フリーソフトとオープンソースソフト(OSS)は、原則、どちらも無料で使うことができますが、ライセンスなどに違いがあります。
今やOSSは世界中で使われ、支持を集めていますが、近年では「脱OSS」という動きも出てきており、それぞれの立ち位置などの違いを理解しておくことが大切になっています。
そこで今回は、フリーソフトとオープンソースソフトの基本についてと「脱OSS」についてまとめました。
- もくじ
1. 「フリーソフト」と「オープンソースソフトウェア」の基本
1-1 フリーソフトとは?
「フリーソフト(Freesoft)」は、「フリーウェア(Freeware)」とも呼ばれるユーザーが無料で使用できるソフトウェアのことです。
ここで"FREE"は「無料」の意味で用いられており、「無料ソフト」と表記されることもあります。
注意が必要なのが、フリーソフトウェア財団が定義する「フリーソフトウェア(Free Software)」との違いです。
こちらは「自由」の意味で"FREE"が用いられています。表記も「Free Software」(固有名詞)となります。
フリーソフトウェア財団のWEBサイトでは、フリーソフトウェアを次のように説明しています。「無料ソフトウェア」と「自由ソフトウェア」の意味を捉えることがポイントといえるかもしれません。
「ユーザーの自由とコミュニティを尊重するソフトウェアを意味します。これは、ユーザーがソフトウェアを実行、コピー、配布、研究、変更、改善する自由があることを意味します。したがって、「フリーソフトウェア」は自由の問題であり、価格の問題ではありません。」(下記サイトより訳して引用)
What is Free Software?(GNU Project - Free Software Foundation)
1-2 「無料」フリーソフトの特徴
無料の意味で使われるフリーソフトの特徴はいくつかあります。まず、無料なのでコストがかかりません。後述するソースコードが公開されていることも多く、オープンソースソフトとして自由に使えるものも増えています。
単機能だったり、機能が限られていたりするソフトが多いこともフリーソフトの特徴とされることがあります。
デメリット的なニュアンスでいわれることがありますが、必要最低限の機能を持ったフリーソフトは、特定のタスクでは扱いやすいことがあり、その点で有用とされることも多いので、機能が少ないことがメリットになることもあります。
コストを抑えながら、必要な機能を持ったソフトウェアを探している場合に、フリーソフトはたいへん魅力的な選択といえるでしょう。
ただし、フリーソフトには制約が存在することがあります。
商用ソフトウェアとは異なり、専門的なサポートが受けられないか限定的であることが多いようです。コミュニティで対応するケースもありますが、基本的に問題が発生した際にはドキュメントを読むなどして、ユーザー自身で解決する必要があります。
加えて、フリーソフトの一部は、商業利用を禁止するといった条件や再配布等に制限があることに注意が必要です。さらに作者の素性がよくわからないなど「出所不明」の場合は、使用に際して不安があるのも事実です。
1-3 オープンソースソフトウェア(OSS)とは
オープンソースソフトウェア(OSS)とは、ソースコードが公開されており、誰でも自由に利用、改変、再配布できるソフトウェアのことです。
ソースコードが公開されていることで、内容を精査してから使用できます。
OSSは、個人や企業、コミュニティによって共同開発され、ユーザーが参加してソフトウェアを改善できるのが特徴で、これが大きな魅力になっています。
OSSの開発モデルは、これまで多くの人々が関わることで、ソフトウェアの品質向上や新しい技術の迅速な普及に大きく寄与してきました。これは今後も変わらない流れだと思います。
「オープンソースの定義」(The Open Source Definition;OSD)はオープンソース・イニシアティブ(Open Source Initiative;OSI)が策定しています。
なお、日本では、「オープンソース/Open Source」がOpen Source Group Japanにより商標登録されています。
1-4 オープンソースソフトウェアの特徴
OSSの最大の特徴は、ユーザーがソースコードを自由に閲覧し、自分のニーズに合わせて改変できることです。
そして、ほとんどのOSSはライセンス費用が不要ですが、ライセンスが存在するということでしょう。
OSSの開発はコミュニティによって支えられており、バグ修正や新機能の追加が迅速に行われることが多いのも特徴のひとつです。これにより、OSSは高いセキュリティ性と安定性を持つソフトウェアとして期待されています。
しかし、OSSにも制約は存在します。
当然ですが、ライセンスによる制約はあります。そして、商用ソフトウェアに比べてサポートが限定的であることが多いようです。
このため、企業がOSSを導入する際のサポートを請け負うことで収益を上げるビジネスモデルが広く知られるようになりました。また、開発がコミュニティに依存しているため、コミュニティの分離などでプロジェクトが放棄されるリスクがあります。
2. 「フリーソフト」と「オープンソースソフトウェア」の違いは?
