。異なるレポートの数値比較で雑ではありますが、1年で78.4億円から125億円と46.6億円(約159.4%)も大きく伸びたことがわかります。
また、日本eスポーツ連合は2022年の日本eスポーツファン数を776万人と推定し、2025年には1,000万人を超えると予測しています。下記の記事でファン数の推移を見ると、2019年には480万人ほどでしたが、2020年に700万人近くまで大きく増加していることがわかります。
2019年から2020年にファンが増え、その翌年に市場規模が躍進した...という流れを見ていると、今後、一気にeスポーツファンが増加していきそうな勢いが感じられます。
2022年の国内eスポーツ市場規模が100億円を突破「日本eスポーツ白書2023」の内容を先行公開(一般社団法人日本eスポーツ連合オフィシャルサイト)
2.「eスポーツ」の歴史と発展
eスポーツは最近になって急に盛り上がってきたイメージをお持ちの方も多いと思いますが、実は、その歴史は長いです。簡単にですが、その歴史を概観してみます。
1970~1980年代
1972年10月に、アメリカ・スタンフォード大学の学生が『スペースウォー!』の大会を開催したことがわかっており、これが最初の大会ではないかといわれています。日本では1974年に「セガTVゲーム機全国コンテスト東京決勝大会」が開催されました。
それ以降、1970~80年代はゲーム『スペースインベーダー』などがブームとなり、アメリカでも日本でも大会が開かれています。日本では、1977年には、テレビ番組『パッケル勝ち抜きテレビゲーム大会』(テレビ東京)が放映されています。この番組は一部で「世界初のeスポーツのテレビ番組ではないか?」といわれています。
日本初のテレビゲーム対戦中継番組<パッケル勝ち抜きTVゲーム大会>(1977年/テレ東)のデータも掘り起こしてきました。新聞によると、放送期間は1977年8/1~8/31(つまり夏休み期間中)。土日除く5分の帯番組だったようですね。 #ocyame https://t.co/vDadhpDDBj pic.twitter.com/viumq1sIGb
-- 寺町電人 (@DentoTeramachi) February 18, 2019
1978年にはゲームをテーマにした、すがやみつる氏のマンガ『ゲームセンターあらし』がスタートし、大ヒット。アニメ化されるほどの人気を得ます。今の視点から見ると、eスポーツの世界観を予言していたかのような名作ですが、作者のすがや氏は「x」上で、発祥ではないと発言しています。
「eスポーツの発祥が『ゲームセンターあらし』」だと言われると、「ちがいます。現在のプロスポーツとしてのeスポーツの発祥は海外です」と答えさせていただいています。たぶん『ゲームセンターあらし』なんて知らない人たちが始めたものだと思いますので。 https://t.co/TS7lffdlRV
-- すがやみつる (@msugaya) November 21, 2021
さらに、1986年(昭和61年)7月には、ゲームの名人「高橋名人」と「毛利名人」の「スターソルジャー」による対決を描いた映画『GAME KING 高橋名人VS毛利名人 激突!大決戦』が公開されています。当時はファミコンブームで、ファミコンゲームの紹介や対決が多くテレビ放映されており、eスポーツブームのような盛り上がりを見せていました。その中での映画公開でした。
1990~2000年代
1990年になるとテレビ東京で「スーパーマリオクラブ」の放映が始まりました。番組内のコーナーでは「ドクターマリオ」や「マリオカート」、「ヨッシーのたまご」といったゲームタイトルで勝ち抜き戦が行われました。挑戦者の地域と住まい、ゲーム部屋がプロフィールとして紹介されるなど、視聴者参加型で毎週放映されていました。その後継番組である「スーパーマリオグランプリ」でも勝ち抜き戦は継承されます。
世界に視点を戻すと、1990年代になると、プロゲーマーが登場し、2000年代になると、世界各地にeスポーツの団体が立ち上がり、世界大会などが開かれて、認知されるようになりました。2005年にアメリカで「Electronic Sports League(ESL)」が設立されたことで、これ以降、eスポーツの展開が本格化したと見られています。
その後、ぐんぐんとeスポーツはゲーマーとeスポーツファンを増やし続け、現在に至る......ことになります。
3.世界中でeスポーツが盛り上がっている!代表的な3つの大会
eスポーツの大会では、特定のゲームが大会のテーマとなり、その王者を決定することが多くなっています。また、ジャンルごとに大会が開催されることもあります。例えば格闘ゲームであれば、『ストリートファイター』など、様々な格闘ゲームの大会が同時期に開かれることになります。オリンピックのような総合大会もあります。
ここでは、いくつか代表的な大会を紹介してみたいと思います。実際には、非常に数多くの大会が開催されています。賞金・賞品の規模も簡単なものから数億円程度の賞金まで千差万別です。
3-1 World Cyber Games(WCG)
ワールドサイバーゲームスは、「eスポーツのオリンピック」と呼ばれる大会です。世界中からeスポーツ選手が集い、様々なゲームタイトルの競技を繰り広げます。開催スタイルもオリンピックなど、これまでのスポーツ大会と同様のもので、勝者には金銀銅メダルも授与されます。
競技が行われるゲームタイトルとしては、「Dota 2」や「Warcraft Ⅲ: The Frozen Throne」などが知られています。
3-2 World Electronic Sports Games(WESG)
上海のAliSportsが主催するeスポーツのチャンピオンシップトーナメント大会です。100カ国以上の代表が集う、巨大な大会で、こちらもeスポーツのオリンピックに例えられることがあります。2017年は、「ハースストーン」で、日本チームが3位に入賞しています。
競技が行われたゲームタイトルは、「Counter Strike」「Starcraft II」「Dota 2」「Hearthstone」などが知られています。
