今回インタビューを受けてくださった方

- 山本 久仁朗 (やまもと くにお)氏
株式会社ビズリーチ(Visionalグループ) QA基盤推進室
株式会社ビズリーチ(Visionalグループ)所属。2018年10月より同社QAチームに参画。QA基盤推進室の6つのグループのマネージャーを兼務して、現場を統括。各事業部に寄り添う活動と、横断的なテスト・QAの教育・育成・啓蒙活動を牽引。
社外活動としては以下の通り。
・2008年から2010年まで、WACATE(若手テストエンジニア向けワークショップ)実行委員として活動
・全国の JaSST 等において、「キャリア」「ゲームテスト設計」「Web QA」をテーマに登壇
Twitter: https://twitter.com/gen519
今、さまざまな現場でQA業務に携わっている方々の「声」をお届けする『隣のQAに聞く!』。QA・品質向上の重要性がますます増している中、他のチームでは、どのようにQA業務が行われているか、気になっているエンジニアの方も多いと思います。本記事では、その取り組みや「心意気」などを伺い、皆さまにお伝えします。今回は、全2回にわたって、株式会社ビズリーチ(Visionalグループ) QA基盤推進室の山本 久仁朗 (やまもと くにお)さんにお話をいただきます。
- VisionalグループでのQA業務で、現在、感じている"課題点"
- テストやQAといった業務のために必要な「情報収集」と「学習」のコツとは?
- 「QA担当者」に求められる資質、スキルについて
VisionalグループでのQA業務で、現在、感じている"課題点"
―― 山本さんが、Visionalグループ(以下、Visional)でQA活動をされていて、今、感じている問題や改善したいとお考えになっているのは、どのような点でしょうか?
山本氏:はじめに、現在、いくつかのチームでここ1年ほど続けてトライしていることについて話したいと思います。
アジャイルやスクラムで、開発者のモブコーディングに近い状態で、QAチームにおいてモブのテスト観点出しをしています。テスト管理者・テスト設計者・テスト実装者・テスト実施者など、テスト関係者がまとまって一緒に観点出しをしたり、テスト設計のレビューもできるだけ・テスト実施者も含めて実施することによって、メンバーを仕様説明等の再教育する手間を減らしながら、どのような考え方を持ってテスト設計をするかというテスト設計者のナレッジトランスファーも同時に行うことで、ボトムラインをできるだけ上げていくような施策をとっています。
これが課題感の話に繋がりますが、スクラム、アジャイルに対応して、スピード感を持って、いかに軽やかに動けるようにしていくかという点が第一の課題だと思っています。重厚長大なものに対応するのではなく、いわば軽薄短小なものに対して、まず、ベストエフォートでとにかく入り込んで、開発側や事業側の要求を満たしていくのが、私たちのミッションだと考えているからです。
そして、要求を軽やかに受けて動くためには、テストの設計者層を充実させなければなりません。ただ、ご存知の通り、テストの設計者は、全体の数からいうと、とても少ないのが現実です。
そのため、テスト設計者もしくは実装者に近いメンバーを育てていくことが、私たちの真の課題になっています。当社では協力会社の方々含めて、個々のスキル向上に伴う組織力の向上と作業効率よりも中長期的な業務効率の向上を、QA組織発足当時から取り組んできています。
言い替えると、不確実性の高いプロジェクトに対応して、マニューバビリティ(maneuverability)、「機動性」を高めるために、すぐに動ける人材を育てること心がけています。
―― 人材を増やして、層を厚くしようとされているのですね。
山本氏:結局、コアになる人材がいないと、柔軟にスケールしていくことはできないと思います。コアになる人材を育て、そして、その人材がまた次の人材を育てていくフレームを作ることが重要になってきます。それこそ、フラクタルな組織になれるように、みんなが自律的に動いて、自律的に仲間を増やしていくことができるのが、私たちが目指している姿です。そういう意味で、人材育成が、大きな課題のひとつだと捉えています。
テストやQAといった業務のために必要な「情報収集」と「学習」のコツとは?
―― 「育成」に関わってくると思いますが、テストやQAの知識を得たり、学習をしたりするコツを教えてください。
山本氏:当社を例にすると、「JaSSTソフトウェアテストシンポジウム」をはじめ、いろいろなシンポジウムや社外のセミナー、研修にはできるだけ1人、2人は行って、情報をキャッチアップできるような状態にしています。
今、当社はメンバーに恵まれていて、「ASTER(ソフトウェアテスト技術振興協会)」といった団体の会員になっている人も多く、社外活動でさまざまな研究者などと交流して、最新の情報を得ています。
現在は、コロナ禍で海外に行くことはできませんが、逆に、オンラインで海外のカンファレンスに参加しやすい状態ともいえます。そこで、メンバーに海外のカンファレンスに参加してもらったり、それをきっかけにして、書籍の翻訳をしてもらったりするなどして、業界トップの方々と接点を持つようにしています。
とはいえ、これは、チームとしての戦略というよりも、たまたまそういった積極的なメンバーが集まっているから、というのが実際のところかもしれませんね。
―― 書籍などの情報よりも、シンポジウムやセミナー、実際に研究されていている方々との交流の中から学ばれることが多いのでしょうか?
