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第5回 心理的安全性
心理的安全性 2024.01.18
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信頼感を高める「雑談」の意外な効能とは?チームに及ぼす4つの効果

執筆: 小谷 ひかり

バルテス株式会社 コングロマリット品質サービス事業部 マネージャー

信頼感を高める「雑談」の意外な効能とは?チームに及ぼす4つの効果

心理的安全性とは、「組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態」を意味する言葉です。
リーダーからメンバーへの一方通行的で高圧的なチームでは、優秀な社員はのびやかに仕事ができる会社に去ってしまい、入社して日の浅い社員は委縮して生産性を下げてしまいます。
今回は、心理的安全性と雑談の関係性についてご紹介します。

もくじ
  1. 雑談が心理的安全性を高める
  2. 雑談ができない現場は生産性が下がることも
  3. 雑談がチームに及ぼす4つの効果
  4. 雑談を生む環境づくりの事例を紹介
  5. まとめ

1.雑談が心理的安全性を高める

心理的安全性とは言うなれば「良好な人間関係」です。つまり以下のような状態が心理的に安全だと言えます。

  • チームメンバーがリーダーを信頼できること
  • チームメンバーが他のメンバーを信頼できること

雑談はこのメンバーのリーダーに対する信頼感やメンバー同士の信頼感を高めます。なぜなら、雑談は心理学における「自己開示」と「類似性の法則」という2つの信頼構築方法に繋がるからです。

自己開示とは「自分に関するプライベートな情報を相手に話すこと」です。
例えば、いつも無口で忙しそうな上司がいるとします。あなたにとってはその上司は少し話しかけづらいかもしれません。でも「実はその上司は大の猫好きで、PCのデスクトップ背景もスマホの待ち受けも全部猫の写真。しかもスマホには猫のストラップをつけている」と知ったらどうでしょうか? 少し親近感を覚えませんか?

雑談.png

これが「自己開示」の効果です。雑談をすれば自然とプライベートな話になり、メンバー同士の自己開示が起きます。趣味の話や先週末の過ごし方について雑談を重ねれば相手について知っていることが増え、次第に相手に親近感を覚えるようになっていきます。
人は自分のよく知らない存在は信用できない生き物です。「食わず嫌いをしていた料理を食べたらハマってしまった」という出来事がよくあるように、人間同士も相手を知ることで信頼関係が生まれやすくなります。

雑談に含まれるもう一つの効果である類似性の法則とは「人間は自分と共通点が多い人には親近感を抱くこと」です。たとえば、初対面で会った人と話さなければならないとします。あなたは緊張するかもしれません。

でも「実はその人はあなたと地元が同じで学生の頃はあなたと同じスーパーに通っていた」と知ったらどうでしょうか?地元が同じだったり出身大学が同じだったり趣味が同じだったりして話が盛り上がった経験はあなたにもあると思います。
これが「類似性の法則」です。
雑談をすれば自然と共通点も見つかり、メンバー同士が類似性を感じる機会も増えます。類似性を感じれば、相手を身近に感じて信頼するようになっていきます。

2.雑談ができない現場は生産性が下がることも

反対に雑談がない現場、雑談がないチームでは、以下のようなことが危惧されます。

  • メンバーが職場をやめていくことが増える
  • 仕事の生産性が低下する

それぞれ詳しく解説していきます。

メンバーが職場をやめていくことが増える

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雑談がない現場は、人の入れ替わりが多くなりやすいです。
リクルートキャリアの調査によれば、上司と雑談をしていない社員ほど離職意向が高いことが分かりました。[1] 正社員はもちろんのこと、協力会社や契約社員も含めて離職率が高い会社ほど業務スキルの蓄積が難しくなり、採用・教育コストがかさんでいきます。

仕事の生産性が低下する

雑談が生産性に影響を与えるという調査結果・研究結果が複数件見られます。
NTTコムリサーチの調査によればテレワークについて、生産性が上がったと24%が回答したのに対し生産性が下がったと25%が回答しました。テレワークで生産性が低下したと回答した人の大半はコミュニケーションの減少を理由と挙げています。具体的には「気軽なコミュニケーションがとりにくく、打ち合わせばかり増えた」や「業務以外のコミュニケーションがとりづらくサポートし合いづらい」といった回答がありました。[2] 同様に情報処理学会の調査でも職場での雑談が生産性を約1.3倍にしたという調査結果が出ています。[3] 

雑談の効用についてはプラス株式会社の調査によれば、オフィスで働く人の80%以上が「雑談が仕事に効果がある」と回答しており、そう答えた人の多くが雑談を情報収集やアイデア出しとして活用していました。[4]