3-3 League of Legends World Championship
上の大会とは異なり、こちらはゲーム「League of Legends(LoL)」単体で世界最強のチームを決める「決定戦」です。2011年にスタートしました。
「サモナーズカップ」と200万ドルを超える優勝賞金を争います。2022年大会では、新たなサモナーズカップを宝飾品ブランドのティファニーが手掛け、話題になりました。
4.日本の「eスポーツ」の現状
上で記したように、2021年時点で経済産業省のレポート『日本のeスポーツの発展に向けて』では、日本のeスポーツ市場は世界の約6.3%であると分析しています。実際のところ、この数値が大きいのか小さいのかは判断しきれませんが、これから巨大化していくと予測できます。
1977年には、世界初かもしれないeスポーツ番組『パッケル勝ち抜きテレビゲーム大会』が放映され、1986年には映画が公開されるほどのブームを何度も経験してきた、ゲーム好きな日本ですから、eスポーツもさらに盛り上がるのは確実でしょう。繰り返しになってしまいますが、日本eスポーツ連合は、2025年には市場規模が210億円を超えると予測しています。
様々なトレンドも見えてきました。2023年にコロナ禍の制限が緩和され、有観客での大会が増えました。6月に開催されたゲーム『VALORANT』の世界大会「VALORANT Champions Tour 2023: Masters Tokyo(Masters Tokyo)」が大きく報じられるなど、日本で多くの世界大会が開催されるようになっています。
プロリーグの視聴者数の増加も見られ、今後、選手の年俸アップが予想されています。オンライン開催とオフライン開催の相乗効果を狙ったイベント、演出などが増えていくでしょう。
このような盛り上がりによって、今後、eスポーツがサッカーやバスケットボールのような「スポーツ」として受け入れられるかどうかに注目が集まっています。
5.「eスポーツ」は将来的にオリンピック種目になる?
eスポーツが、野球など他の一般的な「スポーツ」と同じように見られるようになるかどうかの分岐点になりそうなのが、「オリンピック種目になるのか?」という点にあると感じている人は多いようです。
その前に、eスポーツは「スポーツ」なのか?という議論もあります。
この点については、今も世界中で議論が繰り広げられており、結論はなく、本記事で紹介しきれるものではありませんが、2021年には、国際オリンピック委員会(IOC)が史上初となるeスポーツを使ったオリンピックイベント「Olympic Virtual Series (OVS)」を開催しており、「スポーツ」として扱う動きが大きいことがわかります。
IOC主催でオリンピックの名がついたeスポーツ大会が開催されたことで、eスポーツの認知は高まり、「スポーツ」に一歩近づいたように感じられます。
OVSは、IOC公式イベントとして東京オリンピックの前に実施されたこともあり、大きく報じられ、注目を集めました。種目(5種目)は以下の通りでした。日本のゲームは「実況パワフルプロ野球」と「グランツーリスモ」が採用されました。
- (野球)World Baseball Softball Confederation (WBSC) -- eBaseball Powerful Pro Baseball 2020, Konami ※コナミ「実況パワフルプロ野球」
- (自転車競技)Union Cycliste Internationale (UCI) -- Zwift, Zwift Inc.
- (ボート競技)World Rowing -- Open format
- (セーリング)World Sailing -- Virtual Regatta, Virtual Regatta SAS
- (自動車競技)Fédération Internationale de l'Automobile (FIA) -- Gran Turismo, Polyphony Digital ※ソニー・インタラクティブエンタテインメント「グランツーリスモ」
世界平和の祭典であるオリンピックでは、現時点でバトルやシューティング系のゲームは採用されていません。今後も暴力が見られるようなゲームは採用されないと考えられます。逆の見方をするとOVSに採用されたタイトルには安心(=問題がない)ということもできそうです。
2023年9月にはIOCは「eスポーツ委員会」を設立し、eスポーツがオリンピック種目になる可能性は高まったと見られていますが、上記のように議論は続いており、今後はまだわからないという考え方をする人も多いようです。
2023年10月に開催された「第19回アジア競技大会(2022/杭州)」では、eスポーツ競技がメダルを与えられる種目として実施されています。
オリンピックの種目になるかどうか......は現時点ではまだはっきりとわかりませんが、今後、eスポーツの大会やイベントが世界規模で盛り上がっていくのは間違いなさそうです。
まとめ
「eスポーツ(英語:Esports)」とは「エレクトロニックスポーツ(electronic sports)の略称で、ビデオゲームをスポーツの競技として実施する活動全体のことを指します。日本だけでなく世界各国で盛り上がりを見せており、海外では非常に大規模な大会が開催されています。
【eスポーツは「スポーツ」か否か】という議論で、議題になることが多いのは、以下のような点です。
- eスポーツは肉体的な運動ではないので、他のスポーツとの調和が取れるのか
- 細かくバージョンアップをするゲームの特性上、ルール変更が発生しやすく公平性などが確保できるのか
- 特定のベンダーのソフトを利用することなどによる著作権の問題
こういった問題について、世界の合意が形成されることで、種目(ゲーム)の問題はありますが、様々なスポーツの世界大会の種目としてeスポーツが採用されていく可能性は高まると思います。
しかし、仮に採用されなくても、世界的に注目を集めるイベントとして巨大化していく可能性はかなり高いように感じられます。目が離せないジャンルのひとつといってよいでしょう。