今回は、2022年度に発生した様々なITニュースから、特に話題になったと思われるものをQbookが主観的にピックアップして「重大ニュース」「セキュリティニュース」としてまとめてみました。
2022年度を「こんなこともあったな」と振り返り、新年度の予測や会話の種としていただければと思います。
1.2022年度「重大ITニュース」はネットサービス、ソフトウェア中心
イーロン・マスク氏、Twitterを買収
2022年10月27日、アメリカの実業家イーロン・マスク氏が、SNS大手『Twitter』を総額440億ドル(約6兆4000億円)の個人資産で買収したと報じられました。
同年5月にマスク氏からTwitter買収提案があり、その後、偽アカウントやスパム状況の確認をするとして手続きが保留されたり、情報提供が十分ではないとして買収の中止が示唆されたりといった騒動が繰り広げられました。Twitter側が、買収解除を不当として裁判所に提訴するといった動きののち、10月上旬に買収取引を再開するとマスク氏が表明し、その後、一気に事態が動いた印象です。
買収完了後、マスク氏はTwitterの取締役9人全員を解任して自身が唯一の取締役に就任。Twitterは上場廃止となりました。ここまでの動きを敬遠した一部のユーザーが、Twitterと似たインターフェイスの分散型SNS『マストドン(Mastodon)』に移行したと報じられています。一部の報道では、10月から11月にかけてマストドンのアクティブユーザー数が8倍になったと伝えられ、話題になりました。
Twitterは2006年にスタートしています。Twitter社はアメリカのカリフォルニア州サンフランシスコにあり、マスク氏の買収前は7500人を超える大企業でした。マスク氏はすぐに人員削減や在宅勤務の原則禁止などを含む変革に取り組んでいます。新サービスの導入にも積極的で、2023年1月には定額課金型サービス「ブルー」がスタートしました。
Twitterのアカウント数は2億以上あるといわれます。超巨大なプラットフォームですが、他の著名SNSのアカウント数と比べて多いわけではありません。例えば日本ではライバルといわれるFacebookは27億を超えるアカウントがあるとされ、Instagramも12億、後発のTiktokも7億を超えるといわれています。Twitterの場合、一人で複数アカウントを所有する事例も多いことから、アクティブユーザー数となると、かなり「押されて」いるのではないかと推測できるのです。
これを盛り返し、社会的な討論の場として機能させ、さらに収益をあげることがTwitter社のミッションになっていると推測できます。マスク氏は、Twitterアルゴリズムのオープンソース化なども表明しており、今後も大きな変化がつづくと予測されています。
なお、マスク氏は2022年12月18日に「私はTwitterのトップから退くべきでしょうか? 投票結果に従います」とTweetしました。これに対する反応は「Yes(退くべき)」が57%と過半数となっています。しかし、同時にマスク氏は2022年に2000万人のフォロワーを獲得したという報道もありました。総計は1位の元アメリカ大統領のバラク・オバマ氏(1.3億)に迫る数字のようです。
2023年度はTwitterの「次の一手」が何か、イーロン・マスク氏がどんな動きを見せるか目が離せないことになりそうです。
日本で大規模な通信障害つづく。返金や行政指導も
2022年は携帯電話回線の大規模な障害が多い年といわれていますが本当でしょうか。総務省から業務改善命令や行政指導が行われたという報道もあったので障害が目立ったことは間違いありません。
特に7月2日に音声通話システムのトラブルを端に発生したKDDIの通信障害が印象に残っている方も多いでしょう。全国のau、UQ mobile、povoの回線が繋がりにくくなり、様々な場所に影響が出て報道も過熱、一部では「パニック」とも評されました。
復旧まで時間がかかったことなどで印象に残る障害となってしまいました。障害後、KDDIは利用料を減算するか返金やデータデータトッピングの付与などを実施しています。
以下に目立った報道事例の一部をあげてみます。
【回復報】令和3年7月7日(水曜)からの日本海側大雨の影響により、一部地域でドコモの携帯電話サービスがご利用できない、またはご利用しづらい状況について
障害はこれだけでなく、アプリケーションサービスなども含めると、少し検索しただけでも一定以上の通信障害が発生していたことがわかります。多くの人々がなんらかの影響を受けていますが、一方で以前と変わらない気がする......という感想も聞かれます。もしかしたら、通信障害に関する社会的な関心が高まり、大きく報じられることが増えたというのが真相かもしれません。
事実、総務省は、2019年11月から2021年11月までの2年の間にトラヒック量が約2倍に増加したと発表しています。下図のように飛躍的にインターネットが使われるようになり、人々の関心が高まったことも背景にあると思われます。
