万国博覧会(万博)は、1928年に制定された「国際博覧会条約(BIE条約)」に基づいて開催されています。
2025年に開催される大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン Designing Future Society for Our Lives」をテーマに掲げ、AIが個人の嗜好を理解するパーソナルエージェントをはじめ、XR技術を活用した各種システム、多言語対応の自動翻訳技術、IOWNによる超高速通信など、デジタル技術を駆使した万博として注目を集めています。
そこで今回は、大阪・関西万博が見せてくれるデジタル技術がどのような体験をもたらすのかなど、「デジタル万博」について簡単にまとめてみました。
1.大阪・関西万博で注目の「デジタル万博」とは?
1-1 未来の展望を見せてくれる「デジタル万博」
2025年4月13日(日)から10月13日(月)まで、大阪府・夢洲(ゆめしま)にて「2025年日本国際博覧会」、公式略称でいう「大阪・関西万博」が開催されます。
その中の一環として展開されるのが、「デジタル万博」というプロジェクトです。
出典:デジタル万博(EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト)
今回の大阪・関西万博は、従来の万博と比較して、ICT技術の活用が格段に進化しています。
特に来場者向けのパーソナルエージェントやバーチャル空間との連携、リアルタイム翻訳技術の導入は過去にない新しい特徴です。デジタル技術が万博の運営だけでなく、来場者体験の質を根本から変えているところがポイントとなります。
また、万博は時代ごとにテーマが異なり、それを象徴する呼び名が付けられています。例えば、1985年に茨城県筑波郡谷田部町(現つくば市)で開かれた「国際科学技術博覧会」は、科学技術の発展がテーマで「科学万博」「つくば万博」などと呼ばれました。
2005年に愛知県で開かれた「2005年日本国際博覧会」は環境問題にフォーカスしていたため、「環境万博」「愛・地球博」「愛知万博」などと呼ばれました。
そのため、今回の大阪・関西万博ではデジタル技術の部分が注目され、「デジタル万博」と呼ばれることも増えるかもしれません。
1-2 「いのち輝く未来社会のデザイン」とデジタル技術の関係
大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン Designing Future Society for Our Lives」。
ここにはデジタル技術を通じてより良い社会を構築し、持続可能な未来を創造するというビジョンが込められています。テーマは「Society 5.0」の実現と密接に関係しており、AIやビッグデータ、IoTなどの技術が社会全体の利便性向上やSDGs達成にどのように貢献できるかを示しています。
大阪・関西万博では、次節以降で述べますが、AIを活用したスマート案内や多言語翻訳システムにより、言語の壁を感じることなく世界中の人々が交流できる環境が整えられます。
また、データを活用した健康管理システムや遠隔医療の展示など、デジタル技術が健康や福祉に貢献する仕組みも紹介される予定です。これらの技術は、もちろん万博終了後も社会全体で活用される可能性がある、夢のあるものとなっています。
1-3 会場が未来社会の「リビングラボ」に
大阪・関西万博は、会場全体が未来社会の実証実験場となる「リビングラボ」であると宣言されています。リビングラボというのは、実際の生活空間で新しい技術やサービスをテストして改善し、最適化していくことを指しています。
https://www.expo2025.or.jp/overview/ より引用
来場者がパーソナルエージェントを活用したり、様々な未来志向のサービスを受けたりするだけでなく、次世代通信技術「IOWN」を活用した超高速通信が提供されて、遠隔地からのバーチャル参加が実現するのも特徴です。
このように、大阪・関西万博全体が未来社会の縮図として設計されていて、実際に社会実装される前の技術を試す場としての役割を担っているのが今回の大阪・関西万博の注目点といって良いと思います。
2.最先端デジタル技術で来場者に革新的な体験を
大阪・関西万博ではさまざまな最新デジタル技術が導入されます。来場者の方が体験できるシステムについていくつかご紹介します。
