日本文化の一つとされる「絵文字」は、いまや世界の「Emoji」となり、デジタルコミュニケーションの多様性と豊かさを深める、現代人には欠かせない「文字」となっています。異なる文化や国の人々が「Emoji」によって共通の言語感覚で何らかの意味や意思、感情を伝えることができるようになったのです。そこで今回はEmojiが日本から広まり、「世界をつなぐ文字」になった背景をざっと概観してみたいと思います。
- もくじ
1.あらためて問う「絵文字」とは?
「絵文字」とは、1文字サイズの「絵(アイコン等)」で、ハートや笑顔、車といった多種多様なものを表現して、画面上に表示できるようにした「文字」のことです。
日本では、早期からポケットベル(ポケベル)や携帯電話のメッセージやメールでかな文字や漢字と併用されて定着し、独特の「絵文字文化」「顔文字文化」を形成していました。これがNTTドコモの「iモード」で一つの完成形となってから広がりを見せ始め、さらに、さまざまな形で輸出されて、世界へと広まっていくことになりました。
2015年4月には、アメリカのオバマ大統領が演説中に紹介した、アメリカで人気の日本文化の一つが「Emoji(絵文字)」でした。前後して、海外ではEmojiブームが発生し、一気に広まっていきます。
2018年には、なんと、Emojiを題材にしたアニメ映画『絵文字の国のジーン(THE Emoji MOVIE)』が公開されています。原題の『THE Emoji MOVIE』がなんともストレートです。
コミュニケーションでは言葉だけでなく、表情や身振り、手ぶりなど、感情を伝えるための非言語的な手段が重要になってきます。この非言語的な要素をデジタル世界でも表現する方法の一つとして、日本で「絵文字」が生まれ、世界に広まっていきます。今では「Emoji」は世界中の人々から受け入れられ、愛される存在になりました。
ちなみに、英語圏では「Emoji」のほかに「Emoticon」という単語も用いられています。「Emoticon」は「Emotion(感情)」と「Icon(アイコン)」を合わせた造語で、日本でいう「顔文字(フェイスマーク)」を主に指しています。この2語はぱっと見が似ていることや、一般的には厳密に使い分けられていないこともあって、「Emoji」を「絵文字」だと思わず、Emotion(感情)由来だと考えている人も多いそうです。
2.絵文字の誕生と広まり
2-1 「絵文字」誕生前夜と周辺
上で記したように、「絵文字」とは、文字を1文字サイズの絵(アイコン)として表現したものですが、それ以外にも多種多様な似た表現が存在しています。
例えば「顔文字」「フェイスマーク」といった表現があります。これらは、ASCII文字等を用いて、テキストで「顔」や「猫」「キャラクター」「拡大された文字」等々を示すものです。文字だけでやり取りをするパソコン通信時代には大人気となりました。
上述したように、顔文字は英語圏では「Emoticon」または「Smiley」と呼ばれます。日本では横向きで英語圏では、横から見た縦の形で表現することが多いようです。笑顔で比較すると面白いと思います。
■日本の例「笑顔」(画面表示のまま)
(^^) (^o^) (^_^)
■英語圏の例(左側を上、右側を下にして見る)
:-) :) =)
■台湾の例((左側を上、右側を下にして見る。例は爆笑の顔)
XD
■絵文字「笑顔」
今では、SNSやアプリケーション等でフェイスマークを入力すると自動的にEmojiにして表示する機能を持っていることがあります。「 :) 」 と入力すると 「 」と表示される機能です。皆さんも愛用されているのではないかと思います。
余談ですが、Microsoft Wordにも絵文字入力機能が搭載されています。Windows版では「Windowsキー」と「.(ピリオド)」を同時押しすることで絵文字、顔文字、記号を入力するパレットが表示されます。
(Macの場合は、Fn+Eキーまたは 地球儀キー +Eキーを押すか、「編集」>「絵文字と記号」と選択します。)
ほかにもパソコン通信やインターネット掲示板等から人気が出た「AA(アスキーアート)」などがありますが、こちらは「文字」というよりもイラストに近いものです。これを1行で表現した「1行AA」「顔文字AA」には絵文字との関連を感じさせるものも数多く存在しています。
テキストを使って別の文字やイラスト(絵)を表現する方法はデジタルに限らず、タイプライターを用いた「タイプアート」などもあります。こちらはさらに絵画的な表現です。
絵文字関連に話を戻すと、顔文字はタイプライターが使われ始めた19世紀にさかのぼることができ、当時すでに「 ;) 」が使われていたのではないかと考えられており、研究が進んでいます。コンピュータ時代になると使用者の証言や当時のバックアップなどから発明者や初使用者が割り出されることも少なくありません。アメリカの『 :-) 』や日本の『 (^_^) 』などが判明している例です。
この背景には、1963年、アーティストのハーベイ・ボール(Harvey Ball)氏によってデザインされて大人気となり、世界中に広まった『スマイリーフェイス(Smiley face)』の影響もあったとされています。日本では『ニコちゃんマーク』等々と呼ばれ、バッジなどグッズも多数作られました。誰でも一度は目にしていると思われるほど普及したスマイリーフェイスを一目見ると、その影響が感じられます。
余談ですが、2017年に紀元前1700年のヒッタイト文明の遺跡からスマイリーが発掘されたと話題になりました。
History's 'oldest smile' found on 4,000-year-old pot in Turkey - The Times of Israel
2-2 iモードの絵文字が大ヒット
