厚生労働省の「第13回 地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」の資料によると、精神疾患を抱えている方は日本全体に400万人以上います。多くの人が精神疾患に悩まされており、エンジニアとして働く方も例外ではありません。
中でも、多くのエンジニアが悩まされているとされるのが「うつ病」です。うつ病について何となくはイメージできても、その詳細について把握していない方が多いのではないでしょうか。
本記事では、エンジニアの視点で「うつ病」の症状や原因ついてお伝えします。記事の後半では、うつ病にならないための予防策や、うつ病かも?と思った際の対処法について解説します。
「自分はうつ病かもしれない」「うつ病への対処法が知りたい」という方は、ぜひ参考にしてみてください。
- もくじ
1.「うつ病」とは
うつ病とは気分障害の一種であり、精神的・身体的なストレスによって脳が上手く働かなくなる精神疾患のことです。日常生活の中で気分が浮き沈みすることは普通ですが、うつ病の場合は日常生活に関係なく気分が低下してしまいます。
うつ病になった状態では、脳の機能が正しく働かず、気分が低下した状態から脱却できません。食欲がない、眠れないなどの身体的な不調につながることも多いため、早期の治療が必要です。
うつ病では、主に精神的な症状が見られます。特に次の2つはうつ病によく見られる症状です。
- 抑うつ気分(気分が落ち込み憂鬱になる状態)
- 興味や喜びの喪失
こうした精神的な症状が、食欲不振や睡眠障害といった症状につながることも多いです。
さらには、症状が重い場合は自殺念慮(自殺を考えること)に至ることもあります。
気分の問題にとどまらず、生活に直接的な支障が生じてしまうのがうつ病の怖さです。
2.要チェック!うつ病の初期症状・サイン
うつ病の初期症状は人によって様々です。
精神的な落ち込みだけでなく、身体の体調不良や日常生活にも影響が出てくる場合もあります。
次のうち5つ以上(1か2を含む)が2週間以上続いていたら要注意の状態です。専門の医療機関へ相談することをおすすめします。
- 悲しく憂うつな気分が一日中続く
- これまで好きだったことに興味がわかない、何をしても楽しくない
- 食欲が減る、あるいは増す
- 眠れない、あるいは寝すぎる
- イライラする、怒りっぽくなる
- 疲れやすく、何もやる気になれない
- 自分に価値がないように思える
- 集中力がなくなる、物事が決断できない
- 死にたい、消えてしまいたい、いなければよかったと思う
3.多くのエンジニアがうつ病に悩まされる主な4つの原因
うつ病に悩まされるエンジニアが多いのには、仕事の性質が大きく関係しています。多くのエンジニアがうつ病に悩まされる主な原因は、次の4つです。
3-1 オーバーワークによる生活リズムの乱れ
専門性が高いIT業界は人員の確保が難しく、人手不足に悩む職場が少なくありません。限られた人員だけで多くの業務をこなさなければならず、エンジニアはオーバーワークになる傾向があります。長時間残業や休日出勤を経験したことのある方は少なくないでしょう。
オーバーワークによって生活リズムが乱れれば、ストレスや疲れが溜まります。私生活に十分な時間を確保できないと、精神的な負担を解消することは難しいです。結果として、ストレスや疲れなどを十分に解消できず、うつ病の精神状態に陥りやすくなります。
3-2 納期のプレッシャー
エンジニアにとって精神的な負担になりやすいのが、納期のプレッシャーです。「納期に間に合わないかもしれない」という不安やストレスと日々、向き合わなければなりません。納期のプレッシャーによって精神状態が悪化することも、うつ病につながる原因です。
プレッシャーは思考を乱し、ミスを誘発する要素でもあります。プレッシャーで大きなミスをすれば、さらに精神的に追い詰められることになるでしょう。
3-3 人付き合いの問題
チームメンバーや顧客とのコミュニケーションの問題も、うつ病の原因になり得ます。プロジェクトを円滑に進めるには、さまざまな性格や考えを持つ人と向き合い、上手く立ち回ることが必要です。
相性の悪いチームメンバーと口論になったり、顧客の要望に振り回されたりすることもあるでしょう。また、担当業務によっては1日中パソコンと向き合うことになり、周囲とのコミュニケーションが不足して精神的な不調につながる場合も考えられます。
日々の心理的安全性を高めるためには、コミュニケーションが必要です。
3-4 太陽光を浴びることが少ない
デスクワークがメインのエンジニアは、多くの時間を室内で過ごすでしょう。太陽光を浴びる機会が少ないのも、うつ病の原因となり得ます。
精神を安定させる作用のある神経伝達物質「セロトニン」は、太陽光を浴びることで分泌促進されるのが特徴です。十分な量のセロトニンは日中の活力につながり、夜は「メラトニン」に変わることで良質な睡眠を後押しし、生活リズムを整えてくれます。
4.エンジニアがうつ病にならないための3つの予防策
うつ病を治療することも大切ですが、うつ病になる前に予防することが重要です。ここでは、エンジニアのうつ病予防策を3つ紹介します。
4-1 十分な睡眠を心がける