2-1 AIが個人の嗜好を理解する「来場者向けパーソナルエージェント」
大阪・関西万博では、来場者一人ひとりに合わせた最適な体験を提供するために、AIを活用したナビゲート「EXPO2025 Personal Agent(来場者向けパーソナルエージェント)」が導入されます。
このシステムは、来場者の興味や行動履歴を分析し、最適なルートや展示をリアルタイムで提案するものです。
例えば、特定のテーマに興味を持つ来場者には関連するパビリオンやイベントを優先的に案内したり、混雑状況を考慮しながら効率的に回れるようサポートしたりします。また、設定した個人の嗜好やアレルギー情報に基づき、レストランのおすすめメニューも提示できるようです(2025年4月上旬リリース予定)。
AIナビゲート技術により、来場者はよりスムーズで快適な万博体験を得られると予測できます。企業にとっても、来場者データを活用してパーソナライズされたサービス提供が可能になります。この試みは今後のビジネスモデルのヒントになる可能性が大です。
2-2 リアルとバーチャルの融合 - XR技術を活用した案内システム
大阪・関西万博では、XR(拡張現実)技術を活用した案内システムが導入されています。リアルとバーチャルの融合が実現します。
XR技術には、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、MR(複合現実)が含まれ、来場者はこれらを通じてより直感的で分かりやすい案内を受けられます。
会場案内アプリはARでナビゲーションされます。スマートフォンや専用デバイスを通じて、会場内のナビゲーションが3D表示され、リアルタイムでルート案内が行われます。
また、遠隔地にいる人々もVRを利用してバーチャル空間内で会場を見学できるようになり、物理的な移動が難しい人でも自宅から万博に参加し、リアルタイムで展示やイベントを楽しむことが可能です。事前のプロモーションでもAR技術は活用されました。
2-3 言語の壁を超える30言語対応の自動翻訳システム
大阪・関西万博では、世界中から訪れる来場者と出展者のコミュニケーションを円滑にするため、30言語以上に対応した高度な自動翻訳システムが導入されています。
このシステムは音声認識とAI翻訳を組み合わせ、来場者のスマートフォンやデジタルディスプレイを通じて即座に翻訳を提供します。
海外からの訪問者がスタッフと会話する際、互いの言葉が自動的に翻訳され、ほぼ遅延なくコミュニケーションが可能になります。
また、展示物や案内サインのテキストもカメラをかざすだけで母国語に翻訳される機能も実装予定といいます。これにより、言語の壁を感じることなく、世界中の人々がスムーズに交流し、万博を楽しむことができます。
3.「超スマート会場」を支える革新的なインフラ技術
「超スマート会場」とは、大阪・関西万博において最新のデジタル技術やAIを活用し、来場者が快適に過ごせるように設計された未来型の万博会場のことです。それを支えるインフラ技術についてご紹介します。
3-1 光の力で高速・大容量通信を実現するIOWN
特に注目度されているのが、次世代通信技術「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」です。IOWNは光通信技術を基盤とした高速・低遅延・大容量のネットワークで、従来の通信技術と比べて飛躍的にデータ転送能力が向上しているとされています。
この技術により、VRやARを使ったコンテンツのスムーズな配信や、遠隔地とのリアルタイムでの高品質映像共有が可能になります。また、来場者の混雑状況をリアルタイムで把握し、スムーズな誘導を行うシステムの構築にも活用されているようです。
IOWNは万博終了後もスマートシティ構想などで応用されることが期待されている技術です。今回の万博で注目を集め、今後、都市インフラのデジタル化を加速させる重要な技術として認識されていくでしょう。
3-2 デジタルチケットとキャッシュレス決済で実現する快適な会場体験
大阪・関西万博では国際博覧会として初めての試みとして、全面的にキャッシュレス決済が導入され、「EXPO2025デジタルウォレット」が活用されます。
出典:デジタルウォレット(EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト)
