本シリーズ「プロジェクトマネージャーの本質とその鍛え方について」では、マネジメント能力やリスク管理能力といったプロジェクトマネージャーに求められる「スキル」ではなく、主体性や責任感などのような「各スキルの源になるプロジェクトマネージャーの本質」について、エンジニアを育てる立場から整理していきたいと思う。
- もくじ
1.プロジェクトマネージャーと「整える」の関係性
プロジェクトマネージャーの重要な仕事の一つとして「整える」がある。
実施者や設計者の頃は誰かが整えてくれていた。タスクの整理をしてくれたり、業務量を調整してくれたり、悩みの相談にのってくれたりしていた。それに対してプロジェクトマネージャーは現場でトップになることが多いので、自分で調整することが必要となる。
プロジェクトマネージャーの仕事は多岐に渡る。
タスクの切出し・スケジュールの管理・リスクの予防・お客様との調整・報告資料の作成......、そんな日々を繰り返すとやがて仕事が散らかってくる。今までは覚えられる範囲の仕事を粛々とやればよかったのに、プロジェクトマネージャーになるとなんの仕事が残っていたかさえ分からなくなってくる。散らかった部屋は意識して整えなければ散らかりっぱなしになるように、抱えている仕事も整えることが大切になってくる。
同様に、心身を整えることも重要である。
プロジェクトマネージャーになると自ずと仕事が多くなっていく。たいていの業務はメンバーより速く作業できるものだから自分でやってしまいたくもなるだろう。喫緊の業務を抱えて残業を重ねてしまう日もある。すると今度は生活が乱れてくる。仕事の波に荒んだ心には意識的な調律が必要になってくる。
2.整えるとは何か?
「整える」とは「良い調子だと思える状態に納めておくこと」だろう。
なるべく「普通」ではなく「良い調子」と思える具合にしておくのが良い。たとえば自室が整っている、と表現したとき、嫌な部屋を想像する人は少ない。モノが綺麗にしまってある様子を想像する人もいれば、多少煩雑になっていても、食べた後のラーメンカップがなければそれでいいというイメージの人もいる。
仕事や心身についても同様で、「良い調子って何だろう」と想像したときの状態になるべく近づけることが整えるということではないだろうか。
3.プロジェクトマネージャーが「整える」仕事をするために確保すべき時間
3-1 立ち止まる時間
まずプロジェクトマネージャーが確保すべきなのは「立ち止まる時間」。
実施者・設計者の頃は目の前に差し出された仕事をやっていればよかったが、プロジェクトマネージャーになると「仕事を考え、メンバーに渡すこと」が仕事になってくる。
だが同時に自分も「仕事をやること」を続ける必要がある。進捗管理表の整備や報告資料の作成など、自分しかできないタスクは常につきまとう。
結果的に、飛び交うタスクをお手玉し続けるような状況になるものだから、五色の玉の望んだ一つをじっと見つめることさえ難しくなる。お手玉している間は優雅そうに見える玉であるが、じっくり見てみると実は空気に触れて曇ったり投げている間に糸がほつれてきていたりしている。この綻びをときどき縫い留めてあげないと、いつか玉は壊れてしまいかねない。
そのためには目の前のタスクを脇に置いて「立ち止まる時間」が重要になる。たとえば私は仕事の合間にときどき、30分ぐらい現状のタスクとその進捗率を書き出してみたりする。
メンバーのタスク状況を把握していたつもりが列挙して整理してみようとすると、メンバーごとに対する自分の把握度合いにバラつきがあることに気づいたりするものである。
3-2 集中できる時間
他の人に邪魔されない、「集中できる時間」を確保するのも仕事や心の整理に役立つだろう。
プロジェクトマネージャーの仕事や心身が散らかる理由の一つに、メンバーやお客様からの横やりが入ることが挙げられる。進捗管理表を作ろうと思った矢先に実施者から「画面がうまく動きません」と問われたり、ようやく設計のレビューができると思ったらお客様から「上層部に急遽状況報告しなきゃいけなくなったから、進捗を最新化してほしいです」と相談されたりする。