寝不足にならないよう、十分な睡眠を心がけましょう。うつ病と睡眠には密接な関わりがあり、うつ病の症状が睡眠障害として表れることも、睡眠のトラブルがうつ病につながることもあります。忙しい中でも、できる限り決まった睡眠時間(6時間以上)を確保しましょう。また、快眠につながりやすい枕を選ぶなど、睡眠の質を高めることも大切です。
4-2 リフレッシュする方法を見つける
エンジニアとして仕事するうえで、不安やストレスを完全に避けることは不可能です。こうした精神への負担を和らげるために、リフレッシュする方法を見つけましょう。
たとえば、旅行やスポーツといったアクティブな趣味を取り入れることは効果的です。時間を確保するのが難しい場合は、音楽やヨガなど仕事の日にも取り入れられるリフレッシュ方法を見つけると良いでしょう。
4-3 ワークライフバランスを整える
うつ病を防ぐうえで、ワークライフバランスを整えることが大切です。仕事に偏り過ぎず、私生活の比重も高めましょう。プライベートを充実させることで、仕事で気分が落ち込んだ場合でも精神の回復を図ることが可能です。
しかし、職場の状況や自らの立場によっては、仕事の忙しさを解決できないケースも考えられます。精神的な不調が懸念されるのであれば、上司や人事部への相談も考えましょう。
5.うつ病かも?と思った際にすべき対処方法
エンジニアがうつ病を乗り越えるためには、適切な対処法を知っておくことが大切です。ご自身にうつ病の疑いがある場合、次の対処法4つを試すと良いでしょう。
5-1 専門医の診断を受ける
最も確実な方法は、専門医の診断を受けて適切な治療方法を見つけることです。精神科や心療内科の医師であれば、患者や症状に合った治療方法を提案してくれるでしょう。
投薬治療や磁気治療、カウンセリングなど、うつ病の治療方法はさまざまです。専門的な知識を持たない方が自己判断で治療を試みると悪化する場合もあります。うつ病を確実に治療したいのであれば、専門医の診断を受けましょう。
5-2 信頼のおける上司に相談する
うつ病を抱えながら、仕事で高いパフォーマンスを発揮することは簡単ではありません。そのまま仕事を続けることに不安がある場合は、信頼のおける上司に相談することも大切です。不調の原因が職場環境や人間関係であれば、改善を図ってくれるでしょう。
休職してうつ病の治療に専念したい場合でも、手続きに関して上司から指示を受ける必要があります。職場への影響を抑えたいのであれば、上司には早めに相談しましょう。
5-3 人事部や産業医・社内保健師に相談する
昨今では、人事部にメンタルヘルスの相談したり、産業医や社内保健師を設置している会社も珍しくありません。(労働安全衛生規則では、「従業員数が50人以上の事業場は産業医を選任しなければならない」と定められています。)
上司や同僚などへの相談が難しい、理解が得られないといった場合は、人事部や産業医・社内保健師に相談する選択肢もあります。休職や転職といった手続きを考えている場合は、人事部や産業医・社内保健師のほうが話は進みやすいでしょう。ただ悩みを相談したいのであれば、オンラインの相談サービスを活用するのも有効です。
5-4 転職も考える
職場の人間関係や仕事内容などがうつ病の原因となっており、根本解決が難しいケースもあります。このような場合は、転職を考えるのも1つの選択肢です。ストレスの少ない職場に転職することで、うつ病の根本的な原因を回避できます。
不安やストレスの多い職場から解放されれば、精神的な不調から回復する可能性もあるでしょう。ただしうつ病の症状が重い場合は、まずはしっかりと治療を行うことが大切です。
6.チームメンバーがうつ病で悩まないために上司がすべきこと
上司やチームリーダーには、チームメンバーに対して最大限の配慮が求められます。チームメンバーがうつ病で悩まずに済むように、次の3つを取り入れると良いでしょう。
6-1 不調を気にかける
ミスや遅刻が増えた、顔色が悪いなど、さまざまな不調がうつ病のサインになっている場合があります。チームメンバーの不調を気にかけ、メンタルヘルスの問題が疑われる場合は話を聞いてみましょう。
上司は部下の健康を配慮する、安全配慮義務があります。
6-2 ハラスメントに注意する
パワハラやセクハラがうつ病につながるケースも考えられます。チーム内でハラスメントが行われていないか注意しましょう。また、自らの言動や態度がハラスメントになっていないか普段の言動を省みることも大切です。
6-3 相談しやすい雰囲気を作る
うつ病などのメンタルヘルス不調に関して相談しやすい雰囲気を作りましょう。誰にも相談できないために症状が悪化する場合もあります。たとえば、チームメンバーから悩みを聞く際には、プライバシーに配慮して個室を選ぶと良いでしょう。
まとめ
うつ病とは気分障害の一種であり、さまざまな原因により精神的・身体的な不調が表れる精神疾患のことです。他業種と比べても、うつ病などの不調に悩まされているエンジニアは多いといえます。
エンジニアの仕事を長く続けていくためには、うつ病の原因や予防策、対処法を把握することが大切です。今回の内容を参考にして、うつ病の予防や解決を図ってみてはいかがでしょうか。
なお、うつ病以外にエンジニアが抱えることのある疾患について興味がある方は、エンジニアによくある疾患と原因について解説している第1回の記事も確認してみてください。