心理的安全性とは、「組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態」を意味する言葉です。上司から部下への一方通行的で高圧的なチームでは、優秀な社員はのびやかに仕事ができる会社に去ってしまい、入社して日の浅い社員は委縮して生産性を下げてしまいます。
心理的安全性については、前回公開した記事で紹介しています。
今回は、この心理的安全性にはどんな要素があるのか、心理的安全性の要素はどのように育むのかについてご紹介します。
心理的安全性を形作る4つの因子
心理的安全性は何から構成されているのでしょうか。
これについて、「心理的安全性のつくりかた」(石井 遼介 著 日本能率協会マネジメントセンター)によれば、次のように記載されています。
私たちの研究チームでは、サーベイづくりの科学的手法であるupdated COSMINを参照し、組織の心理的安全性を計測する組織診断サーベイを開発し、これまで6000人・500チームの「日本のチームの心理的安全性」を計測しています。(中略)こうした研究とビジネスの現場の計測から見えてきたのは「日本の組織では、①話しやすさ、②助け合い、③挑戦、④新奇歓迎の4つの因子があるとき、心理的安全性が感じられる」ということです。
(「心理的安全性のつくりかた」(石井 遼介 著 日本能率協会マネジメントセンター P48-49より抜粋)
上記の引用で説明されていた心理的安全性を形作る以下の4つの因子について、それぞれ具体的に触れていきたいと思います。
4つの因子
- 話しやすさ因子
- 助け合い因子
- 挑戦因子
- 新奇歓迎因子
1. 話しやすさ因子
話しやすさ因子とは「リアルタイムの報連相・下の立場からの意見/アイデアを話しやすいか」を指す因子です。たとえば以下のような場合が、話しやすいかどうかの判断基準になります。
・チームメンバーの多くが「Aだ」となっているときにも「私はBだと思う。なぜなら~」と言いやすいか
・一度聞いたことをド忘れしてしまったときにもう一度質問しやすいか
・新入社員・協力会社社員でも問題点やリスクを感じた時に報告しやすいか
話しやすさ因子は、他の3つの因子の土台となる重要な因子です。
2. 助け合い因子
助け合い因子は「リーダー・メンバーが支援し合えるか」を指す因子です。たとえば以下のような場合が、助け合いがあるかどうかの判断基準になります。
・誰かがタスクで悩んでいるときに、他のメンバーが気軽に相談に乗ってくれるか
・問題が起きた時に、個人を責めずに「問題に対処しよう!」という雰囲気になるか
・リーダーがメンバーに「助けてほしい。手伝ってほしい」と言いやすいか
助け合い因子は、通常より高いアウトプットを目指す時に重要になる因子です。
助け合いの文化が醸成されていれば、トラブルや行き詰まりがあったときに、メンバー間で必要な情報を共有しあい、互いに作業を支援しあえます。
3. 挑戦因子
挑戦因子は「新しいことを試しやすいか」を指す因子です。たとえば以下のような場合が、挑戦が醸成されているかの判断基準になります。
・新しいやり方・アイデアを話したら、アイデアを話してくれたこと自体を歓迎されるか
・新しいことを試した結果失敗してもリーダーやメンバーから責められない雰囲気になっているか
・挑戦に失敗したときにリーダーやメンバーが助けてくれるか
挑戦因子は、チームをより生産的で効果的なチームに成長させていくために大切な因子です。挑戦の気運が整っていれば、メンバーは自分が取り組んでいるサービスのより効率的なやり方や効果的な提供方法を模索してくれるようになります。
4. 新奇歓迎因子
新奇歓迎因子は「お互いの違いを認めあっているか」を指す因子です。たとえば以下のような場合が、新規が歓迎されているかの判断基準になります、
・リーダーと違う考え方の発言をしても否定されないか
・不得意なことがあっても受け入れてもらえるか
・他部署・他社・他業界の経験を元にしたアイデアを活かそうとするか
新奇歓迎因子は、新しいアイデアに必要不可欠な因子です。特に21世紀のような変化の激しい時代においては、歯車的な同質集団としてのマネジメントより多様性を活かしたマネジメントの方が、色んなアイデアや意見が生まれ、成果を上げやすくなります。
4因子を実現させるテクニック8選
話しやすさ・助け合い・挑戦・新奇歓迎の4つの因子は、自然にチームに培われる訳ではありません。4つの因子を育むためには、意識的にチームをマネジメントしていく必要があります。普段行っている何気ない言葉や行動が、4つの因子の芽を摘んでしまっていることもあります。
たとえば話しやすさ因子で例としてあげた「一度聞いたことをド忘れしてしまったときにもう一度質問しやすいか」は、メンバー任せではなかなかできないものです。メンバーは「教えてもらったのに忘れてしまった」という負い目を感じていますので、2~3分で済む質問をせずに、自分でなんとか思い出そうとドキュメントを調べ歩いたり過去のチャットを探し回ったりしてしまいます。その結果、作業の遅れに繋がることも少なくありません。
また、助け合い因子で例としてあげた「誰かがタスクで悩んでいるときに、他のメンバーが気軽に相談に乗ってくれるか」は、リーダーのたった一言でなくなってしまうものです。Aさんが悩んでいて、Bさんが相談に乗っていた時に「Bさん、お前はまず自分のタスクを優先してくれ」という言葉をかけてしまえば、Bさんだけでなくチームメンバーは次第に人の相談には乗らずに、自分のタスクだけをやることになっていくでしょう。
