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第4回 心理的安全性
心理的安全性 2024.01.18
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職場で起きる軋轢...コンフリクトの予防法とは? 心理的安全性との関係性

執筆: 小谷 ひかり

バルテス株式会社 コングロマリット品質サービス事業部 マネージャー

職場で起きる軋轢...コンフリクトの予防法とは? 心理的安全性との関係性

心理的安全性とは、「組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態」を意味する言葉です。リーダーからメンバーへの一方通行的で高圧的なチームでは、優秀な社員はのびやかに仕事ができる会社に去ってしまい、入社して日の浅い社員は委縮して生産性を下げてしまいます。
今回は、心理的安全性とコンフリクトの関係性、コンフリクトの解消方法についてご紹介します。

もくじ
  1. パフォーマンスを低下させる3つのコンフリクト
  2. コンフリクトの予防法
  3. コンフリクトの解消法
  4. まとめ

パフォーマンスを低下させる3つのコンフリクト

コンフリクトとは、職場で起きる軋轢(あつれき)のことです。複数人で仕事をしていると時に意見の対立や感情の衝突が発生します。こういった食い違い・不和を総称してコンフリクトと呼びます。

コンフリクトは一般的にチームに悪影響を与えます。Frank de Witらの研究によれば関係およびプロセスの葛藤(後述のプロセスコンフリクト)と集団の成果との間には安定した負の関係がありました[1]。また人材開発白書2013によれば、組織の相互の方針のずれ(後述のプロセスコンフリクト)や心理的なわだかまり(後述のリレーションシップコンフリクト)が起きると、事業内でも事業間でも連携の阻害が発生します [2] すなわち、コンフリクトがあればあるほどチームの生産性やコミュニケーションの円滑性が低下します。

心理的安全性とコンフリクトの関係性

心理的安全性がない状況では、意見の対立がリレーションシップコンフリクトに直結する可能性が高いです。メンバー同士が安心して付き合えない状況では、意見の対立がそのまま相手自身への不信感・不快感に繋がります。特に何かの信条をもって仕事をしている人が他の人にも無意識に同じ信条を求めた結果、不仲になることはよくあります。

たとえば「質問されたらなるべくすぐに質問に答えるべき」という信条で仕事をしているAさんが「質問されても自分の仕事を終わらせることを優先して質問は時間に余裕が出来たら答えるべき」という信条で仕事をしているBさんに質問をした場合、Aさんは自分が期待した速度で質問の回答をいただけずにモヤモヤするでしょう。

このとき、もしAさんがBさんと心理的に親しくなっていれば「Bさんは悪い人じゃないからBさんなりに考えがあったのだろう」とポジティブに考える可能性が高まります。一方で、職場がギスギスして互いに信用し合えない状況では「Bさんは私に嫌がらせをしたのではないか? Bさんは日々のストレスを私にぶつけて解消しているのではない?」というネガティブな推測をしてしまうことも多くなるでしょう。

心理的安全性は、コンフリクトを予防し解消するために重要な要素の1つです。

コンフリクトの予防法

生産性を低下させるコンフリクトについては、それを予防するとともに、発生したコンフリクトを解消することが大切です。
チームビルディングを行う上では、次のような予防対策が挙げられます。

①人となりを知る場を設ける
②メンバー間で教え合う関係を構築する
③リーダーが見守る中で議論し合う
④メンバーの提案にNOと言うときは、理由を丁寧に説明する

それぞれ詳しく解説していきます。

コンフリクトの予防法① 人となりを知る場を設ける

人は相手の人となりを知るとその人を信頼できるようになります。

心理学ではこれを「自己開示」と呼んでいます。趣味について教え合ったり、好きな食べ物について共有したり、一緒に冗談を言い合ったりすると、私たちはその人の人となりを知りその人を信頼するようになります。信頼関係があれば、お互いに意見の食い違いがあっても適切に話し合いが行われ、コンフリクトに発展せずに意見を適切に整理することができるようになります。

コンフリクトの予防法② メンバー間で教え合う関係を構築する

それぞれが得意な範囲を設けるとお互いの信頼関係が生まれます。
知識量や経験に完全な序列があると、チームメンバーの関係に上下が生まれすぎてしまいます。上下関係は心理的な隔たりを生んでしまい、それが心理的安全性を低迷させることに繋がります。分からないことを部下に質問してくれる上司と一方的に指示出しする上司とでは、前者の方が親しみを感じます。チームでもそれは同様で、チームメンバー同士で互いに詳しい部分や得意なことや経験している内容が異なれば、上下関係が抑えられ互いに助け合う体制が生まれます。

チームメンバーが互いに助け合う関係は心理的安全性の大切な要素の一つであり、助け合いがある限りコンフリクトは発生しづらくなります。

コンフリクトの予防法③ リーダーが見守る中で議論し合う

チームはリーダーを中心としたスター型の信頼関係になりがちです。
スター型の信頼関係とはメンバーはリーダーとは信頼関係を構築しているがメンバー間は信頼が薄い状態です。特に優しく報連相がしやすいリーダーほど、メンバーはリーダーばかりに質問するようになり、メンバー同士のコミュニケーション・信頼関係が希薄になる傾向があります。

そのような状態の場合は、メンバー同士の議論がメンバー間のコンフリクトに繋がってしまう可能性があります。そこで、リーダーがいる場でメンバーに議論し合ってもらうことが大切になります。信頼関係を構築しているリーダーがいることで、メンバーは安心して他のメンバーと深い会話をすることができます。