もちろん、これらの対応も重要であるが、往々にしてそれらの相談を優先してリアルタイムで対応するよりも、全体のタスク管理などをして仕事の見通しを明確化してから目の前の相談への回答を考える方が、良い回答ができ結果的にチーム全体の工数を削減できたりする。
とはいえ、その時間の確保が難しいことも、我が身を振り返ってみても重々承知である。
3-3 離れる時間
プロジェクトマネージャーというのはつい根詰めてしまう生き物である。そのため思い切って「離れる時間」も作ってみよう。
退勤したのに明日以降の予定が気になったり、午後休で早上がりをしてもメンバーの作業状況が脳裏にチラついたりする。次第に頭と心が休まらなくなる。残業はしていないはずなのに思考は残業しっぱなしになったりする。
こうなると意識して自分を仕事から引き離すことが重要になってくる。ちゃんと仕事を考えない時間をどう作るかが一大課題に挙がる。
4.仕事の中でプロジェクトマネージャーらしい「整える」を身に付ける方法
4-1 タスクを振り返る時間を作る
プロジェクトマネージャーがタスクを整理するように、実施や設計業務を一度立ち止まってそれを振り返る時間を持つことは、プロジェクトマネージャーの疑似体験になる。
8時間のうちの8時間を与えられたタスクに使うのではなく、一日15分ほど、あるいは週に60分ほど、振り返りの時間に回してみる。すると進むための時間だけでなく、進むことを整える時間の過ごし方を学ぶことができる。
4-2 業務時間を調整する練習をする
業務時間を調整する練習も大切だ。
例えば、フレックス退社をして整う時間を確保するために他の業務を圧縮することを学ぶ。できればテスト実施や設計のスケジュールが決まった中で、自分の稼働時間を調整することで休み時間を生み出すことをやってみると、より自分で自分を整える練習になるだろう。
4-3 仕事中にやれる息抜きを持つ
ゲームでも読書でも音楽でも食事でもいい。仕事以外に意識を没頭できる「息抜き」を用意しておく。
プロジェクトマネージャーになると昼休憩を取るのが下手になる。ご飯を食べながらも仕事が脳内を支配したままになる。人とご飯を食べるくらいなら仕事をしながらご飯を食べたくなる。
そういうときは意図的に仕事中の一服を用意する。ちょっと近くのコンビニにお菓子を買いに行ってもいいし、10分ぐらい同僚やチームメンバーと雑談してもいいだろう。息抜きをすると頭はふたたび仕事を整理する活力を取り戻す。
5.「整える」を学ぶための本のススメ
5-1 整える習慣(小林 弘幸 (著) 日経BP 日本経済新聞出版)
大学の医学部教授が書いた「整える」のTips集。
1Tipsが2-3ページで短く書かれているので、気合を入れずに読むことができる。
仕事で荒れているな―と感じたら、パラパラと見て「これをやってみたら日々の慌ただしさが少し落ち着きそう」と直感的に思ったものを1つ2つ取り入れるのがいいだろう。
5-2 タスク管理をなんとかしたいと思ったら最初に読む本(とみちゃん (著) )
個人の経験ベースで使えたタスク管理術を言葉にした本。わずか99ページ。
読んでみて「自分に合うな」という学びもできるし、「合わないということは自分はこういう方法の方が合うかも」というひらめきにも繋がる。
現場経験視点でまとめられたタスク管理術なので、具体的なのもマネしやすくて良い。
タスク管理をなんとかしたいと思ったら最初に読む本: タスク管理が苦手な人のための超入門
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タスク管理が苦手な人のための超入門。
仕事にふりまわされる日々から自分の時間をとりもどそう!
第一人者の医師が、自律神経と上手につき合う108の行動術を伝授。
最後に
今回はエンジニアを育てる立場から、プロジェクトマネージャーの「整える」ことの重要性についてまとめた。
プロジェクトは進むほど仕事も心身も散らかってくる。
荒れていく状況に対して、立ち止まって状況を整理したり、喧騒から離れて目の前に集中する時間を設けたりしながら「整える」というスキルを整えていくことが大切になるだろう。
今回紹介した2つの書籍も「整える」というスキルを伸ばすためにぜひ購読してみてほしい。