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部下との関係改善に悩む上司やリーダーが実践するべきポイントとは? -行動心理学から紐解く-
働き方・労働環境 2024.01.18
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部下との関係改善に悩む上司やリーダーが実践するべきポイントとは? -行動心理学から紐解く-

執筆: 小谷 ひかり

バルテス株式会社 コングロマリット品質サービス事業部 マネージャー

「部下が作業で行き詰まっても相談してくれない」、「部下と信頼関係を築けない」。

そんな上司と部下のコミュニケーションで困っていませんか。

部下との関係構築が上手くいかないと、部下からの報連相が不足しがちになり、業務に支障をきたすこともあります。そのため、部下との人間関係・コミュニケーションの悩みは解消しておきたいですよね。コミュニケーションのお悩み解消として、行動心理学にヒントがあるかもしれません。

行動心理学とは、人がなぜそのような行動をするのかを、心・感情・心理状態から研究する学問です。コミュニケーションについても行動心理学を活かせる場面が多くあり、部下と上司のコミュニケーションにも応用できます。

本記事では、マネジメントにおける部下と上司のギャップを明らかにしていくとともに、部下と上司のコミュニケーションに関する悩みの解決策を行動心理学の面から紐解いていきます。また、具体的なコミュニケーションのコツについても解説していきます。

チームで円滑に業務を進めていくためにも、部下との関係を改善したい方はぜひ参考にしてみてください。

もくじ
  1. 上司と部下のすれ違いを知る
    1. 上司と部下間で起こる認識のギャップ
    2. 多くの管理職が部下の育成に悩んでいる
  2. まずは「相談しやすい雰囲気」「聞いてくれる印象」を作る
  3. 相談しやすい雰囲気を作るための3つの方法
    1. プライベートな話をする「開放性の法則」
    2. 相手の話に共感する「類似性の法則」
    3. 心を開く会話のテクニック「バックトラッキング」
  4. さらに良い関係を築くための取り組み
    1. 相手に自信をつける「親切」
    2. 親近感を引き出す「深い話」
  5. おわりに

1.上司と部下のすれ違いを知る

1-1 上司と部下間で起こる認識のギャップ

管理者がしているマネジメント・部下が管理者から受けていると感じるマネジメントの間には、認識のギャップが存在することが調査から判明しています。

株式会社日本能率協会マネジメントセンターは、部長・課長の職位につく管理者444人と部下566人を対象に、職場における管理者のマネジメントに関するアンケート調査を実施しました。部下が上司に期待するマネジメント行動1位は「気軽に相談できる雰囲気を作ること」でした。それに対して、上司の中で「気軽に相談できる雰囲気を作ること」は重視していきたいマネジメント行動の11位です。

上記の調査から、上司がしようとしているマネジメント行動と部下が上司に求めるマネジメント行動にはギャップがあることが分かります。

1-2 多くの管理職が部下の育成に悩んでいる

上司としては部下の成長意欲に対してコミュニケーション面で悩んでいることが調査から判明しています。

株式会社リクルートマネジメントソリューションズが、2020年に研修に参加した会社の新入社員1680人を対象に、仕事に対する意識の調査を実施しました。最も多くの新入社員が仕事をする上で重視しているのは「自分の成長」でした。

一方で、株式会社大塚商会では、全国の管理職経験者114人を対象に、チームマネジメントについて調査を実施しました。最も多くの管理職がマネジメントで悩んでいるのは「部下の育成」でした。管理職の方々は「課題解決には部下とのコミュニケーションが必要」と回答しています。

2.まずは「相談しやすい雰囲気」「聞いてくれる印象」を作る

上司の方は、まずマネジメントの改善として、自分から積極的に「部下が気軽に相談できる雰囲気」を作るようにしましょう。

「気軽に相談できる雰囲気を作ること」は部下が期待する上司のマネジメント行動の1位であり、部下の期待に応えることで部下との良い関係が構築されるからです。

また「気軽に相談できる雰囲気」が報連相を活発にさせ、上司がほしいコミュニケーションを部下から引き出す助けにもなります。

部下にとって気軽に相談できる雰囲気を作るためには、「相談を打ち明けやすい印象」「相談を聞いてくれる印象」という2つの印象を作ることが大切です。

3.相談しやすい雰囲気を作るための3つの方法

部下にとって相談しやすい雰囲気を作るために、行動心理学として取り組むべき3つをご紹介します。

3-1 プライベートな話をする「開放性の法則」

一つ目は「上司が自分のプライベートについて話すこと」です。

プライベートなことを話すと相手に親近感が湧くからです。これを行動心理学では「開放性の法則」と呼びます。特にプライベートの意外な一面を知ると、人は相手に親近感を感じることがあります。

例えば、普段は授業をサボっている不良生徒が、実は"家が母子家庭で親の子守りを助けている"という別の一面を知ると、"親思いのいい子かもしれない"と感じられることでしょう。これが「開放性の法則」です。

上司から自分の意外なプライベートを部下に話すことで、部下は上司に親しみを感じて心を開いてくれるでしょう。

3-2 相手の話に共感する「類似性の法則」

二つ目は「上司が相手の話に共感すること」です。

相手の話に共感することで相手は上司に対して親近感を抱きます。これを行動心理学では「類似性の法則」と呼びます。

"類は友を呼ぶ"と言われるように、似た者同士は互いに惹かれ合います。趣味が同じ・好きな食べ物が同じ・苦手なことが同じと共通点が多いほど、心の距離が縮まります。部下の話に共感することで、部下に"上司は私と似ているところがある"と認識してもらうことができます。