全面キャッシュレスになることで、来場者の利便性が向上するとされています。ちなみに、現金以外の決済手段がない来場者は事前にプリペイドカードを購入してキャッシュレス体験をすることになります。他にも金融や経済に関する展示が数多くされるようです。
会場内の飲食店やショップでもキャッシュレス決済が基本となり、混雑時の会計待ち時間が短縮されることが期待されています。予測できるのは、おそらく、プリペイドカードの購入が混雑するのでは?ということです。来場する方は、できるだけ事前に購入するかキャッシュレス決済の手段を用意しておいた方が良さそうです。
詳しい情報は以下のページにて掲示されるようなので、訪問前に確認しておいてください(2024年度中に情報公開予定のようです)。
3-3 顔認証技術で「手ぶら」を実現
上記のキャッシュレスに関連して、電子マネー決済などにおいて顔認証技術が利用されます。
また、事前に顔データを登録することでチケットなしで、なんと「手ぶら」でスムーズに入場できるそうです。決済も顔認証で行えるので、財布やスマートフォンを取り出す手間が省けます。来場者が「これは便利だ」と感じたら、世界で普及が加速するでしょう。
顔認証はセキュリティ面でもメリットがあるとされています。不正入場の防止や紛失チケットの再発行手続きが簡素化できることが期待されています。
なお、システムにはプライバシー保護技術が採用されていて、情報は暗号化され、決済情報とは分離して管理されると発表されています。
4.リアルとバーチャルが融合した新しい万博
4-1 自宅からでも参加可能な「バーチャル万博」
大阪・関西万博では、物理的な会場にくわえて「バーチャル万博 ~空飛ぶ夢洲~」という仮想空間が構築され、世界中どこからでも参加することが可能になります。
スマートフォン(iOS/Android)とPC(Windows/Mac)、VRゴーグル(MetaQuest2、3)に対応するとされていますが、記事作成時点で詳細は明らかになっていません。イメージ動画が公開されています。
バーチャル空間内に万博会場が再現され、来場者はアバターとして参加します。実際の会場と連携しながら、展示の見学やリアルタイムイベントに参加できるようです。
さらに、360度映像やインタラクティブコンテンツなど、オンラインならではの体験も用意されることになりそうです。
移動が困難な人や海外からでも、地理的制約を超えて万博を楽しめるのは画期的ですね。
4-2 アバターを通じた国際交流を実現
バーチャル万博では、アバターを通じて国際交流やショッピングが可能になるそうです。展示グッズや各国パビリオンの特産品をバーチャル空間内で購入できます。
また、海外の来場者とアバター同士で会話し、リアルタイム翻訳機能を活用しながら国際交流を楽しめるようです。物理的距離や言語の壁を超えた人と人のつながりが生まれることが期待されています。
4-3 デジタル技術で実現するSDGsへの貢献
大阪・関西万博では、デジタル技術を活用してSDGsにも貢献します。パンフレットはデジタルになり、紙資源の削減と環境負荷を軽減しています。
また、デジタルアートの展示を行うなどして、環境負荷を抑えながら持続可能な社会のあり方を伝えるとしています。「ジュニアEXPO2025教育プログラム」では、環境問題や社会課題を学ぶカリキュラムが用意されています。
4-4 デジタル技術とくらしとの関わりを体験
デジタル技術とくらしの関わりを体験できる展示も多いようです。「大阪ヘルスケアパビリオン Nest for Reborn」では、未来のヘルスケアや都市生活体験にくわえて、iPS細胞をテーマにした再生医療の可能性に関する展示も行われます。
これらの展示を通じて、健康維持や医療での課題が、デジタル技術の活用によって生活の質を向上させる可能性を実感できるのではないかと思います。
まとめ
大阪・関西万博は、「デジタル万博」として、最先端のデジタル技術を駆使して開催されます。
パーソナルエージェント、XR技術を活用した案内システム、多言語対応の自動翻訳、IOWNによる超高速通信などとバーチャル会場を駆使して、来場者はリアルとバーチャルが融合した新しい万博体験ができるのではないかと思います。
記事作成時点(2025年3月中旬)で詳細が明らかでないこともありますが、どんな万博を魅せてくれるのかとても楽しみです。