映画『もしも徳川家康が総理大臣になったら』が2024年7月に公開されます。
この作品は、コロナ禍で未曽有の危機に陥った日本を救うため、なんと、AIとホログラムで日本史上の偉人を復活させてしまうところからストーリーがはじまります。
では、現実にAIとホログラムで"人の復活"ができるのかといった観点で、最近のディープフェイクやボイスクローニングに関する話題を集めてみたいと思います。
- もくじ
1.AIホログラムで偉人を復活させる映画が公開!
1-1 映画「もしも徳川家康が総理大臣になったら」のキーワードは「AI」!
2024年7月に公開が開始される、映画「もしも徳川家康が総理大臣になったら」。
そこで描かれるのは、2020年コロナ禍により首相官邸でクラスターが発生し、総理大臣が急死してしまうなど、大混乱に陥ってしまった日本。そこで政府が実行したのが、歴史上の偉人たちをAIとホログラムで復活させ、最強ヒーロー内閣を作ることでした。
そして、徳川家康総理大臣をはじめとする、歴史上の偉人による内閣が組閣されるのです。タイトルにもあるように「もしも」系のSFファンタジーともいえる大作です。
原作はビジネス小説として刊行された『もしも徳川家康が総理大臣になったら』(眞邊明人・著/サンマーク出版)です。大ヒットした原作小説が映画でどうアレンジされているのかも見どころだと思います。
本作のキーワードはもちろん「AI」。歴史上の偉人たちを「復活」させるのに用いられるのが、AI技術と3Dホログラム技術です。
AIによる人間らしい応答が話題になったり、3Dホログラムによる人物の「復活」が注目を集めたりしていたことから、本当にありそうな話......と思わせてくれる説得力があります。
1-2 3Dホログラムによる「復活」パフォーマンスが人気
AIによる偉人・有名人の「復活」と聞いて、2019年のNHK紅白歌合戦に登場した「AI美空ひばり」を思い浮かべる方も多いかもしれません。
「AI美空ひばり」は、日本の国民的な歌手、美空ひばりさんライブを膨大な映像や音源を用いてAI技術で再現するという試みです。
ヤマハが開発したディープラーニングを活用した歌声合成技術『VOCALOID:AI』が使われ、動きは別の歌手のモーションが用いられています。
この試みは2019年9月29日に「NHKスペシャル AIでよみがえる美空ひばり」として放映され、同年12月31日には「NHK紅白歌合戦」にも出演。その際に制作された楽曲「あれから」の歌唱姿はYouTubeで配信されています。
実は、「AI美空ひばり」以前から、ホログラム技術は劇的な進化を遂げており、海外を中心に3Dホログラムを活用した「復活」したスターによるライブパフォーマンスが人気を博していました。
故人のホイットニー・ニューストンや、故人ではありませんが、ABBAによる過去のライブを3Dホログラムで再現した『ABBA Voyage』が話題となっていたので、目にした方もいらっしゃるかもしれません。
▼Whitney Houston hologram takes centre stage in UK tour(Channel 4 News)
▼Your Official First Look at ABBA Voyage. Only at the ABBA Arena, London, UK(ABBA Voyage)
2014年には「ビルボード・アワード」には、ホログラムのマイケル・ジャクソンが「出演」しています。
▼Michael Jackson - Slave To The Rhythm(Michael Jackson)
実在しない仮想人物を具体化するキャラクター召喚装置「Gatebox」も話題になりました。リアプロジェクション投影技術を用いており、映像のリアルさが注目を集めています。
1-3 他界した妻の歌声をAIで再現し、「AIアートグランプリ」受賞
AIを使って創造されたアートを表彰する「第一回AIアートグランプリ2022」でグランプリを受賞したのは、2013年に他界した妻の歌声と写真をAIで生成したミュージックビデオ「Desperado by 妻音源とりちゃん[AI]」でした。
聞くと、最初に説明されていないとAIとは一瞬ではわからない自然な歌声です。
▼Desperado - - Diff-SVC generated 妻音源とりちゃん[AI]
2024年、海外では1996年に死去したラッパーの2PAC(トゥパック・シャクール)の声をAI生成して曲内で使用したラッパー・ドレイクに対し、遺産管理団体が撤回するよう求め、抗議したことも話題になりました。
2.AIを使った"人の復活"は可能なのか?