部下は自分と似ている=共通点が多いと感じると、今までより一層打ち解けた雰囲気で会話できることでしょう。

3-3 心を開く会話のテクニック「バックトラッキング」

三つ目は、会話のテクニック「バックトラッキング」を紹介します。

悩みを打ち明けやすい印象を作ったら、次に相談を聞いてくれる印象を作りましょう。その印象を作るために、部下とのちょっとした会話のときに相手の言葉を繰り返すことが大切です。

相手の言葉を繰り返すと相手は自分の話がよく理解され、「受け入れてもらえている」と感じられます。これを行動心理学では「バックトラッキング」と呼びます。

自分の言ったことに"NO"と否定されると、人は"自分の気持ちを受け入れてもらえない"と心を閉ざしがちになります。その反対で相手の言葉を繰り返してあげると、相手は無意識の中で"そうなんです"と"YES"の肯定された感情が深まります。この肯定感情が深まると、相手は"自分の話を受け入れてくれている"と感じるようになります。

言葉を繰り返すときのポイントは、相手の感情に寄り添って言葉を繰り返すことです。

例えば、部下が「今日、乗っていた電車が人身事故で止まっちゃって」と言ってきたら、「うわぁ、人身事故で止まったんだ」と部下の"大変だった"という感情に寄り添って言葉を繰り返すと効果的でしょう。

部下は自分が感じた大変さを相手に理解してもらえたと感じるようになります。

時間はかかりますが、これらの行動を上司側からアクションすることで、部下は上司の存在を肯定的に感じるようになり、徐々に心を開いてくれるようになることでしょう。

4.さらに良い関係を築くための取り組み

この章ではコミュニケーションについて、もう一歩踏み込んだ上司の取り組みを解説します。少し難しいですが効果的な取り組みです。

上司がもう一歩踏み込んだコミュニケーションの取り組みとして、「親切にする」と「深い話をする」があります。

それぞれ詳しく解説していきます。

4-1 相手に自信をつける「親切」

「相談を打ち明けやすい雰囲気」と「聞いてくれる印象」を作り終えたら、次に取り組むべきは「親切をする」です。

人は親切にされると、能力と自律性が向上するからです。カリフォルニア大学の研究によれば、人は親切をすると親切をした側も親切をされた側も、短期的には能力と自律性が向上し長期的には幸福度も向上しました。

上司がする親切は1~2分程度の小さなものでかまいません。「自分の飲み物を買うついでに部下の飲み物も買ってくる 」「お昼を一緒に食べたときに弁当のゴミを部下の分もまとめて捨てる」「部下のためにドアを開けてあげる」など、業務の合間にできる親切を少しずつ取り入れていくのが良いでしょう。

また、親切のついでに雑談をして親密になる機会にするとなお効果的です。雑談は先述した「プライベートな話をする」や「バックトラッキング」の良い機会になるからです。部下と業務外の会話の場を設けるほど、部下との関係を良好にするチャンスに繋がります。

4-2 親近感を引き出す「深い話」

親切ができるようになったら、次は部下と「深い話」を進めていきます。

深い話とは、その部下が他の社員・特に上司にはなかなか話さない話です。「実は仕事はそんなに頑張りたくない」という仕事観や、「仕事よりプライベートの趣味を大切にしたい」という人生観、「昔部活で先輩にいじめられたせいで年上の人に指摘されるのが怖い」というトラウマ体験などが深い話に該当します。

部下の深い話を上司が親身に聞いてあげると、部下は自分を受け入れてくれていると感じます。

深い話をするコツは少しずつ深くしていくことです。「今日はあいにくの雨だよね」という天気の話から入って、仕事で困っていることや仕事で成長させたい能力の話をし、それから仕事に対する率直な思いを聞くに至るまで話を深めます。

部下は深い話を聞いてくれた上司に、強い信頼感や温かさを感じてくれることでしょう。

おわりに

本記事では、上司と部下のコミュニケーションギャップの調査について解説するとともに、上司がした方が良いコミュニケーションの改善ポイントについて説明しました。

自分のプライベートの話をすること、部下の話に共感すること、部下の言葉に寄り添うこと、部下に親切をすること、部下と深い話をすること。どれも部下との信頼関係を着実に構築してくれます。

ぜひ行動心理学を活かして、部下との良好な関係を築き上げていってください。

参照URL

  • JMAM管理者実態調査2018
    https://www.jmam.co.jp/topics/1235209_1893.html
  • 2020年 新入社員意識調査 | 人材・組織開発の最新記事(コラム・調査など) | リクルートマネジメントソリューションズ
    https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000000867/
  • マネージャー100人に聞きました! チームマネジメントで苦労していること | 大塚商会
    https://www.otsuka-shokai.co.jp/media/theme/business-improvement/management/
  • 職場の人間関係で役立つ心理学!「開放性の法則」と「類似性の法則」をマスターする - まいにちdoda - はたらくヒントをお届け
    https://mainichi.doda.jp/article/2019/12/24/1765.html
  • バックトラッキング:NLP用語集/NLP 日本NLP協会 公式サイト・神経言語プログラミング
    https://www.nlpjapan.org/nlpword12.html
  • APA PsycNet
    https://psycnet.apa.org/record/2017-24716-001
行動心理学の連載一覧

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執筆: 小谷 ひかり

バルテス株式会社 コングロマリット品質サービス事業部 マネージャー

業務系システムの開発・運用・保守にSE兼プロジェクトリーダー兼コンサルタントとして携わった後、バルテスに入社する。入社後は、テスト自動化プロジェクト・品質保証プロジェクトを経て、現在は品質向上支援に携わっている。また、その傍らで、専門分野である心理学の知見に基づいて、新卒社員の指導や社内委員会の品質向上に力を注いでいる。