1999年になると、NTTドコモの携帯電話「iモード」に絵文字が搭載されます。開発の中心にいたのが栗田穣崇氏です。iモードに搭載された絵文字はポケベルの絵文字等や上述したような当時の文化をバックボーンに独自に開発されました。
iモードの絵文字は発表直後から人気となります。他社も同様の絵文字を採用していたことから、2005年頃には、メールやメッセージでNTTドコモ、au、ソフトバンクモバイル間で特別な操作をしなくても相互に絵文字のやり取りができるようになりました。
2016年には ニューヨーク近代美術館の永久収蔵品にNTTドコモの絵文字176文字が選ばれました。
2-3 スマートフォンとUnicode化で世界へ
絵文字はスマートフォンなどでも積極的に使われ、国際的に広まっていくことになります。2000年代後半から、スマホのプラットフォームやメッセージングアプリが独自の絵文字セットを開発したり採用されたりするようになりましたが、基本的に同一の環境がないとやり取りできない"閉じた"ものでした。
これが、"開く"上で影響が大きかったのは絵文字が文字コードの「Unicode 6.0」で採用されたことでした。
「Unicode」とは、文字コードの国際的な標準規格の一つです。目的は、世界中の多種多様な言語の文字を収録し、これに通し番号を割り当てて、同じコード体系のもとで世界中の文字を使用できるようすることにあります。
このバージョン6.0(Unicode 6.0 2010年)に絵文字が掲載されたのです。これに動いたのが、AppleとGoogleでした。AppleはiOSで、GoogleはGmailで絵文字を使う狙いがあったとされています。
ポイントとなるのは、異なるプラットフォームやデバイス間で絵文字が表示できるようになったことです。Unicodeにより、絵文字に共通のコードが割り当てられたことで、異なるプラットフォーム間での絵文字のやり取りができるようになったことになります。絵文字にとって画期的な出来事だったのです。
これにより、Unicodeの絵文字が世界中で使われるようになり、Emojiという呼び方も一般化していくことになります。
3.絵文字の多様化が一気に加速
Unicode化によりEmojiは世界に広まり、その数も増加していきます。顔文字的な表現から動く人、踊る人、食べ物等々、多様な種類やカテゴリーのものが開発されました。さまざまな文化や国々の特徴を反映した絵文字が登場し、多様化が一気に加速し、すでに3600を超えたとされています。
表現形態を模索する動きも増えています。Googleは、二種類の絵文字を合成する機能「Emoji Kitchen」を公開しています。これまではAndroid向けキーボードアプリ「Gboard」に搭載されていましたが、2023年9月、Google検索でも利用可能になりました。Google検索で「Emoji Kitchen」と検索すると、画面最上部で使用できます。
二種類の絵文字をミックスして新しい絵文字を生み出せる
Appleは、2017年に顔認識技術による動く絵文字「Animoji」、2018年にはアニメーションする絵文字『Memoji(ミー文字)』を発表し、話題になりました。iMessageやFaceTimeで主に使われていて、今後、こういった取り組みが広がるのか注目されています。
4.世界の「Emoji」へ
4-1 文化の交流と多様性を示した
Emojiにより、言葉では難しい微妙な"気持ち"をメッセージに込めることができるようになりました。コミュニケーションでは言葉以外にも、話者の表情や身振り、手ぶりといった、非言語的な感情表現があり、重要な意味を持っています。Emojiはこの非言語的な表現をデジタル世界で表現するのを手助けしてくれることから、世界中の人々から受け入れられたと考えられています。
絵文字が増加したことで、世界の多様性が示されるとともに、文化交流の可能性が示されたともいえるのかもしれません。ポジティブに活用していきたいものです。
4-2 社会的影響
絵文字の広がりは文化交流の可能性を広げたり、世界に問題を伝えたりするといった影響も見られています。「蚊」の絵文字は昆虫が媒介する「マラリア」といった病気の問題を世界に認識させるのに影響があったといわれています。絵文字はさまざまな問題提起にもつながっているようです。例えば、どの国の旗を絵文字として採用するかといった旗問題があります
今では職業などを示す絵文字に男女、そしてニュートラルの人のものを用意したり、肌の色を6種用意したりするなどしています。新たな絵文字の採用を巡って国際的な議論が発生することもあり、今後、目が離せない状況になっています。
Emojiは感情表現をするためだけのものでなく、「世界を映す鏡」といわれるほどの広がりを見せています。
4-3 ビジネス活用も一般化
絵文字はテキストだけでは伝えづらい気持ちやニュアンスを補完できるので、ビジネスでの活用も見られるようになっています。SNSなどでの告知の際には積極的に使われるようになりました。
また、ビジネスマン同士のやり取り、顧客とのやり取りの中でも使われるケースも増えています。企業によってはガイドラインを作成して、企業・ブランドのイメージを保ちながら豊かなコミュニケーションを模索する動きが活発です。
まとめ
絵文字は21世紀のコミュニケーションを象徴する存在として進化していくでしょう。歴史は短いですが、今後、「世界を映す鏡」として社会や文化に与える影響は大きくなっていくのではないかと考えられます。
そして、絵文字はより表現豊かなものになったり、カスタマイズできるようになったり、動いたりするようになる可能性もあります。
ポイントは他の環境ともやり取りができることではないかと思います。文化交流に欠かせないツールとしてどう進化していくのか、注目していきたいですね(^^)