コンフリクトの予防法④ メンバーの提案にNoと言うときは、理由を丁寧に説明する

予防法①②③がメンバー間のコンフリクトの予防であるのに対して、予防法④はリーダーとメンバーの間のコンフリクトの予防です。

予防法②で書いたように、上下関係は心理的な隔たりを生んでしまいます。メンバー同士で部長の愚痴を言えても、リーダーに部長の愚痴を中々言いづらいのはこの心理的な隔たりが原因です。しかし、リーダーである以上関係の上下をゼロにすることはできません。そのため、上の立場であるリーダーからメンバーに歩み寄ることが大切であり、その方法が「メンバーの提案にNOと言うときは、理由を丁寧に説明する」です。

リーダーはメンバーに比べて経験が豊富なことが多く、メンバーの提案やメンバーが作成した資料に不足があると感じることも少なくないかもしれません。そんなときに、説明なく「足りなかったから修正した」とか「この案ではだめだ」とNOだけを突き付けてしまうと、メンバーはリーダーへの心理的な隔たりを深めてしまいます。
そうではなく「僕的にはここがもっと欲しいと思ったから、資料の○○ページ目を修正した」や「今回の場合は○○の方を優先したいからこの案は今回は採用しない」とNOの理由・経緯を丁寧に説明すると、メンバーのリーダーに対する心理的な隔たりは減り信頼感が深まります。

コンフリクトの解消法

次にコンフリクトの解消方法をお伝えいたします。

コンフリクトを予防しきれずにコンフリクトが起きてしまった場合は、次のような解消対策が挙げられます。

①コンフリクトが発生したときには判断をせずに傾聴する
②コンフリクトが一時的に解消された後には反省の場を何度か設ける

詳しくご説明していきます。

コンフリクトの解消法① コンフリクトが発生したときには判断をせずに傾聴する

コンフリクトが起きてしまった場合、コンフリクトを解消するために大切なのはメンバーの話を聴くことです。

リーダーはメンバーより経験が豊富な分、コンフリクトの原因にすぐにたどり着くこともあるでしょう。ですが、すでに生まれてしまったコンフリクトに対しては、原因の除去と同じぐらいメンバーの負の感情の受け止めが大切です。たとえば、タスクの優先順でメンバー同士が食い違った場合、リーダーは経験からより適切なタスクの優先順を提案することはすぐにできます。ですが、もしメンバー同士の関係性がコンフリクトにまで発展していた場合、メンバーの心の中では現在議論しているタスクの優先順についての不和だけでなく「だからあの人はいつも仕事が遅いんだ」という周囲の事象への不信感にまで負の感情が広がってしまいます。そのため、一度起きてしまったコンフリクトを解消するためには、目の前の過熱している対立だけでなく、メンバーの心の奥に生まれてしまったわだかまりも解きほぐす必要があります。

メンバーのわだかまりを解きほぐすために大切な方法の一つがメンバーの話を傾聴することです。自分の上の立場の人が自分の意見をしっかりと聴いて受け止めてくるのはとてもメンバーの安心感に繋がります。

コンフリクトの解消法② コンフリクトが解消された後には反省の場を何度か設ける

コンフリクトの原因が取り除かれ、表立ってコンフリクトが解消された後は、反省の場を何度か設けることが大切です。

なぜなら、コンフリクトが取り除かれても、気持ち的なわだかまりは残っていることが多いからです。たとえば、対立していた二人のメンバーの意見の対立はなくなってとしても、お互いが対立していたことを気にして相手に声をかけづらい感情を抱えているというような場合が少なくありません。

そんなときには、リーダーから反省の場を設け、リーダー自身がコンフリクトの責任を認めることが大切です。リーダーから進んで「あのときは本当に悪かった。自分がもっと早く気づいていたら、安心して話し合える場を設けることができた」といった反省を口にすると、メンバーも自分の非を言葉にしやすくなります。対立していたメンバー同士が相手の自責の言葉を聞くと、お互いに「相手も反省しているんだ」と同じ感情を抱えていることに気づくことができます。
人は自分と同じことを思っている人に好感を抱きます。お互いに反省を表明する場を持てば、コンフリクトがあった人同士は今まで以上に信頼を高めることができます。

まとめ

今回は「コンフリクト」と「心理的安全性」の関係について解説しました。
コンフリクトはチームの生産性を悪化させる原因ですが、心理的安全性が確保されるとコンフリクトを抑制することができます。コンフリクトの予防/解消にはリーダーが積極的に携わることが大切です。
本記事で紹介したコンフリクトの予防法/解消法を活かすことで、心理的に安全な生産性の高いチーム作りをすることができます。ぜひ日々のチーム運営に活用してみてください。

参考文献:ピーター・T. コールマン, ロバート ファーガソン「コンフリクト・マネジメントの教科書: 職場での対立を創造的に解決する」東洋経済

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執筆: 小谷 ひかり

バルテス株式会社 コングロマリット品質サービス事業部 マネージャー

業務系システムの開発・運用・保守にSE兼プロジェクトリーダー兼コンサルタントとして携わった後、バルテスに入社する。入社後は、テスト自動化プロジェクト・品質保証プロジェクトを経て、現在は品質向上支援に携わっている。また、その傍らで、専門分野である心理学の知見に基づいて、新卒社員の指導や社内委員会の品質向上に力を注いでいる。