山本氏:もちろん、書籍は読みます。ただ、書籍はおそらく、すこし遅れた情報になってしまうので、書籍・論文から、多種多様な知見・研究を学びつつ、いろんな方と会ってディスカッションすることで、より活きた、最新の情報を得ているのが、今のやり方だと考えています。
―― 紙の情報ですと、「概要」のようなイメージで、交流の中でライブな情報を身につけていくイメージですね。
山本氏:もちろん、古い本でも良い本はあります。私のバイブルともいる本で、人にお勧めしているのが、日科技連出版社から出ている『ソフトウェア品質保証の考え方と実際―オープン化時代に向けての体系的アプローチ』(保田 勝通著)です。通称、「保田本」と呼ばれている、緑色の本です。
初版から、もうすぐ30年近くたちますが、私個人としては、この中に品質保証やテストの考え方のエッセンスがほとんど含まれていると感じています。いろいろなイベントで1冊ずつ寄付するなどしているうちに、いつの間にかamazonだけで10冊も買っています(笑)。その他のサイトを含めると30冊以上、買っているかもしれません。
もう1冊、JaSSTの実行委員の方々が作ってくださった『ソフトウェアテスト技法練習帳』は普遍的な内容です。当社では、各QAチームで1冊づつ、QA基盤推進室の社員に「ちょっとこれをやってみてね」と一人一冊づつ渡しています。
新刊では、先日、出版された高橋寿一氏の『ソフトウェア品質を高める開発者テスト』を参考にさせていただきました。
―― 基本的な考え方を、名著から学び、次に、その上にある技術を学び、アップデートしていくのですね。
山本氏:そうですね。よく、ウォーターフォールからアジャイルに変わってテストをやる手法が変わったという話があります。しかし、実際のところ、アクティビティ(個々の活動)自体は変わっておらず、サイクルや組み合わせ方、注力すべきポイントが変わっているだけで、やるべき技術、やるべきことは大きくは変わっていないと考えています。
―― 適用する場面が変化しているだけで、ひとつひとつ基本となる考え方は変わらないということですか?
山本氏:スコープが若干、小さくなって、早く回っているだけなのかもしれません。対象に合わせて、柔軟に切り替えて対応していくことも、先ほど申し上げた「機動性」のひとつだと考えています。
―― その都度、柔軟に最適な方法を見出していくことが大切なのですね。
山本氏:ウォーターフォールとアジャイルの間にイテレーション開発(iteration)がありますが、イテレーションを理解した上で、目標に向かってアジャイルを進められると、より強い武器になると思っています。
私個人としては、2000年前後に流行った手法ですが、RUP(Rational Unified Process)の考え方などを取り入れて進めて、最終的に運用フェーズになったら、もう完全にアジャイルとかスクラムの形にして進めることもしています。
「QA担当者」に求められる資質、スキルについて
――QAを担当する人には、どんな資質が求められるのでしょうか?
山本氏:会社によって違うと思いますが、当社では、QAが各チームの潤滑油になるような存在だと思っています。そこから、求める素養を考えると、「ロジカル」「素直」「クイック」という3つが基本だと考えています。
やはり、「ロジカル」でないと話すことがチグハグになり、開発をはじめとする関係者の方々との信頼関係がどうしても築きづらくなってしまうと思います。言っていることに筋が通っていることは重要ですね。
次の「素直」、ですが、当社には、失敗を許容する文化があります。ですから、失敗したことを隠すのではなく、素直に失敗しました、次はどうしましょうといった話を、前向きに考えられる方が好ましいと思います。
「クイック」が意味するのは、できるだけ、考えこまず、溜め込まないで、情報をどんどんパスして仕事を滞らせないことが私たちQA部門に求められていることだと考えています。
こういったことを踏まえた上で、先ほど申し上げた各チームの潤滑油のような存在になって、サーバントリーダーシップ的なスキルを発揮することが必要になってきます。私たちは、広い意味でのQAを目指しているので、プロジェクト・サービス全体が良くなることに力を注いでいます。テストだけに特化せず、できるだけプロジェクト・サービス全体を見据えた上での活動を心がけています。
―― 最後に、今、エンジニアや開発に携わっていて、テストやQAに興味を持っている人にメッセージをお願いします。
山本氏:実際に当社でも何人かの開発者がコンバートして、QAチームに来てくれています。私は、開発の人たちが良い開発をするためには、一度、QAチームに来て、経験を積むのが良いと思っています。
より良い製品を作ったり、より良いコードを組んだりするためには、どのようにしてコードや製品が評価され、測られているかを知り、どういった構造だと最適なのかを学ぶことが大切です。そのためには、一度、QA業務を知ってもらうのが一番速いのではないかと考えています。
―― さまざまなお話をしてくださり、ありがとうございました。