もともとの考え方は異なりますが、結果的にフリーソフト、フリーソフトウェア、オープンソースソフトウェアやPDSは、基本的に無料であることなどで似ている点が多いとされています。
しかし、その特性や利用方法には細かな違いがあります。ユーザーがソフトウェアを選ぶ際には、これらの違いを理解しておくことがポイントになってきます。
2-1 ライセンスが異なる
フリーソフトとオープンソースソフトウェアの違いのひとつがライセンスです。
フリーソフトのライセンスは、ソフトウェアの利用に関する条件を規定していることがあります。フリーソフトのライセンスは多岐にわたりますが、商業利用や再配布に制限がかかっていることがあります。個人での利用は無料でも商業利用にはライセンス料が必要というケースもあります。
また、ソフトウェアの改変や再配布が許可されていないこともあります。この場合、ユーザーは提供された形でのみソフトウェアを利用することになります。
OSSのライセンスは、ソフトウェアの自由な利用、改変、再配布を促進するためのルールを定めています。代表的なOSSライセンスには、「MITライセンス」、「Apacheライセンス」、「GNU General Public License(GPL)」、など様々なものがあり、それぞれ内容が異なります。
これらのライセンスは、OSSの利用者がソフトウェアを自由に活用できることを保証すると同時に、オリジナルの開発者の権利を保護しています。
OSSは、コミュニティによる持続的な開発と改良が可能である一方、ユーザーはライセンス条件を理解して、遵守する必要があります。
2-2 ソースコードの公開の有無
フリーソフトとOSSの違いは、ソースコードの公開の有無にもあります。
無料で使えるフリーソフトは、ソースコードが公開されているものもありますが、公開されていないものがあります。
自由なフリーソフトウェアはソースコードが公開されるので、混同しないのがポイントかもしれません。
一方、OSSはその名の通り、ソースコードが公開されています。
ソースコードが非公開のソフトは、クローズドソース(Closed Source)です。クローズドソースは有料・無料ではなく、ソースコードの公開・非公開に焦点があります。ここまで見てきたようにクローズドソースのフリーソフトは存在します。
フリーソフトウェア財団は、ソフトウェアを「自由なソフトウェア」と「不自由なソフトウェア」とに大きく分け、さらに詳細に分類して図化し違いを説明しています。
3. OSSライセンスの今と昔
3-1 黎明期から現在にかけての変化
黎明期において、OSSは自由なソフトウェアの利用と改変が可能であることが技術者やプログラマーに支持され、独自のライセンスを持つ商用ソフトウェアとは異なる自由な技術革新の場を提供していました。
有料である商用ソフトウェアには、シェアウェア(Shareware)もあります。シェアウェアは「開発費を使用者と分担して支払う」意味で、初期のパソコン通信ソフトなどがシェアウェアのことがありました。
ェアの所有権や使用権の制限に重きをおいているのが「プロプライエタリソフトウェア(proprietary software)」です。この代表例は、MicrosoftのWindowsやOffice、AdobeのPhotoshop等です。
OSSの概念は、1980年ごろから前述したフリーソフトウェア財団が、ソフトウェアの自由な利用を推進したことで広まったといわれます。この起源はリチャード・ストールマン(Richard Stallman)氏によるフリーソフトウェア運動です。
OSSが広く認知されるきっかけのひとつとされるのが、1998年1月に、Netscape Communications Corporationが自社のWEBブラウザ「Netscape Navigator」のソースコードを公開した(オープンソース化した)ことです。これ以降、多くの開発者や企業がOSSの開発に参加するようになったといわれています。
2000年代に入ると、Linuxを始めとするOSSが大企業や政府機関に導入されるようになり、OSSの利用が一般化しました。OSSは、コスト削減や柔軟性の向上を求める企業にとっても魅力的な選択肢となり、その商業利用が急速に拡大しました。
この結果として、OSSのライセンスに関する法的リスクやコンプライアンスの問題がクローズアップされるようになりました。とくに、企業がOSSを利用する際に、そのライセンス条件を正確に理解し、遵守することが求められるようになり、開発側もどのライセンスを採用するかを検討するようになったのです。
今後、OSSはビジネスの中核を成す技術基盤の一部となり、その利用はさらに広がっていくでしょう。OSSのライセンス管理は、企業は法的リスクを避ける意味でも重要なポイントとなっています。
3-2 GPLの意味と影響
OSSライセンスの中でも、影響力があるとされるのが「GNU General Public License(GPL)」です。