3.雑談がチームに及ぼす4つの効果

では、雑談が盛んに行われる現場では以下の4つの効果が期待できます。

  • 助け合いのできる信頼関係が構築される
  • 共通の文化が生まれる
  • 気軽なフィードバックができるようになる
  • 自分で行動する部下が育つ

助け合いのできる信頼関係が構築される

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普段から雑談し合える関係を構築できていると、仕事の相談を気軽にできるようになります。

日常的にコミュニケーションを取っていない人に声をかけるのは勇気が必要です。そのため、チームをマネジメントする上では、その勇気の有無を個人任せにするよりも、声をかけるハードルを下げてあげることが大切です。それを実現するためには、日ごろから雑談を重ねてお互いが気心を知れた関係になると効果的です。

一方、雑談が少なく信頼関係が構築されていない職場では、忙しい時ほど自分の仕事だけをやるようになります。「ザッソウ 結果を出すチームの習慣」(倉貫 義人 著 日本能率協会マネジメントセンター)によれば、次のように記載されています。

チームの仲間がどんな人たちなのか知らなければ、たとえ誰かが困っていても手を差し伸べることはないし、助けるにしてもメリット・デメリットで考えるようになります。(中略)そうなってしまうと個々人は、自分のことは自分で守るしかなくなります。さらに同僚との関係に線を引いて、お互いに最低限のかかわりしか持たなくなり、ますますチームワークが機能しなくなっていくのです。
(「ザッソウ 結果を出すチームの習慣」(倉貫 義人 著 日本能率協会マネジメントセンター P27より抜粋)

 チーム内で助け合える関係になるためには日ごろのコミュニケーションが重要になります。

良い共通認識が生まれる

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雑談が進むと、リーダーを中心にチームとして仕事をしていくための良い共通認識が生まれていきます。たとえば雑談の活発なチームでは以下のような共通認識が育まれやすいです。

  • 悩んだら気軽に上司やメンバーに相談しあっていい
  • メンバー同士が年齢関係なく対等に助け合い意見しあっていい
  • 仕事の会話でも冗談を言いながら楽しく進めてよい

一方、雑談がなく冷え切ったチームでは、悪い意味での暗黙の了解が生まれてしまいやすいです。

たとえば以下のようなものが挙げられます。

  • 上司の心が分からないから言われたことだけやっているのが一番安全
  • 人のことを助けても評価されない
  • 意見を言っていいか分からないので言わない方が無難

雑談がないとチーム内で足を引っ張り合う結果に。良い共通認識を生むためにも日常的な雑談を意識しましょう。

気軽なフィードバックができるようになる

雑談が日常化してお互いの気心が知れると、メンバーが中間成果物を見せやすくなります。
中間成果物を見せるためには「イマイチな中間成果物でもマイナス評価をされない信頼関係」が必要です。未完成のものを見てもらうというのは一定の恐怖感を伴います。雑談が進み、メンバーがリーダーにプライベートのことまで話せるようになれば、「完成度はまだ"いまひとつ"だけど、このリーダーなら優しくアドバイスしてくれるだろう」と信頼できるようになります。

自律して行動する部下が育つ

行動は「きっかけ」と「見返り」で決まります。
良い「きっかけ」があると人は少しずつ自分から行動を始めますし、行動に対して良い「見返り」があると人はその行動を続けるようになります。雑談は良いきっかけや見返りになります。

株式会社リクルートマネジメントソリューションズの調査によれば自律的な行動をしてくれる部下に必要な要素の一つとして「上司の自律支援型のマネジメント」がありました。具体的な回答には「部下を信頼して見守っていてほしい」というものもありました。[5] 

では、部下はどういうときに「上司を信頼し、上司から信頼されている」と感じるのでしょうか。株式会社リクルートマネジメントソリューションズの別の調査によれば、上司を信頼するきっかけとして6割の人が「部下や関係者の健康への配慮」を挙げており、また4割の人が「上司の人柄」を挙げています。[6]

健康への配慮も人柄も、業務の話ではなく雑談の中で言葉にすることが多い事項です。すなわち雑談が上司と部下の信頼関係を育成し、自立して行動する部下の育成の一助となります。

4.雑談を生む環境づくりの事例を紹介

雑談は環境づくりがとても重要になります。
リーダーが「さあ雑談しようか」と声をかければ即座にメンバーの雑談が始まるわけではありません。メンバーが雑談をしたくなる状況・メンバーの雑談が盛り上がる状況を作るためには、それに合った環境を作りあげることが大切になります。その参考例として、以下4つをご紹介します。

