プロジェクトマネージャーはプロジェクトを動かす役割であり、ITエンジニアの中核的な仕事のひとつである。
本シリーズ「プロジェクトマネージャーの本質とその鍛え方について」では、マネジメント能力やリスク管理能力といったプロジェクトマネージャーに求められる「スキル」ではなく、主体性や責任感などのような「各スキルの源になるプロジェクトマネージャーの本質」について、エンジニアを育てる立場から整理していきたいと思う。
- もくじ
1. プロジェクトマネージャーと「主体性」の関係性
プロジェクトマネージャーの仕事を一言で表現するなら「主体性」ではないだろうか。
実施者や設計者の頃は作業者である。プロジェクトの中で仕事を与えられる立場であり指示を仰ぐ相手がいた。
それがプロジェクトマネージャーになると、自分でプロジェクトを進めていく立場になる。プロジェクトマネージャーの多くは現場のチームのトップであり、誰かに判断を仰ぐことは難しくなる。
そうなると、仕事に向き合う姿勢も変えていく必要が出てくる。仕事の不明点を分からないことを訊けばよかった頃・仕事のリスクを誰かに教えてもらえばよかった頃・仕事の進捗を誰かに管理してもらえばよかった頃と違って、自分で主体的に考え、自分で判断し、自分でチームの舵を取る必要が出てくる。
2. 主体性とは何か?
主体性とは「自分で作業を考えること」ではないだろうか。
たとえば、本業の塾講師というのは、担当の授業(コマ)の時間にただ喋っているわけではないだろう。日々授業のことをずっと考えている。「最近の受験問題はこう変わってきたから、講義を作り直さなきゃいけないな」などと思いを巡らせ、必要な作業を自分から考えて生み出していく。
同じように、実施者・設計者とプロジェクトマネージャーで異なるのは、作業をもらう側と、作業を作る側の違いのように思う。
3. プロジェクトマネージャーにとって「主体性」はどうあるべきか
プロジェクトマネージャーにとって「主体性」とは、どれだけ作業以外に意識を向けられるかではないだろうか。
先程「実施者・設計者とプロジェクトマネージャーで異なるのは、作業をもらう側と、作業を作る側の違い」という説明をしたが、その本質はつまるところ「自分が作業をする(自分で動く)」のではなく「メンバーとお客様に作業をしてもらう(動いてもらう)」ことであるように思う。
実施者・設計者のゴールは渡された作業を終わらせることであるが、プロジェクトマネージャーのゴールは適切な作業を作り出し作業を、適切に実行してもらい無事にプロジェクトを終わらせることである。
そこで一番重要なのは、抜け漏れなく適切な作業を作り出せるかである。
進捗状況等を加味して「実装順番を変えるように頼み込む作業は必要か?」「ブロックバグを優先的に改修してもらうように依頼する作業は必要か?」「お客様と合意しなおす作業は必要か?」などと、どれだけ今ある作業以外に意識を向けられるかがプロジェクトマネージャーのあるべき主体性ではないだろうか。
4. プロジェクトマネージャーらしい「主体性」を身に付ける方法
4-1. 他の人をフォローしてみる
実施者・設計者には、積極的に他の人のフォローをする人と、フォローしてほしいと言われるまで全くフォローをしない人がいる。プロジェクトマネージャーになりたいなら他の人を積極的にフォローしてみるのがいいように思う。
人のフォローを始めてみると様々な事が見えてくる。「同じ実施者でも自分と考えが違う」ということに気づいたり、「IT知識が卓越してさえいれば人のフォローをうまくできるわけではない」ということに気づいたりする。
人のフォローをする中で「プロジェクトマネージャーとしてもっと多くの人(チームメンバー)をフォローする立場になったときに、自分はどういう意識で日々の業務を行うのだろうか」と考える機会が多く訪れるだろう。
4-2. 期限の不明確な業務に意識的に取り組んでみる
プロジェクトマネージャーというのは期限の不明確な仕事が多い。
たとえばテスト実施者の業務であれば、テスト実施がその日の目標件数に達しなかったら進捗の遅延になってしまう。一方で、プロジェクトマネージャーの場合、プロジェクトマネージャーが進捗管理表を作るとして、テスト実施開始よりも進捗管理表の完成が一日遅れたところで、プロジェクト全体の進捗には何も影響は出ないだろう。しかし、進捗管理表の完成が遅れ続ければ進捗の把握が遅くなり、結果的に進捗の遅延に繋がってしまう。
このようにプロジェクトマネージャーの仕事というのは期限の不明確な業務が多い。
たとえば私はQbookのライターをしているが、明確な納期やノルマは存在しない。サボろうと思えば1年まるまる何の記事を出さなくたって怒られない。しかしある程度の頻度で記事を出していると「小谷さんってQbookライターもやっているよね」という評価がついてくる。
期限の不明確な業務に自分の意識でどう取り組むのかが、結果的にプロジェクトマネージャーらしい主体性に繋がるように思う。
5. 主体性が学べるおすすめの本
5-1. 世界一わかりやすい リスクマネジメント集中講座(勝俣 良介 (著) オーム社)
先程「もちろんプロジェクトマネージャー自体にも進捗管理表の作成等の作業業務があるが、それらをやっている間もどれだけ作業以外に意識を向けられるか」と記載したが、作業以外に意識を向ける代表的なものが「リスク」である。
本書はリスクとの向き合い方について、具体的な事例を上司と部下がディスカッションする形式で書かれており、リスクにこれから初めて向き合う人にオススメな一冊である。
世界一わかりやすい リスクマネジメント集中講座
これだけは知っておきたい「リスクマネジメント術」を世界一わかりやすい講義形式で学べる!
本書は、リスクマネジメントの実務担当者はもちろんのこと、ミドルマネジメント、経営層に至るまで組織を率いて活動する人が、最低限知っておくべきリスクマネジメント知識やその実践方法について、やさしく解説します。
5-2. 思考停止という病(苫米地英人 (著) KADOKAWA)
冒頭で述べたように、実施者や設計者の頃は作業者である。
仕事の不明点を分からないことを訊けばよかった、仕事のリスクを誰かに教えてもらえばよかった、仕事の進捗を誰かに管理してもらえばよかった、これは思考停止であると言えるだろう。
作業者であった頃は、目の前の問題が分からなければ、プロジェクトマネージャーが問題集の解答集のように答えを分かりやすく提示してくれた。
だがプロジェクトマネージャーになると答えのない問題あるいはリスクに自分で考えて取り組まなければいけなくなる。その部分の主体性の切り替えの一助になるのが本書である。
思考停止という病
思考停止と言われて、何を思い浮かべますか。私は思考停止などしていない、考えていると思っていませんか。思考するという定義は何でしょうか。思考は2つのレベルで見ることができます。1つは「物理的な脳の活動」。そしてもう1つは「創造的な問題解決活動」です。
最後に
今回はエンジニアを育てる立場から、プロジェクトマネージャーの「主体性」の重要性についてまとめた。
作業者とプロジェクトマネージャーの大きな違いは、誰かから作業をもらうのか、自分が作業を作る側なのかである。作業を作るためには、主体的に状況を確認したりプロジェクトのリスクについて考えたりして、追加の作業が必要かどうかを検討することが大切なように思う。
今回紹介した2つの書籍も「主体性」というスキルを伸ばすためにぜひ購読してみてほしい。