(出典)総務省(2022)「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計結果(2021年11月分)」
ビッグテック(GAFA)の業績悪化
2022年、「ビッグ・テック(Big Tech)」で人員整理が行われていることが話題になりました。ビッグ・テックとは、規模が大きく支配的で著名な「アルファベット(Google)」「アマゾン(Amazon)」「アップル(Apple)」「メタ(Facebook)」の4社で、これに「マイクロソフト(Microsoft)」をくわえて「ビッグ5」とすることもあります。
GAFAは、2022年になると業績悪化が報じられることが増え、人員削減などリストラ策を強化しているといわれています。「Web2.0」から「Web3.0」へのシフトが進み、他社のサブスクリプションサービスなどが急伸したことなどで、広告を主体にしたビジネスモデルが "押されて"いることが理由だとも指摘されています。またその背景には世界的な需要の鈍化と物価上昇があるともいわれています。
業績悪化を受けて、メタは1万人以上、アマゾンも1万8000人前後の人員削減を発表しています。マイクロソフトも同様の発表をしており、この流れから、上記のTwitterのマスク氏による人員削減は妥当との見方も存在しています。このようなIT大手による大規模な人員削減は20年ぶりだとか。ちなみに、20年前は「ITバブル(dot-com bubble)崩壊」(2002年)により人員削減などがニュースになりました。
このため、これらの動きを「新たな変化の予兆または始まり」と捉える向きも少なくありません。ビッグ・テックまたはビッグ5の動きから目が離せない状況が続きそうです。
マイクロソフト、OpenAIに追加出資し提携深まる
アメリカのマイクロソフトは、2023年1月23日(現地時間)、AI研究企業OpenAI(オープンエーアイ)に数10億ドルの出資を行うと発表しました。これは、2019年と2021年につづいて3回目の出資となり、マイクロソフトのAIへの注力ぶりが伺えます。出資の目的は、AI領域における提携を拡張して、高度なAI技術を両社が個別に商品化できるようにするためとされています。
事実、2023年2月7日には、マイクロソフトの検索エンジン「Bing」とブラウザ「Edge」がOpenAI「ChatGPT」の技術を活用してリニューアルされると発表され、話題となりました。すぐに使えるわけではなく、申込制だったため「順番待ちリスト」に登録をした読者の方も多いのではないでしょうか。
今後、どのような成果が生まれ、どのようなコラボレーションが発表されるか、楽しみに待ちたいところです。
「Midjourney」、「ChatGPT」をはじめとする「ジェネレーティブAI」が次々と登場
2022年は、「Midjourney」や「ChatGPT」をはじめとする「ジェネレーティブAI」が次々と登場、TwitterなどのSNSやYouTube上で話題となり、いわゆる「バズった(ヒットした)」状況でした。
きっかけとなったのは、2022年7月に公開された画像を生成するジェネレーティブAI「Midjourney」でした。希望する画像のキーワードを入力して、しばらく待つと4枚のイラストが生成される「Midjourney」は生成されるイラストのクオリティの高さで注目されました。同時期に画像生成AI「Dall-e2」も公開されています。
8月には同様の「Stable Diffusion」がオープンソースで公開されたこともあり、画像を生成するジェネレーティブAIの利用が一気に広まった感があります。その後、「Midjourney」がアメリカのアートコンテストで優勝したことでAI活用に関する議論も深まっています。
広まりとともに、Twitter等でAIの描いた絵を「ネタ」化する動きも活発化し、人気は一気に爆発しました。同時にこれはAIの「テスト」にもなりました。特定のゲームキャラクターやアニメキャラが泳いでいる絵が描けなかったり、ラーメンを食べている絵が描けなかったりしたことなどが話題になり、ジェネレーティブAIで「できること」と「できないこと」を探る動きが活発化したのです。「できないこと」を面白いネタにしようという動きがブームの背景にあったとも推測できます。
11月になると文章を生成する「ChatGPT」が公開されました。チャット形式で人間のように会話できる「ChatGPT」は、これまでAIにあまり触れたことなかった人々を中心に大きな衝撃を与え、2022年の年末年始には一気にブームとなりました。文章題(試験問題)を生成できるなど、文章の方がわかりやすい結果が提示されたこともあり、こちらも一気にブームとなりました。上述したように、2月には「ChatGPT」の技術が検索エンジン「Bing」などに利用されることが発表されています。
ジェネレーティブAIはいくつかの課題(議論点)も生じさせています。ひとつは元になった画像や文章の著作権の問題です。これは、AI作成者は画像を使って学習することは「フェアユース(アメリカ著作権法)」と考えていますが、それとは異なる見解を持つ人々もいます。画像生成AI「Stable Diffusion」と「Midjourney」に対しては、アメリカで集団訴訟が提起されており、別のAIサービスについても集団訴訟が予定されているとも報じられています。