話しやすさ・助け合い・挑戦・新奇歓迎の4つの因子が培われたチームにしていくためには、誠意的に因子を育てていくことが必要です。因子の育成に効果的なマネジメントテクニックが以下です。
8つのテクニック
- 自分から笑顔で声かけする
- 自分から質問・相談する
- 報連相をしてくれたことに感謝する
- 小さな助け合いも感謝する
- 問題が起きた時に人を責めない
- チャレンジの成否に関わらず褒める
- チャレンジに失敗したときはみんなでフォローする
- 意見・アイデアを受け入れる
1. 自分から笑顔で声かけする
リーダーから用事があるときだけ声をかけるのをやめましょう。
代わりに、1日1回ぐらい仕事から離れた声かけをしましょう。チームメンバーはチームリーダーが想像する以上に、チームリーダーに気を遣っています。リーダーからフランクに話しかけることで、部下からも話しかけやすい関係が構築されていきます。
2. 自分から質問・相談する
「リーダーだから強くなくちゃいけない」という考えをやめてみましょう。
強くあろうとする代わりに、リーダーから弱みを見せてみましょう。「弱さを見せてはいけない」と思っているチームメンバーは少なくありません。そんな中で、リーダーが弱みを見せてあげれば、チームメンバーも自分の不十分なところを包み隠さずに、リーダーや周りのメンバーに頼ることができるようになります。
3. 報連相をしてくれたことに感謝する
報連相の如何で怒鳴ったりけなしたりしないようにしましょう。
代わりに、まず「質問してくれてありがとう」「報告してくれてありがとう」「相談してくれてありがとう」と伝えてみましょう。もしかしたらメンバーの報連相のタイミングは遅かったかもしれません。それでも、リーダーを恐れて報連相をしてくれないことよりも、遅いながらも報連相をしてくれたことは良いことです。報連相のタイミングを指摘する場合でも、その前にまずはメンバーの報連相に感謝を伝えて認めてあげることが大切です。
4. 小さな助け合いも感謝する
メンバーが他メンバーやリーダーを助けることを当たり前と思わないでください。
代わりに、どんな小さな助け合いも「手伝ってくれてありがとう」「助けあって進めてくれてありがとう」と伝えてみましょう。メンバーが他のメンバーやリーダーを助けるのは、リーダーがサポートするよりもずっと勇気が必要な行動です。その勇気を振り絞ってやってくれたことを、褒めてあげましょう。
5. 問題が起きた時に人を責めない
「だからやっとけと言っただろ!」と言わないようにしましょう。
代わりに、問題を起こした本人を慰め問題解決に注力しましょう。指示を聞かずにミスをすることは誰にでもあります。「だからやっとけと言っただろ!」と言わなくても、本人は問題が起きた時点で十分に冷や汗をかき反省しています。リーダーがすべきなのは、傷口に塩を塗ることではなく反省した本人を優しく受け止めることです。
6. チャレンジの成否に関わらず褒める
新しいチャレンジが失敗したからといって責めたりしないでください。
代わりに、「試してみてくれてありがとう」「やってみてくれてありがとう」と伝えましょう。新しい挑戦には必ず失敗がつきものです。10回挑戦して10回とも見事な成果に繋がるものではありません。だからこそ、成果に繋がらなかった挑戦も褒めてあげることが大切です。
7. チャレンジに失敗したときはみんなでフォローする
挑戦の失敗で負った手戻り等を個人のせいにしないようにしましょう。
代わりに、チャレンジの失敗で遅れた分はみんなで助け合って進めましょう。新しい作業の進め方を試してみた結果、かえって生産性が下がってしまうことはよくあることです。生産性を上げる発見は失敗の積み重ねの先にあります。生産性が下がった場合には、みんなでフォローし合って乗り越え新しい挑戦への気運を高めていきましょう。
8. 意見・アイデアを受け入れる
「見当違い」と怒らないでください。
代わりに、まずは「意見・アイデアを出してくれてありがとう」と受け入れましょう。メンバーが意見を挙げること自体が、勇気のいることです。意見が十分に良いものでなくても、まずは意見を出してくれたことに感謝して認めてあげると、また意見をだしてくれやすくなります。
心理的安全性を進める肯定的ストローク
「4因子を実現させるテクニック8選」で説明した行為を、心理学では「肯定的ストローク」と呼んでいます。
肯定的なストロークには「人から認めてもらえる行為」の総称であり、「感謝する・褒める・微笑む・心から頷く・応援するようにポンと肩を叩く」といったことが該当します。人は肯定的なストロークを十分に得られると、仕事のやる気がでたり自分から率先して仕事を引き受けたりするようになります。すなわち、心理的安全性を作る行為は、総じて肯定的ストロークと言えます。
肯定的ストロークについてはこちらの記事もご参照ください
まとめ
今回は「心理的安全性」に繋がる4つの因子と、それぞれの因子を実現する8つのテクニックについて解説しました。
チームの心理的安全性を高めるためには4つの因子が大切であり、4つの因子を育むには「感謝する」といった肯定的なストロークを行っていくことが大切です。
本記事で紹介した「自分から笑顔で声掛けする」「自分から質問・相談する」といった、「肯定的ストローク」を日頃から心がけることで、チームにおける心理的安全性の形成につながることになります。ぜひ心がけてみてください。