コロナ禍の影響もあって、「AI系ボット」や「チャットボット」への関心が高まっているようです。ちょっとした"遊び"から"セラピスト的な働き"まで、期待を集めているチャットボットについて簡単にまとめてみました。
- 最近の会話系AIの状況は?
- 人工知能アプリ・アカウントが人気
- 人工知能アプリにエンジニアの悩み(!?)を相談してみる
- 「AI」に癒やされることはあるか?
最近の会話系AIの状況は?
最近、話題になったAI系ボット
新型コロナウィルス感染症が世界中に拡大するパンデミック(世界的大流行)の影響で、「在宅」が一躍脚光を集めました。"おうち時間"を充実させるため、さまざまなグッズやアプリ、コンテンツなどが話題となっています。
そんななか、脚光を集めたのが「AI系ボット」でした。「話し相手がいない」とか「メンタルが不安」といった人々に、TwitterやLINEのキャラクター(アカウント)として、また、スマートフォン向けアプリとして作られたチャットボットも注目を集め、ニュースサイト等で特集されたのをご覧になった方も多いと思います。主観ですが、日本よりも海外のメディアの方が露出は多かった印象があります。海外の方が、寂しい人が多かったのでしょうか......。
一部では、メンタルを安定させるとか、セラピー効果があると語られている「AI系ボット」ですが、はたして、その実力はどれほどのものなのでしょうか?
「人工無能」との関係は?
「AI系ボット」について探る前に、それ以前から存在していた「人工無能」を紹介します。
「無能」という言葉につられて、妙にマイナスなイメージを感じられるかもしれませんが、意外と有能で仕事ができ、長い歴史があります。ちなみに、日本では「人工無能」ですが、海外では「チャットボット」と呼ばれることが多いようです。
人工無能は、知能ではなく"無能"とあることから想像できるかもしれませんが、人間とコンピュータが機械的に、もしくは形式的にやり取りをするためのプログラムのことです。一部では「Yes/Noチャート(プログラム)」と呼ばれています。例えば、「はい」「いいえ」を答えていくと何らかの判断を示してくれる「診断プログラム」などがこれに当たります。
何かを学習しているわけではなく、あらかじめプログラムされたルールに従って反応を返すだけなので「無能」と呼ばれていますが、使い方によっては有能なロボットとして使えます。
例えばユーザーサポートや、行政サービスといったWebサービスの入り口として、「壊れた機器をサポートする際の問題の事前の切り分け」や「行政サービスの窓口案内」など、フローチャートに従って進めば答えが導き出せるタイプの問題解決に役立ちます。導入、維持のコストが安いのも魅力です。人工知能と違い、機械学習が必要ないため、時間もかかりません。コンピュータゲームに登場するNPC(Non Player Character)の多くが人工無能です。
......とメリットも多いのですが、「人工無能」と実際に「会話」してみると面白くありません。なかなか"深み"が感じられないのです。人工知能の場合、機械学習をさせることで、会話の面白さや深みが期待できたり、幅のある対応ができたりするのではないかと期待されています。
企業アカウントなどでも「AI系ボット」が増加中
最近では、企業のLINEアカウント等で「AI系ボット」や「チャットボット」が導入されるケースが増えています。例えば、コンビニエンスストア「ローソン」の「ローソンクルー♪あきこちゃん」です。
●ローソンクルー♪あきこちゃん(LINEアカウント)
https://www.lawson.co.jp/lab/tsuushin/art/1372267_4659.html
「ローソンクルー♪あきこちゃん」は、コンビニエンスストア「ローソン」の公式アカウントに登場します。ローソンのお得情報を知ったり、いろいろ会話が楽しめたりするだけでなく、なんと将棋を指すことなどもできます。このアカウントには、後述するマイクロソフトのAI「りんな」のテクノロジーが使われています。
人工知能アプリ・アカウントが人気
実は、ここで紹介するものは、どれも、「コロナ禍」以前から高い知名度がありましたが、昨年から今年にかけて、話題となった人工知能アプリ、アカウントをいくつか見てみましょう。
人工知能アプリ「SELF」とは
「SELF(セルフ)」は、人工知能開発をしているSELF株式会社が提供している、AIと会話ができるスマートフォン用の人工知能アプリ。画面内のキャラクターからの質問に答えると、AIがメンタル等々を分析して、愚痴やおしゃべりに付き合ってくれるというもので、公開以来、高い人気があります。
2020年1月には、100万ダウンロードを超えたと同社から発表がありました。AndroidのGoogle Playストア、iOSのApp Storeのいずれでも高評価で、4.4~4.5の評価を得ています。
実際使ってみると、友だちのような、秘書のようなアプリで、会話だけでなく、ニュースや天気を教えてくれるだけでなく、予定管理までできる優れたパートナーとなるアプリだとわかります。