2-1 完全「復活」はまだ先のお話し
ここまで、さまざまなAIやホログラム技術を利用した「復活」を見てきました。小説や映画などのフィクションの中では、もちろん復活した人間のように振る舞えますが、現実では、まだまだ過去の姿を模した3D再生に近いもので、「復活」にはすこし遠い印象を受ける方が多いのではないでしょうか。
これは、ホログラムに人格が伴っていないように感じられることと、CGが現実に存在した人物にきわめて近いと(後述しますが)「不気味の谷」が発生し、違和感が生じることが関係しているのではないかと思います。
AIによる人格の再現については、まだまだ研究も議論も続いており、AIを使った人間の完全「復活」はまだまだ先の話になるのではないかと思います。
AIなどテクノロジーを活用した人間の「復活」については、考えさせられる物語があります。NetflixのSFドラマ「ブラック・ミラー」の第2シーズンの1話「ずっと側にいて」(2013年)です。この話では、恋人を事故で失った女性がオンラインサービスを利用して彼を「復活」させるストーリーが描かれています。
2-2 ただし「なりすまし」は条件付きで実現ずみ
しかし、使われる場所を限定した復活、なりすましはすでに実現しており、残念ながら詐欺事件などで使われてしまっています。場所限定の"擬態"的な使われ方において、AIはすでに実用レベルに達しているといえそうです。
2024年春、日本では、有名人を名乗り、フェイク音声を利用した投資詐欺事件が注目を集めました。有名な経済アナリストの音声をご家族が「完璧」と評するほどだったといいます。
海外でも大規模な事件があとを絶ちません。
この場合、思考や動作は人間のもので、それをAIで変換しているところがポイントではないかと思います。つまり、生きている人間を変換する、言い換えるとデジタルものまねをすると、人を騙せるほどそっくりに人間を「再現」できるということになります。
2-3 「不気味の谷」をどう越えるか
実は、先ほど例として示した「AI美空ひばり」は、すべてが好意的に受け止められたわけではなく、反発も多くあったと報じられました。この理由はさまざまですが、「不気味の谷」がその背景にあったのではないかという考察もあります。
「不気味の谷」とは、ロボット工学者の森政弘氏が1970年に唱えた説です。本物そっくりに作られた人間像の類似度が人間にきわめて近くなっていくと、人は親近感を持てない......というより違和感、嫌悪感、恐怖感を得てしまうというものです。
AIを活用した「人の復活」において、今後も「不気味の谷」は課題になっていくと考えられます。現在もこの谷を越える方法はいくつか考えられているようですが、まだ、道半ばと行ったところではないかと思います。
3.ディープフェイク(Deepfake)技術の今
3-1 ディープフェイクとは
AIによる「偉人の復活」に関連が深い技術といえば、まず、ディープフェイク(Deepfake)があると思います。
名称の由来が、AI技術「ディープラーニング(Deep Learning)」と「フェイク(Fake:偽物)」の組み合わせであることからもわかるように、この技術は、映像や音声のデータを基に、まるで本人が発言や行動をしているかのように見せかけることものです。ポイントは、現実には存在してない映像、音声、音等々を生成することです。
2017年頃から注目を集めるようになり、短期間で急激に進歩して、2024年には、上で紹介したように詐欺事件などで悪用されるようになっています。エンターテインメント分野や教育分野での活用が期待されていますが、今は、悪用による社会的影響を懸念する声が大きくなっている流れもあり、法規制などを巡る動きが活発です。
3-2 よく知られているディープフェイクツール
ディープフェイクツールとしては、2018年1月に登場した「FakeApp」が知られています。他にも「DeepFaceLab」や「Faceswap」も人気があり、中国製の「Zao」もよく知られていました。
これらのツールをご自身でお使いになるときは、著作権等々の問題をクリアできない限り、個人的な範囲に留めておいたほうが安心といえそうです。
4.ボイスクローニング(Voice Cloning)とは?
4-1 ボイスクローニング(Voice Cloning)とは?
ボイスクローニング(Voice Cloning)とは、特定の個人の声をAIで人工的に再現する技術のことをいえいます。ディープラーニング進歩によって実用的なレベルになりました。最近では、ボイスクローニングツールを利用すると、数分の音声データから、その人が話しているかのような新たな音声を生成することができるようになっています。
これにより、本当の声の持ち主が実際には話していない言葉を、まるで本人が話したり、歌ったりしているかのように作り出すことができます。
脳卒中を患い会話や歩行ができなくなってしまったアメリカのカントリー歌手ランディ・トラヴィスさんは、このAI技術を活用して新曲をリリースしています。グラミー賞に7回も受賞しているアーティストによるポジティブなニュースとして報じられました。
4-2 便利で楽しい一方で、悪用されるケースも増加中
残念なことにボイスクローニングは悪用されるケースも増えています。特に問題となっているのは、上でも紹介した電話詐欺です。
詐欺師が被害者の知人や家族の声を模倣し、金銭を騙し取る手口が報告されています。電話で聞くと、ある種のフィルターがかかるのか、本当に"機械"を感じさせない声になってしまうため、ある意味、現在、最も悪用が懸念されるツールなのかもしれません。
2023年、セキュリティ会社のマカフィーは、7ヵ国の18歳以上の成人7,054人を対象に調査を行い、そのうちの10%もの人がAI(人工知能)を悪用したオンライン音声詐欺に遭遇していると発表しています。
4-3 ボイスクローニングを利用できるツール
ボイスクローニング技術を利用できるツールは、多くリリースされています。「Descript Lyrebird」や「Respeecher」、「iSpeech」などが知られています。
レベルや用途に合わせてさまざまなツールがあるので、使用する場合はよく比較検討するとよいと思います。
まとめ
上でも述べましたが、AIを使った人の復活は現時点ではかなり難しいといえそうです。さらに偉人となると、もしかするとこの先も不可能なままかもしれません。
技術面もありますが、そもそも偉人のデータが不足しているからです。「偉人〇〇」のように答えるチャットボット、AIアバターなどは実現すると思いますが、「復活」の難易度は高そうです。
ここまで見てきたディープフェイク系の技術は、しばらくは扱いが難しい状態が続くでしょう。
楽しい未来を感じさせてくれる反面、悪用に歯止めをかける方法が明確でないためです。ご自身で利用される場合も、法的・倫理的配慮や、悪用への警戒、使用データの漏洩やセキュリティ対策にくわえ、まだまだ不完全な部分があることを認識し、十分に注意をすることが大切かと思います。