イスラエル(イスラエル国)は、人口約950万人、広さは日本の四国ほどで、国内総生産は世界29位、一人当たりのGDPが世界13位の経済先進国です。その経済を支える産業の一つがIT産業で、イスラエルは「中東のシリコンバレー」と評されています。
そんなIT大国であるイスラエルは、アメリカと並び数多くのITスタートアップを排出し続けています。2023年12月現在、イスラエルは紛争状態にあり先の見通しが立たない状態が続いていますが、イスラエルのIT事情とはどのようなものなのでしょうか。今回は「中東のシリコンバレー」のアウトラインを簡単にまとめてみたいと思います。
- もくじ
1.「中東のシリコンバレー」イスラエルのITは〝ここがすごい〟
冒頭にも述べたように、経済国であるイスラエルのIT技術の高さは世界的に注目を集めています。駐日イスラエル大使館経済部のWEBサイトにも、「スタートアップの国」であることや最近30年間はサイバーセキュリティイノベーションの分野で業界をリードしてきたことが記されています。
イスラエルのITの優れている点をまとめてご紹介していきます。
1-1 スタートアップがとても多い
イスラエルは国としてスタートアップ企業を支援する環境を整備しています。そして、2009年のベストセラー書籍「Start-up Nation」(邦題「アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?」ダイヤモンド社)を機に「起業国家」といわれるようになったほど、起業が盛んです。
また、数多くのベンチャーキャピタルが存在しており、新たな起業家に資金調達をしたり、ビジネスのアドバイスを提供したりしているようです。政府がイノベーションに積極的に投資し、研究開発プロジェクトに助成金を提供するなど積極的に支援していることも起業家の背中を押しています。この結果、数多くのITスタートアップ企業が生まれています。
イスラエルのITスタートアップ企業は、国際的に高い競争力を持っているのが特長で、世界中の市場で成功を収めています。その成功が新たなアイデアを生み出し、新たなスタートアップの育成とプロジェクトを創り出す良循環ができ上っています。
1-2 Google、AppleといったIT大手企業に買収される企業が多い
イスラエルは、多くのITスタートアップ企業を輩出し、多くの企業がGoogleやApple、Microsoft、Facebookをはじめとする世界の大手ITテクノロジー企業によって買収されています。IT大手がイスラエルのスタートアップを買収するのは、その先端技術と専門知識を取り入れるためだといわれています。ニュースから、その事例をいくつか見てみましょう(順不同)。
これだけではありません。「イスラエル 買収」で検索すると、数えきれないほどの実例を発見することができます。このような買収によって起業家は新たな資金を手にすることができますし、大手IT企業には新たなテクノロジーとイノベーションが組み込まれて、新たな価値を創り出していくWin-Winの流れができているといってよいでしょう。
1-3 先端技術に強い
イスラエルIT企業の買収例が続くのは、AI、画像、セキュリティといった先端分野に強いからだといわれています。言い換えると、世界中から注目される革新的なサービスやプロダクトが多いのがイスラエルのIT業界の特徴といえるでしょう。その例をいくつか見てみます。
自律型AI開発企業「Cortica」
最近、よく報道されている自律型AI開発企業「Cortica」は、独自の神経科学を活用した自律型AIにより、自動運転技術をはじめ、ロボット、防犯カメラ、ドローン、医用画像分析で成果を上げています。
画像解析技術に長けた「OrCam Technologies」
「OrCam Technologies」は画像解析技術を得意とし、ウェアラブルAIデバイスで注目を集めています。テキストを読み取ったり、顔を認識したりするデバイス「OrCam Read(オーカムリード)」で視覚障碍者を支援することで世界から注目を集めています。
次世代のホームページ作成ツールを提供する「Wix」
Wixの「Wix ADI」はAI を活用した次世代のホームページ作成ツールとされています。AIがユーザーの好みやニーズに合わせてオーダーメイドのWEBサイトを作成するサービスです。ADIとは「Artificial Design Intelligence」の略で「人工デザイン知能」といった意味です。
これらの企業、プロダクトはほんの一部にすぎません。イスラエルでは多くのIT企業やITプロジェクトが生み出され、注目を集めています。
1-4 世界的に影響力が大きい
イスラエルのIT技術は、近年、AI、自動運転やサイバーセキュリティ分野に強いといわれています。
上の項目でも3社を紹介しましたが、他にも機械学習に強みを見せる「Allegro.ai」や、AIを活用したマーケティングツールの「BrandTotal」、画像技術を用いて「蚊」を発見するデバイスを開発している「Bzigo」などもよくネット記事などに登場しています。「枚挙にいとまがない」ほど多くのITスタートアップが存在しているのです。
スタートアップや企業の観点からは外れますが、イスラエルがITの世界に好影響を及ぼしている例として、イスラエルはプログラミング言語「PHP」の歴史の上でも影響を及ぼしていることがあります。1998年にリリースされた「PHP 3」を開発したのは、当時、イスラエル工科大学の学生だったアンディ・ガトマンズ氏とゼーブ・スラスキー氏でした。
2.イスラエルのIT技術が高いと言われる2つの理由
2-1 イノベーションに賭けているから
イスラエルのIT技術の高さの秘密の一つに、驚異的な技術イノベーションがあることがわかりますが、見方を変えると、非常に競争が激しい環境にあるといえます。この競争が、多くの優れた技術者と起業家を育てています。ある意味、社会が一丸となって新しいアイデアや技術を生み出すことに情熱を傾けているといえるのでしょう。
イスラエルには、失敗を学びの機会ととらえる文化があり、リスクを取ることを奨励しているようです。これが、積極的に新しいアイデアを試す雰囲気を作り、イノベーションの土壌を耕しているといわれています。
2-2 IT教育に力を入れているから
冒頭でも述べましたが、イスラエル政府と民間企業はIT分野、新テクノロジー分野への投資に積極的で、研究開発にも多額の予算を充てています。
そして、イスラエルの教育システムは科学技術に重点を置いています。若い世代にSTEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)分野での才能を育む教育プログラムを用意しているのです。そのため、早い段階から数学、科学技術に触れることになります。イスラエル工科大学の学生が「PHP 3」に寄与するのも自然な流れだったといえます。
3.地域によってデジタル格差が存在している
これほどすごいイスラエルのITイノベーション力ですが、意外な一面もあります。
一部報道では、都市部や技術ハブでは高いIT化率が実現している一方で、イスラエルの一部の地域やコミュニティでは、デジタル化率(IT化率)が日本よりも低いと報じられることもあり、デジタル格差が存在していると言われています。
デジタル格差の解消は、イスラエルの新たなITイノベーションを生み出す重要なステップだとする指摘する声もあり、見方を変えるとデジタル格差を解消するイノベーションを創造する可能性があるということもできるでしょう。
まとめ
今、イスラエルは紛争の中にあり、先が見通せない状況ですが、世界的に優れたIT技術を持ち、技術イノベーションによる成功はさまざまな側面から総合的に評価されていることから、さらに発展をすると予測されています。
紛争問題の平和的解決を祈りつつ、今後、どのようなイノベーションが提案されるのか注目したいところです。