  • 通路型チーム配置にする
  • ペアワークタイムを設ける
  • 絵文字のあるチャットを送る
  • 飲食スペース/休憩スペースを活用する

通路型チーム配置にする

チームメンバーを配置するのは、下図のように机越しではなく背中越しで配置するのが雑談への発展に効果的です。

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机越しのチームではパソコンのディスプレイがあったり衝立があったりして、実は意外と会話がしづらいです。一方背中越しのチームであれば、椅子をくるりと回転させるだけでみんなの顔が見えます。隣同士で話している雑談も、背中越しの配置なら背中側の人にも届きます。また人数が多いチームでも、背中越しの配置であれば椅子を寄せるだけでみんなが集まることができます。

まずは物理的に話しやすい環境を作ることが大切です。

ペアワークタイムを設ける

ペアワーク.png

雑談を促す上では「ペアワークタイム」を設けることも効果的です。
ペアワークとは打合せではなく2人以上の人が集まって協働作業をすることです。
開発業界には「ペアプログラミング」という開発手法があります。2人のプログラマーが集まって、「ああでもないこうでもない」と話しながらプログラムの作成を進めていく仕事の仕方です。

ペアワークはペアプログラミングの概念をより広くとらえたもので、プログラミングに限らず様々な作業を共同で行います。オフィスでの勤務ではもちろんのこと、テレワークでもペアワークは可能です。Zoomで画面共有をしたり、仮想オフィスツールで画面共有をしたりしながら作業を進めます。打合せではなかなか雑談が生まれませんが、ペアワークであれば打合せに比べて緊張度・フォーマルさが低く、良い意味でフランクに雑談が生まれます。

初めはメンバーからはペアワークは起こりづらいので、まずはリーダーからメンバー同士でペアワークを行う場を提案してあげることが良いでしょう。

絵文字のあるチャットを送る

絵文字を活かしたフランクなチャットムードを作り上げるのもメンバー同士の交流には効果です。
文字と句読点だけではどうしても文章が固くなりがちです。面と向かって話した時の表情や雰囲気は、文字だけではあまり伝わりません。それに対して絵文字を使う方がよりリーダーや他のメンバーがどう感じているかが伝わります。笑顔の絵文字が「好意」を示しますし、拝むような絵文字が「心からの感謝」を表現します。

絵文字の活用はリーダーから取り組むのが大切です。リーダーが進んで絵文字を使えば、少しずつチームに絵文字を使う文化が醸成されていきます。Slackなどのチャットツールには絵文字が豊富に用意されているので積極的に使用していきましょう。

飲食スペース/休憩スペースを活用する

飲食スペースや休憩スペースを活用することも雑談には効果的です。
飲食スペースがあると座り順のシャッフルが起きるので、いつもは席がやや離れているチームメンバー同士でも近くに集まる機会が生まれます。たとえば、下図の仕事部屋ではAさんとDさんは席的に離れており雑談がなかなか生まれないかもしれませんが、飲食スペースや休憩スペースに移ればAさんとDさんで隣り合って座ることも容易です。

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その結果、「特定のメンバーだけしか仲良くならない」という状況に陥るのを防止することができ、チーム全体でまんべんなく信頼関係が構築されます。

まとめ

今回は「雑談」と「心理的安全性」の関係について解説しました。

雑談は心理的安全性を高めるだけでなく、チームの円滑なマネジメントやチームメンバーの生産性にも繋がります。リーダーから積極的に雑談するだけでなく、メンバー同士が活発に雑談できる環境を整えてあげることが大切です。

ぜひ本記事で紹介した「ペアワークタイム」や「絵文字チャット」といったコミュニケーション環境を活かして、雑談が活発なチーム作りを心掛けることで、心理的に安全で生産性の高いチーム作りに取り組んでみてください。

参考URL

[1] 中途入社者の離職意向を低減するのは、上司との「雑談」
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/1907/12/news040.html

[2] テレワークと会社満足度に関する調査【前編】
https://research.nttcoms.com/database/data/002162/

[3] コールセンタにおける職場の活発度が生産性に与える影響の定量評価
https://cir.nii.ac.jp/crid/1050001337903175680

[4] 雑談が仕事の生産性を上げる!?
https://kagu.plus.co.jp/867/

[5] 自律的に働くことに関する実態調査
https://www.recruit-ms.co.jp/press/pressrelease/detail/0000000322/

[6] 551名の実態調査から見る、テレワーク環境下における会社・上司への信頼の変化と現状
https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000000920/?theme=manager

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執筆: 小谷 ひかり

バルテス株式会社 コングロマリット品質サービス事業部 マネージャー

業務系システムの開発・運用・保守にSE兼プロジェクトリーダー兼コンサルタントとして携わった後、バルテスに入社する。入社後は、テスト自動化プロジェクト・品質保証プロジェクトを経て、現在は品質向上支援に携わっている。また、その傍らで、専門分野である心理学の知見に基づいて、新卒社員の指導や社内委員会の品質向上に力を注いでいる。