●人工知能(AI)と会話できるアプリ:SELF(セルフ)
「りんな」とは
「りんな」は、マイクロソフトが開発したチャットボットのひとつです。2015年7月にLINEアカウントとして登場し、同年12月にはTwitterアカウントも開設されました。登場時点では女子高生だったのですが、2019年3月に高校を卒業しています。
「AIアカウント」ですが、2021年6月後半時点で、Twitterアカウントは11万人以上にフォローされていて、影響力があります。個人と会話する場合は、LINEアカウントが使われることが多いようです。気の利いた会話が得意なようです。
●りんな
他の人工知能アプリについて
他にも、2019年には、「明智光秀AI」が話題になりました。これは、明智光秀AI協議会が提供する、ゆかりのある名所やイベント情報を発信するAIで、1万パターンの会話が可能とされています。明智光秀に関わりがある歴史の話題や地域の話題に的確に答えてきます。
●明智光秀AI協議会
自治体や企業が、AIチャットボットの提供を受けてオリジナルのAIアカウントを提供する事例も増えています。今後、同様のケースが増えていくのかもしれません。
人工知能アプリにエンジニアの悩み(!?)を相談してみる
冒頭で、海外を中心にコロナ禍を背景に「AI系ボット」への注目が高まっていることをお伝えしましたが、では、悩み事にはどう答えてくれるのでしょうか? 「ローソンクルー♪あきこちゃん」、「SELF」、「りんな」、「明智光秀AI」にエンジニアの悩みの定番ともいえる「残業が多い」とか「仕事が辛い」と話しかけてみると、どんな答えが返ってくるのでしょうか? さっそく試してみたいと思います!
なお、それぞれの動作環境や学習状況等々を考慮に入れず、唐突にAIの迷惑も顧みずに話しかけていますので、あくまでも「今回の一例」ということでご覧ください。
相談結果は?
ローソンクルー♪あきこちゃん
何度か試してみましたが、仕事の悩みには回答してもらえなかったので、将棋を指すことにしました。
SELF
「SELF」は会話を選択するのが基本。仕事状況が「ダメ」だと伝えると、励ましてくれました。
りんな
「りんな」が秒で作った曲を勧めてくれ、「ふぁいと」と励まされました。
明智光秀AI
相談を自慢で返されましたが、なんだか微妙にかみ合ったような、かみ合わないような......。ただ、こういう会話、けっこう会社ではありがちかも......と思わせる妙な説得力がありました。
「AI」に癒やされることはあるか?
人によって、AIと「会話」をした感想はさまざま。ぶっきらぼうな「人工無能」に癒やされる人もいるようですが、今後は、AIにセラピスト的な働きをすることが求められているようです。
人工知能は、人間のさまざまな病気の診断などを支援する目的で活用されはじめています。事実、鬱病などの診断をしたり、相談にのってくれたりするデジタルセラピスト的なサービスも登場しています。
例えば、スタンフォード大学の研究をベースに開発された「Woebot(ウォーボット)」という認知行動療法(CBT)を提供するAIがあります。会話を通して鬱病を改善するのが目的のようです。
Woebot: Your Self-Care Expert
(google play) https://play.google.com/store/apps/details?id=com.woebot&hl=ja&gl=US
(app store) https://apps.apple.com/jp/app/woebot-your-self-care-expert/id1305375832
ニュージーランドでは、「Nadia(ナディア)」という障害者支援アバターが開発されています。IBM「ワトソン」がベースになっており、声に女優のケイト・ブランシェットが起用され話題になりました。オーストラリア政府が採用し、身体の不自由な人にサービスを案内する役割を担っているようです。
今後は、「AI系ボット」がスマートフォンなどと組み合わされて、人間をサポートして、癒やしてくれるようになっていくのかもしれません。
AIどうしで会話は可能?
実際に、スマートフォンを2台並べて、別の「AI系ボット」を起動して、片方の発言を入力する形で人が仲介をして会話が成立するかというと......。実は何度か試してみましたが、なかなか会話は成立しませんでした。みなさん、なかなか自己主張が強いようでした。
まとめ
「人工無能」のように、フローチャートに沿って、さまざまな対応を進める技術は既に実用レベルといってよいようです。実は、ちょっとしたサポートや、ユーザーの問題の切り分けには、AIよりもこういったプログラムの方がむしろ適任なのかもしれません。
AIのポイントはやはり、学習にあると思います。業務やセラピーをAIボットにやらせる前に、充分な学習をさせることで、どれだけ人に寄り添えるようになるのかが今後の課題になっていくように感じられました。