GPLは、1989年にソフトウェアの自由な利用、改変、再配布を保証するために作成されています。
GPLの特徴は「コピーレフト」の概念にあります。コピーレフトとは、GPLで配布されたソフトウェアを改変・再配布する場合、そのソフトウェアも同じGPLライセンスで公開しなければならないという規定です。
この規定は、OSSコミュニティ内での技術の共有と発展を促進し、ソフトウェアの自由を保護する一方、企業にとってはライセンス遵守の難しさや商業利用時の制約となる場合もあります。
とくに、企業が自社のプロプライエタリソフトウェアにGPLのコードを使用する際には、その影響を慎重に検討する必要があると指摘されています。
4. 知っておきたい使用時のポイント
4-1 OSSの選択時にはライセンスを確認する
OSSを選択する際には、そのソフトウェアが自分のプロジェクトやビジネスに適しているかを慎重に評価することが重要です。
ここまで述べてきたように、利用するOSSのライセンスを理解したうえで、適切なソフトウェアを選択することが不可欠といえます。
仮にライセンス違反があると、法的リスクを伴うだけでなく、企業やプロジェクトの信頼性を損なう可能性があります。
これを避けるためには、プロジェクト内で使用するOSSのライセンスを明確に管理し、適切なライセンス管理ツールを導入することも有効といえます。
4-2 OSSコミュニティに貢献する
OSSの利用は一方通行ではないことも理解しておきましょう。
エンジニアとして、OSSコミュニティに貢献することはたいへん有意義です。OSSプロジェクトに貢献することで、他のエンジニアと知識や経験を共有し、ソフトウェアの品質向上に寄与することができます。
また、コミュニティに貢献することで、OSSの持続的な発展を支えることができ、自分自身のスキルアップにもつながります。
具体的な貢献方法としては、バグの報告や修正、ドキュメントの改善、新機能の提案や実装などがあげられます。
OSSは多くの人々の協力によって成り立っており、あなたの貢献がプロジェクトの成功に大きく寄与することになります。
▼OSSコミュニティの例
5. 「脱OSS(脱オープンソース)」の流れ
5-1 「脱OSS」の背景とその理由
「脱OSS(脱オープンソース)」とは、これまでオープンソースソフトウェア(OSS)として提供されていたソフトウェアが、より制限的なライセンスに移行する現象を指しています。
近年になり、この脱OSSの流れが注目され、一部で議論の対象となっています。
脱OSSの流れは、大手クラウドプロバイダーがOSSをサービスの一部として提供しはじめたことでビジネスモデルに影響が出て、OSSを開発・維持してきた企業の収益機会が減少したことから始まったとされます。
このため、一部の企業はOSSライセンスを見直し、特定の商業利用を制限する方向にシフトするようになりました。
OSSの特徴を保持しながら、競合他社による自由な利用を防ぐことが模索されはじめたのです。
5-2 脱OSSのメリット
脱OSSのメリットは、商業的に強みを発揮しやすくなることと、権利関係のコントロールが強化できることがあげられます。
つまり、企業はソフトウェアの利用条件を厳密に管理することで収益を確保しやすくなります。
そして、特定の機能やサービスを競合から守ることができるため、独自のビジネスモデルを維持しやすくなることにあるといわれています。
5-3 脱OSSのデメリット
一方、脱OSSにはデメリットもあると指摘されています。まず、OSSコミュニティへの影響です。OSSは、開発者コミュニティの協力によって成り立っているため、ライセンスの変更によりコミュニティの活力が失われる危険性があります。
加えて、OSS特有の自由な利用が制限されることにより、イノベーションの速度が低下する可能性もありえます。この点をどうコントロールするかがポイントかもしれません。
5-4 今後の影響は?
脱OSSの流れで、コミュニティの一部が離脱してしまうと、プロジェクトの進行に支障をきたす可能性があります。
原則、無料で利用できるOSSですが、無料で開発はできないので、OSSの自由な利用によるメリットと商業的利益のバランスを見極める必要があります。
今後、あらたなビジネスモデルの模索も進むと考えられます。
まとめ
様々なフリーソフトや透明性と協力を促進するOSSは強力なツールである一方、商業利用等におけるライセンス遵守の難しさが課題といえるのかもしれません。
その意味では、OSSコミュニティへの貢献と商業的戦略のバランスをどう取るかが、今後も重要なテーマのひとつとなっていくと考えられます。
注目される脱OSSの流れはOSSの商業的コントロールを強化する一方で、コミュニティの活力やイノベーションに影響を与える可能性もあるため、今後、どのような動きを見せるのか注目したいところです。