今後は、学習に使うデータの著作権だけでなく、生成物が既存の著作物に類似している場合、その対応をどうするかといった議論もされていくことになりそうです。また、文章を生成するジェネレーティブAIについては、その内容が正確かどうか、どう正確性を確認し担保するのかといったテーマも議論になりそうです。
ジェネレーティブAIは目的が明確なプロダクトが多く、そのクセをつかめばビジネスでも利用しやすいものが多いだけに今後、どのように法整備が進んでいくのかといった点にも注目したいところです。
2.2022年度「重大セキュリティ関連ニュース」日本は世界2位の"攻撃標的国"に
2022年2月に開始されたウクライナ侵攻前後から、ランサムウェア「Emotet」の被害が報告されたり、様々なフェイクニュース等の悪影響等の報道が増えたりしてセキュリティに関する話題が増えました。
以前は、「日本語の壁」によって日本は海外から攻撃されにくいとされてきましたが、2023年2月に公表されたBlackBerry Japan株式会社の「グローバル脅威インテリジェンスレポート」によると、日本は世界で2番目に多く攻撃を受けていた国だとわかったとのことです。"安全神話"が崩れた2023年はより一層のセキュリティへ注意が必要であるといえます。
ランサムウェアや「Emotet」等のマルウェア攻撃による被害拡大
2022年前半は、「Emotet」等のランサムウェアの被害が数多く報告されました。国内の自動車関連企業、半導体関連企業等も被害を受け、工場停止や業務停止に追い込まれる事例もあり、3月にはこれらの件が数多く報道されました。非常に多くの企業・団体が感染したと目されています。
この2022年上半期の状況については、警察庁が「令和4年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」として文書にまとめ、公開しています。
親ロシア派のハッカー集団「Killnet」が4省庁23サイトにサイバー攻撃
2022年9月6日、ロシア支持を表明しているハッカー集団「Killnet」が日本の行政サービスサイト「e-Gov」等にサイバー攻撃を行ったと声明を発表し、関係各所が対応に追われる事態が発生しました。情報漏洩等の被害は確認できなかったものの、大量のアクセスにより接続障害などが報告され、松野官房長官がこの状況を説明する事態にまで発展しました。
大手外食チェーン元役員が転職時に競合企業に営業秘密を持ち出す
大手外食チェーンの元役員が同業他社への転職の際、商品原価や仕入れ値のデータを不正に取得して営業秘密を持ち出し、転職先でこのデータをメールで送った疑いで逮捕されました。不正競争防止法違反容疑とのことです。
ITセキュリティとは直接関係が浅いかもしれませんが、今後も転職者等による会社の重要情報データが持ち出される懸念があります。持ち出させないような情報管理体制をとるといった安全な情報管理がより一層求められるようになると予感させる事件となりました。
関西地方の自治体の業務再々委託先の社員が情報入りUSBメモリー紛失
2022年6月、兵庫県尼崎市の全市民の情報(約46万人分)の個人情報が入ったUSBメモリーが、業務再々委託先の社員のミスにより一時的に紛失となる事件が発生しました。USBメモリーは翌日発見されたため大事には到りませんでしたが、住民税や生活保護の受給に関する情報などが含まれていたことから、大きく報道されました。
テレワーク(リモートワーク)の普及により、「データを持ち帰る」ことが増え、他でも研究機関や教育機関等で類似の情報流出事案が増加しています。データをクラウドに置くか、従来のようにストレージを利用して保管するのか、といった点も含めて、業務における情報の取り扱いについて、より一層関心が高まっていくと予測できます。
まとめ:2022年度はどんな年度だったか?
2022年度は、それ以前に開発が始まっていたソフトウェア等の新バージョンや公開版の発表があり、そのうち「ジェネーティブAI」は大きな話題となりました。2020年にはガートナーにより黎明期とされていた技術ですが、それが研究段階から次の段階へと入る節目となったのかもしれません。
偶然ですが、脅威をふるったマルウェア「Emotet」も、2014年に初検出され、2019年の大きな脅威であったものが少し形態を変え、次の段階に入ったものでした。
日本では2021年ごろから広まった「デジタルトランスフォーメーション(DX)」がビジネスワードとして定着した年だったといえます。いろいろな場所で「DX」を見かける機会が増えました。
このように2022年度は過去からの延長線上にありながら、変化と節目を見せた1年だったといえるのかもしれません。ソフトウェアやネットサービスに関する話題が多く、新たな技術を搭載したハードウェア等に関するニュースは少なく感じられました。2023年度も同様の傾向を示すのか、はたまた、劇的な変化をもたらす"何か"が現れるのか、先が見えにくい情勢といってよいと思います。